異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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世界協定カスタリア、世界の果てと儚き願い編

4.遥か頂に君臨する

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※すんません予想以上に移動が長くなったです切ります:(;゙゚'ω゚'):
 次が本題…






 
 
 翌日。
 俺達は定刻通りに起床し、朝食を済ませると再び世界協定へと向かった。

 ……昨日は「一緒に寝ようよぉ」とか言ってくるオッサンと、「間食おやつはだめか」とあざとく耳を伏せながら聞いて来るオッサンを牽制けんせいしつつ、自分のベッドを死守するという一大ミッションを行っていて本当に大変だった。ほんっとおおに大変だった。無事に寝られたのは奇跡だろう。

 何で仲間同士でこんな不毛な攻防をしなけりゃいかんのだとは思うが、しかし俺とブラックは恋人な訳で、クロウも俺を喰う約束をしてるんだから仕方ない。仲間でもその事は忘れるなと俺自身肝に銘じてたわけで……ああしかし返す返すも頭が痛い。

 なんかこう……恋人っつっても、節度とか空気を読むっていうか、そう言う事も必要なんじゃないかなぁ……。つーか、普通は重要なイベントの前って、こんなスケベな事しないんじゃ……いや、待て俺。ブラック達は普通じゃ無いからそう言う常識は通用しないんだぞ。
 だから、ちゃんと「普通の大人はこういう事などしない」と言ってやらねばいかんのだ。でも言っても聞きゃしないもんなあ、このオッサン達……はぁ……。

「お疲れだな、ツカサ」

 思わず溜息を吐いてしまった俺に気付いたのか、ロサードが歩きながら振り返る。
 その言葉に何重もの意味がこもっているのは流石の俺でも解るぞ。でも、とりあえずいたわりの部分だけを取る事にして、力なく手を上げるだけで答えた。
 そんな俺にロサードは心底同情したのか、哀れなと言わんばかりの目を向ける。

「おまえ……本当大丈夫か……?」
「まあ平気でしょう。昨日の行為では、ツカサ君から中年二人に流れた曜気の量は、日常生活で放出される曜気の量とあまり変わりませんでしたから。ツカサ君も腰の倦怠けんたい感などはまったくありませんよね? 結局素股だけだったんですから」
「頼むから人が沢山居る往来でそう言う事を言わないで……ッ」

 ああもう元はと言えばこのすました顔した陰険インケン眼鏡のせいで……ッ。
 良く考えたらお前が諸悪の根源じゃねえかと睨むが、アドニスはどこ吹く風だ。

「ねえねえツカサ君、やっぱりヒゲは有っても良かったんじゃないかなぁ。ヒゲをったって別に印象が変わる訳でもないよね? ねえねえ」
「ツカサ、オレはこのままで問題ないな。不潔ではないから」

 …………んっとにこのオッサンども……。
 いやまあ、延々えんえん引きられるよりはいいんだけどさあもう。

「ねー、ツカサ君どう思う? ヒゲあってもいいよね?」
「はぁ?」
「僕のヒゲだよぉ」

 そんな事を言いながら、腰を曲げて俺の眼前に顔を近付けて来るブラック。
 「偉い人の前に出るんだから、今日はさすがにヒゲを剃った方が良い」とロサードやアドニスに言われて、今朝しぶしぶ剃っていたのだが、確かにブラックが気にする程度には人相がちょっと変わっている。

 いつもはだらしないモジャった髪の悪役っぽいオッサンなんだけど、ヒゲが無くなってスッキリした今は、まあ……胡散臭そうではあるけど、キリッとはしてるっていうか、格好いいっていうか……。
 …………い、いや、違う。格好いいとか思ってないから。
 ヒゲ剃っただけでキュンとかしてないから!!

「ツカサ君、ひげぇ」
「ああもう大丈夫大丈夫だってば! お前もしゃきっとしろよ!」

 間近に有るブラックの顔が何だか直視できなくなって、両頬を手でムニッと掴んで押しやる。だけど、その行為の何が嬉しかったのか、ブラックは途端にニマニマ笑い始めた。なんだこのチクショウ、なに笑ってんだコラ。

「分かりやすい」
「解りやすいですねぇ」
「ツカサ、お前本当にソレどうにかしろな……。誘拐されても知らねえぞ……?」

 なんだよお前ら四人して!
 もういいっ、聞かないっ、この話終了、終了!!

 悔しいんだかツッコミを入れられまくって恥ずかしいのか、不覚にも顔に熱を上げてしまった俺だったが、これ以上の問答は無用と早足で四人を追い越した。
 うん、まあ、すぐに追いつかれたけど。
 俺の足が短いんじゃない、この世界の男どもが長身過ぎるんだもう泣きたい。

 そんなこんなで色々と屈辱を味わいながらも【受付】の建物に到着し、今回の件では“中立派”であると言うレイ・アサドさんと再び合流した俺達は、世界協定の本部に向かうために、建物の奥へと案内される事になった。

 一日間を置いたのは、やっぱり「本部のセキュリティに俺達を認識させるため」だったようで、本部に向かう前にと俺達は銀色に光る質素な腕輪を装備させられた。
 この腕輪が、色々な術式に「攻撃しなくていい人達だよ」と覚えさせる役割を持っているのだそうで、本部に居る間は外してはいけないと言われた。因みに、居場所を把握はあくする機能も持っているらしいので、怪しい事は出来ないとかなんとか。

 まあ、俺達は召喚されただけだし別に本部を探る必要も無い。
 というかそんな暇なんて無いだろうから、まず気にしなくても良いだろうけどな。

 とにかく、世界協定ってのは本当にセキュリティが厳しい場所のようだ。

 レイさんやロサードの話では、やっぱり世界をいさめる立場にあると色々大変らしい。「国でもない癖に」と逆恨みをされたり、まだ解決してない問題のことで“抗議による攻撃”が行われたりする事もママ有るんだとか。立法機関ってのは大体同じような事をされてるんだな。

 でもまあ、世界協定は長い歴史の中で常に清廉潔白で居ようとしてきた組織だし、自浄作用もあるので、情勢が安定している今は危険な事もないんだそうで。レイさんは「今となってはこの物々しい防衛機能も、面倒臭いだけですね」と笑っていた。

 ここ百年くらいは平和だったらしいので、そんな感想になるのも仕方ないか。
 百年っつったら、お店とかだと普通に店主が代替わりしてて当然だし、そうなると「危険」の認識も違って来るだろうからなあ。

 俺だって、婆ちゃんが言う「昔の町は、川の水も凄く汚れていた」なんて言葉すら信じられないもん。昔はマジで汚かったらしいけど、今は別に汚れてないもんなあ。

 時代が進むにつれて技術が進歩して綺麗になったって言うけど、俺が生まれた時はもう川の水なんて綺麗だったんだから、あんまり想像できないよな。
 ぶっちゃけた話、戦争の話だって、俺にはもう想像すら及ばないし……。
 その時代に生きてたらちゃんと理解出来たんだろうけど、なんか歯痒いよな。そういう時、大人が少し羨ましくなるよ。だって俺の知らない時代を見られたんだから。

 ……って、それはどうでもいいか。
 変な事を思い出している内に、俺達は建物の奥……崖に寄り添っているエリアへと来ていたらしく、レイさんがエレベーターホールのような所に俺達を案内した。
 どうやらここから本部へと行くらしいのだが。

 ――――ん?
 エレベーターホールってことは、もしかして……初日に見た、あの崖に張り付いた中身が無い金属の支柱みたいな物体が、エレベーター……いや、昇降機しょうこうきが昇るための通路だったってこと?

 この世界でも原始的な昇降機はいくつか見た事が有るから、あっても全然不思議じゃない。おそらく、本部へ向かう手段もソレに間違いないだろう。
 しかし……だとすれば、かなり長い距離を動く昇降機になるけど……ホントにこの世界って所々でオーバーテクノロジーだよな。まあそれも魔法みたいな力が存在するから実現できてるって事なんだろうけど……ううむ……。

「ああ、やっと来ましたね。さ、お乗りください」

 レイさんが両開きの鉄の扉をレバーを卸して開く。
 中にはガラスの箱みたいな物が有って、その奥にはやっぱりあの崖に張り付いた通路の骨格部分が見えた。むむ、当たってもあんまり嬉しくないぞ。

 おっかなびっくりで中に入ると、床はちゃんとした不透明のもので、天井には太いワイヤーがしっかりと固定され、はるか上空へと続いていた。
 ……このワイヤーなら大丈夫かな。

 全員乗った所で、レイさんが扉を閉めて昇降機の中のレバーを今度は上に動かす。
 すると、一気に箱が動き出して、結構なスピードで上昇し始めた。

「うわっ!!」

 考えていたよりもかなり早いスピードで動く箱に驚いて、思わず隣にいたブラックのマントにすがる。すると、ブラックは外を見ながらでれっと口を歪めた。

「エヘ、こりゃ凄いね。でも大丈夫だよツカサ君! こういう道具には、落下しても大丈夫なように、気の付加術の【フロート】みたいな術をかけてあるんだ。だから、釣り上げるロープが切れても、箱はゆっくり下に降りるようになってるんだよ」
「そ……そうなの……?」
「この床板の中に、術式が仕込んであるんだ。肉眼じゃみえないけどね」

 あ、あ、そっか。ブラックは月の曜術師で、炎属性と金属性が使えるんだもんな。
 ということは、この箱自体も「曜具」なのか……。

 こういう時って金の曜術師って良いなあ。俺も勉強すれば、色んな所に使われてる曜具とか術式とかの判別がつくようになるのかな。
 まあ、今は木の曜術と水の曜術のマスターが先なんだけども。
 にしても、俺ってチート持ちなはなずなのに、使える術がホント少ないなぁ……。

「ム……ツカサ見てみろ、うっすらと海が見えるぞ」

 思わず落ち込んでしまった俺に気付いたのか、クロウが俺の肩を叩いて指をさす。
 最初は街の建物だけが見えていたガラスの外の風景だったが、気付けば結構な高さに登って来ていたらしく、だんだんと風景に青い色味が混ざって来て、向こう側には――確かに、空気よりも青く細い直線が広がっていた。

「わっ……このぐらい高かったらハーモニックの海が見えるんだな!」

 太陽の光を受けて、動く度に眩しく風景を遮るガラスの向こうは、気付けば所々に緑が見える荒野や砂漠と、そして遠方にある海岸沿いに広がる巨大な都市が見える。
 その向こうには陽ざしに輝く海が少しだけ見えて、俺は思わず見惚れてしまった。

「ツカサ君は本当に海が好きだねえ」
「山も好きだけどな! わー……また行きたいなあ、海……」

 泳げる泳げないは別にしても、水遊びって楽しいじゃん。
 今までは海に行っても騒動があってあんまり遊べなかったし、今度こそは浮き輪でプカプカと浮きながらリゾートを楽しみたい。海の魚にも興味があるしな。

 そんな事を思いながら、かぶりつきでガラスに顔や手をくっつけて外を見ていると、後ろからレイさんのクスクスと笑う声がした。

「ツカサさんは、本当に可愛らしい方ですね」
「うっ、ぁ、す、すみませんはしゃいで……」

 お、お恥ずかしい。良く考えたらそんな場合じゃないのに。
 思わず赤面して恐縮すると、レイさんは慌てて手を振った。

「ああ、いえ、そうではないんです。その……あまりにも裏表がないというか、素直な方なので、事前に知らされていた情報との齟齬そごに思わず……」

 それって……俺が黒曜の使者だっていう奴?
 思わずレイさんを見ると、相手は申し訳なさそうな顔をして、何故か一度ブラックの方へと目をやると、俺を見て小さく頷いた。

「私は中立の立場ですので、双方の意見を記録する立場にあります。なので、貴方のことが議題に上がった時、まるで世界を滅ぼす化物のような言い方をされてましたので……。その、恥ずかしながら、深淵でも覗いたかのような境地に達したお方だと、勝手に思っておりまして」

 その言葉に、裁定員たちの話がどれほどヒートアップしていたのかを知って、俺は何だか今から気分が重くなってしまった。

 そうだよな……良く考えたら俺は元々「災厄」としてこの世界に連れて来られたんだし、伝説での認識では間違いなく悪い奴だったんだから、普通の人には化物だとか警戒すべきものだって言われても仕方がない。……ブラックやラスター達があまりにすんなりと受け入れてくれるから、俺もちょっと楽観視しすぎてたな……。

 彼らの根本的な考え方が「俺は災いである」という物だとすれば、話し合って解り合えるような事態じゃないんだ。俺が「違います」とは言い切れない以上……彼らの認識を変えるのには、相当の覚悟や条件が必要なのかもしれない。
 …………はしゃいでる場合じゃなかったな……反省……。

「あ、いえ、ですが、ツカサさんは大よそそのような方には……」

 俺が解りやす過ぎるのか、レイさんが気を使ってくれようとする。
 申し訳なくて、大丈夫ですと返そうとしたところに、今まで黙っていたアドニスが冷えた声音ではっきりと言葉を投げた。

「どちらにせよ、力を持たない物には恐怖の対象には違いありませんよ」
「お、おいアドニス」

 ロサードが制止しようとするが、アドニスは不機嫌そうに目を細めて腕を組む。
 そうして、口を閉じるどころか、また鋭い言葉をガラスの箱の中に響かせた。

「優しい怪物がいたとして、何も知らない一般人がその怪物の内面まで一瞬で見抜けますか? 多くは忌避きひうとい遠ざけるのが普通ですよ。相手の内面を冷静に探れるのは、その者が己の能力に絶対の自信を持っているからです。烏合うごうしゅうに何を説いても結局は己の感情を最優先にするのが普通なんですよ」
「…………」
「気付けないのなら、放って置くしかない。誰もが優しい訳ではないのですから」

 そうでしょう、と言わんばかりに俺を見たアドニスに、ただ頷いた。

 ……アドニスは、うわべだけの理解は毒にしかならないと知っている。
 気が遠くなるほどの長い間、仲間にずっと虐げられてきたから、こうもハッキリと断言できるのだろう。だからこそ、俺に忠告してくれているんだ。
 誰もが相手の事を思って歩み寄ってくれる訳ではないんだと。

「…………ああ、到着しましたね。では皆さん、参りましょうか」

 気付けば、目の前には鉄の扉があって、もう景色は見えなくなっている。昇降機もいつの間にか止まっていて、ここが目的地であるのだと示していた。
 さて、どんな場所なのか。何にせよ気合を入れて進まねばならない。
 俺はブラックやクロウと目配せをして頷くと、扉の外へと足を踏み入れた。

「…………ここは……」

 洞窟、だろうか。
 しかしこの洞窟は綺麗に壁が削られており、しかもその岩壁も青みを含んでいて、まるで人工の壁であるかのように美しい。地面が自然のままじゃ無かったら、洞窟の岩壁は人間が積み上げた物だと勘違いしてしまっていただろう。

 まあ、そこかしこに壁と同じ色の青い小石が惜しげもなく落ちてるんだから、これが人工な訳無いよな。しかし、山の頂上付近にこんな洞窟が有るとは……。

「へぇー……本部はこんな風になってたのか」
「ムゥ…………」

 意外な外の世界にはブラックとクロウも驚いたみたいで、俺と同じようにキョロキョロしつつ、洞窟に作られた広いエレベーターホールから、一本の通路を真っ直ぐに進んでいく。

 道の先はやけに光っていて、外が見えなかったが――――
 真正面に見えた光景に、俺達は思わず息を飲んで立ち止まってしまった。

「こ……これ、が……世界協定の本部……!?」

 裏返りそうになる声を必死に抑えて、眼前に高く、広く鎮座する建物を仰ぐ。

 その建物は、柱状の結晶体が寄り集まったかのような不可思議な形をしている。まるで、発掘されたばかりの透明な水晶のような固まりにも見えて、建物と言うよりも巨大な宝石に見えた。

 だが、その結晶体の根元には入口がぽっかりと口を開けており、様々な人が中に人が入って行くのが見える。どこにも窓は無く、ドーム状に広がる広大な洞窟はこの道以外に逃げ場はない。

 しかし、遥か真上の天井からは光が差し込んでおり、結晶体をキラキラと輝かせていた。本物の水晶なんじゃないかと錯覚してしまうほどに。

「半透明……に、見えるが……半透明ではないのだな?」

 クロウも建物の様子が酷く不思議なようで、目を擦りながらじっと観察している。そう、そうなんだよ。この建物、何故か普通の水晶みたいに半透明にみえるんだ。
 これも何かの術のせいなのかと二人して不思議がっていると、レイさんが笑った。

「私も原理は解りませんが、このような建物は、神族の国では神聖な場に造られると聞いています。恐らく、反射などの原理を応用して、宝石のような質感を出しているのではないかと」

 内部は地上の建物と変わりませんよ、と言うレイさん。
 なるほど……エルフ神族の建物ならなんか納得かも。エルフって自然派だもんな。
 そう言う種族だとやっぱり建物の形に関してもちょっと違って来るのか。

 とにかく入ろうと急かされたので、俺達はおっかなびっくりで水晶の建物に近付くと、ぽっかりと空いている入り口をくぐった。
 ……確かに、中は普通だな。

 地上に在った【受付】とは違い、こっちは病院みたいに清潔な白を基調とした内装で、お役所というよりも神殿だとか古代ローマとかに有りそうなちょっと遺跡っぽい感じの建物に似てる。
 本部と言うだけあって中は最低限ながらも高級感のある調度品やテーブルなどが有って、花も飾られているので、美術館ぽくもあるな。なんかあの、西洋のお城とか宮殿を使った美術館な。

「皆様、こちらへ。もう裁定員は集まっていると思いますので、早速喚問を行わせて頂きます」
「えっもうですか」
「ご安心ください、まだ答えが纏まっていない回答は、後日に引き延ばせます。嘘はつけない仕様ですが、嘘でなければ良いのです」
「え……」

 それって、どういう事だろう。
 レイさんの顔を見上げると、横からブラックは意地悪そうな声を挟んできた。

「いいのか、そう言う事を言って。助力すると中立にはならないんじゃないか?」

 あっ、そうだ。これ要するにヒントだよな。
 俺達がボロを出したり変な事を言わない為に、レイさんが助けてくれてるんだ。
 ……確かにこれがバレたらレイさんの立場も危うくなるぞ。
 思わず心配になって相手の顔を見ると、レイさんは苦笑して俺の頭を撫でた。

「大丈夫。規則をお話しするのは何の問題もありませんから。……それに、敵対する側だけが裏技を知っているなんて、こういう機関では許されませんからね」

 なにせ、世界協定は平和を重んじる機関。罪を裁く立場にある機関なのだ。
 だからこそ、誰かを故意に不利にして「勝つ」なんてことは、あってはならない。本当に重要なのは、勝敗ではなく「真実」なのだから。

 そう言うレイさんの黒い瞳は、真っ直ぐな光を宿していた。

 ……あ、頭を撫でるのは正直やめて欲しいんだが……まあ、その、レイさんは良い人だし、何か悪い人には思えないし……まあ、良いか。
 そうだよな。俺達が大事にしなきゃいけないのは、真実なんだ。
 誰かに都合のいいウソで勝ち負けを決めるんじゃなくて、俺達が持っている情報を全て相手に示して、和解を探るのが本当に大事な事なんだよ。

 だから、偽ってはいけない。恐れてもいけない。
 俺達がシアンさんを救うためには、俺達の全ての力を示して、相手を納得させなきゃいけないんだから。もちろん平和的にな。

「……では、みなさん。準備は良いですね? 行きますよ」

 レイさんがそう言って、緋毛氈ひもうせんが敷かれた直線の通路の遥か向こうを指さす。
 そこには、重厚な銀の扉が有って、俺達の到着を待つように薄く開いていた。

「…………行こう」

 迷っている暇はない。
 俺はブラック達とそれぞれ目を合わせて頷くと、中に入った。

『……よくぞ参られた』

 広がる黒い空間と、一か所にだけスポットライトのように当たる光。
 その光の下には円卓が有り、奇妙な事に白い仮面だけがぽっかりと浮かんでいた。

『さあ、この円卓の前に』

 誰の声かも判らない声が、部屋に響く。
 その途端、俺達を招き入れた扉が音を立てて締まった。








 
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