異世界日帰り漫遊記

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プレイン共和国、絶えた希望の妄執編

25.見えないものに苛まれ

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 裏街道の中継地点に存在する村、それがディルフィ村だ。

 この村は、かつて第三遺跡と言う物があった場所の上に存在しており、国が造った人工の村とも言える。そのため、他の村とは少し様子が違っていた。
 どんな風に違うかって言うと……建物が、物凄くしっかりとしているのだ。

 普通、村と言うと石造りのかやぶき屋根的な物や、煉瓦積みだがワンルームの質素な家、それにログハウスや木の板で作られた掘立ほったて小屋などが多い。
 平たく言うと、強度はともかくすぐ作れてすぐ直せてすぐ住める……と言うようなシンプルイズベストな家が多いのだ。

 しかし、このディルフィ村の家はそんな普通の村落とはかなり違っていた。

 まず、村長の館だけではなく、村の家全てが二階建てであり、しかも村には珍しく雑貨屋以外にも食料品店などが存在していた。

 ――通常、村に住む人は自給自足だ。食べ物は自分で育て、消費する。
 なので、村に一軒だけ雑貨屋があって、そこに自分では補えない食料が並んでいる事はあっても、様々な食料だけを取り扱う店は無いのである。そもそも、貨幣が流通してない村も有るみたいだし……まあ、村により色々違いはあるけど、しかしそんな店が有る村は珍しいってのは間違いない。

 あ、ちなみに、滅多に旅人が来ない村の宿屋とかは、基本的に一般家庭や村長の家の空き部屋を一日貸して貰うみたいなもんで、厳密に言うと宿ではない。
 店が無い所だと、宿屋も無いってのが普通である。
 まあでも、俺達は街道沿いの村や、旅人がよく立ち寄る村に泊まる事が多いから、そういう場面には滅多に当たらないんだけどね。

 ……なので、そんな経験から言うと、裏街道の村は街道の傍にある所が多いためか、雑貨店や宿屋が普通にある所が多いって認識だったんだがなあ。

 このあたりは荒野で植物が中々育たないし、家畜も育てにくいから、そう言う店があるのかな。それにしてはかなり裕福な村だが。
 だって、店まで二階建だしなあ……。

 敷地面積の違いは有れど、基本二階建とは随分羽振りのいい村だ。
 それに……村の建物は、全て木造だったし。

 こんな荒野に真新しい木造建築とは……何と言うか、こう……解せない。
 多分木材は他の所から持って来たんだろうけど、そんな事を出来る時点でもう普通の村とは違うんだよな。

 人工の村というのは、ここまで「らしくなさ」を感じさせるのか。それを考えると妙な違和感を覚えたが……村自体にはそう変な所もなかった。
 一応、ブラック達と一通り村を見て見たけど、村の雰囲気が周囲の荒野とまるで合わないって事以外は普通だ。実に普通の村だったのだ。

 ここに昔遺跡があったなんて、言われなきゃ解んないよレベルで何もない。
 遺跡の「い」の字すら欠片も見つからないくらい、もうなんにも。

 ……結局、何も見つけられないまま、俺達は宿に引っ込む事になってしまった。

「ふぅ……。それらしい手がかりはどこにも無かったね。……これだと、ティーヴァ村の方も空振りに終わりそうだ」

 一息ついたものの、それでもブラックの声は重い。
 俺達は、溜息を吐いてそれぞれに肩を落とした。

「考えてみりゃ更地になって何百年も経過してるんだもんな……そりゃもう残ってた残骸も風化するだろうし、忘れられたっておかしくないか……」
「村の奴らも、フォキス村や裏街道の他の村と比べて随分と小奇麗だ。街に住む人族のようだと少し驚いたぞ」

 匂いも土臭さは無いな、と眉根を寄せて不思議そうな顔をするクロウに、俺は益々腕を組んで考え込んでしまう。

「うーん、確かになあ……畑も無かったし、家畜も見当たらなかった……。なのに店が有ってみんなのほほんと暮らしてるってのは……村人っぽくないかも」

 土臭さ……ようするに、土いじりをしてるか否かって事は、村人と街人を分ける際にはわりと役に立つ。街の人は滅多に土いじりをしないが、村人はさっきも言った通り自給自足で農業を行う為、どうしても大地のにおいを纏ってしまうのだ。

 そしてそれは、どんなに体や服を洗おうが、クロウのような嗅覚が鋭い獣人族には嗅ぎ取られてしまう。しかも、クロウは土の曜術師だ。土に関する事を間違うはずがないのである。……なので、クロウがそう言うなら、街の人と同じくらいここの村の人々は自給自足しなくても良い優雅な暮らしをしてるって事だけど……やっぱ変だよな。第一次産業的な物が見当たらないのに優雅って……どういう事だ?

「この村って、遊んで暮せてお金が手に入るだけの産業が有るのかな?」
「さてねえ……。明らかに作り物っぽい村だから、国が何らかの支援をしてるのかも知れないし……何にせよ、長く留まらない方がいいかも」
「そうだな……今の俺達はお上に関わるなって言われてるんだし」
「今から盗掘するかもしれないんだから、顔を覚えられるのは避けたいな」

 こらクロウッ、そう言う事言っちゃ駄目!
 いや確かに盗掘するみたいな可能性はあるけども!

 で、でも、国には認識されてない遺跡っぽいし、俺達は冒険者だし、国の管理下に置かれている遺跡じゃないなら大丈夫……な、はず……!
 ……本当に大丈夫だよな?
 今更ながらに不安になって来た……。

 いくら国王様の密命とは言え、やっぱり他国のシマを荒らすのは怖い。逮捕された時の事を考えて無意味にドキドキしてしまうが、そんな俺を余所にブラックは大きな欠伸あくびをして、つまらなそうに肩をすくめた。

「ま、何もないって事が解って良かったじゃないか。今のところ危険はなさそうだし、気になるなら明日すぐ出立って事でもいいだろう」
「そ……そうだな……。とりあえず今日はゆっくり寝るか……」
「む、久しぶりのベッドだしな」

 そう、数日ぶりのベッドなんですよ。
 ……と思って、俺は嫌な予感がして少しベッドから距離を置いた。

「…………」

 俺が自意識過剰なだけなら良いんだが、数日ぶりのベッドって事は……ブラック達にとっても、数日ぶりの「地面を気にせずイタズラできる場所」って事だよな。
 つう事は……俺にとっては非常にマズい訳で……。

「折角のベッドだし……ねえ、ツカサ君っ」

 ああもうホラ来たスケベなオッサンの嬉しそうな声ッ!

「だだだダメっ、ダメだぞ!! 俺は夕食が何か宿のおばちゃんに聞いて来なきゃ行けないんだからな、宿賃食事代先払いなんだからな!? 今ここでじゃれあってる訳にはいかないの!!」

 そう、俺は今から、宿の女将であるおばちゃんに今日の夕食が何かを聞いて、先にお金を払って来なきゃ行けないんだからな。
 だから、お前達とセクハラで騒いでる暇はないのだ。
 お金の袋を取ってずりずりとドアの所に移動する俺に、ブラックは詰まらなさそうに目を細めて口を尖らせた。

「ちぇー。じゃあ、早く帰って来てよね」
「付いて来ないのかよ」
「宿には僕達しか男がいないみたいだからねえ。まあ、宿の中ならツカサ君一人でも大丈夫かなって」
「………………」

 そう言う所は心配性な父親に見えない事も無いが、中身がな。
 中身はどす黒い欲望しか詰まって無い変態オヤジだからなこいつ……。
 心配するならマジで普通に心配して欲しいわ、ていうか男に気を付けなさいって俺は箱入り娘かやめろ。俺だってちゃんと危機管理しとるわい。

 でもまあ素直に送り出してくれるならそれも良し!

 引き留められない内にさっさと脱出しようと思い、俺は素早く部屋を出ておばちゃんが居る狭い受付に向かった。

 ディルフィ村の宿は本当に小さく、受付もロビーなんて上等な感じではない。玄関がちょっとだけ広くて、端にイスとテーブルが一組あるだけみたいなもんだったんだが、そう言う所が民宿っぽくて何か俺的にはグッとくる。
 狭いロビーに小さな受付って、古い映画館とかの受付みたいで何かいいよね。そう思うのは、俺が婆ちゃんの田舎に入り浸ってるせいなのかもしれんが。

 そんな事を思いながら受付に辿り着くと、おばちゃんは席を外していた。
 夕食の仕込みに行ったんだろうかと思いながら呼び鈴を鳴らすと、今度はおばちゃんではなくお婆ちゃんが杖を突いて受付に歩いて……ああっ、足元、足元に気を付けてお婆ちゃん!!

「すっ、すみません! 女将さんが居ると思って……お留守だったんですね」

 お婆ちゃんに謝ると、彼女は杖を使って上手に椅子に座ってふふふと笑った。

「謝らなくても大丈夫よ。あの子は夕食の仕込みをしてるだけだから。やっと食材が届いたからね。あの、あれでしょう? 貴方食事代を払いに?」
「そ、そうです。良かった、届いてたんですね。夕食どういう物になります?」
「白パンに赤眼蜥蜴ルビーアイ・リザードのステーキ、リンゴイモの薬草スープになるから……ええと、一人前銅貨八枚ね。80ケルブよ」

 銀貨を交えて三人分のお金を確かに渡したが……赤眼蜥蜴って、もしや。

「あの……トカゲって、洞窟とかに居るアレですよね?」

 そう訊くと、お婆ちゃんは口に手を添えてコロコロと笑った。

「ええそうよ、昨日、食料品店に新鮮なトカゲ肉が入ってねえ。なんでも、行商人の人が近場で採れた物を持って来たとかなんとかで。だけど、あの人達がここに泊まった時には、そんな大荷物じゃ無かったけどねえ……不思議だわねぇ」

 …………それって……もしかしなくても、ラトテップさんだよな……。
 そうか、彼等も俺達と同じ方向へ向かってたのか。

「あの、お婆ちゃん、行商人さんはどこに行くとかって聞いてます?」

 更に問いかけると、お婆ちゃんは少し悩むように空を見ると、うろ覚えだけどと言った様子で答えてくれた。

「確か……アランベール方面へ行くと言っていたわねぇ。ほら、ここら辺は、不毛の地でしょう? だから、行商人の人がありがたくてねえ。お国の恩恵を受けてるこの村でも、やはり支給されない物は手に入りにくいから……」
「そうなんですか……」
「国境近くまで行けば、緑が戻って来るんだけどねえ……だけど、そんな所にまで行くなんて、冒険者や用心棒を雇った商人じゃないとムリだもの。だから、商人さん達には本当に助けられてるわぁ」

 つまり、ここから先は商人にとっても格好の商売ポイントと言う訳か。
 お婆ちゃんに礼を言い、俺はきびすを返して部屋へと歩き出した。

 ふーむ、絶好の商売ポイントな荒地か……。なら、俺も何か売ってみようかな。
 食料品だけでなく、雑貨とかそう言う品物でも良さそうだ。なんなら、フォキス村の遺跡でわんさか入手したモンスターの素材で何か作っても良いかも。
 何がつくれるかはまだ考えてないけど……。

 ……でもまあ、それは他の村で試すしかないか。

 だって、村の人が公然と「国の恩恵を受けている」って言うぐらい、ここはお上の威光が届いてるって事なんだから……長く滞在したり、珍しい物を売ろうとしたら、すぐに目を付けられてしまう。やっぱ早く出立するに一択だな。

「……はっ、そうだ。そういう理由があるなら、ブラック達も手が出せないのでは」

 これなら、あいつらも俺にセクハラする暇がないと判断するんじゃないか!?
 ヨシッ、これだ、コレで行こう!
 今日はもうセクハラさせないぞー! おーっ!

 ――――とまあ意気込んではみたものの、あのオッサン達はやりたい時にはやっちゃう人でなしだから……成功するかどうかは五分五分なんだけどね。

「はぁ……。まだ解決してない問題が山積みだってのに、セクハラだけは欠かさないんだから……本当あいつらどうかしてるよ……」

 いや、俺に“アレ”を強請ねだらせるために、あえて最近は息つく暇も無く俺にイタズラをしてくるのか……何にせよ、今の俺には悩ましい問題が山積みだ。
 欲求不満の事もそうだけど、マグナの安否や遺跡の事、それにブラウンさんが俺に託したあの謎の言葉の事……色々とあり過ぎて、もう頭がパンクしそうだ。

 せめて、次の街でマグナに会えたら心配事の一つは減るのになあ……。

 そうは思っても、都合よく行かないのが人生ってもんで。

 俺は額を指で押さえながら、とにかくブラック達の性欲を治めるべく、大義名分を引っ提げて部屋へと戻ったのだった。













※次は新しい章です(`・ω・´)
 ちょっとショッキングな展開になる…かも……(自分的にはですが)



●全然冒険者ギルドの依頼で冒険!とかしてないんであまり説明してないんですが、未踏破地域【空白の国】は、どこの国の物でも『冒険者が侵入し内部の財宝や情報を入手して良い』と言う協定が各国で結ばれています。つまり、国が確認できていない遺跡や、兵士達でも最深部にまで辿り着けなかった場所の権利などは、一時的に放棄しているので取り放題なのです。

 ただ、特殊な依頼や、今回のように一国の王からの密命でない場合は、遺跡を発見した場合は入手物の一時提出や報告などを行う必要が有ります。
 (モンスターの素材などは口頭報告のみで済ませる事が多い)
 情報については、絶対に冒険者ギルドの長に全て報告する事、そして財宝などについては、ギルドで直接換金、もしくは財宝自体の所有権に関する交渉などを行い入手することになっています。
 大抵の場合交渉は即日判断されるので実にスピーディー。

 しかし、財宝や情報に関する事は個々のギルドで判断するので、犯罪の温床となりうる危険性もありますが、通常、ギルド長になる物はギルドを統括する支援者たちによって平等に選ばれるので、今のところは不正などは行われてはいないようです。
 ただ、国や支援者達に渡すのは危険だと判断された物は、各ギルド長からの連絡が行き、“ある人”によって、密かに破壊されたり封印されたりしているようです。
 
 
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