892 / 1,264
世界協定カスタリア、世界の果てと儚き願い編
38.輪というものは必ず最初に戻るもの
しおりを挟む◆
トルベールが俺達の頼みで動いている間、俺達は大人しくジャハナムの安宿に待機して、情報を待っていたのだが……本当の事を言うと、気が気ではなかった。
裏社会――いや、裏世界と言えば暗殺暗躍当たり前の世界だ。トルベールがドジを踏む訳がないが、しかし何かの拍子で情報が漏れないとも限らない。それに、俺達が動いている事を誰かに利用されかねないのだ。
トルベールが関係している一派はまともだけど、それ以外のはぐれものなんかは、油断が出来ないからな。だから、ここ数日は宿から出るのにもかなり緊張したよ。
だけど、俺が気が気ではない理由は、それだけじゃなかった。ラッタディアもなんだか妙な変化が起きてて、俺はその事に違和感を感じずにはいられなかったのだ。
その違和感と言うのは……獣人がほとんどいなくなってしまったこと。
そう。ラッタディアから、異種族がほとんど居なくなってしまっていたのだ。
……もしやと思って、俺が仲良くなった【ベーマス】から避難してきた獣人達の店に行ったのだが、そこも一人残らず消えてしまっていた。お店には『当分の間、休業いたします』と張り紙が張られていて、そこだけが閑散としていたのだ。……そんなの、いくらなんでも変だよな?
だって俺は以前、オーデル皇国の下民街で、あのお店の子に会ったんだぞ。キツネザルのような耳を持つ、おかしな関西弁が特徴の猿族の獣人美少女……ベルカさんに、ストリップ劇場の中で会ったんだ。
あの時彼女は「他の獣人は今でも店で働いている」と言っていたじゃないか。
それに、ベルカさんは仕事でいろんな場所を飛び回っているって言ってた。だから決して獣人達が迫害されていた訳じゃないだろう。お店に行ったとき、結構な人達が残念そうに張り紙を見ていたから、店が潰れたと言う訳でも無いはずだ。
第一それならトルベールが教えてくれるだろう。
なのに、どうして。ティルタさんとトーリスさんの兄妹や、虎獣人のイオナさん、ネズミっ子のラーラちゃんと言った人達はどこに行ったんだ。あんなにお店を守ろうとしていたのに、どうして……。
……ベルカさんは「世界協定に協力して調べ物をしている」って言ってたけど……もしかして、彼女だけは今も人族の大陸に居るんだろうか?
だとしたら、どういう事なのか話を聞きたいけど……残念ながら、今はそんな場合ではない。仲良くなったティルタさん達や魔族のミミネルさんの事は心配だったけど、ワガママを言って居る暇はなかった。
だって、俺達はエメロードさんを助ける為にラッタディアに来たんだから。
……でも、そうやって考えれば考えるほど心配になってしまって。
そのせいで、トルベールが結果を持って来てくれるまでの数日間、俺はとても憂鬱な時間を過ごしていたんだが……五日と経たずに、トルベールは俺達に凄い情報を持って来てくれた。なんと、国の手が伸びていない可能性がある鉱脈が見つかって、黒籠石が採掘できるかもしれないというのだ。
彼が言うには、その「黒籠石が有るかも知れない」という場所は、ライクネス王国とアコール卿国の国境を保つ山脈に在ると言う。山脈。そう、あのランクが高いモンスターがうじゃうじゃいる、あの国境の山に、だ。
当然、ブラックは「信憑性は有るんだろうな?」と疑い満面で問いかけたのだが、情報を持って来たトルベールはどこか確信が有るような顔をしていた。
というのも、ジャハナムを統括する赤のお姉様と青のおじさまが総力を挙げて過去取り扱った事のある情報を総浚いさせたところ、かつてアコールから山越えを行い、ライクネスの貴族の娘を亡命させる依頼を受けた、とある裏社会の男がいたらしいのだが……その男が、山でモンスターに襲われて逃げ惑い辿り着いた洞窟に“不可解な建物”を見つけたと情報を残していたらしい。
その情報と言うのは、こうだ。
命からがら洞窟に逃げ込んだ二人は、モンスターに見つからないように奥へ奥へと進んでいったらしいのだが、そうする内に、洞窟の行き止まりに妙な建物を見つけたという。そこは白く輝く妙な形の建物だったが、とにかくもっと隠れようと二人は建物の中に逃げ込んだらしい。
外観の割に部屋数は少ない妙な建物をまた奥へ奥へと進むと、建物の最奥には妙な模様が描かれた扉がぽつんと置いてある部屋があった。そこに入り、とある場所へと抜けたらしいのだが……その“とある場所”に抜ける道に、黒籠石の原石がちりばめられた洞窟が有り、曜術を扱えない二人でもかなり体力を消耗したのだという。
だから、その場所に向かえば黒曜石が手に入るかも知れない、というのだ。
――……曜術が使えない人間が、ラスボスのダンジョンみたいな場所でどう生き残ったんだとゾッとしてしまったが、その情報は今から数百年前の話なので、もしかしたらその情報を残した裏社会の人は、俺が知らない体術とかで名をはせたムキムキな人だったのかも知れない。
しかし……なんだかにわかには信じがたい話だ。
話の内容を疑ってる訳じゃないけど、すんなり呑み込めないぞ。
トルベールが言うには黒曜石が有るかどうかの確率は半々と言っていたが、しかしそれを確かめるのに確実な方法がたった一つあるという。それは、なんと……――
ゴシキ温泉郷のあるイスタ火山に登る、というものだった。
「――――それはまた……どうして」
国主卿が、とても困惑したような声で口を歪めている。
今までのお話をダイジェストで裁定員の人々に聞かせていたのだが、やっぱり彼らも納得がいかなかったらしく、一様に眉を寄せて困り顔をしていた。
俺の話を真面目に聞いてくれていた国主卿ですら、頭の上にハテナマークだ。
うん、まあ、そりゃそうだよね。俺達も聞いた時は首を傾げちゃったし……。
でも、ここで説明しなけりゃカスタリアに戻ってきた意味が無い。
俺達は顔を見合わせて頷くと、何故その場所へ行くのかを説明した。
「トルベ……いや、えっと、ジャハナムの人の話によると、その不思議な建物が有る洞窟は……イスタ火山の頂上付近にある洞窟と繋がっていたらしいんです。山と山は離れているというのに、どうしてかそこに出てしまったと……」
「ほう……」
「おそらく、それは【空白の国】の遺跡だと思う。国境の山は、地べたの【空白の国】と比べて全く調査も探索もされていない。それどころか、いくつ遺跡が有るのかすらも解らない状態なんだ。妙な遺跡が存在していてもおかしくはないだろう」
ブラックの言葉に、裁定員達はざわざわと小声で言葉を交わす。
「確かに、各国でも国境の山は線引きが曖昧な部分も有って、お互い不可侵の立場を取っていたが……知らないのなら、断定はできないか」
「可能性が有るのなら……」
「いやしかし……」
何を言っているのか、あんまり聞き取れない。
どういう判断が出るのか黙って待っていたが、やがて裁定員達は話すのを止めて、再び俺達に向き直った。そうして、国主卿が口を開く。
「……よろしい。万が一アコール卿国側に洞窟が通じていた場合の事を考えて、我が国に関する諸々の許可は、私が先に出しておこう。それと……いくら未管理の黒籠石とは言え、存在する事が解った以上、それは国王様にも報告して置かねばならない。そちらは、ライクネスの貴族である彼にも助けて貰うといい」
国主卿が向ける顔の先には、俺達に協力してくれると言ったローリーさんが居た。
彼は視線に頷くと、俺達を見て手を振る。二人とも仮面で顔が良く見えないコンビだが、協力してくれるのなら有り難い。
「では、行先は決まったな。ライクネス王国イスタ火山……ふもとにはゴシキ温泉郷があるゆえ、危険はないとは思うが……黒籠石が存在する場所には、災いが起こる。その事を忘れず、心して行くように」
「……はい」
しっかりと頷く。
まさかこんな事になるなんて思ってなかったけど……でも、エメロードさんをあのままにはしておけないし、彼女を目覚めさせて情報を貰わないと、シアンさんがいつまで経っても解放されない。こうずっと拘束されてたんじゃ、シアンさんの体が心配だし……それに……俺にはまた一つ、心配事が出来てしまった。
だから、この事を解決せずにはいられなかったのだ。
「…………イスタ火山か……」
……獣人達は、どこに行ったんだろう。
その事をシアンさんに教えて貰うためにも、ライクネスへ行かなければ。
→
※明日は二話更新します(その内一話はとても短いです注意)
15
お気に入りに追加
3,610
あなたにおすすめの小説
義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です
渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。
愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。
そんな生活に耐えかねたマーガレットは…
結末は見方によって色々系だと思います。
なろうにも同じものを掲載しています。
悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~
咲桜りおな
恋愛
四大公爵家の一つレナード公爵家の令嬢エミリア・レナードは日本人だった前世の記憶持ち。
記憶が戻ったのは五歳の時で、
翌日には王太子の誕生日祝いのお茶会開催が控えており
その場は王太子の婚約者や側近を見定める事が目的な集まりである事(暗黙の了解であり周知の事実)、
自分が公爵家の令嬢である事、
王子やその周りの未来の重要人物らしき人達が皆イケメン揃いである事、
何故か縦ロールの髪型を好んでいる自分の姿、
そして転生モノではよくあるなんちゃってヨーロッパ風な世界である事などを考えると……
どうやら自分は悪役令嬢として転生してしまった様な気がする。
これはマズイ!と慌てて今まで読んで来た転生モノよろしく
悪役令嬢にならない様にまずは王太子との婚約を逃れる為に対策を取って
翌日のお茶会へと挑むけれど、よりにもよってとある失態をやらかした上に
避けなければいけなかった王太子の婚約者にも決定してしまった。
そうなれば今度は婚約破棄を目指す為に悪戦苦闘を繰り広げるエミリアだが
腹黒王太子がそれを許す訳がなかった。
そしてそんな勘違い妹を心配性のお兄ちゃんも見守っていて……。
悪役令嬢になりたくないと奮闘するエミリアと
最初から逃す気のない腹黒王太子の恋のラブコメです☆
世界設定は少し緩めなので気にしない人推奨。
BL短編
水無月
BL
『笹葉と氷河』
・どこか歪で何かが欠けたふたりのお話です。一話目の出会いは陰鬱としていますが、あとはイチャイチャしているだけです。笹葉はエリートで豪邸住まいの変態で、氷河は口悪い美人です。氷河が受け。
胸糞が苦手なら、二話から読んでも大丈夫です。
『輝夜たち』
・シェアハウスで暮らしている三人が、会社にいる嫌な人と戦うお話。ざまぁを目指しましたが……、初めてなので大目に見てください。
『ケモ耳学園ネコ科クラス』
・敏感な体質のせいで毛づくろいでも変な気分になってしまうツェイ。今度の実技テストは毛づくろい。それを乗り切るために部活仲間のミョンに助けを求めるが、幼馴染でカースト上位のドロテが割って入ってきて……
猫団子三匹がぺろぺろし合うお話です。
『夏は終わりだ短編集』
・ここに完結済みの番外編を投稿していきます。
・スペシャルはコラボ回のようなもので、書いてて楽しかったです私が。とても。
・挿絵は自作です。
『その他』
・書ききれなくなってきたので、その他で纏めておきます。
※不定期更新です。
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです
紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。
公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。
そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。
ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。
そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。
自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。
そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー?
口は悪いが、見た目は母親似の美少女!?
ハイスペックな少年が世界を変えていく!
異世界改革ファンタジー!
息抜きに始めた作品です。
みなさんも息抜きにどうぞ◎
肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!
4番目の許婚候補
富樫 聖夜
恋愛
愛美は家出をした従姉妹の舞の代わりに結婚することになるかも、と突然告げられた。どうも昔からの約束で従姉妹の中から誰かが嫁に行かないといけないらしい。順番からいえば4番目の許婚候補なので、よもや自分に回ってくることはないと安堵した愛美だったが、偶然にも就職先は例の許婚がいる会社。所属部署も同じになってしまい、何だかいろいろバレないようにヒヤヒヤする日々を送るハメになる。おまけに関わらないように距離を置いて接していたのに例の許婚――佐伯彰人――がどういうわけか愛美に大接近。4番目の許婚候補だってバレた!? それとも――? ラブコメです。――――アルファポリス様より書籍化されました。本編削除済みです。
スキルが生えてくる世界に転生したっぽい話
明和里苳
ファンタジー
物心ついた時から、自分だけが見えたウインドウ。
どうやらスキルが生える世界に生まれてきたようです。
生えるなら、生やすしかないじゃない。
クラウス、行きます。
◆ 他サイトにも掲載しています。
縦ロールをやめたら愛されました。
えんどう
恋愛
縦ロールは令嬢の命!!と頑なにその髪型を守ってきた公爵令嬢のシャルロット。
「お前を愛することはない。これは政略結婚だ、余計なものを求めてくれるな」
──そう言っていた婚約者が結婚して縦ロールをやめた途端に急に甘ったるい視線を向けて愛を囁くようになったのは何故?
これは私の友人がゴスロリやめて清楚系に走った途端にモテ始めた話に基づくような基づかないような。
追記:3.21
忙しさに落ち着きが見えそうなのでゆっくり更新再開します。需要があるかわかりませんが1人でも続きを待ってくれる人がいらっしゃるかもしれないので…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる