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世界協定カスタリア、世界の果てと儚き願い編
9.仲間を入れ替えると最初は変な感じになる1
しおりを挟む※ちょっと長くなったので切ります(;´Д`)
元々俺達が向かう予定だった、異世界人の足跡が残る遺跡【エンテレケイア】は、【星の終わり】とも呼ばれる“ユーハ大峡谷”に存在するという、幻の遺跡だ。
プレイン共和国の南西――国境の山近くの場所はモンスターが多く、【空白の国】と言われ探索が進んでいないため、未だにその全貌は見えてこない。
聞けば冒険者すらあまり近寄らない、不毛の地だと言われているのだとか。
元々“空白の国”は……未だに調査が完了していない遺跡や地域は、スライムなどの凶悪なモンスターが跳梁跋扈しており、兵士でもおいそれと進む事は出来ない。
けれど不思議な事にモンスター達はその空白の国の区域から出る事はないため、今の所は国の事業が優先として、各国はその場所における自国の権利を放棄し、冒険者達が宝や古代の英知を入手する事を許可した上で解放している。
つまり、無法地帯ってことだな。
だもんで、地図も曖昧なものしかなく、非常に危険だ。
俺は昔この世界に居た異世界人の勇者によって記された地図を持っているけど……それも、数百年前の物だ。正確な地図だとフォキス村の村長さんは言っていたけど、確証が得られない。村の人達を疑ってる訳じゃないが、地図ってのは製作者の意図が含まれてる場合が有るからな。
しかし、確証を得ようにも今の時代にプレインの空白の国の地図が有る訳もなく。
――なので、俺達は少し遠回りをする事になった。
どこへ行くのかと言うと、それは俺達が気にしていた遺跡。これもまたプレインに存在する、かつて学問都市と呼ばれていた遺跡……【ミレット】だ。
そう。アレだな。ティーヴァ村の地下遺跡にある案内板で宣伝されていた、国一番の知識の宝庫って言われていたあの遺跡に行こうという事になったのである。
古代、しかも超古代の遺物が存在した古代に存在した学問都市なら、その時の国の正確な地図も残っているかも知れない。と言うワケで、俺達はひとまずそちらに向かう事にしたのだ。
なんでも、シディさんや世界協定が言うには、発掘品はそのまま遺跡が見つかった地方で保管されていて、全てきちんと管理してるらしい。でも、地図に関係する物は発掘された事が無いので、恐らくは遺跡に残っているのではないかと言う事だった。
……黒曜の使者の俺が調べたら、何か新たに見つかるかも知れないとの話だったが……まあ、捕まる心配も無いなら喜んでいきますとも。ええ。
ってな訳で、俺達はミレット遺跡に着いた訳なんだが……。
「……なにもない」
「なにこれ荒野じゃん」
俺達が見つめる先は、だだっぴろくて草がまばらに生えている荒野。
ちょっと先には海が見えたりする起伏のない場所なのだが、それだけに何も無さが際立って見えて、どう表現していいかと悩む事すらも難しい。
ここに学問都市の遺跡が有るという話だったのだが……俺達が見ている真正面には、掘削された地面しかない。綺麗な長方形の形に陥没したそこは、なにやら目印や掘り返した後などがあって、辛うじて「発掘現場なんだろうな」という感じはするのだが、その他に遺跡らしき様子は見てとれなかった。
なんつうか……俺の世界でもこんな感じの遺跡あるな……。
建物は全く残って無くて、掘ったら土器とかなんか出てくる系の遺跡……。
「うーん……期待外れにもほどがあるねえ、この風景……」
これにはブラックも呆れ顔だ。
さもありなん。世界協定で協議した結果「まずはここに行きなさい」と言われて、ミレット遺跡にやって来たんだもんなあ。それなのに、この何も見当たらない殺風景な場所ってのはちょっと……。
でも、ここに情報が有るか無いかは誰も解らない事なんだし、何もないじゃないかと文句を言うのはまだ早いよな。
「とにかく、探す前から諦めるのはよくない。ちゃんと探してみないと」
「むぅ……仕方ないか……」
とは言う物の、ブラックはわりと機嫌が良い。
久しぶりに外で冒険者らしい事をしているからか、それともエメロードさんに付き纏われなくて良くなったからか。どっちにしろ、不貞腐れた状態でいられるよりもずっといい。やっぱブラックはこうじゃないとな。
……ま、まあ、不機嫌よりは機嫌が良い方が良いし……。
と、とにかく、俺達は掘り下げられた所に近付いてしゃがんでみた。
「……あの案内板の話だと、ミレットってのは結構大きな所だったよな?」
「たぶん……。国一番っていうくらいだから大都市だったとは思うよ」
「じゃあ、まさかこのスペースだけの都市って訳じゃないし……どこかにまだ何かが埋まってる可能性も有るよな。……だったら、クロウの出番だったんだけどな……」
本当はクロウも連れて来たかったんだが、世界協定にダメと言われたからなあ。
「悪いなクロウ、このパーティーは四人編成なんだ」状態だ。
しかしそうは言っても悔やまれる。クロウ以上の土の曜術師なんて居ないぞ絶対。
「ツカサ君、また別の男の事を考えてる……」
「だーっから違うって! クロウにお願いしたら簡単に掘れたのにって話!」
「ああ……まあ確かに。アイツ以上に土を上手く扱える奴なんて、僕も一人しか見た事が無いからな……。そう言われてみればおしいかも」
「だろ?」
ブラックはクロウの事を邪険にするけど、最近は仲が良いのを俺は知っている。
それに、お互いの力を認め合っている事もちゃんと解ってるんだからな。
普段はそんなこと言わないけどね。
相手がいない時だけ、うっかり「あいつの力は認めている」的な発言をしちゃうのって、なんか微笑ましくていいよな。何だかんだ言いながらも、ちゃんと相手の事を見てるんだなって解るし。
「駄熊でも役に立つ事が……って、なにニヤニヤしてるの」
「なんでもない。……でも困ったなあ……ブラック、金の曜術で何とかならない?」
「う~ん……地中はちょっと難しいなあ……解るとしても近距離のごく浅い表層しか無理だと思うよ。土の中の異物を見つけるのは、土の曜術師の専売特許だ。僕は金属しか解らないからね」
「そっか……」
でも、やっぱりそれだけ土の曜術師は凄いって事なんだよな。
土木工事も出来るし地中を探ることだってできるし、地味だって言われていても、縁の下の力持ちって奴で本当は凄いんだ。
うん。俺は好きだぞ土の曜術師。地味ではあるけど。
しかし今ここに居ないんじゃ、頼る事も褒める事も出来ないわけで。
「土の曜術師がいればなあ……」
そう言いながら、掘削された部分をブラックと一緒に眺めていると、背後からやけに高圧的な声がぶつかってきた。
「何をしている! さっさと手がかりを探せ。時間は無限ではないのだぞ!」
そんな事を言いながら近付いて来る声に、嫌々ながらも振り返る。
するとそこには部族衣装を身に纏った、古い部族の長であるケルティベリア・ソグディアンさんと……稲穂色の少し長い髪を真ん中分けにした、茶色を含む薄いワイン色の瞳が特徴的な耳長のイケメン……っていうか、エメロードさんの御付きの一人のラセット・ラオ=タァ=カイトさんが偉そうに腰に手を当てて立っていた。
ああそりゃもう偉そうに。
「ッ!」
「ブラック落ち着け、殴ったら駄目だ」
某漫画ばりのブチギレな表情でガタッと立ったブラックを、俺は腕で押さえる。
威圧的な相手にビキッと来るのは仕方ないが、相手はお姫様の御付きだ。下手な事をして告げ口でもされたらシアンさんがどうなるか判らない。
それに、俺達はまだシアンさんと会えてないんだ。
監視役として同行したケルティベリアさんとラセットさ……こいつはもう呼び捨てで良いか。ラセットに、俺達が危険な奴ではないという事を解って貰う為にも、喧嘩はご法度だった。
高圧的な態度は確かにカチンと来るし、味方が誰もいない状態で罵詈雑言を浴びせかけられたら精神がすり減ってしまうが、幸い俺にはブラックと言う味方が居る。
だから、ここは俺が大人になって冷静に対処しなければ。そう思い、なるべく刺激しないように心掛けながら、俺はラセットに「土の曜術師が必要だ」と話した。
すると。
「なんだそんな事か。早く言え。まったく、これだから愚鈍な人族は……」
あっ、その毒舌エネさんと似てますね。
やっぱエルフって人間を見下してるんだなあ……シアンさんが優しいからそっちの方が多数派だと勝手に思ってたよ。俺的には「テンプレキター!」で別に何の問題も無いけども。
「ツカサ君、一発殴って良い? 殴るなら良いよね?」
「ダメだっつの」
ホントにブラックはエルフの事が嫌いだなぁもう。お願いだから鎮まって。
喧嘩両成敗だぞとブラックを抑えていると、ラセットは何を思ったか一歩踏み出すと、地面に片膝をついて手を翳した。もちろんイケメンらしく格好良く。
「地に満ちる精霊の力よ、古の血に応じ我が願いに答えたまえ……――」
ラセットが、小さな声でそう呟き終わった、と、その瞬間。
地面から彼の体を登るように橙色の光が凄いスピードで這いあがり、体を包んだと思った瞬間にその光が一気に周囲へと散った。
「――――っ!?」
俺達をすり抜け、かなりの広範囲に広がった橙色の光の粒子は、雪のように地面に舞い降りて染み込んでいく。俺達の使う詠唱とは全く違う文言と、それによって引き起こされた現象に瞠目していると……少し先の方で、大地が光るのが見えた。
「あれ……あそこ光ってる……」
思わずそう言うと、ラセットが不機嫌な顔でこちらを向いた。
「……フン……腐っても黒曜の使者と言う事か。水と木の曜術しか使えんというのに、全属性を見る事が出来るなど……宝の持ち腐れだ」
嫌なら無視してりゃいいのにネチネチ言って来るってのは、良い兆候だ。
俺達と小競り合いをするのも辞さないって事は、少なくとも関わり合いになりたくないとは思ってないって事だからな。この分なら多少の会話は出来るだろう。
問題は、ブラックがラセットとの会話に耐え切れるかどうかだけども。
「ふむ……光った場所にはなんぞあるというのか?」
少し古臭い口調のケルティベリアさんは、そんなラセットの事など気にせず興味深げに俺を見て来る。中立派として見届ける為に俺達に同行したけれど、俺達に対して敵意を持っている訳ではないようだ。
まあ、中立だからこそ分け隔てなくって事も有るだろうから、味方かどうかは何とも言えないんだけどね。普通に話してくれるだけでもありがたいから、その辺りは今は置いとこう。
因みにラセットが何故「監視役のもう一人」になったかと言うと、出発直前に急に一人でやって来て、「私が監視役を引き受ける!」と言って譲らず、彼の警護対象であるお姫様も「ブラック様のお役に立ててやって下さいまし」とか言うもんだから、しぶしぶ裁定員達が入れてしまったのだ。
それなのに、当のラセットはツンケンしてる訳だが……。
「たぶん、監視役っていうか……お目付け役って感じなのかなあ……」
大事なお姫様に色目を使っている不届きな輩だと思っているブラックを、どういう奴なのか見極めるつもりで付いて来たのだろう。まあ、気持ちは解るけども。
しかしだったら姫様の「お役にたてて」という言葉を尊重し、もうちょっと協調性を発揮して欲しい物なのだが……まあそんな事言っても仕方ないか。
ああ、このギスギスした空気、クロウが初めてパーティー加入した時みたいだ。
もうむしろちょっと懐かしいわ。
「ツカサ君どうしたの、変な顔して」
「いや、なんでもない。とにかく光った所に行ってみよう。早く【アタラクシア】に向かう為にもな。……そうですよね、ラセットさん」
内心では呼び捨てだが、大人には敬語をきちんと使おう。うむ、偉いぞ俺。
しかしラセットは当たり前の行為を褒めることは無く、フンと鼻を鳴らして光った方向へと一人で歩きだしてしまった。ああ、好感度まだ低いなあ。
別段友達になりたいって訳じゃないけど、日常会話は出来るようになりたいぞ。
仲良くなれば姫様が何を考えてるのか教えてくれるかもしれないし。
そんな事を思いながら、四人で光った場所へと近付く。
表面上は何の変哲もない所だったが、そこを頑張って掘ってみると――――
「おお! なんか金属のハッチ……じゃなかった、扉みたいなものが!」
1メートルほど掘った所でガツンと固い音がしたので、四人全員で丁寧に土を取り除いた結果、なんと俺達は地下へと通じるらしい穴を発見してしまったのである。
これは、もしかしなくても地下に行く為のハッチだよな。でも、これが発見されてないとは……発掘場所から遠すぎて、まだここまで調査出来てなかったのかな。
発掘って、基本何かが出土した場所を中心に探すし、こんなだだっ広い場所を全部掘り返すとなると、やるとしてもかなり時間が掛かるしなあ。
でも土の曜術師なら見つけられる物なんじゃないのかな。
プレインには土の曜術師はいなかったんだろうか。ううむ、何だかよく判らん。
「私の願いに応じて光った場所は、ここしかない。ということは、地図かなにか……もしくは件の遺跡に関する資料が眠っているはずだ」
「えっと……それは、さっきの術で解ったんですか?」
「それ以外に何が有る? お前達の使う下賤で下等な曜術と、我々神族の使う曜術を一緒にするな。神より力を授かりし我々は、人族とは格が違うのだ」
解ったらさっさと入れ、などという居丈高なイケメンエルフ。
一瞬ハリセンで頭を叩きたくなったが、我慢だ我慢。とにかく下に降りてみよう。
怖い顔をしたブラックがラセットに殴りかからない内に……。
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