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世界協定カスタリア、世界の果てと儚き願い編
37.久しぶりだと色々と忘れがち1
しおりを挟む※また遅れた…申し訳ない…_| ̄|○
◆
からっとした熱い風が頬を撫でる。
世界協定の本部が有るカスタリアと同じ国に存在すると言うのに、この土地の気候は熱く湿り気のない砂の国のものと良く似ている。
海が近い場所のはずなんだけど、それでも吸い込む空気は気温通りの熱さだった。
「……ほんと、いつ見てもラッタディアはアラビアンだなぁ」
国境近くのカスタリアからディオメデでかっ飛ばして到着した、ハーモニック連合国の首都・ラッタディア。ここはいつ見ても俺の世界のおとぎ話の国に似ている。
極彩色に仕立てられた薄手の服を羽織った人々や、煉瓦積みの建物とは全く違う、土によって造られた家々は、まさにアラビアンナイトの世界だった。
「暑い……」
「はー……なんで僕達だけ……」
俺の隣でぐったりしているクロウとブラックは、久しぶりの熱さにバテ気味だ。
まあ今までずっと快適な温度が保たれている所にいたんだもんな。バテちゃっても仕方がないかも。夏場にはよくあるもんな、部屋と外の温度差に体が付いて行かない現象。この世界にはクーラーは無いけど、こういうのはどこでも起こるから危ない。
でも、馬車でかっ飛ばして来たんだから、この気候に慣れる時間が有ったはずなんだけどなあ。やっぱオッサンだと新陳代謝が良くないんだろうか。可哀想に……。
「ツカサ君なんか今僕のこと考えてた?」
「う、うん? なんでもないぞ!」
流石に「おっさんなんだから無理するな」とは言えまい。つーか言ったら後で何をされるか判らないから言えん。いや大体予想はつくけど想像するのはちょっと。
「まあまあ、落ち着いて。とにかく目的地に向かいましょう」
慌てて窘めるのは、レイ・アサドさんだ。彼は中立と言う双方に不可侵な立場ではあるが、普段は商人としてラッタディアで活動しているので、お目付け役と言うことで付いて来てくれた。
他の裁定員が同行すると言う話もあったのだが、とにかく今は時間が惜しいため、中立であってもラッタディアに詳しい人間に付いて行かせるしかなかったようだ。
だって、エメロードさんの容体も心配だし、一刻を争う事態なんだからな。四の五の言っていられないだろう。まあ、レイさんは俺達に取り込まれるような人じゃないだろうから、別に心配いらないと思うけどね。
あ、そうそう。ケルティベリアさんも、このラッタディアを首都とするハーモニック連合国の人なんだけど、彼は首都から離れた州で暮らしているから、こっちの事には疎いらしくて今回は一緒に来られなかった。
来てくれたら百人力だったんだけど……まあ仕方がない。
とにかく、俺達は与えられた役目を早くこなさなければ。
「さて……問題は“あいつ”がどこに居るのかなんだけど……」
人でごった返す大通りをキョロキョロとみながら、俺は見知った人影を探す。
しかし手がかりも無しに探すのはどうも難しい。俺達だけなら入れるだろう場所も、今はレイさんがいるから入れないだろうし……そうなると、地道に探すしかないんだけども、どうしたもんか。
「ツカサ君、あの獣人たちの店に行ったらどう?」
「うーん……だけど、行っても待つ事になるだろうし……」
何か手がかりはないかと腕を組んで考え……俺は、ふとある事を思い出した。
「あっ……そうだ! 【アスワド商会】を尋ねればいいんじゃないか?!」
顔を明るくしてブラックを見上げると、相手もその単語を覚えていたのか「ああ」と声を出して、ポンと掌を叩いた。
「アスワドって、あれか。あいつが最初に言ってた……ツカサ君よく覚えてたね」
「ふふん、敵の拠点になりそうな場所の名前は覚えておくのがロープレの基本よ」
「あすわど? ろーぷれ? ツカサ、一体なんなんだ。説明してくれ」
全く判らない、とでも言うように首を傾げたクロウに、俺はそうだったと思い直して、人が来ない路地へとクロウ達を誘導すると、周囲に人がいない事を確かめてから説明した。
「アスワド商会ってのは、アイツに関係が有る商会なんだ。初対面の時にそいつらと関係が有るって言ってたから、そこを尋ねればきっと会えるはずだ」
「会えるとは……トルベールにか」
クロウの言葉に、俺は頷く。
――そう。俺達がラッタディアに来たのはそのためだった。
「さ、早くアスワド商会に行こうぜ」
「アスワド商会なら私が案内しましょう。私の所の商隊でも取引した事が有りますので、どこにあるか知っていますから」
「お願いします」
そうとなったら俺達に異論はない。
レイさんの言葉に甘えて付いて行きながら、俺は今までの事を思い返していた。
――――ここに来る前。正確に言うと、黒籠石の事で頭を悩ませていた時、裁定員である国主卿に頼まれた事がある。
あの時は驚いて何を言われたか一瞬わからなかったが、しかし今となっては、その方法しかないと俺達は確信していた。だから、俺達は国主卿の「頼み」に頷き、このラッタディアにやって来るしかなかったのだ。
しかし……その方法ってのがまさか、「裏世界ジャハナムの者に接触して、黒籠石を今すぐに手に入れらる方法を探してこい」なんてことだとは思わなかったよ。
そんでそれを「お前らシアンさんとマブダチだし、ならジャハナムにツテぐらいは持ってるよな?」と言われて、ラッタディアに放り出されるとも思っていなかった。
だって、世界協定だぞ。すごいデカい組織なんだぞ。
てっきり裏社会にも精通していると思ってたのに、まさか俺達任せで放り出されるとは……。ま、まあ、実際、それしか方法が無いから仕方がないんだけどさ。
黒籠石は厳しく取り締まられているほどの危険な鉱石だ。以前にはリタリアさんの命を奪いかけたし、素手で触ることも危険とされている。
そんなブツをすぐに用意できる奴となったら……そりゃもう、外道を知る人達しかいないわけで。だったらもう、それに賭けるしかないもんな。
だけど、これでシアンさんがジャハナムとどう繋がっているかをぼかした理由が解った。裁定員達の態度からすると、裏社会の人と繋がるのは、一般的には褒められた事じゃないらしい。まあ、暗殺や密輸を生業とする人間も多い世界だから、そこに清廉潔白を重んじる人間が手を出すのはタブーだと思われていたんだろう。
シアンさんもそれを理解していたから、世界協定を使って動くのではなく、俺達のような人間を使って独自に動いていたんだ。
ジャハナムの事を国主卿が説明していた時、裁定員の数人が苦虫を噛み潰したような顔をしてたからなあ、ああいう人達は裏世界自体が気に入らないんだろう。だから、世界協定にはジャハナムと繋がってる人が他に居なかったんだな。
でも蛇の道は蛇って言うし、シアンさんもそう思ったからこそ交流を持ったんだろうから、そこまで嫌わなくても良いと思うんだけど……。
だいたい、この世界って命軽いし、俺の世界基準で言えば誰しもが軽犯罪犯してても仕方ないような世界なんだから、裏世界も何もあったもんじゃなくないか。
それでもやっぱ暗殺とかってのはタブー中のタブーなんだろうか。ううん解らん。
ま、まあそれは置いておこう。
とにかく、俺達はジャハナムの人に黒籠石を融通して貰う為にラッタディアに来たのだ。俺達しか手がかりが無いのであれば、俺達がやらねばなるまい。
アドニスはエメロードさんの看病で忙しいし、ロサードは他の材料を探しに行ってるし、そうなると俺達しか出動できる奴がいないんだからな。
と言うワケで、今の状況に至るのだが……アスワド商会は、トルベールに会わせてくれるのだろうか。こちらが知り合いだと言えば可能性があるかも知れないが、しかし相手は裏世界と繋がっている人間だ。警戒してはぐらかされるかも。
うーん……ココで躓いたら後が無いんだが、大丈夫かな。
そんな事を思いつつも、意外とこじんまりとした店構えの【アスワド商会】に辿り着き俺達は受付の人に事情を話したのだが……。
なんと驚いた事に、トルベールの名前を口に出してこちらの名前を名乗った途端、奥から会長のような人間が現れて俺達を応接室に案内してくれたのだ。
どうやらトルベールが万が一の事を考えて、俺達の事を「友人だから、訪ねて来る事が有るなら丁重に扱うように」と言ってくれていたらしい。俺達が事情を離すと、会長さんはすぐにトルベールと連絡を取ってくれた。
そして、数分後……――――
「おー! 鉄仮面君に旦那方、お元気でしたか!」
久しぶりの明るく快活な声を上げながらやって来たのは、健康的に焼けた肌にしっかりとチャラい感じにセットされた茶髪の、繁華街にでも居そうなナンパな男。
そう、前に会った時とちっとも変らないトルベールだった。
「トルベール!」
「いやー鉄仮面君、ちっと見ねー間にエラく綺麗になっちまったじゃないの。これじゃ男どころか女も放っておかねーんじゃねーの?」
「お世辞はいいよ、てかなんのお世辞だ! でもアンタも元気そうで良かった」
思わず駆け寄ると、相手は嬉しそうに笑って俺の頭をポンと叩く。
「お前さんもな。こっちはまあ、ごたごたしてたりもするが、楽しくやってるよ。……んで、俺に用ってのは……一体何なんだ? のっぴきならねえ感じなのは解ってるが」
「それが……」
「おっと、ちょい待ち。ここじゃちょっとアレだな。俺が借りてる場所が有るから、そこにいこう。あーっと……そこの大商隊のお偉いさんもどうぞ?」
ブラックやクロウの近くに座っていたレイさんをめざとく見つけて、トルベールはわざとらしく声を張って言う。
明らかに俺達と区別された声に、俺は思わずレイさんを振り返ったが、相手は苦笑したような顔になると軽く頷いた。何だかよく分からないが、まあ……いいか。
早く場所を移動して、黒籠石の事を話さなくっちゃ。
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