異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ラゴメラ村、愛しき証と尊き日々編

17.どうしてこんな風になるのかな 1

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※何もすすんでないです……(;´∀`)


 
 

   ◆



 ブラック達が初めての狩りに行って、数日が経った。

 ゲームや物語ならここで何らかのイベントがあったりするのだろうが、俺達は特筆すべき事も無いような、変わり映えのしない平穏な暮らしを送っていた。

 いや、本当に何も気になる事が無かったんだよな……。

 ブラック達の狩りだって、別に驚くべき結果でも無かったし。
 ……そう。残念な事に、ブラックとクロウの初狩りは、そのような何とも言い辛い結果に終わってしまったのである。

 ブラック達は、事前に兵士やテイデ側の村長に「自然をなるべく破壊しないようにネ」と言われたせいで、動きを制限されてかなり苦戦したらしく、仕留められたのはナキウサギっぽい小さなモンスター一匹という有様だった。
 二人にとっては、いつものように動けなかったのが凄く辛かったらしい。

 まあ、そりゃそうだよな……ブラックとクロウは、基本的に戦場をフルに活用して動き回りながら敵を倒すタイプだし。慣れない事をさせられたら、そら調子も狂って腕が鈍っちまうだろうよ。これは誰も責められないだろう。

 でも、貴重な生肉には違いないし、なにより二人が頑張ってくれたのだ。
 二人は落ち込んでいたが、俺は充分に嬉しかったのでたくさん褒めて、有り難く肉を料理に使わせて貰った。お裾分けは次回にしておこう。

 肉が手に入ったらお乳たっぷりのシチューを作ろうかと思ったけど、折角のお肉なので、つい普通に焼いてしまった。まあこの世界は固形ルーとかないし、単純に焼く料理以外は、結構な下拵したごしらえと準備が必要だからな。
 それに、肉の味も把握しておかなきゃいけないし。まずは試食からだ。

 てなわけでここ数日は燻製ハムに加えて、新鮮な肉だったのだが……。
 正直、ナキウサギっぽいモンスターの肉は、中々のワイルドな味で、血抜きをしていてもわりと料理に組み込めなさそうな感じだった。食べきれないという程では無かったが、これはかなりの上級者向けだ。

 俺個人としては扱いきれないが、でもスパイスでどうにかなりそうではある。
 しかし、ブラックとクロウはこの肉の味に満足していないようだった。
 でも仕方ないよな。狩ってみないと判らない事だってあるし、美味い肉に当たるかどうかは本当に運頼みな所もあるしさ。

 とは言え、この味のせいで、余計に二人が落ちこんでしまったのには困ったよ。
 ブラックなんて、寝る時に頭を撫でてやってようやく治まったんだぞ……。本当にこのオッサンは何歳なんだろうか。自分の戦果がガッカリな結果で落ちこんじゃうのは解るんだが、添い寝して撫でたらすぐエヘエヘ言い出すってどうなの。
 もうすぐ四十路のオッサンがこれで良いのか、これで。

 色々と思う所はあるが、初めての狩りはとりあえず成功したって事で良かろう。

 ブラックもクロウも、ヤケになって俺に襲い掛かる事は無かったので、それで良いのだ。二人によると、山にはまだ様々なモンスターが居て、食べる程度の肉が取れそうな大型のモンスターも居るとの事だったので、今度頑張って頂こう。

 ……と言う訳で、そのような些細ささいなことが在ったが、他は特に人に話すような事もないような感じだった。

 変化した事と言えば――俺も少しは間違えずにリコーダーを吹けるようになった事と……後は、あの“虹の水滴”について、少し研究してたくらいかな。

 リコーダーは微々たる進歩なのでアレだが、この糸については結構色々な事が解ったぞ。ブラックが外に出てて、クロウが鍛錬で集中している間に、コソコソと部屋の隅で検証してたんだが、ちょっとこの成果は誰かに聞いて欲しい。

 検証の結果俺が見つけ出したのは、糸の更なる有用性だ。

 この“虹の水滴”という糸は、ゴーバルさんの説明の通りそのままでも凄い代物だが……糸が真価を発揮するのは、実は曜気を籠めて編み込んだ時なのだ。

 禽竜族は外敵にあまり接触しない生活をしているせいで解らなかったのだろうが……この糸は凄い耐久性なんだ。
 そりゃもう本当、マジックシールドかってぐらいに!

 ――例えば、火の曜気の糸と水の曜気の糸を交互に組んで格子状に編み込んだ布に、炎の曜術の【フレイム】と水の曜術の【アクア】を球状にしてぶつけて見る――普通は萌えたり濡れたりするわけだけど……この糸を織り込んだ布は違った。糸は、その術を受けて霧散させていたのだ。

 念のために二十回ぐらい水や炎の曜術をぶつけてみたが、それでも布は焦げる事もなく濡れもせず乾いた状態で新品のように広がっていた。
 ……どうやらこの糸、曜気を籠めれば込める程、かなり頑丈さを増すらしい。
 それに、攻撃の術以外のもの……例えば、その場に留まっている炎や水であれば、簡単に包んでしまえるのである。

 これ、凄くない?
 水に濡れずに完璧に水を包んでしまえるし、炎だって持ち運べるんだぜこれ。
 まあ、時間経過で水は零れて行くし、炎は消えちゃうんだけど、それでも布一つで持ち運べるってのが凄いよ。これ、使いようによっては包帯にもできるぞ。

 大地の気も込めたら、傷口を保護するようにならないかな。
 「保持する」っていう能力があるなら、もしかしたら切り離された腕の断面をこの布で包めば、かなりの時間持つかもしれない。
 流石にそれを試すのはイヤだが、でも可能性はあるよな。

 これなら……もしブラックとクロウが怪我をして、回復薬が無くても、俺のところにまで帰って来られるくらいの時間は作れるかもしれない。
 本当に、お守りみたいなモンなんだな、この布って。

「……だけど……問題は、どんなモノを作るのかって事だよな……」

 ハンカチ……は、流石に小さすぎるよな……。
 だけど肌着とかになると何日掛かるんだよレベルだし、かと言って風呂敷レベルの大きさになると針と糸でチクチクするのが大変だ。
 糸だって勿体ない……。

「あ~……どうしたもんかなぁ……」

 大きな独り言をつぶやきながら、俺は大きなベッドにぼすんと倒れ込む。
 “虹の水滴”について色々と解ったのは良いが、作るモノがなあ……。

「包帯みたいに使うなら……タオルとか? バンダナ……大きさは結構イケるけど、ブラック達に渡して似合うかどうか……クロウは服装的に似合うけど、柄がなあ」

 どうせ渡すんなら、喜んで貰えるものが良い。
 お守り代わりに作るつもりだけど、センスのいい物を渡したいんだよなあ。
 やっぱ、ダサいって思われるの嫌じゃん。男としてはそこは譲れない。

 …………あと、何度も口を酸っぱくして言うが、俺がこうして二人にプレゼントをしようと思っているのは、俺が妻だからって事じゃないぞ。これは仲間として、こ、恋人として、大事な奴である二人を守りたいから作るんだからな。
 誰かを守りたいって気持ちは、妻限定の気持ちじゃないし!

 それに……トランクルで考えてた贈り物の形が、ようやく見えて来たし。
 初めてのちゃんとした“贈り物”なんだから、やっぱこだわらないとな。

「よくよく考えたら、初めてのプレゼントが足のニオイの消臭剤っていうのも、物凄くブラックに失礼だしな……。クロウへのプレゼントで迷ってて良かったぜ……あのまま渡してたら、絶対俺ネチネチ嫌味言われてたな」

 もし渡してたら、この先ずっと「ツカサ君の初めてのプレゼントってさあ~」と事有るごとに掘り返されてしまっていただろう。ああ恐ろしい。

「曜術耐性もあって防御力と耐久性に優れた布……これなら、ブラックだけじゃなく拳闘士のクロウにも役立つからな。……何としてでも形にしないと」

 俺がシルヴァから出られない以上、外に居る二人に何か有っても駆け付けられないからな。……もしかしたら、シルヴァに住む禽竜族の妻たちもそんな感じで夫たちの事を心配していたのかな。
 だから、万が一の事を考えてこの布で一生懸命お守りを縫ったんだろうか。

 ……誰だって、大事な奴に怪我なんかして欲しくないもんな。

「解るだけに、なんだか複雑だなぁ……」

 まあ、この世界って俺の世界よりも男女の考え方に差が無い世界だし……家庭的な男女が居れば、マッチョな考え方の男女もいるから、俺が共感しても何もおかしい事は無いんだろうけどさ。

「うーん……」

 だけどなんだか恥ずかしくて、俺はごろんとベッドの上で転がった。
 まだやる事は色々とあるんだけど……なんだか、やる気が起きない。

 何でだろうなぁ。張り切って研究し続けた疲れが今になって出たんだろうか。
 それとも……ブラックもクロウも他にやる事が有って家に居ないから?
 ……そう言えば、三人でのんびりするって言ったのに、存外一人の時間が多くて何か……何でか知らないけど、変な感じなんだよなあ……。

「…………気分転換に、ペコリア達と遊んでこようかな」

 外に出れば藍鉄やペコリア達が居るし、警護をしてくれている兵士が居る。
 遊んでばかりじゃ何も進まない事は解ってるんだけど、息抜きは必要だよな。

「……よし、ちょっと外に出るか」

 ベッドから降りると、俺は外へと向かった。









 
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