異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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世界協定カスタリア、世界の果てと儚き願い編

  久しぶりだと色々と忘れがち2

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 トルベールの誘いに乗っかって、アスワド商会から一路南。

 俺達はラッタディアの港のすぐそばにある倉庫のような建物へと案内されていた。

 ――ラッタディアには獣人の国である【ベーマス】などの大陸以外の国へと行ける港が有って、獣人や魔族の多くはこの港から人族の大陸に上陸している。世界協定の支部が有る建物からはちょっと歩く距離だったので、前にラッタディアに来た時は、こんな場所まで来る事が出来なかったんだけど……それにしても、港はどこも広くてしっかりと固められているなあ。

 海の水も透き通ってて綺麗だし、本当中世の港って感じだ。
 そんな美しい風景を横目で見つつ、トルベールに案内されてやってきたのは、港の倉庫街の一角なんだけど……こういう剣と魔法の世界でも、倉庫街ってのはやっぱりあるもんなんだな。

 まあ、巨大な乗り物で荷物を運ぶのなら、運び入れる荷物を留めて置いたり、運びやすくするための場所が必要だから、あるってのは解るんだけど……ずらっと並んだ煉瓦れんがの倉庫街を見ていると、俺の世界の観光地と似ていて一瞬ここはの世界かと錯覚しそうになる。

 こういう倉庫街って、人間がいる世界なら絶対にある物なのかなあ。
 考えて見れば、宇宙船が出て来るSFでも一旦荷物を置いておく区域があるし……うーん、乗り物で輸送するとなると、やっぱり倉庫は絶対に必要になるんだろうか。
 俺の世界でも「観光地特集」とかで良く見かける光景だったので、少々考え込んでしまったが、今はそんな場合では無かったな。いかんいかん。

 気を取り直してトルベールに案内された倉庫に入ると、俺達は荷物の間に辛うじて作られた狭い通路を移動しながら、二階の事務所へと入った。

「へー、倉庫の中だけどちゃんとした事務所なんだな」

 言いながらきょろきょろと見回す事務所は、煉瓦の壁が剥き出しになった部屋なのだが、それが逆にお洒落な感じがするから不思議だ。
 壁に絵とか燭台とか有るからかなー。本当こう言う所には金かけるよなあ……。
 トルベールはホストのお兄さんっぽいけど、やっぱしそう言う感じになると内装も豪華に仕上げたくなっちゃうものなのだろうか。ホストは異世界でもホストとは。

「とりあえず適当に座ってくれや。紅茶があるが飲むか?」
「あ、お構いなく。とりあえず話を先に……」

 そう言うと、トルベールは少し残念そうな顔をしたが、俺達と同じように長椅子に座った。

「そんで、俺に用事ってのはなんだい?」
「実は……」

 あくまでも「エメロードさんがカスタリアで暗殺されかけた」という部分は伏せて、今が“呪い”らしきものを受けて昏睡こんすい状態になってしまった事と、それを治すには黒籠石こくろうせきが必要である事を話した。

 最初は「呪い」という単語に片眉をひそめて疑うような目つきだったトルベールだが、俺達があまりにも真剣に話し、必要な材料の事なども細かに説明したおかげか、会話が進む内に信用してくれたらしく、真剣な顔で俺の話に聞き入っていた。

「なるほど……だから鉄仮面君達は俺の所に来たのか」
「うん……トルベールや、赤のお姉様達なら何とか用意してくれるんじゃないかって思って……。どうにかならないかな……」

 すがるような目でトルベールを見ると、相手はウッと変な声を出して、それからバツが悪そうに頭をポリポリと掻く。

「そんなこと言われちゃあ、男としてはすぐにでも協力してやりてーんだが……。残念ながら、黒籠石は俺達の界隈でもご禁制の品ってヤツでな……。必ず黒籠石が出る鉱脈は全部国の奴らに監視されてるから、そう言う意味でも危なくて扱えねえんだ」
「へえ、意外と無法って訳じゃないんだな」

 やっと気候に慣れたのか、だらけた顔ながらもブラックが言う。
 その言葉にトルベールは苦笑して肩を竦めた。

「ま、無法者は後を絶たねーっすけど、黒籠石だけはちっとドジ踏んだ野郎どもが多すぎてね。最近だってほら、そこの獣人のダンナが外道どもに採掘させられて、それが世界協定にバレて大目玉食らったわけだし、前にも色々ありましたからねえ」
「前にもあったのか」

 嫌そうに顔を歪めるクロウに、トルベールは深く頷く。

「前にラッタディアでライクネスの勇者サマがモンスターと戦って死んじまった話があったでしょう? アレも、どうも黒籠石絡みらしいんですわ。聞いた話では、その先代勇者サマはウチの奴らに接触して、黒籠石の事を調べてたらしくってね。何かを掴んでいたらしいんスが、途中でモンスターに襲われて死んじまったんですって」
「え……」

 ライクネスの【勇者】が、モンスターと戦って死んだって……もしかしなくても、ヒルダさんの夫だった人の事だよな……。
 彼が死んでしまった事でまた【勇者選定の儀】が行われる事になって、ラスターが勇者になったんだっけ。でも、その事でヒルダさんの息子のゼターが色々と悪い事をして、ひと騒動あったんだよな。

 よくよく考えたら、俺は「ゼターがジャハナムで黒籠石を仕入れたかもしれない」と言う事は考えていたけど、彼の父親に関しては全く考えていなかった。
 というか、俺には直接的に関係が無い事件だったから、怪物討伐で不運にも命を奪われてしまったという情報しか知らなかったんだが……まさか、その事にも黒籠石が関わっているなんて思いもよらなかった。

 でも……彼は、モンスター討伐の為にラッタディアに出たって話だったよな?
 それがなんで黒籠石の情報を……。

「な、なあトルベール。先代の勇者は、モンスターの討伐でこの国に来ていたんじゃなかったのか?」

 慌てて問いかけると、トルベールはキョトンとして目を瞬かせた。

「そうなのか? いやしかし……そりゃ変だな。あの勇者がハーモニックに来た頃は俺もジャハナムに詰めてたし、どこかで討伐指定されるようなモンスターが出れば、俺らにもすぐ情報が入ったはずだ。なのに、そんな情報なんぞなかったぞ?」
「ええ!? ど、どういうこと……?」

 訳が解らなくて思わずブラックを見てしまうと、相手も難しい顔をしながら無精髭の生えた頬をぞりぞりと指の横腹で撫でていた。

「……黒籠石に関する調査は極秘の任務で、モンスター討伐と言うウソの任務で国を出て行った事にしたのかもしれない。もしあのシーポートみたいに未知の鉱山が発見されて、黒籠石がどんどん自分の国に入って来ていたんだとしたら、流石にのっぴきならないと思って調査もするだろう? だけど、そんな事を大っぴらに言えば、更にヤバい石が国に入って来るかも知れないから……」
「なるほど、被害を抑える為にえて嘘をついて出征させたのか」

 クロウが納得したように頷くのに、ブラックも同じように返す。

「そうでもなけりゃ、嘘を吐く意味も無いからな。勇者ってのは、薬師のクソ眼鏡と一緒で国同士のメンツなんて関係なく【要請されたら出動する】って存在だ。勇者は求められれば人を助ける職業であって、外交の道具じゃない。それに……もし本当にモンスターが出現していて、勇者にしか斃せないほどの強さだったなら、冒険者ギルドにもジャハナムにも情報が入っていたはずだ。なのに、コイツがそんな情報を知らなかったと言う事は……」
「…………」

 ちらり、とブラックがレイさんを見る。
 彼は今まで黙って話を聞いていたが、今の情報を肯定するかのように頷いた。
 そうだ、レイさんもハーモニックで商隊を動かしている人なんだっけ……そんな人まで知らないってなると、これは本当にヤバい事になって来たぞ。
 こんな事を知っちゃって良いんだろうか。これって国の機密って奴なんじゃ。

「……ちっとヤベーとこ突いちまったかな……。旦那がた、今のは他言無用でお願いしますよ。つーか、これマジでここだけの話にして下さいね。鉄仮面君も」
「う、うん……」

 何だか背筋が寒くなってしまったが、今はその話をしている場合では無い。
 俺達の本来の目的に話を戻さなくては……と仕切り直そうとすると、トルベールは「そうだ」と言いながらポンと手を叩いた。

「じゃあ、アレだ。いっそライクネスに頼んでみたらどうっすか?」
「え?」
「だって、ライクネスの方から黒籠石がどっから流れて来るか調査してたんなら、今のライクネスにはどっかから押収した黒籠石があるんじゃないっすか? それを頂いちまえば、話早くねーっすか」

 ……そ、そりゃそうだけど……それも難しいような気が。
 だって仮にライクネスに「流されてきた黒籠石」があっても、密輸されてきたモンを早々渡してくれる事も無いだろうし、手続きだって要るかも知れないじゃないか。
 第一それを要請したら、俺達がヒルダさんの伴侶が何を調べていたか知ってますと言っているようなモンになっちまうし……それで打ち首とかに成ったら嫌だぞ!

 あの王様なんか俺をいじめてくるし! 絶対なんかロクでもない事になる!!

 そんな方法が取れるかと思った俺の隣で、ブラックも汗を垂らして眉根を寄せる。

「いやお前、そんな簡単に出来るわけないだろ」
「ハハ、まあ確かに。……だから、こっちでも一応目ぼしい黒籠石のアナバを調べてみますけど……でも、俺としては、色々とコネを持ってる感じの鉄仮面君が国王様に掛け合った方が早いと思うんですけどねえ」
「無理だって……」

 情けない声で否定すると、トルベールは苦笑して肩を竦めた。

「そーかねー。ま、いいけど……とにかく、調べるとなるとちっと時間が掛かりますぜ。鉄仮面君と旦那がたは俺らの恩人でもあるから、総力を挙げて探させますが……シーポートも鉱脈が枯渇して掠め取るのもムリになっちまいましたし、あんまし期待しないで下さいよ?」

 だけど、その言葉だけでも心強い。

「よろしく頼むよ、トルベール」

 軽く頭を下げた俺に、トルベールは何だか照れたように笑った。











 
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