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プレイン共和国、絶えた希望の妄執編
21.巨岩内部空間―正体―
しおりを挟む※またもや遅れてすみません…_| ̄|○
◆
扉には鍵だけが掛かっていて、ブラウンさんはそれを簡単に外してくれた。
曰く、拍子抜けするほど簡単だったそうだが……もしかしたらこの遺跡の設計者は、あのループの罠とモンスターラッシュを切り抜けられる人間などいないと、高をくくっていたのかも知れない。まあ、何にせよ俺達にとっては好都合だ。
マップにも記されていなかった階段を発見出来たし、どうやらこの階段は、俺達が入口を探していた幻の第零層に続く道のようだからな。
けれど、第三層にあれだけエグい罠を仕掛けて、第一層にも初見殺しのトラップを張り巡らせていた砦のことだ、油断はできない。
と言う訳で、俺達はすぐに戦闘に移れるように武器を持ったまま、階段を一段一段探りながら慎重に降りて行った。
明かりが有っても薄暗い階段は、ずっと先まで続いているような気がする。
永遠に続くかもしれないと思い始めた時に……ちょうど、階段の先に長方形の形をした光が見えた。おお、あれはもしやゴールか。
しかし油断せず、とりあえず俺はブラック達から離れるように数段後ろへと退いて、二人に先を確認して貰う事にした。
「ツカサ君、十数えて僕達が合図しなかったら、跳びださずに音を良く聞いて、中を確かめる事。そんで、必要なら援護を。いいね?」
「お、おうよ。まかせとけ」
任せとけつっても、要するに守られてるんだけど……まあ、今の俺がブラック達の手を煩わせずに戦闘に参加するにはコレしかない。
プライドは疼くが、俺達が目指すべきは確実な勝利だ。
俺が頷いたのを確認して、ブラックとクロウが光の中へと突入する。
と――――五つも数えない内に、中からブラックの声がした。
「ツカサ君、いいよ。と言うか、早くおいで!」
「ん? んんん?」
「声の様子からすると危険な雰囲気じゃなさそうだな。……行ってみよう」
「で、ですね」
とにかく確認した方が早いだろうと思い、入口を潜ってみると――――。
「う、わ」
そこには……一瞬見ただけでは何の施設なのか判別がつかないほどに、特殊な壁と設備が存在していた。
「これは……?」
ブラウンさんの声につられて、前方の壁の少し上を見やる。
そこには、横たわった長方形の柱……のような物が、互い違いにいくつも突き出ており、何と言うか……ところてんが出て来る途中みたいな感じになっていた。
いや、実際にところてんなんじゃなくて、石の壁なんだけどね。
で、その壁の下には、ブラックの腰に届くほどの高さの装置っぽい物があり、上部には幾つもの線が回路っぽく走っていた。
む……これっていわゆる「古代の機械」ぽいな……。
ってことは、ここは……コントロールルーム?
「ん? なんでここに球体が嵌ってるんだ」
左端から線を辿ってふむふむと見ている俺より先に、装置の中央へと移動していたブラックが、不思議そうに言いながらその石の球体に手を触れた。
「――――っ!?」
ぶおん、と何かが浮上するような音が部屋中に響いたと思った瞬間。
轟音を立てて上部の互い違いの壁が動き、一斉に前へと迫り出すと、一気に奥へと収まった。しかし、それだけに留まらず、俺達が調べていた装置が急に起動するような機械音を立て始め、あの回路のような線に緑色の光が一気に流れ込んで来た。
う、うおお、まさに古代遺跡の謎装置……!!
何が起こるのかとドキドキしながらまっ平らになった壁を見やると――――
「うえぇ!? な、なんだこりゃ?!」
壁にはいつの間にか真っ黒いスクリーンが出現しており、そこには初めて見る記号のような物の羅列がずらっと並んで上部へスクロールしている光景が……ってマジでなんなんだよこれ!
あの、あれか、もしかして古代文字か!
「ブラック、あの、読める……?」
ポカンとスクリーンを見上げているブラックに近付いて問いかけると、相手は壁を見上げたままで軽く頷いた。
「う、うん……。これは……読めるよ」
クロウとブラウンさんが、俺達の方へ近寄ってくる。それを待たずに、ブラックは口を開けて呆けた様子のままで言葉を零した。
「確か、これは…………【希求語】と呼ばれる、とても古い時代の言葉だよ」
そう言った瞬間、ブラウンさんがお化けでも見たかのように大仰に動揺した。
一体、何に驚いたんだろうか。聞くべきかとも思ったが、今その質問をしても話がこじれるだけかもしれないと思い、俺は敢えて見なかった振りをして続けた。
「その言語って、本に乗ってたのか?」
「ああ、ほとんど見つかってない言語だからって、ゴミみたいに放られてた奴だったけどね。でも確か、何かの遺跡でほぼ全文解読できるものが見つかって、ある程度の解析がされてたと思う。僕が知らない用語は発音する事しか出来ないけど、それ以外はほとんど読めると思うよ」
「すごいなブラック」
素直に褒めるクロウに、ブラックは嫌そうな顔をして眉を顰める。
「お前に褒められたって嬉しくない。ツカサ君がいい」
「す、凄いぞブラック! てか、お前の知識ってホント役立つもんばっかだな……」
このオッサンは……と思いながら褒めるが、実際それは本心だった。
だって、俺なんて役に立たないエロ知識ばっかり仕入れてて、見事に真面目な場面じゃ使い物にならないけど、ブラックの知識は違うもんな。
経緯はどうあれ、積み重ねて来たものがここまで助けになってくれるなんて、素直に尊敬するよ。その知識をちゃんと引き出せるブラック自身も凄いしね。
そんな俺の感情を読み取ったのか、ブラックはすぐにニンマリと頬を歪ませる。
一層やる気になったらしく画面上の文字をさっとみて、フムと声を漏らした。
「これはどうやら……前回起動したときの情報かな? この遺跡を造った人達の年の数え方が解らないから、何年前とは断定出来ないけど……年代が四桁になってるから、恐らく百年どころの話じゃないだろうね」
「げっ、そ、そんな昔からこの遺跡ってあるのか……」
「その情報も多分見つかると思うけど……まずは、前回起動の時の情報だね。……ん? 増幅機能と……番兵操作機能の変更? ちょっと待ってね」
ブラックはもう使い方を把握したのか、触れている球体を特定の方向にゴロゴロと動かす。その動きに呼応するかのように、スクリーン一杯に映し出されていた文字は一気に左下へと縮小されて、右から別のスクリーンが黒板を持ち出すように壁一杯に移動してきた。
……なんか、パソコン思い出すなコレ……。
「えーっと……ああ、なるほどね。増幅機能ってのは、この遺跡の“特定の植物を生育する機能”の範囲を指定するもので、番兵機能は……この遺跡の機械で精製されたモンスター達をある程度操る機能を指してるみたいだ」
「お、おい待て。精製って……」
のっぴきならないブラックの発言に、クロウが珍しく慌てたような声を出す。
ブラックも少々驚いているのか、何とも言えない顔で冷や汗を垂らした。
「あー……本当、ヤバい発見だよねぇコレ……。まさか、モンスターを人工的に作り出せる装置が存在してたとか……こんなのが他の奴に発見されたら、間違いなく国家間の戦争の火種になっちゃうぞー……?」
そ……そう、だよね……。
モンスターを人工的に作り出せて、それに操る方法があるって事が解ったら、国としては間違いなく利用しちゃうよね……。
そうなると、人族の大陸で長らく続いている平和が脅かされてしまう。
良い事に使うとしても、それを批判する人は絶対に出て来るんだからな。
「…………壊せ」
「え?」
低く緊張した声に思わず三人で振り向くと、そこには……俺達でも判別できる程に肩を震わせて、拳を握り締めているブラウンさんがいた。
「こんな、こんなもの……新たな火種だ、人類にとっての破滅の鍵だッ!! 頼む、壊させてくれ、こんなものが見つかってはいけない!!」
声を荒げて主張するブラウンさんに、俺は絶句してしまった。
――確かに、この遺跡の装置はあまりにも危険すぎる。
人類の歴史には「まだ持つべきでは無かった」と言われるモノが多々存在するが、それは大抵が誰かを傷つけるような物だった。
なければもっと沢山の人が助かっていただろうと思うような物ばかりだった。
……それが齎した恩恵と言うのも、確かに存在するのだろうが……その功罪を負う使命は、俺達には重すぎる。
「…………そうだね。僕もそれには賛成だよ。幸いなことに、どちらもこの操作盤で破壊出来るように作られてるみたいだから、壊してしまおうか。……この遺跡に遺す物は、フォキス村を以前のような村に保つものだけで良い」
「……そうだな……」
力が有れば、脅かされる恐れは無くなる。
だけど、力を持つからこそ恐れる物は多くなり、心を擦り減らす。悲しい事だが、そう言う事も有るのだ。ならば、俺達は見て見ぬふりをするしかなかった。
誰かが幸福になるとしても、誰かが不幸になるものをばらまいてはいけない。
俺達には、それを受け止める覚悟など無いのだから。
ブラックに操作して貰っている間、ずっと無言のままで文字の羅列が流れて行く壁を見つめていた俺達だったが――その沈黙を破るかのように、ブラックが画面を見つめながらふっと笑った。
「しかし……楽園ってのが、こういう意味だったとはね」
「……?」
どういう事だとブラックを見やると、相手は俺の方を見て苦笑した。
「この遺跡の概要を見つけたんだけど……おかしいったらないよ。だってさ、こんな物騒な機能や罠ばっかり設置しといて『この国をより良き【楽園】にせんがため、我々は信念を持ってこの塔を造る』なーんて書いてあるんだもん。……人を殺して得られる楽園なんて、楽しくもなんともないと思うけどねえ、僕は」
――――勇者も、この機械に触れて、その意味を見て嗤ったのだろうか。
彼もまた俺達と同じ選択をしていたのだと思うと、俺はなんだかホッとしたような、不思議な心地を覚えたのだった。
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