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世界協定カスタリア、世界の果てと儚き願い編
答えなどないのかもしれない2
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引き剥がそうとしても離れなかったブラックにぬいぐるみの如く抱えられながら、部屋に入って一時間ほど。ブラックは俺を膝に乗せてぎゅうぎゅう抱き締めたまま、エメロードさんから聞いた話を語り出した。
何でまた俺を拘束してるんだとツッコミを入れたかったが、しかし、今から話すのが「他の女と寝てゲットした情報」だと思えば、こうしたくもなるんだろう。
……別に俺、怒ってないしさっきもハグしてやったのになあ。
何をそんなに不安がってるのか知らないが、もう少し落ち着いて欲しいものだ。
というか、三人の視線が痛いので俺を早く解放して欲しい。切実に。
俺と一緒に部屋に居る時は「まかせてよ!」とやる気満々で胸を叩いて、出て行く時も胸を張ってたってのに、どうして帰ってきたらこうなるのか。
……まあ、いいか。俺だって逆の立場ならこうなるかも知れないしな。
ともかく、膝抱っこの事は置いといて、ブラックの話だ。
ブラックがエメロードさんから入手した情報は、以下のような物だった。
――シアンさんが完全無罪になる方法。それは、簡単な事だ。
本当の首謀者を見つけ、シアンさんがあの凶悪な行為を指示したのではないと言う証拠を掴む事。そして、その本当の首謀者をカスタリアに突き出す事だ。
……が、そんな事は俺達もとっくに考えてるし、シアンさんがエネさんを使って、今必死で捜索しているはずだ。そもそもその「真の首謀者」というのがギアルギンだと解っている訳だから、犯人を捜すまでも無かった。
まあ……ギアルギン自体は消息不明なんだけどね……。
でもそんな解り切った事を情報だなんて、えらく酷い代価じゃないか。
思わず怒った俺達に、ブラックはまあ待てと掌を見せて続きを話した。
――エメロードさんは、続けてこう言ったそうだ。
「わたくしは、その犯人の情報を持っています。恐らくその情報は、犯人が今どこに居るのかをも明かす確かな材料となるでしょう。なにせその情報は……わたくしだけが、存じておりますので……」
……エメロードさんだけが、犯人の居場所を知っている?
それはどういう事だ。どうしてエメロードさんが知ってるんだ。いや、そもそも、彼女は今回の事件をどの辺まで理解して話しているのか。
もしかして狂言じゃないのかとアドニスとロサードは訝しんだが、ブラックはその疑いしかない発言に首を振った。どうも、真剣な様子だったらしい。
「あの女は間違いなく女狐だと思うけど……それでも、約束は反故にはしない女だと思うよ。そんな事をすれば、自分の自尊心や地位に傷をつけると解っているからね」
「こんな凡百の遊び人にまで真実しか言わないとでも言うんですか?」
アドニスがなんとも刺々しい言葉を言うが、気持ちは解る。
相手が嘘など吐かないって保証はないもんな……それに、ブラックはともかく、俺達はエメロードさんにとって敵も同じなんだ。俺達に情報が流れると解っているんだから、何かしら画策をしていてもおかしくはないはずだ。
だけど、ブラックは首を振った。
「ああいう類はね、意外と頑固なもんなんだ。いや、一度自分の決めた事を曲げれば転げ落ちて行くって解っているから、意地でもそれを実行しようとするんだよ。それが自分を保っていられる唯一の方法だとでも思ってるかのようにね」
「おやおや……随分と理解してらっしゃる」
「茶化すな、気分が悪い。とにかく、嘘は言っていないと思うよ」
「そっか……」
ブラックが言うんなら確かなんだろう。
あんまり他人に興味はないけど、きちんと相手の事は見てるもんな。大人のなせるワザって奴かも知れないが、俺が絡んでいない時ならまともな観察眼が働いているだろうし、今のは確信があっての発言ぽいもんな。
ブラックさんのエメロードさん評には納得したが、しかしその先が聞きたい。
エメロードさんの言う事が本当ならば、その情報はどういうものなのか。
「なあブラック……エメロードさん、その先は何て言ったんだ?」
急いて顔を見上げると、ブラックは難しそうな顔をして眉根を寄せた。
「うーん……それが…………」
「ぶ、ブラックの旦那、まさか聞いて来てないとか言いませんよね」
「……いや……その…………」
途端に歯切れが悪くなるブラックに、斜め横に座っていたクロウが不機嫌そうな目でジトリと睨んだ。
「さては不都合な事が有るな」
「グッ……」
「情けない事になっているならツカサを離せ。オレが抱える」
両手を伸ばして俺を引き寄せようとするクロウに、ブラックが牙をむいて威嚇しながら、俺をぎゅむっと抱き締めた。いでででやめろ。
「渡すかっ! 絶対に渡さないからな!!」
「いっ、良いから話進めろって! で、聞いたのか聞いてないのかどっちなんだ!」
無駄な争いをするなと怒ると、ブラックはまたもやぐぅと喉を詰めた。
「い……言っても怒らない?」
「聞いてから決める」
そんな事言うって事は、良い情報ではないんだろうな。
俺以外の三人も察したのか、冷めた顔でブラックを見ている。しかし、ブラックは臆することなく、ぽつりと呟いた。
「情報は……まとめるから、朝になったらツカサ君と連れ立って最上階の庭園に来いとかなんとか……言われた……」
「え?」
「は?」
「死んでください」
アドニスさらっと過激な事言うのやめて!!
いやそりゃ肝心な事を貰って来なかったのにイラッとするのは解るけど、ブラックもきっと頑張ったんだよたぶん!
「お、抑えて抑えて……あの、ブラック、なんでそんなことに……?」
「……僕がつまんなそうな顔ばっかしてたから、意趣返しだってさ。やんなっちゃうよもう、僕だって頑張って勃起させてたのに」
「お、お前なあ……」
美女を目の前にして頑張って勃起って、あんた男だけが好きってワケでも無いんだから、もうちょっと頑張ってよ……。いや、まあ、頑張られてもなんかモヤモヤするような気もするから、怒るまでいけないけど……。
「わざわざ交尾をしに行って、結局何も解っていないじゃないですか。まったく……これではツカサ君が我慢した意味が無いんじゃないんです?」
「ぼっ、僕だって我慢したぞ!? 何回も付き合ってやったのに、なんで態度ぐらいでこんな意地悪されなきゃいけないんだよ!」
「旦那ぁ、ベッドの中で抱き人形状態じゃ、そら相手は怒りますってぇ……」
ああそうだね、そうだよねロサード。
それを考えると、エメロードさんが怒って情報を出し渋ったのも仕方がないのかも知れない。だって、この状況からするに、ブラックは彼女が考えていただろう普通のえっちすらもしてやらなかったって事なんだろうし……。
えっちしたいぐらい好きな相手が、ベッドに誘っても自分に全く興味を示してくれなかったら、誰だってショックだろう。だったら、意趣返しも責められないのかも。
そっか……。ブラックの奴、エメロードさんを怒らせるぐらい、彼女とのえっちを楽しめなかったんだ……。
…………ぐぬぬ……ちょっとホッとしてしまった自分が憎らしい。
「と、とにかく、明日っ! 明日情報をくれるって約束したんだからいいだろ!? ツカサ君と僕とであの女から情報を貰って来るから、それでいーだろ!」
「はぁ……情報を持って帰って来ると思ったら、この体たらくとは……私もこの不潔中年を買いかぶり過ぎていたようですね……」
「オレもガッカリしたぞ」
「旦那、結局イイ女とヤッて来ただけじゃないっすか……。はーぁー……俺も一度でいいから、好みの奴と寝てみてーなぁー」
ロサードなんでこっちを見る。やめろ。
ていうか、ブラックだって頑張ったのに、そこまで言わなくてもいいのでは。
確かに絶世の美少女とえっち出来たのには羨ましいし憎らしいし血の涙が出るほど悔しいけど、ブラック的には労働だったんだし仕方ないじゃないか。
俺はエメロードさんは好みの女の人だけど、そうじゃない奴ならえっちなんて中々思いきれない事だろうし、羨ましいとばかり言っては可哀想だ。
……可哀想だよな……?
たぶん、可哀想なはず……てか結果的にエメロードさんも可哀想な気が……。
「うえぇぇ~ん、ツカサ君~っ、クズどもが僕のこと虐めるぅう~~」
「わっ!」
色々と考えている間に急にブラックが俺の事を抱き上げてベッドへと向かう。
何事かと思ったら、ブラックは今の体勢のままベッドにダイブして、何をするかと思えば俺の胸に顔を押し付けてグリグリしはじめた。
「ちょっ、ちょっと! お前やめろっ、人前!!」
「だってクズどもがぁ~」
「ほーう? 私をクズ呼ばわりとはいい度胸ですねこの腐れ中年……」
「ブラック……ずるいぞ……」
あんまりなブラックの言葉に、アドニスとクロウがゆらりと立ち上がる。ロサードも、止めるどころか椅子に座ったまま二人にやれやれと声援を飛ばしていた。
お、おい、やめろ、煽るんじゃない。
「ちょっ、ふ、二人とも落ち着いて!」
「ツカサ君ちょっとそこどいて下さい、この男は一度躾け直した方がいい。私が直々に叩き直してあげますので、離れていた方がいいですよ」
「右に同じ……」
「わー!! ブラック謝れよー!!」
「やーだもーん。僕にかなうと思ってるとかちゃんちゃらおかしー」
だーっもーっ、このクズ中年!!
いい加減にしてくれと泣き喚きたい気分だったが、さっきまでエメロードさんとの事で不安がっていたブラックがいつもの調子になったと思うと、こういういつもの喧嘩も良いんじゃないかと思ってしまう自分がいた。
…………いや、良くないんだけどね。止めるの俺だし。苦労するし……。
→
※次ちょっと血というかグロというか、痛い感じの描写があるので
ご注意ください。
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