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遺跡村ティーヴァ、白鏐の賢者と炎禍の業編
9.なにかにつけて事が進む1
しおりを挟む※ちょっと短いです(´・ω・`)
その後、マグナとクロウがいる部屋に戻った俺とブラックは、改めて頼みを聞く事を了承すると、遺跡の事について話を聞いた。
マグナが言うには遺跡の名前は解らないとの事だったが、師匠であるシディさんに聞いた話によると、件の“白金の書”は発掘された場所だけは、はっきり判っているという。しかし、俺達はその名前を聞いて二度驚く事となった。
なんと、白金の書が見つかったのは、プレイン共和国南東に存在するという廃墟になった小さな島で、その島の名前は――――
【ピルグリム】という名前だった。
…………ピルグリム。
なるべく思い出さないようにしていた、行く気すら失せていた、島。
謎の存在・ダークマターが「俺を元の世界に帰す為に」待ち構えている、あの謎の遺跡だ。忘れようとしても、忘れられるはずもない。俺にとっては、恐怖の対象とも成り得る島だった。だけどまさか、ここでその名前が出て来るなんて。
思わず動揺してしまった俺だったが、よくよく話を聞いてみると、【ピルグリム】で見つかった“白金の書”は何故か瓦礫の山に埋まっており、捨てられたかのように床に放置されていたらしい。
そのため、遺跡にはそれ以上の情報は無かったらしいが……シディさんが秘密裏に調べて入手した情報では、その【ピルグリム】に渡る為の港が有った遺跡が発掘されており、古い文献によるとその近辺には「情報を持つ都市」が栄えていたようだ。
白金の書もプレインで発掘される遺跡特有の言語で書かれているので、そこならば情報があるのではと言う事だった。
東南……と言えば、先程確認した学問都市【ミレット】が思い浮かぶ。
マグナにあの案内板に表示されていた事を話すと、相手はかなりびっくりしていたものの、自分達が特定した「情報を持つ遺跡」は、そのミレット遺跡である可能性が高いだろうと俺達の予想を肯定してくれた。
しかし、名前が分かったとはいえその【ミレット】遺跡に入り情報を探すには、少々困った事があるようで。
まあ予想は出来た事だが、そんな重要なモンが発掘された遺跡の周辺なら……当然の事ながら警備は厳戒態勢なわけだよな。マグナも情報を入手して欲しいとは言ったものの、これには頭を悩ませているようで、どう侵入すべきか案が思いついていない状態だった。
一応、俺達は顔バレなどはしていないが、しかしだからと言って遺跡においそれと入る訳にはいかない。色情教のニンジャ信徒ズの力を借りたとしても、兵士がワンサカいる所じゃあ簡単には入れないだろう。
その事については、マグナも考えると言ってくれたが――今はどうするかも水掛け論だな。とにかくシディさんに改めて使いを送るというので、俺達は彼女からの返信が届くまでこの村に滞在する事にした。
この状態じゃ色々と心配だし、何よりマグナを一人にしておけない。
守られてはいるけど、今はどこから魔の手が伸びて来るか分からないからな。
……でも、ちょっとだけホッとしてしまった。
いつか行かなきゃいけない場所である【ピルグリム】は、今の俺達には入れない。
本当は悔やむべきなんだろうけど……俺はまだ、帰ろうと思えない。帰れる可能性があるからこそ、余計に二の足を踏んでしまっていた。
…………こんなこと絶対言えないけど……離れるの……嫌だし……。
そ、それに、そもそも本当に帰れるかどうかも分からないのに、簡単に行く訳にはいかないよな。何かあのダークマター野郎、変な力を持ってるみたいだったし、あの場所ですぐ“帰る装置”が有るらしい【テウルギア】と言う遺跡に、暗黒パワーで強制ワープとかさせられたりしそうだし。
とにかく、今はマグナの事も有るし依頼もあるから帰る訳にはいかない。
なんか色々理由を付けて帰省しない人みたいな感じになって来てるが、もういい、今はこの話題は忘れよう。考えてたらまた鬱々しちまうし。
――まあ、そんな訳で……俺達は酒場の親父さんにシディさん宛ての手紙を頼み、地下で過ごしたり地上に出て風呂やら飯やらと色々して過ごす事になったのだが……。
「…………ヒマだ」
マグナの背中を見ながら呟く俺に、ブラックが頷く。
「まあ地下に戻っちゃったら何もする事ないよねえ。探索もすぐ終わっちゃったし」
「喰う寝る遊ぶは良い事なのだがな」
そうだねクロウ。俺もそう言うの大好きだよ……出来る限りそうしたい……。
ああ、その三つの内の「遊ぶ」がないとこんなに退屈だとは思っても見なかった。
ブラックの言う通り、地下に居ては何をする事も出来ないし、俺達はただマグナの曜具研究をじーっと見ていたり寝転んだりしているしかない。飯を作ろうにもこの遺跡では熱気がこもるし、ここは空気もあまりうまく循環していないので、結局俺達は手持無沙汰でゴロゴロしているしかなかった。
本だって読み続けてたら飽きるし、ほんとにもーどうすりゃいいんだか。
寝袋の上でぐだつく俺達に、マグナが不意に振り返って首を傾げた。
「暇ならお前達も何か作ったらどうだ。楽しいぞ?」
「いや……俺は金の曜気使えないんで……」
「右に同じ」
クロウもびしっと手を上げるが、ブラックはシカトを決め込む気なのか答えない。
本当に他人には辛辣だなあと思うが、まあブラックの場合金の曜術も使えるから、マグナに知られたらグイグイ来られそうで嫌ってのもあるんだろう。
普段は銀髪赤眼のクールイケメンなマグナだけど、曜具のことになると強烈なメカオタクみたいになっちゃうからなあ……。
でも、何か作ったらってのはそうだな。
そう言えば俺は、冷蔵冷凍庫として大活躍の【リオート・リング】の中に、モンスター達から剥ぎ取った素材をしこたま溜め込んでいる。なので、せっかく大量に素材があるんだしと思い、何か作ろうと思ってたんだっけ。
手紙が来るまでまだ一日二日かかるらしいし、暇なら生産もアリだな。
ブラックやクロウと一緒にだらだら寝袋の上に座ったまま、俺はお久しぶりの“携帯百科事典”や、妖精に貰った調合の本をぺらぺらと捲って調べてみる。
事典はともかく、妖精に貰った本にはあまり深入りしたくないヤバげなお薬ばかり掲載されていたので流し読みだったが、あるページに目が留まった。
「ふむ?」
古びた紙を目的のページまで戻して、改めてその薬の名前を確認する。
【鎮静丸】
効果:激昂状態、興奮状態にある対象の鎮静化、恐慌状態の緩和抑制など
材料:ポイズンバットの牙、アマクコの実、カエルバ
賦形剤として小麦粉や蜂蜜など。
ポイズンバットの毒牙を粉になるまで丁寧に擦り潰し、牙一本に対しアマクコの実を十粒、カエルバの大葉を五枚用意しこれもまた細かく砕き水を加えず練る。
牙の粉と他の材料が混ざり水気が出て来たらこれを切って、賦形剤と混ぜつつ下部から熱し練り上げる。この時木の曜気を混ぜることで固形化が進む。
半練り状になった材料を千切り細かく丸め、その後暗所で乾燥。一日程度。
表面が緑と白のまだらになれば完成である。
なお、丸薬とする前でも効果は期待できるが、飲みこむのに非常に難儀する味であるので、出来るだけ丸薬にしておいた方がよい。
「…………鎮静丸か……」
初めて聞く名前が二つあるが、これはこれで作って置いて損は無いかも。
ブラック達に効くかどうかはともかく、モンスターなんかが居たら、これを投げつけて正気に戻す事が出来るかもしれないし。戦わずに済む方法ってのも必要だよな。
よし、だったらまずは材料の事を調べてみよう。
こういう時に便利だよな、携帯百科事典!
早速アマクコとカエルバを調べてみると、その二つは各国で見つけることの出来る野草であり、幸いな事にこれはプレイン共和国に多く生えるとの事だったので、なんとか苦労せずに作れそうだ。
なんたってこのティーヴァには森があるんだからな!
あ、因みに「賦形剤」とは何かと言うと、これは丸薬を纏めるための材料みたいなものだ。木の曜術師じゃなけりゃ纏まらないのかも知れないけど、こういう材料を薬に混ぜて練り上げる事によって、丸薬の形になる……らしい。
以上、ブラックから聞いた情報。やっぱ物知りだねブラック……。
いやーでも、超ラッキーだったよこれ。
フォキス村ならともかく、他の場所だと森に行くにも一苦労な距離だったもんな。丁度この村の周辺に森がわさっと生えてくれていて助かった。
都合が良過ぎな気もしたけど、まあこのくらいのラッキーは欲しいから良し。
このままだらだらしてても暇だし、ちょっと作ってみるか。
そうと決まれば、早速行動だ。まずは材料を集めに外に出ないとな!
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