異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

文字の大きさ
上 下
786 / 1,264
ラゴメラ村、愛しき証と尊き日々編

3.素敵な家で覚悟を決める

しおりを挟む
 
 
 変な事を意気込む羽目になってしまった自分を憐れみながら、優しい朱色に塗られた木製のドアを開ける。すると中は……俺が思っていた以上に素敵な内装だった。

「うわ……うわぁあ……!!」

 いくら西欧風の石造りの家と言っても、壁が石なのだから少々冷たい感じの家なのだろうと勝手に思っていたが、そう思っていた事を今すぐ謝りたい。

 だって、入ってすぐのリビングらしき場所は二方向の壁にある大きな窓からの光が燦々さんさんと差し込んでいてとても明るいし、暖炉がある方の壁は少し薄暗くなっていて、そのコントラストがもうたまらんのですよ。

 しかも、天井には組まれているはりはそのまま曝け出されていて、石造りの壁に飴色の梁はいかにも「ファンタジーの家です」という感じでキュンキュンする。
 つか暖炉、おっきな暖炉! でっかいソファーにおっきな暖炉ですよ奥さん!

 ふあああぁ……! ここに大きな鍋とか置いてシチュー作るんだ、そして白パンとチーズ置いて、丸太をぶった切ったようなこの素晴らしく粗野な木製のテーブルに着いたら、アルプスの少女のような食事が出来るんだぁあああ。

 たまらん、たまらんすぎる!!
 いや台所は奥の部屋にあるっぽいんだけど、でもやっぱ暖炉でしょ!
 でっかい暖炉でお煮焚きでしょ!

「えっ、え、なになに、台所もそういう感じ!?」

 荷物をソファに放り出して部屋の向こう側に見えていた台所に直行すると、そこにはではなく、金属性の真四角っぽいタンスが置かれていた。
 なんか横にでっかいパイプが付いてて、壁に……あっ、そうか、これ煙突に続いてるんだな。と言う事はこれ……これがかまど?

 どう使うんだろうと頭を傾げていると、ブラックが説明してくれた。

「それは貴族の家で良く使われる金属釜だよ。ほら、下の方にちょっと小さなドアが付いてるだろう? そこに薪をくべて火をつけて肉を釜焼きにしたり、上の部分に鍋をめ込んで調理したりするんだ」
「なるほど! グリルみたいなのが一緒になってるのか」

 こりゃ便利だ。ライクネスの貸家は普通にかまどだったから、グリルなんかは出来なかったんだよなぁ……うわーこれ欲しい……設置する家がないけど……。
 因みに、焼き物をする時は、上にあるコンロっぽい所を使うようだ。
 それは後で確かめるとして。

「流し台もひろーい! あっ、これ蛇口式じゃん! なんだろ、タンクとかあるのかなぁ、水汲みしに行かなくていいから楽だぞ~!」
「あのツカサ君……なんか喜ぶところが、なんか……」
「嫁だな、嫁」

 ハッ……!
 ……い、いや、これは……その、えっと……。

「し、仕方ないじゃん、料理すんの俺なんだから仕方ないじゃん!! 嫁違う!」

 だってそうでしょ、料理するなら便利な方が良いじゃん。
 これは嫁だから喜んでるんじゃないぞ、料理を行う者として興味深かったから喜んでいるだけであって断じてそういう視点からではない!
 さっき夫とかろくでもない事を言われたからって、調子にのってんじゃないぞ!

 しかし、必死に否定する俺に、ブラックはニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべて、クロウも何だかふーふーと荒い鼻息を漏らしている訳で……。
 …………なんか嫌な予感がする。別の部屋見よう……。

「えーっと……他の部屋はー」

 玄関兼リビングとキッチンの間には廊下が有り、横に伸びている。そこはまた右に窓が有り、左に四つほどドアが有るのが見えた。なるほど、この家は要するに、かぎ括弧かっこ(小説でよく出てくる、台詞を囲ってる「」のことだ)の形なんだな。

 平屋もまた良しと思いつつ、四つの部屋を確かめる。
 キッチンの隣の部屋は脱衣所とシャワー室(洗面所ではなかった……)で、あとの三つは備え付けの家具が有る個人の部屋のようだ。
 シアンさんが事前に用意してくれたのか、趣味の良い調度品や家具が並べられていたが……一つ、気になる事が有った。

「……一つ目の部屋のベッド、でかくね……?」

 そう。少し広いその部屋のベッドは、何故かキングサイズかと思うほど大きく……いや、今はどうでもいい。忘れよう。俺は何も見なかった。

「よし、部屋も確認したし……あの、あれだ。何か話す事有ったよな、色々」
「ツカサ君、現実逃避した?」
「麦茶淹れるから座って待ってろ」

 そう言うと、ブラック達は驚くほど素直にリビングのテーブルに着いた。
 ……ま、まあ、よかろう。
 荷解きをして麦茶を取り出すと、俺は早速キッチンで湯を沸かして茶を淹れた。
 話をしていれば、さっきの事は忘れるだろう。平常心平常心。

「で……なんの話だっけ」

 麦茶を砂糖なしで飲めるようになったブラックは、茶をすすりながら言う。

「お前な……。マグナの事とかこれからの事とか色々あるだろ!?」
「あいつはシアンが面倒見るんだろ? だったらどーでもいいよ。シアンも後で様子を見に来るんだし、その時に話せばいいじゃん」
「だーもーお前は本当に他人に興味がないなー……」

 マグナは俺達を助けてくれた奴でもあるんだぞ。なのに、その言い方は無いんじゃないかキミ。まあ毎回こんな感じだし今更だけどさあ。
 でもマグナは俺の大事な友達な訳だし、ちょっとは話題にしてくれても……。

 少々落ち込んでいると、クロウは溜息を吐いてコップを置いた。

「ツカサ、怒っても仕方のない事だ。とにかく、あの小僧は無事だったのだろう? だったら、水麗候すいれいこうがツカサの預けた荷物を持って来てくれる時に話せばいい。オレ達だけで話しても、水麗候の言った事だけで堂々巡りになるからな」
「それもそうか……。じゃあ……えっと……今後の話でもする? 俺の事とか」

 そうそう。それもちゃんと話しておかなきゃ。
 俺達はシアンさんと話し合った結果、今の状態の俺ではレッドにまた“支配”されてしまう可能性が有って非常に危険だから、とにかく解決策が見つかるまではって事で、このラゴメラ村を紹介して貰ったんだよな。

 シアンさんの話では「他人が入り辛く、警護がしやすい」という事で、確かにこの村のシルヴァって地域はかなりセキュリティが高いんだけど……問題は、ここでどうするかって事なんだよなあ……。

 隠遁生活をするのは良いけど、ここにいつまでも留まっていられない。
 なんとかして“支配”から逃れる術を見つけないと、俺達は満足に旅も出来ないのだ。せっかく冒険者になったってのに、そんなのごめんだぞ。

 でも、今の俺達には俺がギアルギンから掠め取った情報しかない訳で……。

「……でもさあ、俺も本当にレッドに“支配”されていたのか疑問なんだよな……。だって俺その時の記憶が無いし、気を失ってただけかもしれないじゃん?」
「敵が嘘を言ったって事? ……まあ、考えられない事も無いけど……」

 そう言う割には、ブラックは浮かない顔をする。
 ……この話題になると、何故かブラックは歯切れが悪いんだよな。
 てっきり俺は「支配!? えっ、ツカサ君を支配できちゃうの!?」なんて喜ぶと思ってたんだが……ブラックにはそのような趣味は無いのだろうか。

 シアンさんがやった事は有るかって訊いた時も、思いっきりブチギレて部屋を三つ壊してたし。そう言う所はちゃんとしてて偉いっていうか、その……まあ……悔しいけど、俺もちょっと嬉しかったって言うか……じゃなくて。
 何にせよ、このまま検証できないと嘘かどうかも判別できないよな。
 ちょっと怖いけど……やっぱ、確かめる事は必要だと俺は思う訳で。

 だから、俺は意を決してブラックに問いかけてみる事にした。

「あのさ、ブラック」
「ん? なーに?」
「その……やっぱ一回、確かめてみた方が良いと思うんだよ。俺のこと。だからさ、俺を一度……支配してみてくれない?」
「…………」

 覚悟を決めて吐き出した台詞だったのが、ブラックの反応は良くない。
 良くないどころか、凄く不快そうに顔を歪めて沈黙していて。
 ……あれ……何が悪かったんだ。俺変な事なんて何も言ってないよな?

「ツカサ君……それ、本気で言ってる? 僕嫌だって言ったよね」

 ああ、めっちゃ怒ってる。何だこれ、なんでこんな怒ってるの。
 レッドと一緒になりたくないから?
 馬鹿言ってんじゃないよ。アンタはギアルギン達みたいに酷い事しないじゃないか。だから、信用して頼んでるってのに、どうしてそんな顔をするんだよ。
 俺から頼み込んでるってのに嫌がるなんて、ブラックらしくないぞ。

 こうなったら押せ押せだ。俺だって、自分の状態が把握できないのは嫌だ。
 もし本当の事だとしたら、自覚してちゃんと己の身を守らねばならない。ブラック達に迷惑を掛けない為にも、検証する事が必要なんだ。

 ここで断られては困ると思い、少々恥ずかしかったが、ブラックを信頼している事を示しつつ俺は必死に頼み込んだ。

「頼むよブラック……。今ここで確かめられるのはアンタしか居ないし、なにより、俺が今のところ安心して任せられるのはアンタしかいないんだ」

 その言葉に、ブラックの耳がピクリと動く。

「ぼ、ぼくしか、任せられない?」
「そう。その……まあ……あんたらにはもう色々やられまくってるし、今更だし……他の奴に自分を好き勝手にされるのは嫌だけど、お前ならって……」
「ツカサ君……」

 ちょっと。ちょっともう、顔ぱぁって輝かせるのやめて。
 そう言う事されると俺が恥ずかしくなるからやめて!

「だっ、だから……その……さっさとやってくれ! 変な事しなかったら、お前には何されてももう今更だし大丈夫だから!!」

 その、言葉に――――ブラックが息を吸って、目を見開く。

 …………なんだか自分でも恐ろしい事を言ってしまったような気がしたが……今更言葉を取り消す事も出来ず、俺は頭を抱えるのを必死にこらえながら、ゲスい顔になって来た目の前のブラックを見つめる事しか出来なかった。

 ……ああ……嫌な予感しかしない…………。













※まあ、やらしいことしますよね。ゲスなんでね。
 任せてるとは言えツカサの同意が無い中での行動なのでご注意ください。
 ブラック視点でやらしいの書くのも楽しーい
 
しおりを挟む
感想 1,344

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...