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ラゴメラ村、愛しき証と尊き日々編
あそびあそばせ2(遅れました…すみません…
しおりを挟む何回目かの死闘に、俺は冷や汗を垂らして目の前の細い藁を見やった。
クロウとの駆け引きは非常に緊迫し、俺の薬指も震えている。二人の間を繋ぐ藁は、最早どちらが指を引いても藁がちぎれてしまう段階だ。こうなると、運の勝負と言っても良い。ここでどちらかが一度でも動けば、藁は切れるだろう。
だが、ここで行かねば男ではない。
俺は覚悟を決めると、指を引いた!
……のだが。
「あ゛ーっ! 負けたー!!」
思いきり引いた指に付いて来たのは、ミリ単位のちっぽけな藁。
クロウの方には長い藁がまだ残っており、俺の敗北を示していた……。
ぐぬぬぬ畜生、どうしてこう俺は駆け引きまで下手なんだ。
思わず叫んでしまった俺に、クロウは緩く笑う。
「ツカサは、こういう事では意外と不器用なんだな」
「ハハハ、ツカサ君ほんと勝負弱いよねえ」
俺の指にはまっている藁の輪っかを取り、ブラックが苦笑する。
何だとおいコラと言いたいが、しかし俺自身、こういう駆け引きのあるゲームにはからっきし弱いのは自覚しているので、悲しい事に何も言えない。
RPGとかならクリアできるのに、どうして対戦になると負けるんだろう。
あ、でも、格闘ゲームならなんとか勝てるぞ。シューティングは駄目だけど……うーん、俺は反射神経とか戦術とかムリなタイプなんだろうか。
…………待てよ、それってチート持ち主人公的には駄目じゃない?
あれっ、だから俺チート主人公みたいになれないの?
でも深く考えるのが苦手なんだから仕方ないじゃないか。俺、勉強苦手だし……。それに普通は孔子とか三国志しらねーから! 俺ゲームにしか興味ないから!!
知識オタクじゃなくてエロオタクなんだから仕方ないじゃん、人間得手不得手ってのがあるんだよっ、だから世界は回ってるんだいっ。
それにしてもクロウの奴ったら、パワータイプなのに何でこんなに駆け引きが上手なんだよ。もしかして、戦士タイプは意外とバランス感覚があるのかな。
考えてみれば、武器を振り回すのにも加減とか必要だもんな……あれ、待って、じゃあ俺実はどのジョブよりも弱いんじゃねえのか。ヤバイ死ぬほどつらい。
思わず落ち込んでいると、ブラックが俺の顔を覗き込んできた。
「ツカサ君、連敗で不機嫌になっちゃった?」
「ち、ちがわい」
「あは、良かった。じゃあ……他の遊びでもする?」
「他にもあんの?」
俺が負け続けなのを不憫に思ったのか、ブラックが他の遊びを提案して来る。
こちらを気遣ってくれたのかも知れないが、まあ悪い気はしない。
負けっぱなしだと流石に悔しいし、他の遊びで名誉挽回といこう。どんなゲームを披露してくれるのだろうかと思っていると、ブラックは今度は脱衣所からタオルを持って来た。タオルを使う遊びなんだろうか。
「次に教えて貰ったのは、玉割りなんだけど……」
「タマ?」
「うん。グロブスタマンドラの無精卵を割る遊び。人の頭の上に卵を吊り下げて、目隠しをして木の棒を装備した奴が、周囲の声で卵を割る遊びなんだ。上手く割れたら成功なんだって」
「食べ物もったいないし酔っ払いの遊びっぽいし大丈夫かそれ」
思わず突っ込んでしまったが、本当にヤバい遊びじゃないのこれ。
スイカ割りよりも凶悪じゃないか。
「まあ、あいつら卵はポンポン産むみたいだから……」
「ではやり方を変えるか? 目隠しをして頭でも叩くとか」
「いやいやいやクロウ、それも危ないから……。うーん……とはいえ、他の遊びと言ってもなあ……引っ張り合いは勝負にならないし……目隠しと言ったら、触って物を当てる遊びとかぐらい?」
俺の世界では目隠しじゃなくてボックスの中に手を入れるタイプが多いが、昔は目隠しで物を当てるタイプが多かっただろう。
自分でやってもイマイチ楽しさは解らないだろうが、やってる奴を見るのはとても面白いので、二人にやって貰っても良いかも知れない。
知っているかもしれないがと思いつつ一応説明すると、ブラック達はなるほどと言った様子で興味深げに頷いていた。
「それいいねぇ、宴会系ってのは変わらなさそうだけど」
「しかし獣人だと鼻も摘ままねばならんな」
「あ、そうか……嗅覚が凄いもんな……。じゃあ、試しにブラックにやって貰おっかな。アンタさっきの指引き全然やってなかったし」
今度は参加しろよなとブラックを睨むと、相手は眉を上げて肩を竦めた。
「まあ良いけど……僕がやったらツカサ君もやってね?」
「お、おう……」
あれ、なんか雲行きが怪しくなってきたな。
いやまあ遊びなんだし、家には別に変な物ないから……大丈夫か……?
「ほい、ツカサ君目隠ししたよー」
「それで、何を触らせるんだ?」
だーもーなんか緊張感がないなあ。
こう言うのは、何を触るかビクビクする所を見て楽しむのが醍醐味なのに。
やっぱりこういうのは女子じゃないと駄目なのか。
俺が可愛い女子の「きゃぁっ! 何これぇっ!」「潜祇君やだぁっ、なにこれ怖いよぉ!」とかいうちょっとオイシイ場面しか妄想してなかったのが悪いのか。
良く考えたらオッサンが「なにこれ怖いよぉ」とか言っても全然嬉しくねえ。
遊びのチョイスをミスったなと思ったが、こうなったら何が何でもブラックをびっくりさせてやる。そうだ、いつもは余裕たっぷりのオッサンを驚かせるのも良いじゃないか。一泡吹かせるチャンスがやって来たと思えばいい!
ふふふ、そう思えばやる気が出て来たぞ。
「ツカサ?」
「さてさて、遊びましょうかね! まずは何にしようか……」
こうなったら、予想もつかないモノを持って来てやるぞフフフ。
でも何が良いかな。ブラックが触った事も無さそうな物と言うと……。
「あっ、そうだ! ちょっと待っててくれ、準備して来るから!」
「早くねー」
言うなり俺は寝室の方へと駆け出し、毛糸玉を取り出した。
もちろん“虹の水滴”とは別の、ごく普通の毛糸玉だ。何かに使うかも知れないと思ってゴーバルさんの所でちょっと買ってみたのだが、こんな所で役に立つなんて思わなかったぜ。この毛糸玉をぐるぐると小さな輪っか状に巻き取って、真ん中をぎゅっと縛ると輪っかの両端を切る。
そんで形を整えたら……ポンポン、いや毛糸玉の出来上がりだ!
ほわほわしてるし丸いし柔らかい。これはブラックも触った事が無いだろう。
毛糸玉に唯一似てそうなモンスターは触ったら吹き飛ぶしな。
と言う訳で、ウキウキしながらリビングに戻ると、クロウが毛玉を見て眉間に皺を寄せていた。
「ツカサ、なんだそれは……どこの獣からもぎ取って来た……?!」
「も、もぎとった!?」
「え!? ち、違う違うこれ自作だから、もぎとってないから!!」
慌てて目の前に毛玉を持って行くが、クロウもこういう飾り玉のような物をあまり知らないのか、おっかなびっくりで鼻を動かしてニオイを嗅いでいる。
そこでやっと作りものだと解ってくれたが、変な情報を事前に知らされてしまったブラックは落ち着けないようで、口の端をひくひくさせていた。
「つ、ツカサ君、ナマモノじゃないよね? そういう奴じゃないんだよね?」
「だから違うってば!」
いや、でも、ブラックが慄いてるのはちょっと面白いかも……。
あえて強く否定せずに触らせたら、もっとびっくりするかな?
「ほーらブラックいくぞー。手ぇ出して」
「えっ、もう!?」
いつになくビビった声音のブラックに笑いが込み上げてくる。
ニヤニヤしながらブラックの手を取って、無理矢理掌を開かせその上に自作の毛糸玉をぽとんと落とした。瞬間。
「おわぁっ!? なっ、なんだこれぞわっとしたぞ!?」
いつもは甘ったれた口調のブラックが、普通の大人の男みたいな口調になる。
しかも、なんの害も無い毛玉を乗せた瞬間ビクッとして毛玉を落としてしまった。いつもはビビることなんてないクセに!
ふ、ふふふふふ……。オッサンを驚かせるなんてつまらんと思っていたが、意外と楽しいじゃないかこれ。
よーしもっと驚かせよう!
「大丈夫大丈夫! ほれほれもっと触って当ててみ!?」
「ちょっ、だっ、だからこれ何!? さわさわしてるんだけど!」
「あはははは!」
毛玉に驚いてるブラックなんてそうそう見れるもんじゃないぞ。
やだなーもー驚いちゃってかわいー!
ニヤニヤしっぱなしで毛玉を何度も何度もブラックに触らせていると、ブラックも流石に我慢が出来なくなったのか、ついに目隠しを取ってしまった。
「ああもうっ!! い、いったいこれなっ……」
「毛玉」
答えを見て絶句するブラックに、俺はニコニコと笑いながら毛糸玉を見せる。
自分が今まで驚いていた物がちっぽけな毛糸だと解って硬直するブラックは、段々と頬が赤くなってきた。
おっ、もしかして照れてる? 照れてる?
オッサンでも照れると可愛く思えてくるなあ。そっかそっかー毛糸にごときに驚いちゃって、そんなに恥ずかしいんだー。うくく……ブラックをおちょくるのって意外と楽しいかも……。
「け、けいと」
「ツカサが自作した毛糸玉だそうだ」
「そうだよー! ほら、お前が驚いてる間に沢山作ってみたから、触ってみ! ふわふわして気持ちいいだろ?」
そう言いながらブラックの両手にもっさりと大量の毛糸玉を乗せると、ブラックは口の端をヒクヒクさせながら、目を細めた。
「へ、へぇ~……け、毛糸でこんなのつくれるんだぁ~」
冷静なフリをしているが、顔が赤くなっているのが解るぞ。
いつものブラックが俺にやってる「言葉の追撃」を俺もやってやろうかと思ったが、しかし俺は大人だからな。恥ずかしい事はあまり追求しないでおいてやろうではないか。俺ってば優しい!
ま、このくらいで勘弁してやろう。面白い光景も充分みられたしな!
あースッキリした。
「じゃあまあ、こんな遊びってことで……他の遊びやろうか」
そう言いながら、毛玉をしまおうとすると……ブラックが俺を背後からがっちりと捕まえて来た。
「ちょっとまってツカサ君。せっかくだからツカサ君もやってくれないと」
「え?」
「僕だけじゃ不公平だろ? ほら、目隠しして」
「あっ、ちょっ、ちょっと……!」
無理矢理に目隠しをされてしまえば、もう周囲が解らなくなる。
慌てて外そうとしたが、ブラックはその俺の腕すらも捕えて後ろ手に回し、簡単に縛り上げてしまった。……ちょ、ちょっと待て。これヤバくねえか。
「ぶ、ブラック……?」
ぎこちなく問いかけると、ブラックは背後で忍び笑いを漏らした。
「さぁ……ツカサ君も楽しい“物当て遊び”をしようねえ……」
→
※なんか意味があるんだかないんだかな回でもうしわけない…!
次はまあこういう展開なのでそういう*みたいな感じです。
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