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世界協定カスタリア、世界の果てと儚き願い編
26.一体どこまでが卑屈なのか
しおりを挟む※また遅れて申し訳ない……_| ̄|○
明日は体調良くなってると思うので、明日は定時に更新します…!
◆
「……ええと要するに……一発ヤれってことか?」
訳解らん、と言った様子のロサードがぽつりと呟く。
アドニスとクロウも「解せぬ」と言わんばかりの顔でブラックを見つめているが、ブラックも凄い仏頂面で大人三人を睨み付けていて、それはこっちが言いたいとでも言いたげな様子だ。
でも、俺はそれにツッコミを入れる事すら出来ない。
今の話を聞いた事で動揺しているのか、ブラックの隣に居ても横顔を盗み見ることしか出来なくて、部屋の中は何だか変な雰囲気でいっぱいになってしまっていた。
だってまさか、こんな話になるなんて思わなかったから……。
……ラセットとクロッコさんの話を聞いて部屋に帰って少ししてから、ブラックがこの表情のままで帰って来たので、まずはコイツの話を聞こうとテーブルに集まったのは良いのだが……ぶすくれたブラックが語り出したのは、今しがたロサードが発した台詞に繋がるとんでもない話だった。
曰く、お姫様が“シアンさんの潔白を証明する情報”を寄越す代わりに、ブラックとセックスしたいとのたまったとかなんとか。
………………は?
ちょっとまって。俺達に都合のいいエロファンタジー過ぎるんですが?
情報が欲しいならベッドでお姉さんとにゃんにゃんしなさいだと。そんなの、そんなのどう考えてもご褒美にしかならないだろぉおおおが!!
なんだそのちょっとえっちな異世界ラノベみたいな展開!
何でお前だけそうなるんだよっ、何でお前にそういうラッキースケベが来るんだよおおおおおおおおおお!!
チクショウてめえ俺と言うものがありながらそんなホイホイ美女に飛びこっ……ま、待て、いやまて。俺はそう言う事を言ってるんじゃない。
ああもうとにかくそんな事を言ってる場合じゃないんだよ。とにかく一大事だ。
でも……まさか、エメロードさんがそんな直球な方法で誘いに来るなんて……。
「お前、まさか乗る気じゃないだろうな」
なんだか怒った様子のクロウが、グルグルと唸りながらブラックを睨む。
だけどブラックも負けずに不機嫌な声で言いかえした。
「は? なに睨んでんだこの駄熊」
思いっきりメンチを切るブラックに、慌ててロサードが割って入る。
「ま、まあまあ! その、それで、ブラックの旦那はどうすんです? これに乗れば水麗候の潔白が証明されるかもしれないんでしょ? 聖女様とベッドで一発なんて、そりゃご褒美ってもんですけど……」
と、最後に言いよどんで、心配そうな顔で俺を見た。
……なんか思いっきり気を使われてる気がする……。
「そうだぞ。お前はツカサという番がいるというのに女と寝るのか」
「なんで寝る前提なんすかクロウの旦那。いやでもこの場合、相手が誘って来るって事はそれなりの事が有っての行動だろうし、これに乗らなけりゃまたややこしい事になりそうな気もするんでねえ……」
「やはり寝るのか。不潔な」
「やべっ、いや、そうでなくて……」
あまりの事態にロサードも口が滑りまくってるな。
俺の事心配してるってのに、なんでそうアンタも寝る方向に持ってくんだよ。
っていうか、何でこんな気を使われてるんだ俺は。
……そりゃ、俺はブラックの恋人……だし……こういうのはフケツって言われちゃうんだろうけど、でもそれなら俺だってクロウと結構アレな事してるし、ブラックのことを怒らせたりしてるし……。
だったら、そもそも俺にはブラックが誘われたって何も言う権利はないんじゃないのかな。俺も何だかよく分からない内に奇特な奴から誘われたりしてたし、そんな事になるたびに「俺が悪いんじゃない」ってブラックに反論してたわけだし。
それに、ブラックには誘われるだけの理由がある。
エメロードさんとの駆け引きは、シアンさんを助けたい俺達にとっては重要な事だ。俺が「なんかモヤモヤするから嫌だ」なんてダダをこねたら、それはただのワガママじゃないか。ブラックだって一生懸命エメロードさんと対峙してるのに。
だったら、ブラックが嫌じゃないのなら……俺は許すべき、なんだよな。きっと。
俺の気持ちなんか関係ない。ブラックがどうしたいかが重要なんだ。
もし嫌じゃ無かったら……俺には、止める権利なんてない。
だって、そもそもの話ブラックは昔は色んな奴をとっかえひっかえしてたんだし、俺一人だけじゃ足りないくらいの絶倫なんだし、もしかしたら俺以外の奴ともヤりたいのを今まで抑えてたりしたのかも知れないわけで……。
「…………」
「で、どうするんです? こちらとしては交尾して貰って情報を持って来て貰った方が楽なんですけどねえ」
「おっ、おまえなあ!」
アドニスの呆れたような言葉に、ロサードがツッコミを入れている。
だけど、何だかみんなの顔を見る気が起きなくて、俺は軽く頭を垂れてしまった。
「だってそうでしょう。処女と童貞ならまだしも、二人とももう何度も交尾しているんでしょう? ならやり方も判るでしょうし、娼姫と毎晩交尾する訳でも無いのですから、さっさと済ませてしまったらどうです」
「おいこらアドニスッ!」
「何ですかロサード。真っ当な案でしょう? たった一発で全てが解決するのなら、こうして悩むより、この不潔中年に聖母とやらを抱いて貰えばいいじゃないですか。私もヒマではないんですよ? さっさと解決して貰わなければ困るんですよねえ」
そうか。そうだったよな。
アドニスもロサードも、自分がやるべき事が沢山あるのに、俺達のためにここまで付いて来てくれたんだ。それなのに俺は自分の事ばっかり考えて……。
まずは、ブラックの気持ちやアドニス達の事を、一番に考えなきゃいけなかったんだ。それに、そもそもの話シアンさんだって早く助けなきゃいけないじゃないか。
だとしたら、俺は寧ろブラックを焚き付けて送り出さなきゃ行けないのかな。
でも……ブラックは、どうなんだろう。
ブラックはそんな事、したいのかな。
「…………ブラック」
恐る恐る隣の相手に問いかけると、ブラックは俯きがちになっていた俺の顔をぐっと覗き込んできた。その表情は、やっぱりまだ不機嫌だ。
だけど、顔からだけじゃ気持ちはよく分からない。
……こんな時ばっかり黙ってたんじゃ、男じゃないよな。
シアンさんの為を思うなら、ちゃんと話さなきゃ行けないんだ。
ブラックが……どうこたえるとしても。
「……ブラックは、どうしたいんだ? あの人と……その……したい、の?」
だめだ、顔が見れない。
なんだか胸が嫌な方向にドキドキして苦しくて、頭までそっぽを向いてしまう。
こんな態度じゃ駄目だって解ってるのに、だけど、どうしてもいつもみたいに真っ直ぐブラックの顔を見る事が出来なかった。
そんな俺に、ブラックは不機嫌な声で答えた。
「ツカサ君はどうなのさ。僕が他の奴とベッドに入るのが許せるの?」
「え…………」
なに、それ。
そんな風に返されるなんて思わなかった。
だって、俺が聞いたのはブラックの気持ちで、俺の気持ちなんかじゃないのに。
どうしてそんな事を言うんだろう。俺の気持ちなんて関係ないじゃないか。これは、ブラックが許容できるかどうかって話で、俺の事なんか……。
「ツカサ君はどう思うの!」
「あっ」
逃れようとしたのに、ブラックが俺の肩を掴んで無理矢理に自分の方へ向かせる。咄嗟に顔を背けようとしたら、今度は顎を捕えられて引き寄せられてしまった。
俺の視線の先には、相変わらず不機嫌な顔のブラックが居て。
思わず目を泳がせたけど、ブラックはそんな俺に眉間の皺を深くした。
「ツカサ君は、僕が他の奴と寝るのをどう思うの? 答えてよ」
そう、言われたって。
だってこれは俺の意思なんて関係ないじゃないか。
ブラックが嫌かどうかって問題だろ。俺が嫌だって言っても解決しないし、そんなワガママをグダグダ言ってる場合じゃないんだ。俺じゃない。俺の気持ちなんて関係ない。だってこの事に俺達のことは関係ないじゃないか。
ブラック自身がどう思うかが問題で、だから、俺は。俺は…………
「……ブラック、が……」
「ん?」
「…………ブラック、が……やりたいと、思うなら……俺は、いいと……思う……」
「ツカサ……」
クロウの声が聞こえる。
もしかして呆れてたのかな。嫌だ。そんな顔見たくない。
だって違うじゃん。俺の気持ちなんて関係ないだろ。
恋人って、そんな風に縛ってたらウザいって思われちゃうんだろ。
そんな風に思われたら、嫌だし……だから……。
「俺の事より、ブラックがどうしたいかだと、思うから……」
そうだよな。
それで良いんだよな?
言い切って、恐る恐るブラックを見ると、相手は――――
見た事も無いような冷えた表情をして、俺を見つめていた。
「え……」
俺の顎を捕えていた手が離れて、目の前でブラックが椅子から立ち上がる。
だけど顔が見れなくてそのまま固まっていると、ブラックは低い声を漏らした。
「ヤればいいんだろ。ヤれば。……良いよ、明日あの女の部屋に行く」
「え、だ、旦那」
「女の肌も久しぶりだしね。まあ僕は別に楽しんで来れば良いだけだし。……だけど、今日はちょっと気分が悪いから別の部屋で寝るよ。じゃあお休み」
「お、おいブラック」
クロウが慌てたような声を出す。だけどブラックは構わず俺の前からいなくなって、さっさと部屋を出てドアを閉めてしまった。
……後に残るのは、俺と、クロウ達だけで。
「ツカサ、いいのか?」
改めてクロウが心配そうに聞いて来てくれるけど、俺は返答が出来なかった。
だって、ブラックからあんな顔をされたのって……あの時、以来で。
クロウの事で怒らせてしまった時と同じ顔をしてて…………。
どう、しよう。俺、また、ブラックを怒らせてしまったのか。
でもなんで。変な事なんて何も言ってないし、ブラックの気持ちが大事だからって、ちゃんと大人の返答したじゃないか。
なのに、どうして。
「…………はぁあ……。またこじれるぞぉ、これは……」
気の抜けたロサードの声が聞こえて来たけど、それ以上に自分の体の中から聞こえてくる心臓の嫌な鼓動の音に耳を縛られて、俺はしばらく動けそうになかった。
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