異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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プレイン共和国、絶えた希望の妄執編

14.底知れぬ 1

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※今回あんまり話が進んでないです…(;´Д`)スンマセン…





 
 
 とんでもない事になってしまったが、それでも人と言う物は夜になると眠り、朝になると起きて仕事をやらねばならない。

 自分の嫌な変化に落ちこんでいても、時間が経てば朝がやって来るのだ。それならもう、眠ってしまって気持ちを切り替えた方が良い訳で……。
 スッキリはしたけれどある意味余計にモヤモヤしながら寝床に入った俺だったが、一時間もすれば寝つきの良い俺はすぐに眠りの淵に落ちてしまい、あの本を腹に抱えたまんまでぐーすか寝こけてしまった。

 お蔭で、朝起きた時にブラックが俺のベッドの中にいるのに余計驚いてしまうわ、抱き締められてケツや太腿ふとももをまさぐられるのを二倍嫌がってしまうわで、危うくあの本の事がバレそうになり物凄く焦ってしまった。
 朝からこんなに汗を掻きたくなかったぞ……つーかブラックも朝からおっ勃てて俺にセクハラしてんじゃねーよ! まさぐるな股間を!
 なんでお前はそう朝から元気なんだよ。本当にオッサンなのかお前は。

 マジで勘弁して欲しかったが、しかし悲しい事にこの“朝セクハラ”は俺達にとってはありがちな事なので構ってもいられない。
 今日はモンスターが這い出てくる場所の調査を行うのだ、ブラックのセクハラに一々怒っていても体力を削るだけだし、根に持っていても仕方ないだろう。

 そんな訳で、またもや色んな意味でモヤモヤしてしまいつつも、俺はオッサン達の髪をいて紐で結び直してやり、朝食を摂って準備を整えた。
 今回は目星をつけた所の調査と言う事で、クロウには非常事態に備えて村を守って欲しかったので残って貰い、俺はブラックと共に、ナザルさんの案内のもと、村の向こう側に広がる“北の森”へと三人でアタックする事にした。

 村で唯一の曜術師であるナザルさんを貸して貰う以上、村の警備が手薄にならないようにと思っての決断だったが……クロウは不満げだったな……。
 あとで「はちみつ漬けの美味しい奴」を食べさせてあげるからとなだめたけど、早く帰らないとそれだけじゃ嫌だとダダをこねられそうな気もして来た。

 ……いや、うん、オッサンにダダこねられるって何だよって話だけど、ブラックとクロウは普通のオッサンじゃないので仕方ない。

 ナザルさんの話では「北の森はそこまで広くは無い」との事だったので、日暮れ前までには確実に村に帰れるだろうという話だったが、気は抜けないな。
 なんたって森にはモンスターがいるし、なにより不意打ちなんて事もあり得る。

 ブラックがモンスターにおくれを取るなんて事は無いだろうけど、俺は戦闘のプロって訳じゃないし、セルザさんも平和な村で暮らしてきた戦闘経験の少ない曜術師だ。俺達がブラックの足を引っ張る事も充分に考えられた。
 しかし、俺とてただそれを恐れるだけではない。キチンと対策は考えてある。

 迷惑はかけられないと極力召喚していなかったが、俺には鏖兎おうと族のペコリアという頼もしい助っ人がいるのだ。しかもたくさん。
 ……と言う訳で、今回は三匹のペコリア達に背後を警戒して貰い、俺達は森の中を慎重に進む事にした。

「クゥ~」
「ククゥ~~」
「クゥ~ッ」

 相変わらず綿毛にウサ耳と手足が生えたみたいな可愛い姿のペコリアだが、クゥと何度も鳴かれると小さく拳を握って「くぅ~っ!」とかやっちゃうサッカー実況者を思い出してしまうのでちょっと腹筋が辛い。
 こんな事を思うのは失礼だとは解っているのに! 俺のアホ!

「しかしお前凄いんだなあ、ウサギの守護獣なんてそうそうお目にかかれねえよ」
「え、そうなんですか?」

 森をガサガサ掻き分けながら進んでいると、ナザルさんが不意に話しかけて来る。
 思わず声を出すと、相手は頷いた。

「おうよ。ウサギはえぇか臆病かってぐらい極端だからよ、強えぇのは凶暴過ぎて冒険者でも従えるのに苦労するから人気がねえし、反対に臆病なのは弱いから、守護獣としては人気がねぇんだ」

 そういうもんなのか……と思っていると、ペコリア達は自分達が弱いと言われたのが不服だったのか、セルザさんに対してモフっと体を膨らませて威嚇した。

「くきゃー!」
「きゃふー!」
「くきゃふー!」

 んんんん可愛い!!
 思わず抱きしめたくなってしまったが、ナザルさんは苦笑して頭を掻いた。

「ははは、すまんすまん。お前達が頼りにされてるってのは解ってるよ。俺も頼りにしてっから、しっかりと後ろを見張っててくれよ」
「クゥー?」
「おうおう、解ったから」

 ほんとー? と言わんばかりに体を傾げるペコリア達に、ナザルさんは苦笑したままで肩を竦める。モンスターだからやっぱり少しは怖いんだろうけど、ペコリア達に気軽に話しかけてくれるって事は、モンスター自体への偏見とかはないんだな。

 何百年も外敵に曝されていない村だったから、てっきりモンスターに怯えているのかと思ってたけど、友好的なモンスターだったら平気なんだな。
 ペコリアを出して大丈夫かなとちょっと心配だったが、杞憂きゆうで良かった。
 それにしても……守護獣って結構知名度あるんだな。

 ――守護獣とは、この世界での召喚獣の一般的名称だ。
 彼らは元々野生のモンスターではあるが、戦って倒し「屈服させる」か、もしくはモンスターとの間に「友情や絆を構築できた」場合に、召喚珠しょうかんじゅという物を彼らから与えられて、どこにでもそのモンスターを召喚できるようになる。

 一般的には、ある程度の意思疎通が出来るモンスターや、上下関係などを作るモンスターなどを冒険者が倒して、「召喚珠」を獲得する事で、彼らを自分を守護する獣として使役できるようになるらしい。

 もちろんそれは正々堂々の勝負じゃない時も適応されるし、モンスターの中には納得出来ずに守護獣となった物もいるらしく、かなり扱いが難しい事も有ったりするのだが、服従する獣という存在はやっぱりステイタスらしく、冒険者のみならず貴族や金持ちも守護獣を抱えていて珍しくは無いのだと言う。

 だけど、俺とペコリアみたいに「モンスター自らが召喚珠を人族に渡す」というケースは非常に珍しいらしく、更にはロクショウみたいに「召喚珠もないのに、モンスターの意思で常に一緒にいる」と言うのはレア中のレアケースらしい。

 俺としてはそっちのが漫画とかでよく有る展開なので、全く特別な感じはしないのだが……まあ、この世界は弱肉強食が普通だから、そういうソフトな関係にはあまり思い至らないのかも知れない。

 …………この世界ったら本当に欲望優先だからなあ……。

「ツカサ君、なんで僕の方みるの?」
「何でもない……とにかく早く目星をつけた所にいこうぜ」

 もたもたしてたらモンスター御三家達に強襲されるかもしれないしな。

 と言う訳で、俺達はナザルさんの「そこは穴が有って危険」だとか、「森が開けた所は間違いなく崖だから近付くな」とか「段差が有る所は崖が崩れとるかもしれんから気を付けろ」とか言う恐ろしいガイドを聞きつつ、途中モンスター達をやり過ごして“北の森”の最深部へと近付いて行った。

 ダンジョン御三家のモンスター達は、ブラックが言った通り、派手な動きをしない限りは襲って来ない。俺達からすれば助かるけど……やっぱ野生のモンスターとしてはちょっと変だ。
 だって、今の彼等は習性に反する事をしてるんだもの。
 本当なら、洞窟の外の世界では襲い掛かって来なきゃおかしいんだぜ?

 なのに、彼等は自分の縄張りの中にいるかのように何もしてこない。遺跡や洞窟の中で見られる習性と同じ事を行っている所からして、彼らはここを自分達の縄張りの一部だと認識しているっぽいんだよなあ……。

 ブラックが言うには、外でその習性を見せるのは奇妙らしいのだが、と言う事は彼らはここをダンジョンだと勘違いしているんだろうか。
 いやまあ、村を襲って来ないんだから、ブラックの言っている事は間違いないんだけども、だとしたらどうして彼らは外の世界までダンジョンだと思ってるんだろう。

 目星を付けた場所で何かが判るんといいんだが……と考えていると、密林のように葉が生い茂った先に、少しだけ開けている場所が見えた。

「…………」

 ブラックが俺の肩を掴んで、人差し指を口に当てる。
 静かにしろと言う事だなと頷くと、ブラックはその指で開けている場所をさした。

 三人で息を潜めて待っていると……。
 その開けた場所から、ぴょんとトカゲが飛び出してきたではないか。

 やはり、ブラックが【索敵】で見つけた場所が原因だったんだ。
 思わず興奮しかけてしまったが、立ち上がっても叫んでもいけない。
 とにかく……今確認する事は、あの「開けた場所」がどうなっているかだ。

「…………」

 俺はブラックの手を握って大地の気を送ると、小さく頷く。
 相手も俺のやった事の意味が解ったのか、深く頷いて片手を前方へと向けた。

「なにしてんだ?」
「シッ……静かに」

 不思議そうにブラックを見やるナザルさんを小声で制し、俺は事が終わるまで静観を決め込む。俺のすぐそばで丸まって待機している可愛いペコリア達も、俺達が何をしているのか理解しているのか、口の膨らみをヒクヒクと動かしながら自分達の出番が来るまでじいっと待っていてくれた。

 やがて、ブラックの口が小さく動く。
 その刹那、本当に捉えきれないほどの一瞬――――ブラックの体が金の光に包まれて、その金の光が一体にバッと散って消えた。

 これは……ブラックの【索敵】だ。

 いつみても凄い光景だと思っていると、ブラックが俺に耳打ちをして来た。

「ツカサ君、なんだか変な事になったみたいだ」
「え?」

 どういうことだと顔を歪める俺に、ブラックも何だか「訳が判らない」とでも言いたげな声で、唸りながら俺に囁いた。

「うーん……。なんていうか、この大岩…………普通の大岩じゃないみたいなんだ」








 
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