異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編

  すてきな観光地をつくろう!―湖浄化作戦3―

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「一週間ぐらいは楽勝でヌけるオカズをありがとうツカサ君」
「うるさい」
「オレは二週間ぐらいオカズにできる」
「その報告はいらないです」
「なんだ根性が無いなお前ら。実物に頼って妄想で抜けないようじゃ、段々と性欲が枯れて来るぞ? オスたるもの常にメスの妄想でイける勢いでおらんとな」
「アンナさんもやめてくださいぃいいい!!」

 これ声だけだと男だけでクソみたいな猥談わいだんしてるようにしか聞こえねーから!
 ほんとやめて、俺がいる前で俺をオカズにする話をしないで!!

 せっかくさっきまでの恥ずかしい行為を忘れようとしてるのに、どうしてお前らは俺の隣でそんな風に蒸し返すのかなあ!
 なにこれ、羞恥プレイ? 新手の羞恥プレイなの?!

 どうでもいいから本当にもうやめてください。俺が何をしたってんだ。
 ドラゴンの舌にペロペロ舐められてイッちゃっただけじゃ……って、それはそれで俺も変態なような……い、いや、あれは中身がアンナさんだったから、妙に興奮してただけだ、男なんて無理に擦っても勃つもんなんだ。悲しき生き物なんだ。
 だからイッちゃっても仕方ない、仕方なかったんだ。俺は悪くないぃいいい。

「まあまあツカサ君、そんな真っ赤になって可愛く耳をふさいでないでさー。早く【亡者ヶ沼】に行って、用事を済まそうよ! ねっ」
「ううぅうううう……」

 そうだけど。そうだけども、元々の目的はそうなんだけど。
 だから今、アンナさんと一緒に亡者ヶ沼へと向かってるんだけどもさ!
 落ち着いちゃったら俺のこのやり場のない感情はどこにぶつけたら良いんスか。

 って言うか、なんでこのオッサン達はモンスター相手だと「良いぞもっとやれ」的な感じになるんだろうか……。相手が人型だったら滅茶苦茶嫉妬するのに。
 ロクショウ相手ですらリザードマン体型になったら歯軋はぎしりしてたのに、何故人型じゃないモノにはあんな風に興奮出来るんだろう……。

「ん? どしたのツカサ君」
「…………アンタって、なんでモンスター相手だと何も言わないの……?」

 俺のその主語がだいぶ足りない言葉に、ブラックは一瞬疑問に眉根を顰めたが、すぐに意味が解ったのか「ああ」と明るく言って、笑顔で人差し指を立てた。

「だって、モンスターなら、ツカサ君が好きになる要素ゼロでしょ?」
「は?」

 聞き返すと、ブラックは――――
 どこか焦点が有っていない、ドロドロとした菫色すみれいろの目で俺をじっと凝視しながら、ブツブツと早口でまくしたてた。

「低能だから人族より扱いやすいし、それにモンスターなら思う存分殺せるもん。どんなに頭が良いモンスターが居たって、僕にはかなわないだろう? ツカサ君も、いきなり犯そうとして来る怪物に恋心なんて抱くはずがないし、だったらツカサ君の可愛い姿を見る為の道具として使ったって何も問題ないかなって。ああでも、僕のツカサ君に触れられるんだから、殺されるくらい喜んで貰わなきゃ。弱肉強食だし問題ないよね? でも人族は駄目。ツカサ君は人族相手だと犯されてもどうしても甘くなっちゃうし、僕が八つ裂きにしたくても許しちゃうんだもん。他人だよ。僕以外の奴だよ? 許せないよねえ。ツカサ君は僕の恋人なのに、僕以外の奴に心を捕らわれるなんてそんなの許せないよ。殺すよ。だから人族はだめなんだ。ツカサ君の心を取っちゃう奴はみんな僕の敵なんだよ」
「………………」

 あ……アカン……目が……目が本気だ……。
 顔の上半分に変な陰が掛かってて怖い。これ絶対ヤバい時の顔だ。

「だからモンスターとの絡みなら喜んで見るんだ! ……わかった?」
「……は……はぃ……」

 もう、そう返事するしかなかった。

 ……なんかブラックの闇を垣間かいま見た気がする……。
 き、聞かなきゃ良かった…………。

「お前……私の事もそんな風に見てたのか……」

 胡乱うろんな目で俺らを見るアンナさんに、ブラックはほがらかな笑顔を浮かべて「やだなあ」と言わんばかりに手をひらひらと振った。

「本気と冗談をわきまえてる相手には殺気なんて向けませんよ? だって僕、ツカサ君に愛されてますから。いくらなんでも僕だってそこまで気狂いじゃないですよぉ。やだなあ、もう。あっはっは」

 こっちがやだなあだよ!
 つーか誰があっ、あ、あい……あーっもう!

「い、良いからもう行くぞ!!」
「えー、ツカサ君が言い出した事なのにぃ」
「ブラック、ドンビキされてるのに気付け。オレも五馬身くらいお前には引いた」

 そうだね、クロウはわりと常識人だもんね……。
 俺の他にツッコミを入れてくれる奴がいてよかったとつくづく思いながら、気を取り直して歩いて行くと、ようやく亡者ヶ沼へと辿り着く。

 支配者のいなくなった沼は、前に訪れた時よりもより美しくなっており、周囲には白い花や赤桃色の果実がぽつぽつと実っているのが見えた。

 透明度の高い湿地帯の周囲に咲き乱れる花々は、本当に美しい。
 しばし見惚れていると、俺達の足音を聞きつけたのか数匹のクラッパーフロッグが沼の中からぴょんと跳び上がって来た。
 とは言え、彼らとはもうマブダチだ。俺達が近付くと、カエル達はリラックスしている証である濁音のない鳴き声でケコケコと鳴いてくれた。

 うんうん、元気そうで何よりだよ。

「ケコッ、ケココッ」
「あ、長老ガエル」
「おお、出て来てくれて丁度良かったな。じゃあ、話してみるが……言っておくが、私が了承してもコイツらが了承せんと話にならんからな。こいつらは人に悪意はないが、かと言って敵対しないと言う立場でもないんだから」
「はい、解ってます。出来るだけクラッパーフロッグ達の意思を尊重して下さい」

 俺がそう言うと、アンナさんは頷いて、長老ガエルにゲコゲコと話しだした。
 残念だが、俺達は三人並んでそれを見守る事しか出来ない。
 クラッパーフロッグ達には「ある頼みごと」を絶対に受けて欲しいと思っているが、無理強いは出来ないのだ。彼らが納得してくれることを祈るしかなかった。

「にしても……ツカサ君考えたねえ。カレンドレスの花粉を、クラッパーフロッグ達の唾液だえきで湖底に吸い付けちゃおうだなんて」
「うむ、それは俺達も思いつかなかった……流石はツカサだ」
「そ、そんな褒めんなって! 婆ちゃんのアクの抜き方を覚えてたからこそ、思いついた事だったんだからさ。俺じゃなくて婆ちゃんの力だよ」

 ――――そう、俺達がここに来た目的は、それ。
 クラッパーフロッグ達の唾液で憂鬱ゆううつ花粉を落として貰うために、トランクルの湖に数匹移住して貰えないだろうか……と言う事を頼みに来たのである。

 憂鬱花粉は砂粒ほどの大きさであり、人が捕まえるにはかなり苦労するシロモノだが、しかし小麦粉によるアク抜きにはきちんと捕まってくれるし、なにかに付着する程度にはしっかりと形が有る存在なのだ。

 と言う事は、汚い湖を数匹で綺麗にしてしまうと言うクラッパーフロッグ達の唾液を使えば、憂鬱花粉も抑えられる。それに、クラッパーフロッグ達は毒に対して強い耐性を持っているのだ。彼らが協力してくれれば、きっと問題は解決する。

 だけど……住み慣れた場所を離れるのはやっぱり嫌がるかも知れない。
 俺達はあくまでも「協力」してほしいと思っているので、無理強いはしたくないのだ。断わられてしまえばハイそれまでよって事で、諦めるしかないんだが……。

 どうだろうかと固唾かたずを飲んで見守っていると。

「喜べ諸君、長老が数匹湖に送り込んでくれるらしいぞ」
「えっ、本当ですか!?」

 思わず喜ぶと、アンナさんは苦笑して肩を竦めた。

「というか、元々はこいつらも湖にも住んでたんだそうだ。けれど、人が増えて、怖がられたり攻撃されたりする事が多くなったから、全員こっちに引き上げて来たんだと言ってるぞ。……まあ、それもかなり昔の話だし、今後は攻撃しないと約束すると話したら、すんなり理解してくれたけどな」
「そっか、俺達が追い出しちゃったのか……ごめんな、みんな」

 謝ると、クラッパーフロッグ達は舌を鳴らして嬉しそうに両手を上げた。
 どうやら怒ってはいないみたいだ。

「ハハハ、こいつらだってそんな昔の事怒っちゃいないさ。そう言う事を知ってるのは長老くらいだしな。それに、今度はキチンとした約束までしてるんだ。これ以上の譲歩はないだろう。むしろ餌場が増えてこいつらも喜んでるみたいだぞ?」
「良かった……」

 ほっと胸をなでおろす俺に、アンナさんはカエル達と一緒に快活に笑った。

「まあ、後々の交渉は私がやってやるから任せろ。跡は自分達の事をやるといい」
「ありがとうございます、アンナさん」
「それくらい良いさ。これが終わったら風呂も寝床も勝手に使えるんだし……なにより、あんないいモン見せられたら頑張らなくちゃな」

 うぐ……。
 ま、まあいい。とりあえずこれで俺達の第一目標は達成したのだ。
 あとはアンナさんがトランクルの人達と交渉すると言う事なので、そこは任せて、俺達は村に帰る前に亡者ヶ沼の周囲に生えている野苺のような果実を収穫して帰る事にした。

 アンナさんとクラッパーフロッグ達が言うには、この野苺のような果実は、俺達がブルーパイパーフロッグを討伐した後で沢山生えて来たらしい。
 取り尽くしてもだいたい二日ぐらいするとまた花も実も生えてくるとのことで、これが美味しかったら充分トランクルの名物に成り得るな。

 適度に野苺的な何かを摘み取ってから、話し合っているアンナさんとカエル達に挨拶すると、俺達はトランクルへと戻った。
 いや、歩ける距離にあるってのがほんとありがたいね。

 しかし、ここ数日で施設は軒並み完成するわ湖は綺麗になるわ、心配されている水の問題も解決するわで、解決するスピードが速すぎるな。
 実際はこうはいかないんだろうけど、クロウやブラックみたいなチート級の能力を持ってる人が沢山集まってるから、こうもスムーズに進んでんだろうなあ。

 だけど、数日でここまで村の雰囲気が変わると、ちょっと浦島太郎気分だ。

「ツカサ君、明日はどうするの?」
「あ、そうそう。俺達が案を出す子供達用の施設を見て、あと……宿の内装を見て欲しいって言われてたな。まだ家具とかはいれてないらしいけど」
「うむむ……明日も忙しそうだなあ……」
「ツカサ、疲れていないか」

 ブラックの言葉に、クロウが俺の顔を覗き込んでくる。
 ホントはちょっと疲れてたけど、大丈夫だと俺は腕を曲げて力こぶを作ってみせた。力こぶないけど。

「大丈夫! 今はやることやらなきゃな」

 まあ大変なのは確かだけど、色んなものが出来て行くのを見るのは楽しいし……なにより、沢山の人と一緒に同じ事に向けて頑張るってのは、悪くない。
 学校じゃヤだなあとしか思えなかった団体行動だが、こう言う風に一つの目標に皆が熱を入れてる中に入って、自分もヒートアップしてみるのは存外心地いい。

 ……この村では対立してる人なんていないから、楽しいのかも知れないけどな。

 それを考えると、学校で感じていた感情に少し悲しさを覚えたけど、今はそんな感傷に浸っている場合じゃないな思い俺は頭を振って昔の思い出を掻き消した。

「……ツカサ君、ほんとに大丈夫?」
「…………おう」

 今は、怖くなるくらい俺の事を心配してくれる奴らがいるんだから……こんな事考えてちゃ悪いよな。それよりも、今は出来る事をやらなくちゃ。
 改めて気合を入れると、俺はバッグに入れている果実をどう調理しようかと考えつつ、貸家へと足を進めたのだった。










 
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