異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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世界協定カスタリア、世界の果てと儚き願い編

25.見守るものは見つめられる事に気付くのか

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※諸事情によりあんまり動きが無いです
 そのうえ遅れて申し訳ない……(;´Д`)





 
 
 シアンさんが言ってた事って、一体どういう意味なんだろう。

 実の姉であるエメロードさんだけでなく、従者のラセット達にまで気を付けろだなんて、何かのっぴきならない事情でもあるんだろうか。
 でもシアンさんが意味のない事を言うワケがないし、いつもならニコニコと笑ってのらりくらりと受け流すような人なのに、あんなに焦った顔をするなんて……。

 俺にはよく解らないけど、よっぽど心配な事が有るってことなんだよな。
 そりゃ、まあ……お姉さんのエメロードさんはシアンさんに対して変に厳しかったし、ブラックにも好意を持っていて俺的には危険って言うのは解るけど……そこまで心配をしなければいけない関係なんだろうか。

 俺は一人っ子だから解らないのかも知れないけど、兄弟や姉妹って、そこまで警戒するほどに憎み合ったりする物なのかな。
 俺の周りに居たダチや知り合いの兄弟は仲が良かったから、シアンさん達の不仲が明確に想像出来ない。物語では確かによくある設定ではあるけど……本当に、二人は憎み合う関係になっちゃったんだろうか。

 ……もちろん、血の繋がりだけじゃ確かなきずなにならないって解ってる。
 ブラックの事を考えたら、壊れない絆って訳じゃないんだよな……血縁って。

 だけど、どうしてもそう思いきれない。
 俺がこんな事を考えてしまうのは、女の人に幻想を抱いているからなんだろうか。
 ブラックの過去を解っていて、それなのにこんなこと考えちゃうなんて……。

「上手くいかないなあ……」

 色々と。本当に、色々上手くいかないや。

 物語みたいに何でも上手くいって、誰もが幸せになれたら良いのに、現実はそうは行かない。誰かが幸せになっていれば、誰かが不幸になっている。俺だって……本当ならブラックとこんな関係にはならなかっただろうに、恋人に、なって、エメロードさんに必死に牽制されている。

 男が女の子に男を巡って牽制されてるって一体どういう状況なんだよ。
 いや、この世界じゃ珍しくないのかも知れないけどさあ。

「はぁ……一体どうすりゃいいんだろう……」

 気を付けろと言われたって、どう気を付けたらいいものか。
 まさかお姫様も闇討ちは望まないだろうし、そんな事をするメリットが無い。仮にブラックを手に入れたいとしても、お姫様なら他に方法はいくらでもあるだろう。
 シアンさんの事に関しても、籠の鳥状態の俺達なんて脅威にもならないだろうし、何よりエメロードさんが本当にシアンさんを罷免ひめんさせたいとは限らない。

 シアンさんだって、思い違いをしている可能性もある。
 ……俺が、そう思いたいだけかも知れないけど。

 でも、考えることは大事だよな。
 シアンさんを助けるために本当にエメロードさんと対立しなければいけないなら、それも含めてブラックにどうして貰うか改めて決めないと。
 お姫様もあいつには危害は加えないだろうけど、シアンさんの事が有る以上、何かブラックに取引を持ちかけるかもしれない訳で。それがもし俺達に不利な取引なら、改めて悩まなきゃ行けない訳で……ううむ、どうしたもんか。

 そういう事を話し合う為にも、早く部屋に帰らなきゃとは思うんだけど……俺は、どうしてだか部屋に帰り辛くて、人気のない廊下にふらふら歩いて来てしまった。
 そんで何かの部屋の前にあったベンチに座って時間を潰している訳だが。

「はあ……」

 またもや溜息が出て来て、思わず項垂うなだれてしまう。
 何故帰りたくないのだろうかと自分でも不思議だったが、さっきからシアンさんやブラックの事ばかりを考えている事に気付き、俺は眉間が痛くなった。

「どーすっかなぁ……帰らなきゃ行けないんだけど……」

 しかしまだ帰ろうと思う気が起きない。
 もういっそ本部の中を歩きまくって怒られてから渋々帰ろうかなと思っていると。

「おい、ツカサどうした」

 廊下の奥の方から声が近付いて来る。
 誰だろうと思って顔を上げると、そこにはラセットともう一人の従者の人が居た。
 ……あれ、二人ともエメロードさんの所にいるんじゃなかったのか。

「ラセット」
「気分が優れんのか? まったく、人族はこれだからひ弱でいかん。どれ、医務室に連れて行ってやる」

 絶妙に人族をディスりながら手を引こうとするラセットに、俺は慌てて首を振った。

「あっ、い、いやそうじゃなくてっ! 大丈夫、大丈夫だって。そういうのじゃないから、俺いたって健康だから!」
「本当か? 下等種族のくせに我慢などするものじゃないぞ」
「うん、平気だから……。それより、ラセット達はどうしてこんな所に?」

 エネさんで慣れている毒舌を掻い潜りながら問うと、ラセットは何故か困ったような顔をして、立ったまま俺をちらちらと見て来た。
 なんだか言い辛そうなことがあるっぽい顔だけど、俺には話せない機密事項とかが含まれてるって事なんだろうか。だったら聞いたのは悪かったかな。

 思わず申し訳なくなると、ラセットは何故か如実に焦ったような顔をした。

「あっ、ち、違う。その、私達はだな……」
「君が人族相手に焦るなんて珍しいですね、ラセット」

 わたわたするラセットに、少し男性寄りの中性的な声が駆けられる。
 そういえばもう一人従者の人が居たなと思ってラセットの背後を見やると、紫色を含んだ銀の髪が綺麗な男のエルフが面白そうに笑っているのが見えた。

 そうそう、この人もラセットと同じ従者の一人なんだよな。
 ラセットもイケメンだけどこの人も穏やか系のイケメンっていうか……それにしても、なんか既知感が有るな。アドニスやシアンさんと同じタイプだからかな?

 声もなんか裁定員の男の娘みたいな人と似たりよったりだしなあ。たおやかな感じになると、声も自然と中性的になっていくものなんだろうか。
 まあ、従者の人は背が高いから女には見えないんだけどさ。

「あの……」
「……ああ、自己紹介がまだでしたね。私はクロッコと申します。以前はブラック様とシアン様を結ぶ連絡係をしておりました」
「えっ……あっ、ああ! そう言えばラッタディアの支部にいましたね?!」

 そーだそーだ思い出した!
 この人、ラッタディアでシアンさんと初めて会った時に居た人じゃん!

 何かあんまりブラックの事が好きじゃ無かったみたいだったけど……あ、そうか、シアンさんが「気を付けろ」って言ってたのって、もしかしてブラックの事が好きじゃない人だから、何かしでかすかもって事だったのかな。

 だったら納得がいくぞ。なんたって、エルフ達は基本的に人族を見下してるんだ。そのエルフの女王様がブラックに懸想してたら当然面白くはないだろう。
 ラセットだってイライラしてたんだし、クロッコさんだって当然嫌がるよな。
 そうか……シアンさんが言いたかったのはそう言う事だったのか。

 だけど……なんか変だな。しっくりこない所が有るような気がするんだけど。
 ……俺、もしかしてまだ何か忘れちゃってるんだろうか。うーん……。

 思わず考え込んでしまった俺に、クロッコさんはくすりと笑った。

「覚えていて下さって嬉しいです。それにしても、随分とラセットと仲良くなられたのですね。この男がこんなに人を心配するのは滅多にないんですよ」
「そうなんですか?」
「こっ、こら! クロッコ!!」

 耳の先まで赤くなるラセット怒られながらも、クロッコさんはクスクスと笑う。

「敵同士になってしまいましたが、ラセットと仲良くしてあげて下さいね。彼は姫の事を思うあまり今まで友人らしい友人が出来ない男だったので」
「グッ……! だ、だからお前はなあ!」
「クロッコさんはお友達なんじゃないんですか?」

 こんなに仲が良さそうなのに。
 友達じゃないのにこの距離感ってありえるんだろうか。そう思ってつい質問してしまうと、クロッコさんとラセットはちょっと驚いたような顔をして、互いを見た。

「……友達にみえるのか」
「そうらしいですね」
「そうじゃないんですか?」

 今言われて初めて気付いたかのような言葉に、俺も驚いてしまう。
 まさかこの距離の近さで知り合い程度なんて事はないよな。同僚と言えども、こう気軽に会話をするのは仲間だと思っているからだと思うのだが。
 しかし、エルフの価値観からすると俺の考えはちょっと違っていたらしい。

「私達は、全員が原始のエルフの血を継いでいる。だから、友達……というよりは、血族と言った方が正しい。お前達で言えば親戚とかそういうものだな。人族だって、親戚は友達とは違うだろう?」

 なんだと。クロッコさんは、ラセットにとっては親戚だと?
 ラセットの答えに、俺は眉根を寄せた。

「つまり、神族は親戚しんせきの集まりみたいなもの……なの?」
「そう言う事になるな。ただ、オブ=セル=ウァンティアの姓を持つ者は特別な神族とされ、私達の中でも王族と言う位置に存在している。王宮に住まう方々は気軽には話せないので、親戚と言う事は憚られるがな」
「神族同士であれば、普通はこのようなやりとりなのですよ。全員が原始のエルフの血を引いているのですから、上下を決める必要はないでしょう?」

 そういう物なのか……ってことは、上下関係が無い世界なんだな。
 親戚だから、気軽に話せるし気負う必要も無いって事か。

 うーむ、しかしエルフ神族って本当に独特な暮らしをしてるんだなあ。
 国に住んでる人間全てが親戚になるっていうのは壮大過ぎて俺にはよく解らないが、実際エルフはそれを受け入れて暮らしてるんだなあ。
 こういうのも文化の違いと言う奴なんだろうか。ちょっと面白いかも。
 神族の住まう所には未だに行けてないけど、いつかは行ってみたいなあ。

「まあ……人族のお前には理解出来ないかも知れないが、友人ではない」
「そうそう。だから、友人の貴方にこのような態度を取ってしまうのですよ。私達はレクス・エメロード様とブラック様の密談の為に追い出された……などと、はっきりと話してしまえばいいのに、変に遠慮して話せないようになるくらいにね」
「おっ、おい! クロッコ!」

 クロッコさんの言葉に、ラセットが急に反応する。
 まさかさっき言いよどんでいたのって、この事を話したくなかったから?
 もしや俺が落ちこむと思ったから言えなかったんだろうか。……まあ、ラセットは俺とブラックの関係を知ってるんだし……気を使ってくれてたんだな。

 敵同士のはずだけど、でもやっぱりラセットは誠実な男だ。
 それが何だか嬉しくて、俺は胸がチクリと痛んだけど堪えて笑った。

「ラセット、解ってるから大丈夫だよ」
「だ、だが……」
「…………仕方ないよ。俺達にはどうする事も出来ないんだし」

 だから、ラセットが気に病む事はない。
 申し訳ない顔をさせたくなくて出来るだけ明るく返すと、ラセットはまた悲しそうな顔をして、今度は俺に目線を合わせるようにひざまずいて来た。

「本当に、すまない」
「い、いいってば」

 だあ、そのイケメンなツラを近付けて来るんじゃないよ。
 まったくもう、顔が整ってる奴は得なんだから。

「ラセット、そんなに彼に申し訳ないと思っているのなら、こちらの情報の一つでも流してやればどうです?」
「え……」
「姫を人族のグリモアなどに良いようにされる危険から守るためなら、多少の反目も必要ですよ。彼らもそれを望んでいるのですから、やってあげたらどうです」

 クロッコさんの言葉に、ラセットが形容しがたい表情で振り向く。だけど、相手は微笑を浮かべたままで続けた。

「姫のため、ですよ。君だって、情報が欲しいのでしょう? だったら……そうですね……明日あたりにこの廊下の奥の資料室で会いましょう。これは、私達と君だけの秘密にすればいい。そうしたら、誰にもバレないでしょう?」
「で、でも、情報……俺、他の奴らにも話しちゃうんですけど……」

 それは良いのかな。俺が知った情報は、自分一人だけじゃ結論が出せないから、全員で考えるために話してしまうんだが。
 こういうのはクロッコさんやラセットにはマズいんじゃなかろうか。
 そう思って相手を見上げるが、クロッコさんは笑みを崩さなかった。

「私達からの情報だと言わなければ構いませんよ。……まあ、君には隠し事が出来て心苦しいところもあるでしょうが、お互いに守りたいものを守るためなのですから、この程度は耐えて当然……そうですよね?」
「あ……う……」
「一晩ゆっくり考えてください。私達は、いつでもお待ちしていますから」

 クロッコさんの顔は、笑ったまんまだ。
 だけど俺はどうしてもその提案に笑って頷く事が出来なくて、どうしたらいいのかとグルグル考える事しか出来なかった。










 
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