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ラゴメラ村、愛しき証と尊き日々編
2.天空の村でこんにちは
しおりを挟む※すんません事情によりちょっと短いです(;´Д`)
ラゴメラ村。そこは、アコール卿国南東部に位置する岩山・ニムシュ山脈の中腹に存在する、昔ながらの暮らしを続ける山間部の村である。
この村は、とある事情から国主卿の組織する【近衛師団】が警護しており、旅の者は確かな身の証が無ければ入る事すら出来ないと言われている。
その理由は、この村が特殊な環境下にあるからだ。
天空の村とも呼ばれるこの山村は、奇妙な事に谷に阻まれた二つの崖の双方に村が作られており、深く広いその谷を結ぶように石橋が互いを結んでいた。
その石橋は恐ろしいほどの長い足で崖の間を跨いでいて、シアンさんが言うには「現在の人族に建造する事は不可能だ」と言われるほどのシロモノなんだとか。
俺達は、今まさにその長くて広くてでかい石橋を馬車で渡っているんだが……マジで橋の下は霧が掛かっていて地面が見えなくて、明らかにこの世界の技術じゃオーバーテクノロジーだって納得しちゃったんだよな……。
曜術で建築物を簡単に作れるっては言うけど、シアンさんの情報によれば、この石橋は「たったの一日で造られた」らしく。そんなの流石にクロウでも無理だ。
だからこそ、この巨大な石橋は“神が齎した物”として大事にされ、近衛師団がわざわざ点検したり壊れないように守ってる……んだとか。
でも、この村の「特殊な環境」っていうのはそれだけじゃない。
ここにはもう一つ驚くべき現象が起こるのだ。
石橋を渡った先にある、シルヴァと呼ばれる地域に。
「あっ……。本当に森なんだ、あっち側って……」
馬車の中から前方を見やると、石橋の先にもう一つのラゴメラ村が見えてくる。
そこには青々とした緑が溢れており、俺達が山を伝って入った側――【テイデ】と呼ばれるラゴメラ村の入口とはまるで違っていた。あっちは野草は有っても木々の類は無かったし……なんていうか、マチュピチュみたいな感じで石造りのがっしりした村って感じだったからな……。
だから、村に入った時は「わー、マジで天空の村だー」とはしゃいでたんだが……山は岩山でロクな植物も無かったのに、どうしてシルヴァ地区だけあんなに木が生えているんだろうか。
不思議だったけど……シアンさんの話を思い出せば、まあこんな光景も有り得なくはないかなと思ってしまう。
だって、その「驚くべき現象」ってのは……
「ねーねーツカサ君、到着したら部屋割り決めようね。僕はもちろんツカサ君と一緒の部屋だよっ。恋人なんだから、これからは僕がたっぷりツカサ君を癒し……」
「…………」
「いや、ならばオレが熊の姿でツカサを慰めるぞ。むさくるしい髭を押し付けられるより、オレの素晴らしい毛にもふもふされる方がツカサも喜ぶに違いない」
「ハァ? ふざけんなよ熊皮剥がしてなめすぞ駄熊。ツカサ君は僕のヒゲも気に入ってるんだよ! 二番目の癖にでしゃばってくんな!」
「癒しを与えるのに順番など関係ない。より癒される方が選ばれるのだ」
……ああもう……なんなんだこいつらは……。
馬車に乗ってからずっとこんな調子なんだけど、俺よりテンション高くない?
何でこんなにずっとはしゃいでるんだろう。……あっ、まさか、俺がネガティブな事を考えないように、敢えてこんな事をしてるんじゃ……!
……いや、ないな。それは無い。
だって、俺のテンションを下げない為だったら、太腿を揉んだり舐めたりしなくて良いんだもん。抱き締めたりしてくれりゃそれだけで……じゃなくて!
とにかく、あんなセクハラしなくても良かったはず!
だからアレだ、こいつら今までの欲求不満を発散したくて、不必要にテンションが上がってるだけなんだ。そうに違いない。
それ以外でテンション高かったら怖いから逆にもうそれでいいわ。
はあ……シアンさんが国主卿にお願いして、俺達が滞在する家を用意してくれてると言う話だけど……狭い家じゃないと良いな……。
狭けりゃ狭いほどコイツら密着して来るから、トランクルの貸家ほどとは言わないから、せめて三部屋くらいはあると助かるんだが。
そんな事を思いながら、馬車で石橋を渡り切って、石積みの家が並ぶ道を暫く森の方へと歩いて行くと……ちょうど、森に入るかどうかという入口の所に、兵士が警護している一軒屋が見えてきた。
森の入口にとても近いという事で、庭にも瑞々しい木が生えており、敷地は草花に満たされている。いや、ホントに岩山の崖の上の村とは思えない光景だわ。
トランクルの家が北欧風って感じなら、こっちの石造りの家はイタリアやフランスの古い歴史を持つ村の家屋ってイメージかな。
なんかワインとか作ってそうなお洒落感がある。
うーむ、植物が生えてるだけでずいぶん違うんだな……。
御者さんに促されて馬車から降りると、すぐさま家の前に控えていた兵士が俺達に近寄ってきて独特なポーズで頭を下げて来た。
「ようこそ、ラゴメラ村に。私はツカサ様と御夫君様お二人を警護させて頂きます【近衛師団】の一人、ナサリオと申します。殿下をお救い下さった方々を警護するという誉れを賜り、ここに参上いたしました。どうか、この場に置いて頂けると幸いにございます」
兜でしっかりと顔を隠した甲冑兵士さんは、そう言いながら俺達に跪いてくる。
初対面でそんな事をされては流石に困ってしまい、俺は慌てて首を振った。
「あっ、ちょっ、や、やめてください、俺達そんな偉い奴じゃないし……!」
「何をおっしゃいます! ツカサ様とそこにおられる御夫君のブラック様は、かつてこのアコール卿国を蝕んでいた恐ろしい村の怪物を討伐し、国をお救い下さったではありませんか! 殿下はそのお礼を出来なかった事を酷く悔やんでおられて……ですから、今回ツカサ様方をお助けする機会に恵まれた事に我々は……」
「えっと、あの、ええと……」
待って待って、なんか話が色々入って来ててわかんない。
って言うかまずゴフクンてなに。ブラックがゴフクンてどういう事?
駄目だ、このまま喋らせてたら丸め込まれそうな気がする。
俺は深呼吸をして気持ちを整えると、兵士のナサリオさんに問いかけた。
「あっ、あの! あの……ゴフクンて……」
そう、まずはその単語。意味が解らないけど何か嫌な予感がするその単語だよ。
一体どういう意味なんだと眉根を顰めて問うと、相手は何だか不思議そうな声を出して、兜を少し傾げた。
「御夫君は、御夫君ですが……あっ、も、申し訳ありません! ツカサ様のお国では別の尊称だったのですね! で、でしたら……旦那様、とお呼びした方が適当だったでしょうか……? 本当に申し訳ありません!」
そう言いながら、跪いたままで勢いよく頭を下げるナサリオさん。
うん、あの、落ち着いて。違う。違うから。コイツらダンナじゃないから。
つーかその言い方だと俺が「妻」と言う事になりませんか、冗談じゃない本当もうやめてくれませんかねそういうのおおおお!!
「あの! 俺達そう言うんじゃなくて普通に仲間なんですけど!!」
「えっ!? す、水麗候様はお三方はご夫婦なのだと仰ったのですが!?」
ですがじゃないですよ俺が驚きだよ。
つーかシアンさん! 何言ってくれちゃってんですか!!
ああでも今はシアンさんここには居ないしぃいい……。
「まあまあツカサ君。細かい事は良いから、早く家に入ろうよ。色々と話す事も有るだろう? ねっ」
頭を抱える俺に、ブラックは上機嫌で近付いて来た。
旦那と言われた事が嬉しかったのか、俺の肩を抱いてニコニコ笑ってやがる。
クロウも大いに満足しているのか、むふーと鼻息を漏らしていて。
…………あの、あのさあ……。
「さ、どうぞお入りください。外は私がしっかり警護しておりますので」
ナサリオさん自体はどうやら実直で誠実で信用出来る人のようだが……彼らに伝わっている情報がもう信用出来ない。
これはブラック達と話し合った後に、兵士達からもう話を聞かないとな……。
もちろん、誤解を解くためにだ!!
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