異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ラゴメラ村、愛しき証と尊き日々編

28.あそびあそばせ1

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「おいブラック、朝からやるのはいいがツカサの手を精液臭くするな。ツカサのいい匂いがお前の加齢臭に掻き消されるだろうが」
「うるさいな、ツカサ君は僕の恋人なんだからヤッたっていいだろ!? ツカサ君の可愛い手もヘソも太腿もお尻も全部僕のなんだからな!」

 いやお前のじゃない、俺の物は俺の物だっての。つーかスケベな事に使ってる所ばっかり指定すんな! なんなんだお前は!
 朝からそういうの本当に勘弁して欲しいんですけど!

 ああもう、だから早くシて、クロウが起きて来る前に処理しようと思ってたのに。
 どうしてこんな時ばっかりタイミングが合ってしまうんだろうか……朝からこんな会話なんてしたくない。こっちは必死こいてブラックのブツにご奉仕して、穏便に事を治めたつもりだったってのに。朝から喧嘩なんてゴメンだぞ。

 こっちに火の粉が飛んでこない内に身支度を整えようと離れるが、中年どもは今日も調子が良いらしくまだ言い合いを続けている。
 喧嘩するほど仲が良いとは言うが、少しは喧嘩の内容を選んでほしい。

 俺の手がイカ臭くなるのが嫌だって、なんの話だよ。
 クロウにはそうでも無いんだろうけど、他の奴からして見たら俺の手も普通にイカ臭い黄金の右手に違いないんだけどな。あいつら何で時々俺がオナニーとかしない謎の清らかな存在みたいに扱うんだろうな……。

 あれか、二人とも日本での俺を知らないからそう思うんだろうか。
 いやでも俺が女子に対してはスケベだという事は二人とも周知の事実のはず。
 なのに、そこまで考えないって事は、この世界の俺と同年代の奴らはシコらないのか。そんなに性欲が無いって事なのか。

 けれどそれならえっちなお道具満載のアダルトショップ・蔓屋つるやがこの世界で全国チェーン展開してるのがおかしくなる訳で……ううむ、じゃあアレか、要するに俺がこいつらの前で健全な自慰活動をしてないから誤解されるのか?

 いや、でもまあ、最近は自慰したのって一回ぐらいしかないし……。
 けど「ちょっとシコってくるわ!」とか言える訳がないし、つーか普通は言わないし、大体性欲もこの二人に絞り取られてて湧いてこないっていうか。
 それに家事も有るし練習しなきゃだし、オナる暇も無いんだよなあ。
 うーん……考えてみると俺にも問題があるような気が……。

「ツカサ、手は念入りに洗うんだぞ。ブラックの精液の臭いはしつこいからな。本人と同じように」
「あ゛ぁん!? 何言ってんだテメェ!」
「わーガラ悪いガラ悪い! 朝からやめなさいってばもう!!」

 普段は甘えた口調のくせに、こういう時だけオラオラしないの!

 いいから早く身支度整えろと二人を抑えて、俺はなんとか朝食を用意し始めた。

 しかし……本当に獣人の嗅覚と言うのは恐ろしい。
 耳も鼻も良いってのは凄い能力だけど、身近に居たら本当に色々とニオイに気を使ってしまうな。でもクロウは俺に「汗臭いままで居ろ」とか言い出すので、もう何を気にしたら良いのか段々解らなくなってくるが。

 あれか、犬や猫みたいなものなのか。鼻は良いけどそのくせ強烈な足のニオイなどをぎに来るみたいなアレなのか。勘弁してくれ。俺はまだそこまでじゃない。
 でもブラックの足のニオイは嫌いって言うんだからクロウも変な奴だよ……。
 俺も一回獣人になれば自分の匂いが解るのかなあ……納豆とかそういうクセになる系の匂いとかじゃないといいんだが。

 納豆は好きだが、体臭にしたいかと言うとそれは別問題なわけで、どうでもいいが和食が食べたい。はあ、納豆とか思い出すんじゃなかった。
 今日も今日とてパンと牛乳とバターだもんな……。別に嫌な訳じゃないけど、昨日ちょっとだけ照り焼きっぽい味の物を食べてしまったからか、和食の事を思い出してしまってつらい。

 ああ、醤油や味噌はどこにあるんだろう。
 ヒノワという日本っぽい国に行ったら食べられるのかな。まあそれも、今の状況をどうにかしないと移動する事も出来ないんだけど……。

 はあ……シアンさんからの連絡はまだ来ないけど、今はどうなってるんだろう。
 マグナは世界協定に保護されてるから大丈夫だろうけど、やっぱり俺達のやった事とかの事後処理とかで色々と手間取ってるのかな……二つ返事レベルでラゴメラ村に来てしまったが、本当は世界協定にでも行って手伝った方が良かったのかも。

 しかし俺は今のままだと爆弾みたいなもんだしなあ……うーん……。

 少し落ち着くとまたもや色々な事を考えてしまい頭が痛くなったが、とにかく今は待つ事が大事だろう。俺がここに居ればシアンさんは安心みたいだし……いつになるかは解らないけど、まあダークマターが待っているピルグリムと、ライクネスの王様に頼まれてた【エンテレケイア遺跡】以外の目的地はないし、ここで一旦休養してもバチは当たらないだろう。

 王様だって、一国の王なんだからプレインで起こった事は耳に入ってるだろうし、俺達が動けない事もシアンさんに聞いているかも知れない。
 だから多分、大丈夫だろう。

「シアンさんが来たら、蜂龍ほうりゅうさんの事も話したいんだけどなあ……」

 数千年生きているまさに生き字引じびきの存在に教えて貰った事を、シアンさんの知っている情報と照らし合わせたい。
 俺は今までこの世界の歴史をほとんど知らなかったから、異世界人の事も黒曜の使者の事もぶれぶれだったけど、大まかな流れが解れば理解は出来る。
 シアンさんから話を聞いたりすれば、ピンとくる情報があるかも知れない。

 それで更に蜂龍さんに疑問を細かくぶつければ、彼女も過去の事をすんなりと思い出してくれるかもだし。
 勿論もちろん蜂龍さんに無理強いは出来ないけど、何にせよシアンさん早く来ないかなぁ。

 ――そんな事を思いつつ、人数分の朝食を机に持って行くと……ブラックが、俺の分の皿を自分の所に寄せて、俺に向かってぱんぱんとひざを叩いて来た。
 ……ああ、そう言えば膝に座れとかなんとか言ってたな……。

「つーかーさーくんっ、おいでっ」

 語尾にハートマークが乱舞しているブラックの顔は、お前がバターかと突っ込んでしまうくらいに蕩けてやに下がっている。
 どんだけ喜んでるんだよと思わず呆れてしまったが……まあ、その、このくらいは、前もやってたし……それに……約束、だし……。

「…………」

 だけど「ハイ喜んで!」と近付くのも恥ずかしくて、目を逸らしながら近づくと、ブラックはすぐに俺を捕えてそのまま膝に乗せてしまった。
 固い筋肉質の太腿にケツが押し付けられて、毎度の事だけど緊張してしまう。
 だって、人の膝だぞ。大の男が一人座ったら、さすがに辛くないか?

 俺だったらすぐに痛くなったり痺れちゃうだろうに、どうしてブラックやクロウは平気なんだろうか。やっぱ鍛えてると腿も強くなるのかなぁ。

「さあ、早く食べちゃおう! いっただっきまーす」
「ム。いただきます」

 そう言うなりパンをパクつくブラックとクロウ。
 今日はやけに食べるのが早いなと思いつつも、俺もいただきますをしてパンに手を付ける。一日中一緒とは言ってたけど、なにかするつもりなのかな。

 不思議に思ったが、まあ約束したんだしそりゃ何か考えててもおかしくないか。
 どこかに出かけるつもりなのだろうかなどと考えつつ、大人しく食事を進めていると、ブラックが不意に話しかけて来た。

「ねえねえツカサ君」
「んあ? あに?」

 牛乳……じゃなかった。甘いタマ乳でパンを流し込みながら返すと、ブラックは俺の顔を覗き込んでニコニコと笑う。

「今日は家の中で面白い遊びしようよ。熊公も一緒でいいからさ」
「遊び?」
「そうそう。前にツカサ君が陣取り遊びを教えてくれただろう? だから、今度は僕もツカサ君に面白い遊びを教えてあげたいな~って思って」

 そう言いながら上機嫌で笑うブラックは、一分いちぶの険も無い。
 だけど、なんか妙な感じがする……気のせいだろうか。

 一応対面のクロウに目配せしてみるが、クロウも何だかよく解らなさそうに眉間にしわを寄せて首を傾げている。
 そうだよな解せないよな。ブラックって、そういう俺がやるような遊びとかに全く興味が無い人間だったのに、今日に限ってそんな「遊び」って……どういう風の吹き回しなんだろうか。全く持って意味が解らん。というか解せなさすぎて怖い。

「お前そういう遊びとかって興味ないんじゃなかったの……?」
「ツカサ君に教えて貰って目覚めたんだよぉ~~~! ねっ、いいだろー? ねっ、ねっ、ツカサくぅ~ん」
「だあもうメシ食ってる時に懐くな!! 解った解ったから!」
「えへへ~……じゃあ、後片付けしたら早速やろう!」

 まあ、そこまで言うなら……別にやらしい遊びでもなさそうだし……。

 食事を終えて歯を磨くと、早速俺達はテーブルの上でブラックの言う遊びとやらを行ってみる事にした。

「それで……どういう遊びなの?」
「まず、細長くてすぐに切れそうな物……わらとか草とかでもいいけど、そういう物を三本用意するんだ」

 ブラックはそう言いながら席を立ち、暖炉の近くに置いていた焚きつけの藁を三本ばかり持って来る。

「それで……ツカサ君ちょっと指貸してね」

 左手を取ると、ブラックは指に器用に藁を巻いてきゅっと結ぶ。
 クロウにも藁を持たせると、俺が巻かれたのと同じ指に藁を絡ませるように指示をした。互いの左手の指には藁が巻き付いたが、これでどうしようというのか。
 すると、ブラックは残った一本を慎重に裂くと、ぺらぺらになったソレの両端を指に巻いた二つの藁にしっかり巻き付けた。

 ……ほう? これってもしかして……。

「指相撲の亜種みたいなもんかな?」
「スモウはよく解らないけど、指引きって遊びだよ。藁を引っ張り合って、相手の輪から藁を取ったり、千切った場合に長い藁を持って行った方が勝ちなんだ」
「へー! 面白そう!!」

 なになにその素朴そぼくな遊び。俺そう言うの大好きなんだけど!
 たまにはブラックも純粋で良い遊びを思いつくじゃんと目を輝かせて見上げると、ブラックは照れたように笑って頭を掻いた。

「えへへ……でもこれ、テイデで教えて貰ったんだけどね! だってほら、ツカサ君家にずっといなきゃ行けないからさぁ、そう言う事を話したら『ツカサ君が楽しめる事を休みの日にしてやるのも大事だぞ』って言われたから……」
「ブラック……」

 なにそれ。じゃあ、この遊びを教えて貰ったのって、俺のため……?

「お前にしては珍しく良い心がけだな」
「うるさいなクソ熊。恋人なんだからこのぐらいは当然だろうが」
「……と言うのも他人からの受け売りなんだな?」
「ぐっ……」

 そこもテイデの人族の人達に指摘されてたんかい。
 ああもう本当ダメダメだなこのオッサンは……。
 でもまあ……俺の事を考えてってのは……悪い気はしない訳で……。

「じゃ、じゃあまあ、とりあえず一戦やってみるか!」

 このままってのも収まりが悪いし、とにかく遊んでみよう。
 ブラックが折角持って来てくれた遊びなんだしな!









 
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