異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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世界協定カスタリア、世界の果てと儚き願い編

38.輪というものは必ず最初に戻るもの

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 トルベールが俺達の頼みで動いている間、俺達は大人しくジャハナムの安宿に待機して、情報を待っていたのだが……本当の事を言うと、気が気ではなかった。

 裏社会――いや、裏世界と言えば暗殺暗躍当たり前の世界だ。トルベールがドジを踏む訳がないが、しかし何かの拍子で情報が漏れないとも限らない。それに、俺達が動いている事を誰かに利用されかねないのだ。
 トルベールが関係している一派はまともだけど、それ以外のはぐれものなんかは、油断が出来ないからな。だから、ここ数日は宿から出るのにもかなり緊張したよ。

 だけど、俺が気が気ではない理由は、それだけじゃなかった。ラッタディアもなんだか妙な変化が起きてて、俺はその事に違和感を感じずにはいられなかったのだ。
 その違和感と言うのは……獣人がほとんどいなくなってしまったこと。
 そう。ラッタディアから、異種族がほとんど居なくなってしまっていたのだ。

 ……もしやと思って、俺が仲良くなった【ベーマス】から避難してきた獣人達の店に行ったのだが、そこも一人残らず消えてしまっていた。お店には『当分の間、休業いたします』と張り紙が張られていて、そこだけが閑散かんさんとしていたのだ。……そんなの、いくらなんでも変だよな?

 だって俺は以前、オーデル皇国の下民街で、あのお店の子に会ったんだぞ。キツネザルのような耳を持つ、おかしな関西弁が特徴の猿族の獣人美少女……ベルカさんに、ストリップ劇場の中で会ったんだ。
 あの時彼女は「他の獣人は今でも店で働いている」と言っていたじゃないか。

 それに、ベルカさんは仕事でいろんな場所を飛び回っているって言ってた。だから決して獣人達が迫害されていた訳じゃないだろう。お店に行ったとき、結構な人達が残念そうに張り紙を見ていたから、店が潰れたと言う訳でも無いはずだ。

 第一それならトルベールが教えてくれるだろう。
 なのに、どうして。ティルタさんとトーリスさんの兄妹や、虎獣人のイオナさん、ネズミっ子のラーラちゃんと言った人達はどこに行ったんだ。あんなにお店を守ろうとしていたのに、どうして……。

 ……ベルカさんは「世界協定に協力して調べ物をしている」って言ってたけど……もしかして、彼女だけは今も人族の大陸に居るんだろうか?
 だとしたら、どういう事なのか話を聞きたいけど……残念ながら、今はそんな場合ではない。仲良くなったティルタさん達や魔族のミミネルさんの事は心配だったけど、ワガママを言って居る暇はなかった。

 だって、俺達はエメロードさんを助ける為にラッタディアに来たんだから。
 ……でも、そうやって考えれば考えるほど心配になってしまって。

 そのせいで、トルベールが結果を持って来てくれるまでの数日間、俺はとても憂鬱な時間を過ごしていたんだが……五日と経たずに、トルベールは俺達に凄い情報を持って来てくれた。なんと、国の手が伸びていない可能性がある鉱脈が見つかって、黒籠石が採掘できるかもしれないというのだ。

 彼が言うには、その「黒籠石が有るかも知れない」という場所は、ライクネス王国とアコール卿国きょうこくの国境を保つ山脈に在ると言う。山脈。そう、あのランクが高いモンスターがうじゃうじゃいる、あの国境の山に、だ。

 当然、ブラックは「信憑性しんぴょうせいは有るんだろうな?」と疑い満面で問いかけたのだが、情報を持って来たトルベールはどこか確信が有るような顔をしていた。

 というのも、ジャハナムを統括する赤のお姉様と青のおじさまが総力を挙げて過去取り扱った事のある情報を総浚そうざらいさせたところ、かつてアコールから山越えを行い、ライクネスの貴族の娘を亡命させる依頼を受けた、とある裏社会の男がいたらしいのだが……その男が、山でモンスターに襲われて逃げ惑い辿たどり着いた洞窟に“不可解な建物”を見つけたと情報を残していたらしい。

 その情報と言うのは、こうだ。
 命からがら洞窟に逃げ込んだ二人は、モンスターに見つからないように奥へ奥へと進んでいったらしいのだが、そうする内に、洞窟の行き止まりに妙な建物を見つけたという。そこは白く輝く妙な形の建物だったが、とにかくもっと隠れようと二人は建物の中に逃げ込んだらしい。

 外観の割に部屋数は少ない妙な建物をまた奥へ奥へと進むと、建物の最奥には妙な模様が描かれた扉がぽつんと置いてある部屋があった。そこに入り、とある場所へと抜けたらしいのだが……その“とある場所”に抜ける道に、黒籠石の原石がちりばめられた洞窟が有り、曜術を扱えない二人でもかなり体力を消耗したのだという。

 だから、その場所に向かえば黒曜石が手に入るかも知れない、というのだ。

 ――……曜術が使えない人間が、ラスボスのダンジョンみたいな場所でどう生き残ったんだとゾッとしてしまったが、その情報は今から数百年前の話なので、もしかしたらその情報を残した裏社会の人は、俺が知らない体術とかで名をはせたムキムキな人だったのかも知れない。

 しかし……なんだかにわかには信じがたい話だ。
 話の内容を疑ってる訳じゃないけど、すんなり呑み込めないぞ。

 トルベールが言うには黒曜石が有るかどうかの確率は半々と言っていたが、しかしそれを確かめるのに確実な方法がたった一つあるという。それは、なんと……――

 ゴシキ温泉郷のあるイスタ火山に登る、というものだった。






「――――それはまた……どうして」

 国主卿こくしゅきょうが、とても困惑したような声で口を歪めている。

 今までのお話をダイジェストで裁定員の人々に聞かせていたのだが、やっぱり彼らも納得がいかなかったらしく、一様に眉を寄せて困り顔をしていた。
 俺の話を真面目に聞いてくれていた国主卿ですら、頭の上にハテナマークだ。
 うん、まあ、そりゃそうだよね。俺達も聞いた時は首を傾げちゃったし……。

 でも、ここで説明しなけりゃカスタリアに戻ってきた意味が無い。
 俺達は顔を見合わせて頷くと、何故その場所へ行くのかを説明した。

「トルベ……いや、えっと、ジャハナムの人の話によると、その不思議な建物が有る洞窟は……イスタ火山の頂上付近にある洞窟と繋がっていたらしいんです。山と山は離れているというのに、どうしてかそこに出てしまったと……」
「ほう……」
「おそらく、それは【空白の国】の遺跡だと思う。国境の山は、地べたの【空白の国】と比べて全く調査も探索もされていない。それどころか、いくつ遺跡が有るのかすらも解らない状態なんだ。妙な遺跡が存在していてもおかしくはないだろう」

 ブラックの言葉に、裁定員達はざわざわと小声で言葉を交わす。

「確かに、各国でも国境の山は線引きが曖昧あいまいな部分も有って、お互い不可侵の立場を取っていたが……知らないのなら、断定はできないか」
「可能性が有るのなら……」
「いやしかし……」

 何を言っているのか、あんまり聞き取れない。
 どういう判断が出るのか黙って待っていたが、やがて裁定員達は話すのを止めて、再び俺達に向き直った。そうして、国主卿が口を開く。

「……よろしい。万が一アコール卿国側に洞窟が通じていた場合の事を考えて、我が国に関する諸々の許可は、私が先に出しておこう。それと……いくら未管理の黒籠石とは言え、存在する事が解った以上、それは国王様にも報告して置かねばならない。そちらは、ライクネスの貴族である彼にも助けて貰うといい」

 国主卿が向ける顔の先には、俺達に協力してくれると言ったローリーさんが居た。
 彼は視線に頷くと、俺達を見て手を振る。二人とも仮面で顔が良く見えないコンビだが、協力してくれるのなら有り難い。

「では、行先は決まったな。ライクネス王国イスタ火山……ふもとにはゴシキ温泉郷があるゆえ、危険はないとは思うが……黒籠石が存在する場所には、災いが起こる。その事を忘れず、心して行くように」
「……はい」

 しっかりと頷く。
 まさかこんな事になるなんて思ってなかったけど……でも、エメロードさんをあのままにはしておけないし、彼女を目覚めさせて情報を貰わないと、シアンさんがいつまで経っても解放されない。こうずっと拘束されてたんじゃ、シアンさんの体が心配だし……それに……俺にはまた一つ、心配事が出来てしまった。
 だから、この事を解決せずにはいられなかったのだ。

「…………イスタ火山か……」

 ……獣人達は、どこに行ったんだろう。
 その事をシアンさんに教えて貰うためにも、ライクネスへ行かなければ。












※明日は二話更新します(その内一話はとても短いです注意)
 
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