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ラゴメラ村、愛しき証と尊き日々編
18.知らない感情は知らないままで居たい
しおりを挟む――よくよく考えてみたら、この異世界じゃ男でも女でも分け隔てなく愛する人が人口の八割は存在する訳で、それに関しては誰も異端視などしては居ない。
だったらそれと同様に女性に友情を感じる人だって多いはずだ。つまり、男と女で友情は成立しないと思っている人が多い俺の世界とは違うんだ。
いくらブラックが過去に浮名を流したプレイボーイだったとしても、今は真面目に勉強をしようとしているオッサンなんだから、別に変に思う必要はないだろ。
なんでその事でモヤモヤするんだ俺は。変な事なんて何もしてないのに。
「つーか、何で俺こんなモヤモヤしてんの……」
朝方届けて貰った、でっかいアリクイみたいなモンスター……グロブスタマンドラのお乳……通称タマ乳を瓶に入れてしゃこしゃこと振りながら、自分が今抱えている不可解さに顔を歪める。
このお乳もやっぱりバターを作るとなると補助となる物質が必要らしくて、こちらの場合は塩を小さじに三杯入れる必要があったのだが、今はどうでもいい。
ブラックが足早に出かけて言ったってだけなのに、何でこんな風になるのか。
そんなに美女とマンツーマンでイチャイチャするのが悔しいのか俺。
まあそうだよな。だって美女だぞ美女。この村で一番の美しい女鍛冶師って事は、たぶんグローゼルさんレベルの美女だよな。
そんなお姉さんと二人っきりでお勉強とかどこのおねショタ同人誌だよ!!
ちくしょうそう考えるとイライラしてきた。何で俺じゃなくてブラックの方がことごとく美女と縁が有るんだよ。普通異世界人の俺の方がラッキースケベに見舞われるんじゃないのか、美少女ばかりが仲間になるんじゃないのか!
現実は男ばっかりでむさいことこの上ないってのに……そうか、俺がモヤモヤしてたのって、ブラックが美女を独り占めしていたからなんだ。
そうだきっとそうに違いない。俺のモヤモヤもそのせいなんだ。
俺だって女の人と二人っきりになりたいやい、良い匂い嗅ぎたいやい。
ハッ……もしかして、最近元気が無かったのは女性に触れてないから……?
「そうだ……俺、シアンさんと別れてから女性に会ったのなんて、畑に居た管理人のお姉さん以外いないじゃん……」
俺にはまだケモノ率八割の女性に対する萌えは芽生えてないのでアレだが、しかしそれでも柔らかい毛皮のような羽毛で覆われた禽竜族のお姉さんの胸は、そりゃもうボインで見ているだけでも幸せになりそうな胸だった。
あれだ、ああいうのを幸せのクッションというんだきっと。
でも禽竜族のお姉さんと喋ったのもほんの数分だったしな……そうか……スケベなオッサン風に言うと「おなごのええ匂い」とやらが足りないんだ俺は……。
「こうなったら……チャラ男なカルティオさんに話を持ちかけて、少しでも美女成分を補給するしかない……!!」
あの人なら俺の美女欠乏症を解ってくれるだろう。
このままだとモヤモヤが大きくなってブラック達に当たってしまいそうだし、一人で縫い物もままならない。折角二人とも鍛錬する余裕が出来たし、牢屋から解放されたってのに、俺がプリプリしてたら気分が悪いだろう。
そんな事にならない為にも、何としてでも女性と触れ合わねば。
うん、そうだ。絶対そうだ。俺はそういう事でモヤモヤしてるんだ。
そのはず、だ。
「………………そのはず、だよな」
しゃかしゃかと瓶に入れた乳を振りながら、呟く。
今はそう思って納得するしかなかった。
そうとも思わないと、何も手に付かなくなりそうだったから。
「はぁ……」
何だか手が重くなってきて、瓶を振る手を少し休めていると、窓の方からガサっと音がした。何だろうかと思って振り返ると、そこには。
「クゥ~?」
「クキュー」
「クゥー」
三匹のペコリアが、俺の事を心配そうに見つめて頭を傾げていた。
「ッ……!!」
かっ……かわ……ッ!!
可愛すぎでしょこんなの……!!
「あわぁ~~~っ! おいでおいで~! なに、どうしたのー!」
お前はおばちゃんかと自分でもツッコミを入れたくなるような声を出しながら、俺は瓶をほっぽり出して窓へと直行する。
すると、ペコリア達は俺の方へとぴょいぴょい飛び込んできた。
三匹とも俺の腕に収まって、それぞれ嬉しそうに目を細めてくぅくぅ泣く。その様があまりにも可愛らしくて、俺は思わず三匹に頬を摺り寄せてしまった。
あああ可愛いぃいい癒されるぅううう!!
「クゥクゥ?」
ペコリア達はそんな俺に嫌がりもせず、むしろ俺を心配するかのように、小さくてかわゆい前足でてしてしと叩くように額を撫でてくれる。
そんな事をされて、元気が出ないはずがない。
ああそうか、ペコリア達は俺の気分が沈んでるのを感じ取って、励ましに来てくれたんだなぁ……!
「ありがとなぁ~、元気出たよぉ」
「クゥー!」
「クキュッキュッ」
「クク~」
可愛すぎてもう顔から色んな汁が出る。ああ本当どうしてこんなにウチのペコリアちゃん達は可愛いのかしら、本当たまらんわこれ。
もう今作ってたバターあげちゃう。美味しいよ。
「タマ乳のバターは甘くて結構コッテリしてるんだよな。塩分が足りなかったっぽいけど……塩分控えめなら、動物でも食べられるよな?」
「クゥ?」
まあ、ペコリア達はモンスターだし……大丈夫か。
瓶の蓋を開け、バターを指で一掬いしあげてみると、ペコリア達は嬉しそうにペロペロと舐めた。やっぱ甘さが良かったのかな?
タマ乳はわりと甘くて牛乳特有の風味が抑えられている感じなので、ブラック達もわりとすんなり飲めてたけど……これだと、ちょっとシチューには合わないんだよな。リオート・リングに貯蔵している未だに腐ってないバロ乳を使っても良いんだが、俺もそろそろあの賞味期限の長さには不安になって来た。
なので、イマイチ直接料理に使うって事が出来ないのだが……もうこれシチューは捨てて別のスープにした方が良いんだろうか。
山小屋でパンとチーズとスープという所だけでもなんとか再現したいが……。
「……まあなんにせよ……深く考えちゃだめだな……」
色々考えるとネガティブモードになっちゃうし……そうならない為にも、定期的に美女と可愛い動物で癒されねば!
せっかくの休養なのに、俺が気分を悪くしちゃ元も子もないからな。
二人にも迷惑かけたんだし……ほんと、バカな事考えないようにしないと。
そう決心して、俺がまたバターを作ろうと思い瓶を手に取った所。
「ツカサくーん! たっだいまー!!」
ばたーんと大仰な音がして扉が開き、騒がしいオッサンが飛び込んできた。
あまりの騒ぎにペコリア達が「くきゃー!」と驚きながら威嚇するようにわたあめのような体を膨らませたが、そんな事などお構いなしにブラックは俺に突進する。
逃げようと思う間もなく、俺はそのまま抱き着かれてしまった。
「だっ、ぁっ」
「うあぁん寂しかったよぉお……」
まるきり低くて渋いオッサンの声なのに甘えたようなトーンを出してくるブラックに、俺は何故か自分が恥ずかしくなって顔が熱くなってしまう。
だがブラックは俺の様子を見て殊更嬉しそうに微笑むと、俺の暑くなった頬にちゅっちゅと何度もキスをして来た。
頬に唇を押しつけられるたびに、無精髭がちくちくと痛い。
だけど、ぎゅっと抱き締められてそんな風にキスをされると……悔しい、けど……体から、力が抜けてしまって……。
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「な、何を頑張ったってんだよ」
知ってるけど。鍛冶屋のアナベルさんの所で勉強したのは知ってるけど。
でも何をしていたのか聞きたくてブラックを見やると、相手は機嫌が良さそうに見開いた眼をぱちぱちと瞬かせると……にへらと笑った。
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でも言わないけど、そんな事をネチネチと言うと面倒臭い奴だと思われそうだから言わないけどな!! けど、やっぱその……気になる……わけで……。
「ツカサ君?」
「……お、お前の今回の師匠は……どうなんだよ」
つい聞いてしまった俺に、ブラックは探るように視線を彷徨わせる。
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「…………」
「ツカサ君、どしたの?」
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何だかダダをこねているような口調になってしまい、カッと顔が熱くなる。だけどもうなんだかブラックの顔が見れなくて、見たくなくて。
俺の様子をみかねたペコリアが俺達の間にぎゅうぎゅうと入り込んで来るまで、俺は情けない事に立ち直る事が出来なかった。
…………こんなんで……ブラック達に迷惑を掛けないように出来るのかな。
やっぱ、俺もどこかで発散しないと……。
→
※ぐるぐるツカサですが次はこの話題は置いて新たな出会いです
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追記:3.21
忙しさに落ち着きが見えそうなのでゆっくり更新再開します。需要があるかわかりませんが1人でも続きを待ってくれる人がいらっしゃるかもしれないので…。
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