異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編

44.失われた歴史を語るもの 1

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   ◆
 
 さっきからずっと、長い廊下を歩いている。
 時折左に曲がったり右に曲がったりしたが、あまりにも同じような廊下が続きすぎて、もうどの道を通って来たのかすら忘れてしまった。

 それほど長い距離でブラック達と離れてしまったのだと思うと、不安な気持ちになってしまうが、ここまで付いて来たんだからそんな事を言っても仕方ない。
 相手が何を考えているかは解らないが、とりあえずラスターが一緒にいるんだから、変な話とかではないはずだ。……ただ、ラスター以外に兵士とかが誰も付いて来ていないのが引っ掛かるが……。

 もしかして、俺が弱そうだからラスター一人で十分だと思ってるとか?
 だとしたら滅茶苦茶失礼な王様だな。まあその予測は合ってるけどな!

「ツカサ、そこまで緊張しなくても良い。陛下は、あのクズ中年のようにみっともない事などせん」

 俺が色々考えている事を察したのか、国王の隣を歩いていたラスターがこちらを振り返ってあんまりな励まし方をする。
 それブラックにも国王にも失礼な発言なのでは……と思っていると、ラスターの隣にいた国王がクスクスと笑って立ち止まった。

「お前は相変わらず口が悪いなラスター。まあよい、ツカサも楽にしろ。先程も言ったが、取って食いはしない。お前は余の親友であるラスターの未来の妻だからな。夫はともかく妻の重婚は法律違反だ。取ろうなんて気はさらさらないぞ」
「あ、アハハ……ですよね……」

 今恐ろしい法律を聞いた気がしたが、忘れよう。
 「妻側の重婚禁止」ってことは、夫として登録すれば重婚可能なんだよね……? 普通のハーレム作りたい時はヤッターって思っただろうけど、今の状態の俺には恐ろしい法律にしか思えないのですがそれは。

 色々嫌な事を考えてしまったが、国王はそんな俺など気にせずただ足を進めた。やがて、廊下は次第に薄暗くなり、感覚的に敷地の奥の方に来たのだという事を感じ取る。なんだかえらい遠くまで来てしまったなと思っていると、またも目の前に巨大な扉が現れた。

「これは……石で出来たの扉……?」

 間近で見ても繊細だと思ってしまうほどの模様が刻まれた、白いシンプルな扉。
 まるで、この扉の先は天界に繋がってるんじゃないかと思えるレベルだ。
 ……あれ、そう言えば廊下の雰囲気も明らかに「神殿」って感じの石材オンリーな廊下になってるし、マジでそういう神聖な場所っぽいな……。

 待てよ、そんな場所に“黒曜の使者”の俺が居たらまずいんじゃないのか……?
 そうでなくても黒髪って災禍さいかの象徴らしいし、だったらこの門の先って実は拷問を行う部屋だったり裁判所だったりするんじゃないの!?

「そう怖がるな。それともお前は本当に邪神の申し子か何かなのか?」

 俺のビビりように王様が笑うが、意外な事にラスターが言い返した。

「陛下、お戯れが過ぎます。ツカサは俺の大事な嫁……下々の民をいたずらに怖がらせる事はみっともない、と女王陛下にも御忠告を受けていたはずです」
「ふふっ、お前が他人をそうまでかばうのも珍しくて面白いな。……ああ、解った解った。解ったから怒るな。今、扉を開いて、ツカサにもすぐに理解出来るようにしてやるから」

 ……この王様、ノリが軽いな……。

 よく考えたら、オーデル皇国のヨアニスも皇帝とは思えないくらい気が優しくてお人好しだったし、この世界の王位に就く存在は俺の世界の普通の王様とは違なる性質の人達が多いようだ。

 ……まあ、エルフ神族をまとめる立場っぽいシアンさんも「あらあらウフフ」属性のお婆ちゃんだし、この世界では俺の世界で言う一癖ある人間の方がやりやすいのかも知れないな……。

 そんな事を考えている間に、国王が俺達から離れ、扉に手を当てた。

「――――――」

 何事か、呟いた――――と、同時。

 固く閉ざされていた巨大な石の扉が、轟音を立てて内側へと開いて行く。
 曜術や大地の気の気配はなかったが、しかしだとしたら一体どんな仕掛けが。

「ふふっ、驚いているようだな。まあ入ると良い」
「……ツカサ、大丈夫か。入るぞ」
「ファッ、は、はい!」

 ラスターに肩を叩かれて促されつつ、さっさと中に入ってしまった国王に続く。
 扉をくぐって、中に入ると……俺は、またもや驚いてしまった。

「こ……これは……」

 石柱に囲まれた空間。不可思議な明かりに照らされた窓も無いその空間の中央には、巨大で意味深な「何か」が溝となって刻まれている。
 それは外周を円型として、幾つもの線を張り巡らせ、時にその外周を越えて線を伸ばしており、その、姿は、まるで…………

「魔法陣……?」

 そう。この空間の床には、奇妙な魔方陣がしっかりと刻まれていたのだ。

 ……だけど、この魔方陣は変だ。
 回路図のように線が走っているが、回路たる記号や、軌道がまるで無い。ただの模様のように見える。しかも、魔法陣のように文字や星の形と言った象形文字的な記号がまるで存在せず、ただ小さな円を中心にして、外周の円の内部に五つの巨大な半透明の鉱石が埋め込まれているだけだった。

 赤、青、緑、橙、白――――いや、もう、一つ。

 中央の人一人がやっと立てる程度の円の更に真ん中。その床には金色の鉱石が床に埋め込まれていた。

「…………」

 見た事のない、魔法陣。
 けど、何だろう。何故か、既知感がある。
 どこかで確かに見たような気がするのに、思い出せない。頭が考える事を拒否しているみたいに、記憶に霞がかってうまく思い出せなかった。

 だけど、俺は多分……この魔方陣を、知っている。
 知っているはずなのに……。

「…………ツカサ……」

 ラスターが隣で名前を呼ぶ。反射的に見上げると、何故か相手は辛そうな、悩むような顔をして俺を見つめていた。
 ……どうして。
 そう考えたと同時に、国王が声を張り上げた。

「ツカサ! 真正面を見て見ろ!」
「っ?!」

 真正面?
 魔方陣じゃなくて、真正面を?

 疑問に思うくらいは出来るのに、頭が回らない。
 強い声に逆らえず、俺は魔方陣の向こう側にある壁を見上げ

「…………え……?」

 一瞬、頭が真っ白になった。

 ……壁に、くぼみが有る。その窪みは少し奥行きのある板の間のようで、上には欄間らんまに似た透かし彫りの石が嵌っており、板の間に似た空間を仕切っている。
 そして、その鴨居かもいにはたわんだ荒縄が端から端に渡されており、肝心の板の間には石材を特徴的な形で組み立てた台座があって、その頂点には――――



 額束の部分に円形の鏡を嵌め込んだ、石の鳥居が鎮座していた。



 ――――――鳥、居?

 鳥居、って、なんで。どうして、こんなところに…………

「……この“世界”には、失われた歴史が存在する」

 耳に、国王の言葉が入ってくる。
 一瞬鼓膜が破れたかと思うくらいに何も聞こえなくなっていたのに、何故か彼の言葉だけは、動けない俺の耳にもはっきり聞こえていた。

「第一の開闢かいびゃく、第二の創世、第三の乱世、第四の神代、第五の停滞……そこから先は、解らない。我々の生きる世が第六なのか、それとも第七なのか……神から託されし書を持つ神族ですら、最早この世の【名】を知る事は出来ない。……だが、かつて世界は確かに神を天に頂き、この世を繁栄させてきた」

 第一の開闢。第二の創世…………どこかで、聞いた事がある。
 だけど、どこで聞いたか思い出せない。

「…………人々からも忘れ去られたほどの、遠い昔……第三の乱世と言われていた時代……我々ライクネスの民は、平穏の地を奪う異形達に立ち向かう為に兵を組織した。その軍を統率したのが、このラスター・オレオールが先祖、サウザー・オレオールだ。そしてもう一人……彼の傍に居て、付き従った黒髪の女性がいた」

 国王が、靴音を響かせて魔方陣の中心へと歩いて行く。
 五つの石柱が囲う円の真ん中に立ち、そして……俺を、強い視線で射抜いた。

「この世界を司る神の使者、ハルカ・イナドウラ。
 …………君と同じ、異世界から来た“特異なる能力を持つ者”だ」




 ――……この世界の人間は、最早異世界の事など忘れてしまった。



 ずっと前に聞いた、ブラックの言葉。
 その一文だけが、ホワイトアウトした脳内で繰り返し再生されていた。










 
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