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首都ディーロスフィア、黒曜の虜囚編
がんばるためのなにか2
しおりを挟む※い、イブなのに遅れてしまった…すみません……_| ̄|○
ラトテップさんが言うには、この倉庫は部門別に物が整理されているらしく、その在庫数などもきっちり把握されているらしい。
そんな事を言われるとますます大型店舗染みてるなと思ってしまうが、まあ、アレだ。普通は倉庫ってそんな物なんだろうな。この世界の大ざっぱな倉庫ばっかり見て来たからそう思っちゃうんだ多分。
普通の村とかじゃ、買ってきた分をそのまま放り込むだけだからな……そもそも、一般人ならまとまった量の物品を買うってのがまず滅多にない事だし……。
うーむ、逆に言えば、これほど大量に保管するから管理が必要なのかな?
何がどこにあって何個あるのかが分からなきゃ、「現在できる事」の把握すら難しそうだもんなあ。そういやゲームでも在庫管理とか小まめにやったっけ。
そう言う部分はやっぱし現実と一緒なんだなあと思いつつ、俺はラトテップさんに付かず離れず倉庫の中を見渡しながら歩いた。
「…………凄く広いっすね」
「ええ……私もここに入った時は驚きました。プロピレア神殿の貯蔵庫よりも広く、保管されている物資も国庫のそれ以上……ここが国の地下にある倉庫とはとても信じられませんよ。国民のための蓄え以上の物がここにあるんですからね」
「…………」
ラトテップさんがここまで棘のある言い方をするって事は、かなり腹に据えかねているんだろうな……まあ、そりゃそうか。平民の人達は自由も無くマズいメシばかり食べているのに、そんな彼らを労う事も無く、最高権力の野心家たちはこの工場に全ての財を注ぎ込んでるんだもんな。
この国の為に働いていたスパイのラトテップさんとしては、国の為にならない事に血税が湯水のように使われているのが我慢できないのだろう。
俺には何とも言えないけど、でも……怒るって事は、ラトテップさんがこの国の人であるって証拠なんだろうな。
「ふむ……。ここらへんは食料や備品……ですかね。鉱石などはおいそれと持ち出せないように、扉から最も遠い場所に有るようです」
しばらく歩いていると、穀物が詰まった大きな麻袋や木箱に入った果物が、棚にぎっしりと詰まったエリアに入った。なるほど、ここは食品があるのな。
良く見たら木箱にはリンゴイモがぎっしり詰まっている。
……うーん、やっぱりここだけ見たら大型スーパーマーケットなんだけどなあ。
「値札……はやっぱないか」
「ツカサさん、どうしました?」
「いや、何でもないです。あはは……」
しかし、ここに監視カメラとか集音マイクとかが無くて本当に良かった。
俺の世界だったら、こんなに堂々と歩いてちゃ速攻で捕まっちゃうもんな。あと、近未来系のゲームとかだったら今の行動は完全にアウトだ。
ダンジョンとかでも目玉のモンスターが見張ってたりしてな。
その事を考えると、こちらは随分とイージーモードだわ。
……まあ、このくらいハンデがなきゃもう俺今日さめざめと泣いてたがな。今日はもう色々とありすぎて、これ以上神経をすり減らしたくない。
どうか面倒事が起きませんようにと願いつつ、ラトテップさんと共に奥へ進むと……換気ダクトが届いていないだろう、倉庫の奥のエリアが見えてきた。
もしやあの場所が、ラトテップさんが言っていた鉱石などが保管されているエリアなのだろうか。そう思っていると。
「――――?」
なんだか、背筋がぞくりとした。このエリアに近付いた途端に……。
だけど何故そうなるのかが解らなくて、疑問に思いながらも俺はラトテップさんと一緒に鉱石の保管エリアへと近付いた。
「はぁ……すごい……」
思わず、声が出る。
それもそのはず、俺達が見上げた棚には――この薄暗い中でも鈍く光るほどの鉱石が、いくつも積み上げられていたのだから。
「これは参りましたね……。アダマン鋼、ミスリル、ダマスカスに竜鱗……すべて、市場から消えて久しい鉱物ばかりです。それを、ここまで……」
アダマン鋼にミスリル……って、そういえば、鍛冶師の赤髪美女グローゼルさんが「手に入らなくなった」みたいな事を言ってたよな。
じゃあ、やっぱり鉱石を手当たり次第に買い占めてたのはこいつらだったのか。
「ラトテップさん、これらを使った様子ってあります?」
「いや……あの【機械】の部品を作る場所に行きましたが、内部に使用するのだろう部品は、全てが鉄製でした。まあ、中には強化鉄もあるのでしょうが、それでも、このような高価な鉱石を使っている気配はありませんでしたね……」
「何ででしょう?」
「アダマン鋼やミスリル、そしてハサクなどの希少で物凄い鉱石は、鍛冶師の中でも金属を扱う事に長けたごく一部の金の曜術師しか加工できません。少し言い方は悪いですが、この国は金の曜術師が世界で一番多い国ですが、その多くは三級に達すれば良いという程度のモノ達です。それ以上の名の知れた曜術師は大体がシディ様の派閥ですので、彼等には取り込めなかったのでしょう」
と言う事は、そのせいで計画が頓挫してるのか? だからマグナを?
いやいやでもそれだと最初からマグナを取り込むべきだよな。鉱石だって死蔵しているだけじゃ倉庫を圧迫するだけだし……。
しかし、使ってないとは勿体ないなと鉱石の入った木箱をみやると、そこには何か日付が刻印されているのが見えた。
「ラトテップさん、ここに日付が……」
「本当ですね。運んできた日でしょうか? とすると……貴重な鉱石たちは、ここに搬入されて来た時からもう随分使われずに保管されているみたいです」
「なんで使わずに放置してるんでしょうか……」
機械の部品が鉄製で、部品だけはちゃんと作っているなら、この貴重な鉱石の山は必要なくないか。なのに、どうしてこんなに積んでるんだよ。
意味が解らなくて眉を顰めた俺を見て、ラトテップさんは少し考えると……妙な事をぼそりと呟いた。
「もしかしたら……戦争の為、ですかね」
「え……?」
「希少な鉱石は、採れる量に限りがある故に希少です。しかし、その分かなり強力な武器を生み出せる。だから……他国の兵力を削ぎ、且つ、有事の際に自分達が武器を量産できるように、ここに保管しているのかも知れません」
「なるほど……」
だとすると、市場から鉱石が消えていたのも納得がいくな。
でもそうなると……本当にこの国は人族の大陸の統一を画策してるって事なんだよな……。なんか、今更だけど怖くなってきた。
これだけ資材を集めて、他の国を壊す事が出来るくらいの【機械】の設計図を持っていて、今まさにそれを実行しようとしているなんて……。
「……しかし……商会の名前がどこにもありませんね」
「あ……。そう言えば、食料品とかの木箱にも日付の刻印以外はありませんでしたね。資材の所も別に変わった所はなかったし……」
どこにも“謎の商会”に通ずる手がかりはない。
しかし長居をしているとブラック達の所へ行く時間が無くなってしまうので、今夜は一旦倉庫から離れる事にした。
結局何も見つけられなかったなあと思いつつ、来た道を戻る。
食料品に関しても、別におかしなところは無かったしなぁ……。
「うーん……」
なんだか悔しいなぁ。何か一つくらい収穫が有れば良かったんだけど。
でもなあ、食料品だって俺の知識じゃ何もおかしくないようにしか見えないし、目に見える範囲では普通の食料だしなあ。
リンゴイモに小麦に砂糖、保存用なのかオーデルの石芋ことバターテもある。日持ちがしないライクネスのロコン(とうもろこし的な奴)とか、ハーモニックではよく食べるトマトもない。保存性を最優先にしてるっぽいな。
ベランデルンからは小麦を買い入れてるんだろうけど……大量ってワケでもない。やっぱイモが主食だからかなあ。でも、ロコンならば乾燥させて輸送したりも出来るだろうに変なの。とうもろこし嫌いなのかな。
イモのほうが有用だと判断したからなんだろうか。
そういや葉物類もみかけない。荒野の国だからかな。
不思議に思いつつも、俺達は再び換気ダクトに戻ってしっかりと蓋を閉め、今度はブラック達の元へと向かった。
わりと時間が稼げたから、もう心も落ち着いたし、ブラック達に心配されずにすむだろう。ちゃんと風呂にも入ったから、クロウも変だなとは思わないよな。
とにかく、二人が助かるまでは余計な心配をさせたくない。
なんとか脱出するためのアレを完成させて、早く二人を助けねば。
そんな事を思っていると、前を進んでいたラトテップさんが不意に肩を落とした。
「にしても……今日は何も収穫が得られませんでしたね……」
すこし残念そうに言いながら進むラトテップさんに、俺はそんな事は無いと言う。
「いつも収穫があったら、それこそ奇跡ですよ。無い日があるのが普通ですって! それに、ラトテップさんは俺達のために、いつも情報をたくさん持って来てくれてるじゃないですか。今までの事だけでも、充分に俺達の助けになってますよ。だから、そんなに落ち込まないで下さい」
というか、ラトテップさんが助けてくれなきゃ俺は今頃飼い殺しでとんでもない目に遭ってた可能性があるんだ。何も知らないまま、殺されてたかも知れない。
それに……ラトテップさんは、俺とブラック達を会わせてくれた。
……それだけでも、もう御の字だよ。
「ツカサさん……ありがとうございます」
「はは、それは俺の台詞ですよ。ラトテップさん、ありがとうございます」
そう言うと、ラトテップさんは何だか照れくさそうな笑い声を零した。
「私こそ……本当に、ありがとうございます……」
なんだか、その声は泣いているようにも思えて……俺は何も言えなかった。
――――しばらく無言になってしまったが、しかし歩き続ければ目的地には辿り着くもので、俺達はつつがなく牢屋に到着した。
二回目の荷物状態での着地に、さっそくブラックが声をかけて来る。
「わーい! ツカサ君早く早く~」
檻から腕を伸ばしてばたばたと動かす様は、まったくもって緊張感が無い。
しかし、その気楽さがなんだか今はホッとするようで、俺は仕方ないなあと思いつつ、ブラックの言う通りに近付いてやった。
……相変わらず目隠しされて首輪がついていて、赤い髭がもうもうと口を覆っている。顔が良いせいでそんな格好でも様になっているが、格好良さなんて欠片も無い笑顔を浮かべているからちっともしまらない。
でも、ブラックが元気だとそれだけで救われるような気がして……。
「あれ、どしたのツカサ君。なんか元気ないけど……」
「え? そ、そう? 結構歩いたからかな……」
ちょっとじんわり来てしまって、語気が弱くなっちゃったかな。
慌てて訂正するが、ブラックはすぐに眉根を寄せた。
「……ツカサ君、嘘ついてない? 僕、目が見えなくても解るんだからね」
「う……」
言葉に詰まる俺に、ブラックはゆっくりと手を伸ばして頬に触れて来る。
迷いのないその動きはまるで目が見えているようで、思わず声が詰まる。
だけど、ブラックはそんな俺をなじる事も無く、優しく頬を撫でて微笑んだ。
「ツカサ君、僕の前では我慢しなくていいんだよ……? 僕、もう絶対にツカサ君に怒ったりなんかしないから。……だって、僕はツカサ君の恋人だもん。ツカサ君が悪くない事なんて、すぐに解るよ。だから……ね……?」
そう言いながら、ブラックは俺の唇を指でなぞる。
「っ、ん……」
がっしりとしていて皮が厚い、いつも触れて来る指。
その指が触れて来るだけで体が反応してしまう。別の奴に同じような事をされても気持ち悪いだけだったのに……今は、その感触がもどかしかった。
「誰かに何かされたの? 誰かが、ツカサ君を悲しませたの? ねえ、言ってくれていいんだよ。大丈夫、ツカサ君が悲しむ事なんてもうさせないから。ツカサ君が何かされたら、こんな枷も檻もすぐ壊して助けてあげるから……」
何をされたか、までは問わない。
だけどブラックの言葉は、明らかに何かを察しているようだった。
……なぜ気取られたのか解らない。いや、もしかしたら、ブラックも俺がされた事を明確には理解していないのかも。でも、だからと言って嘘は言えなかった。
嘘を言っても、きっとブラックは気付くだろう。
むしろ嘘を吐いた事で俺が本当は何を隠したかったのか理解するはずだ。
そうして、その後何が起こるのか。
「ねえ、ツカサ君。恋人の僕に話してご覧?」
……間違いなく、ブラックは暴れるだろう。
クロウが俺で素股をしようとするだけでも「半殺しにする」と言い、実際何発も殴るような性格だ。いくら前より性格が穏やかになったと言っても……いや……逆に、俺と恋人になったと確信している今の方が……酷くなっているのかもしれない。
ブラックの優しいようで恐ろしい声音が、それを物語っていた。
…………俺が正直に話したら……どうなるか、正直考えたくない。
ブラックとクロウの事は助けたいけど、嘘を吐くのも心苦しいけど、でも……俺は、こいつが人を殺してしまうような所なんて、見たくなかった。
「……大丈夫。本当に、ちょっと疲れただけだから」
「ツカサ君……」
「…………ブラック……」
自分の唇を撫でる手を掴んで、ゆっくりと下へ降ろす。
そして、その手を……ぎこちなく、自分の体に絡めた。
「っ……! つ、ツカサ君……?」
「……こうしてくれたら、元気でるから……」
だから、今はただこうして居て欲しい。
そう言う事も出来ず言いよどむ俺に、ブラックは何か言いたげだったが――優しく微笑んで、俺を檻越しに抱き締めてくれた。
「……元気、出る?」
「ん…………」
檻越しでも、触れて抱き締めて貰うだけで、どうしようもなく心が落ち着いて。
ブラックがまだこうして抱き締めてくれるなら、俺は頑張れる。
だから、早く……ブラック達の為にも、どうにかしないと。
二人を救えるのは、俺とラトテップさんだけなんだから。
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