異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ラゴメラ村、愛しき証と尊き日々編

31.そんなことより○○だ!

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 ――それから俺は、アドニスに“黒曜の使者”のことを話した。

 ブラックは俺を殺すための刺客だった……ということは言わずに、ブラックと出会って自分が特殊であると気付かされたことや、それからずっと旅をして来たこと。そして、俺が使える能力やそれを証明するエピソードとか……もちろん、アドニスが不思議がっていた事への答えや、言わずにいた事も色々と話した。

 刺客の事とかクロウにも話していない部分は言わなかったけど、そこはまあ……今広げても喧嘩になるだけだろうし、もう少し三人が仲良くなってからの方が……。
 ……仲良くなれるのかなこいつら…………う、うん、置いておこう。うん。

 とにかく、黒曜の使者の事も含めてざっと今までの事をダイジェストでお送りしたのだが。

「……なるほどねえ……。これで、ツカサ君が特殊だった謎が解けましたよ。しかしさすがに、君が異世界の人族だとは思いませんでしたねえ……」
「まあ……この世界じゃ別の世界が有るなんて認識はない訳だし……」
「そうですね、未知の大陸を“新世界”などと名付けたりはしますが、自分達が住んでいる場所と少し違う世界がまた別にある……なんて事は、普通は考えないでしょう。天国や地獄とはまた別の世界なんて概念、一般人には難しいでしょうね」

 それはブラックも言ってたな。
 今異世界という物を考える人間が居るとすれば、それは学者か賢者くらいなもんだろうって。けど、妖精の国を知ってるアドニスなら、考えそうなもんだけどなあ。
 いや、異世界っていうと逆に妖精の国みたいな方向に行っちゃうのかな……?

「アドニスはそういうの考えた事も無かったのか?」
「分野が違いますし……空想の類は私もあまり得意では無くて。……そういうのは作家か吟遊詩人の仕事ではないですかね。しかし、言われてみれば……【リングロンドヤード・ヴァシリカ】も別世界と言えばそうか。……だとしたら、ツカサ君の世界も何かしらでこちらと繋がっているのですか?」

 そういえば……そういう事を問いかけられた事は無かったな。
 一応帰る術はあるらしいと答えると、アドニスはなんだか理解しがたそうに眉根を寄せた。

「ふむ……それにしては……文献が今まで出て来なかった事が妙ですね」
「……?」
「黒曜の使者は、今まで多くの者に忘れられていた存在……という話でしたが、実際にはアスカー教の経典にその記述が残されていて、それを知る者が存在したのでしょう? そして、神族は異世界と使者の情報を有している。それならば、地上にも他に記述が有っても良いのではないでしょうか。いくら『神が使者の情報を消した』としても、世界中にその記述が散らばっている以上、神の手の届かぬ場所に残る情報も有ったのでは?」
「確かに……言われてみれば……」

 本当かどうかは分からないけど、ギアルギンは「次の黒曜の使者が現れた時に備えて、神が使者の情報を消した」と言っていたけど……だったら、アタラクシア遺跡にあの絵本が有ったのは変だし、何より消した張本人であるアスカー神が信徒の脳内を弄らず、経典に記すのを許したのもおかしい事になる。それに……神と密接な関係が有ったエルフ神族の記録にもその名が残ってるのは変だよな……。

 あれ……じゃあ、それってどういう事なんだろう……。
 神様の能力にも限界があって、誰かが使者の情報を残してくれてたってこと?
 それとも、神様に対抗しうる力が有って、その力が記述を残したとか……?

 だけどそれなら神様なんだから気付いてない訳がないだろうし、それだとあんなに敵対していた黒曜の使者の情報をわざと残した事になって、情報を消したってのが嘘って事になっちゃうけど、でもそれも結局は伝聞なワケで、本当は違う可能性も有って……。

 ヤバい、情報がこんがらがってよく解らなくなってきた。
 どこからどこまでがマジで、どこからが作り話なんだ。解らん、解らんぞ。

「つ、ツカサ君頭から湯気でてるよ」
「ツカサ落ち着け」
「う、ううう……」

 左右から手でパタパタされてしまった。
 うぐぐ……こういう話はやっぱ苦手だ……。

「……まあ、我々には判断できない要素が多すぎる……という事だけは確かですね。今現在はっきりしている事は、ツカサ君の“出来る事”と、我々グリモアが元は黒曜の使者との繋がりが有り、今はツカサ君の支配者として存在しているということぐらいでしょうか」
「……災害云々は、ツカサ君が本当にそうなのかってのは怪しくなってきたしね」
「というか、あの指名手配犯の話では、お前らがツカサを食い尽くして災害を起こすと言ってたそうではないか。ツカサに近寄るな」

 今更その事を思い出して、クロウが俺を抱き寄せながらずりずりと移動する。
 ま、まあ、確かに危険っちゃあ危険だわな……。

 しかしクロウの直球な態度にカチンと来たらしく、ブラックとアドニスは同時に席から立って、俺とクロウに不機嫌そうな顔で食って掛かって来た。

「ほぉお? ツカサ君を直接的に食い尽くす悪食あくじき駄熊が言うじゃないか?」
「……私をこの色欲魔と並べるとは、中々に命知らずな熊ですね……」

 あっ、あっ。やばい。
 これはさすがにクロウが不利過ぎる。
 ドSと凶悪中年がタッグを組んだらどうなる物か解ったもんじゃない。

 俺は慌ててクロウから飛び退くと、ブラックとアドニスの肩を掴んで「どーどー」となだめながら二人を無理矢理座らせた。お願いこっち睨みながら座らないで。
 なんで穏やかに会話が終わらないんだもう。
 これも曜術師ばっかり集まってるから……?

 話し合うだけでどっと疲れてしまったが、まあこちらの事情は伝わっただろう。
 これで、アドニスも納得してくれると良いんだけど……。

「アドニス、俺達に協力してくれるか?」

 落ち着いた相手に改めて問いかけると、アドニスは口角を軽く上げて微笑んだ。

「今更ですよ。私は君を裏切らないと真名まなを持って誓いました。君に危害が及ぶような事は、私自身が許しません。出来る限り協力しましょう」
「アドニス……!」
「まあ、タダでという訳には行きませんが」
「アドニス……」

 そうだなお前はそう言う奴だよな。
 自分の利益が通りそうだったら、すかさずねじ込んでくる男だったなお前は。

「お前……ツカサ君にコナ掛けといてその態度は何だ! 眼鏡かち割るぞ!!」
「私だってやりかけの仕事を放り出して、アレク様と皇帝陛下がご機嫌斜めになるのを必死に宥めつつやっと出て来たんですよ? 対価ぐらい貰って当然では?」
「……お前にはオスとしての矜持は無いのか」
「そうだそうだ!」

 クロウが思いっきり眉間に皺を寄せて言うのに、ブラックが賛同する。
 しかし、アドニスはそんな中年二人をジロリと睨むと冷たい視線で言葉を放った。

「冒険者なんていう定職に就かないでフラフラしている甲斐性無しと、宮仕えで働く私を一緒にしないで下さい。今回の要請でラゴメラ村に来た事によって生じる遅延決定の事項と、それに関わる損失や今後私が帰った時に行わねばならない仕事やご機嫌取りの方法を一から十まで列挙して欲しいんですか? その全てを肩代わりして二三ヶ月ツカサ君と会えなくなっても良いのであれば、私も対価を望みませんが」
「……」
「宮仕え、代わりにやってくれます?」
「…………」

 絶対零度の言葉と、目が笑っていない恐ろしい微笑に、ブラックとクロウが凍る。
 ……うん、そうだね。何も言えないよね、特にブラック……。
 ていうかマジで世知辛いな宮仕え。今更だけど来て貰って本当に申し訳ない。

「なんかゴメン……アドニス……」
「ああ、ツカサ君は良いんですよ。悪いのは歳の割に浅慮なこの中年二人ですから」

 は、はっきり言うなあ。
 でも、オーデル皇国だって今立て直してる最中なんだし、本当ならアドニスも仕事が有ったんだろうから、そりゃ愚痴の一つでも言いたくなるだろう。
 対価が欲しいってのも仕方ないよな。
 だけど……対価と言っても、何を差し出せばいいのやら。
 俺があげられるモンなんて、些細な物しかないぞ。家事代行とか、粗品のタオルをプレゼントとかそんなレベルでいいのか。

 うーん……あれか、やっぱ黒曜の使者の力で何かやりたいのかしら。
 それなら協力できるけど、木の曜術師の中でもトップクラスの実力があるアドニスに、同じ属性でペーペーレベルな俺がやれる事とは……。

「アドニス、対価って何が欲しいんだ? 黒曜の使者の力とかで何かしたいのか?」

 あまり大きなことは叶えられないぞと言うと、アドニスは先程とは全く違う上機嫌の微笑みでニコニコと笑いながら、眼鏡をくいっと直した。

「ああ、そういう大事おおごとは頼みませんから安心して下さい。それよりも、ツカサ君には大事だいじな事を頼みたいのですよ」
「大事な事?」
「ええ。簡単な事です。ちょっとした被験者になって欲しいだけですから」
「え?」

 ひけんしゃ?
 被験者って、あの、あれ、薬とかの……。

「いやあ、宮仕えの辛い所でして、最近忙しくて蔓屋つるやに出品する新作の性玩具を作れていませんでね。ちょっとした息抜きとして、ここで作りたいと思ってたんですよ。なので、ツカサ君にはその玩具を目の前で試してほしいと思いまして」
「え゛?」

 せいがんぐ?
 待って。あの、ちょっと待って。話が変な方向に行ってない?
 俺の耳がおかしいの。それともアドニスが言ってる事がおかしいのかな。

「明日にはロサードもここに来ると思うので、その時に受け取る物で早速試しましょうね。ああ、それと【リュビー財団】に関する事も話しに来ると思うので、ついでに聞いてあげて下さい」
「あの、ちょっと」
「いやあ休暇と思えば楽しくなりますねえ。ああ、この家はもう一つ客室があったのでしょう? 私はそこを使わせて貰いますから、よろしくお願いしますね」
「ちょっと。あの。あの」
「話を勝手に進めるなインケン眼鏡ー!!」

 隣でブラックが爆発した。
 そうね、そりゃそうだよね、真面目な話をしてたのにどうしてこうなった。
 何で俺アダルトグッズのモニターにされてんの?
 なにこれ地獄かな?

「リュビー財団の事の方が重要なはずではないのか……」

 真面目なクロウが汗を垂らしながらそう言うが、しかしアドニスはあっけらかんと、ぎこちない問いかけに返しやがった。

「正直、興味ないのでどうでもいいです。私は可愛いツカサ君で遊べれば満足なので」

 ……………………。
 アドニスって……アドニスって…………。

 いや……うん、まあ……そう言う奴だったね……そう言う奴だったよね……。

「ハハ……またこうなるのか……」

 ああ、どうして曜術師ってのはマトモな奴が居ないんだ。
 自分が言えた義理じゃないのは解ってるけど、ブラックやアドニスのような、自分の好きな物以外に興味が無い奴らを見ると、大人ってなんだろうと思わずにはいられなかった。

 ていうか、なんで俺はスケベ方面に思い切りがいい変態にばかり捕まるんだ……。















※アドニスは頭がおかしい
 
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