異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編

29.結局のところ、相思相愛

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 そもそも、村の復興の為にゴシキ温泉郷に視察に来たってのに、どうしてこんなややこしい事になってるんだろうか。

 俺達はただ勉強しに来ただけのはずなのに……とは思うけど、重大な問題が発生したなら野放しにしては置けない。夜のアレコレの問題なんて、ほっといたら更に悪化する訳だし……それに……こう言う事で嘘をつくと、ブラックが余計に大変な事になるかも知れないからな。
 昨日はまあ、情けない所を見せてしまったが、今日は大丈夫。
 なんたってクロウが大丈夫って言ってくれたし、何より俺も冷静だ。

 一晩寝て起きれば、俺だってブラックがそんな薄情な奴じゃないって確信出来るくらいには回復するんだ。俺はなんたってポジティブだからな!

 いつまでも悪い想像に怯えていても仕方ないし、そんな情けない所を見せたら、ラスターやクロウに悪い。二人とも俺を本気で心配してくれてるんだしな。
 あと、何と言うか……こっちのシモ事情を明かしてるみたいで恥ずかしいってのに、これ以上心配を掛けたら申し訳ないし……。

 い、いや、重要な事だってのは解ってるよ。
 でもさ、えっちをヤり過ぎたら俺が衰弱しちゃうので、「えっちを控えてくれ」と言おう……なんて事を、大の大人二人にアシストして貰ってるとか、普通に考えてヤバくない? なんのプレイだよこれ。いやまあ重要な事だし仕方ないんだが……考えるのはやめよう。ドツボにはまっている気がする。

 とにかく、今大事なのはブラックに包み隠さず話す事だ。
 そんな訳で、ブラックと一緒に朝を迎え、だらしないオッサンの身支度を整えた俺は、とりあえずみんなと朝食を摂り、村人達の事は(申し訳ないが)ヒルダさんに任せて、大事な話があると三人でブラックを部屋に呼んだ。

 最初、ブラックは何故ラスターとクロウが付いて来たのか解らないようだったが、俺がくだんの話をなるべく「お前のせいじゃない」というニュアンスで話していくと、段々と今の状況が解ってきたようで、どこか緊張した顔で話を聞いてくれた。
 俺が話しにくい所はラスターとクロウがアシストしてくれたので、そのお蔭で信憑性しんぴょうせいが高まったと言うのも有るのかも知れない。

 そう。二人には、あくまでも俺の話の補助という形で付いて貰っていた。

 何故なら、三人でブラックを追い詰めるような事はしたくなかったから。

 …………大勢の人間に話をまくてられるのは、誰だって怖いはずだ。
 例え警告の為であろうとも、自分一人に対して三人から言葉を押し付けられれば、考える暇も無くて何も言えなくなってしまう。
 だから萎縮してしまい、必要以上に自分を責めてしまうのだ。

 ……少なくとも俺は、その感覚を知っている。

 俺の場合は身から出たサビだし、弁解しようのなかった事かも知れないけど……でも、あの恐ろしさは、もう二度と味わいたくない。
 ブラックをそんな目に遭わせたくないから、囲むような真似はしたくなかった。

 おかげで、ちょっと手間取った所も有ったけど……まあ、それはともかく。

 俺のチンタラした話も重要な部分に入り、何故失神するのかという事をラスターのサポートのもと説明し始めると……ブラックの顔が、変な風に歪んだ。
 いや、変と言うか……理解出来ない、と言う感じだろうか。
 さもありなん、俺だって初めに説明された時は混乱したからなあ。
 だけど、これを理解して貰えなければどうしようかと考える事も出来ない。

 どうしようかと思ったが、まず先に説明し終えた方が良いかも知れないと考え、俺は話を続けた。

「――――それで……えっと……まだ断定はできないんだけど、もしかしたら俺が曜気を与えたことで……」
「本能的な部分がツカサの曜気を奪う方法を覚えて、交尾をする時にツカサの気を無意識の内に奪っている可能性があるようだ」

 俺がどう説明したものかと迷っている間に、クロウが言い難い部分を伝える。
 顔を歪めたままのブラックは、クロウを見て片眉を更に寄せた。

「本能的にって……」
「オレもツカサに言われるまで気付かなかったが、どうやら……オレ達は、ツカサの力を無意識に吸い取っている事が有るらしい。……カエルがいた沼での戦いも、オレはツカサが“力を分け与えよう”と思う前に、曜気を奪ったそうだ。ブラック、お前もだぞ。何度かそう言う事が起こったとツカサが言っていた」
「……ツカサ君……ほんとなの……」

 目を見開いてこちらを見やるブラックに、俺は静かに頷いた。
 すると。

「そんな……」

 驚いて、そう呟いた後――――

 ブラックは、まるで化け物でも見たかのように顔を驚きに強張らせて、

「あ」

 ただ、一言だけ呟き
 真っ青になった。

「…………ブラック……?」

 最後の一言は、どういう事だ。何が「あ」なんだ。何かに気付いたのか?
 解らなくて思わず呼びかけるが、ブラックは瞠目したまま動かない。
 さすがに心配になって来て席を立とうとすると、ブラックは急に体を大きく震わせて、がたんと大きく音を立て椅子から飛び退いた。
 まるで、何かに怯えたかのように。

「おい、なんだお前……」
「ブラック、どうしたんだよ」

 ラスターも流石に心配になったのか、声を掛ける。
 俺も席を立って近付くが、ブラックは中腰の格好のまま動かなかった。
 ……なんだろう、なんか変だ。

 よく解らないけど、ブラックをそのままにしておけない。そう思い、席を立って固まったままの相手に近付くと、俺は有る事に気付いた。
 ブラックは……小さく、震えていたのだ。
 これじゃ本当に、何か怖い物でも目撃したみたいじゃないか。

 どうして。何にそんなに怯えてるんだ。

「ブラック」

 急に不安になって、震える相手の腕にそっと触れると……ブラックは、弾かれたように顔を動かして俺を見た。
 そうして、青ざめた顔で口を半開きにすると――――急に、顔を歪めて。

「あ……。ごめ…………つ、つかさ、く……ごめ……ごめん……ごめんね……」
「え……」
「知らなかった、ごめん、知らなかったんだ……!! こ、こんな、ことに、なるなんて僕……ぼく……っ」

 青ざめた頬に幾つも涙の線が伝う。そんな風に泣き出すなんて思ってなくて、俺も慌ててブラックの涙を拭おうとしたのだが……縋るように抱き締められて、俺は腕の中に捕えられてしまった。

 そして、何度も何度も謝られて、抱き締められる。
 ブラックだって無意識でやってた事なんだから、謝る事なんて何もないのに。
 もしかして……俺に毎日えっちな事をしてたのに謝ってるんだろうか。
 ……そ、そりゃ、まあ、勘弁してくれとは思ったけども……ブラックをちゃんとしかる事が出来ない俺が悪いって部分もあるし……。

 だから、まあ、別にあんな事して愛想が尽きたなんて思ってないわけで……。

 でも、なんでそんなに怯えているんだろうか。
 俺がそう思っているのに、ブラックはひぐひぐと泣きじゃくりながら、俺を痛いくらいに抱き締めてずっと謝って来て。そのうえ、変な事を言い出した。

「嫌だ……っ、離れないで、僕我慢する、我慢するから、だから……!!」
「なっ、何言って……離れるってなんのことだよ!?」

 離れるってなにが。距離を置くって事?
 ええ、俺そんな話してないよね!?
 えっち出来ない事がショック過ぎて、考えが飛躍しちゃったのか!?

「ま、待て待て待て、落ち着けって! 俺は別に、離れるともえっちしないとも言ってないぞ!? なんでお前はそう悲観的になると暴走しだすんだよ!」
「ふぇ……っ」

 思わず答えた俺の言葉に、ブラックの謝罪がようやく止まる。
 その隙に俺は体を引っぺがすと、ブラックの涙と鼻水でずるずるした顔を両手で固定して、自分の方へと無理矢理振り向かせた。

 ……ああもう、みっともないったらありゃしない。
 鼻水とかオッサンが出すか普通、涙だけにしとけよ格好悪いなあもう!

「……だ、だから、話は最後まで聞けって……。あのな、だから……そう言う事になってるから、コレを解決するにはどうしたら良いかを考えようぜって話なんだよ、結論としては!」
「け、けづろん……?」
「そう。……幸い、俺達の事情を知ってる奴が、ここに二人いるだろ? それに、俺とお前を加えりゃ四人だ。三人寄れば文殊の知恵って言うじゃないか。二人じゃ結論が出ない話でも、四人なら糸口くらいは見つけられるかもしれない」

 そもそも、俺の黒曜の使者の能力自体がまだ完全には解明できていないんだ。
 もしかしたらブラック達のせいじゃないかも知れないし、仮にそうだとしても、未知数の俺の能力なら、解決策だってなくはないはずだ。
 いざ取り組んでみれば、簡単に突破できる事かも知れないしな。
 だから、アンタと離れるなんて面倒臭い事しなくていいんだよ。

 ――そんな事を、相手の涙と鼻水を拭いながら噛んで含めるように言ってやると、ブラックは子供のようにキョトンとした顔をしていたが……やっと俺の言葉の意味を飲み込んだのか、すぐにこれ以上ない程に嬉しそうな顔をしてまた俺に抱き着いてきた。
 ……今度は、湿った無精髭を俺の頬にぞりぞりと押し付けながら。

「ツカサ君……ツカサ君ツカサ君ツカサ君んん~~~~っ! 好きっ、好きだよ、好きぃいぃ、離さないよぉおぉ……」
「ったくもう……単純なんだから……」

 そうは思うけど、ちょっと頬が緩んでしまう自分が情けない。
 まあ、ブラックが傷つくような事にならなくて良かったなあっては思……うん、いや、そう言う事はまあ置いといてだな……とにかく、落ち着いたから良し。
 話がこじれなくて良かったよ。

「つうか……そもそも、俺のの問題だったら、外部の原因をどうこうするよりも、俺自身がどうにかした方が早いと思うんだよな、俺……」
「ム? ツカサ自身が、か?」

 俺の呟きを聞きとって、クロウが熊耳の片方をくるりと動かす。
 それに頷いて、俺はブラックに抱き着かれたままラスターとクロウに説明した。

「二人に気を奪われて衰弱するのは、結局は俺の気の容量が少ないからだろ? 俺自身、黒曜の使者の力を使ってて思うんだけど……この力って、まだ成長しきってないと思うんだよ。何ていうか……何度か使ってる内に、俺も失神するまでの時間が長くなってきてるなあって感じる所が有ったし……」
「なるほど、お前の能力も曜術と同じで、鍛錬すれば伸びるかもしれないと」

 ラスターの言葉に頷く。

「どうすればいいのかは解らないけど、少なくとも容量を増やせる可能性はあるんじゃないのかなって……。それに、そんなに簡単に奪われるのなら、奪われるのを防ぐ術も有るのかもしれないし……」

 俺のその言葉に、今度はブラックは何かを思いついたように息を吸った。

「あっ、あるよ! そういうの僕知ってるよ! 古い本で読んだ事有るんだ、曜術師は体内の気の流れを無意識に制御出来るけど、稀にそれが出来ない術師が居て、そう言う人の為に体内の循環を操る術があるって……!」
「おまっ、そういうのよくピンポイントで覚えてたな!?」

 いやまあ、この人知識の塊みたいなもんだから不思議じゃないですけども。
 でもそう簡単に解決方法を出されてしまうと面食らってしまう訳で。思わず言葉を失くしてしまった俺に、ラスターとクロウは視線をやって軽く頷いた。

「そうか、そういう手もあるのか……」
「ふむ……。術と鍛錬か…………なくはないが……」

 感心するクロウの隣で、ラスターが何やら思い当たる節が有ったのか、腕を組んで考えるように視線を泳がせている。
 何を考えているのか少し気になって、聞いてみようかと口を開こうとすると。

「えへ……えへへ……っ。ツカサくん……ツカサ君、よかった……!」
「うわっ!」

 急に抱き締められて、思わずぐえっと呻いてしまう。
 しかしブラックは構わずに俺をぎゅうぎゅう抱き締めると、嬉しそうに緩んだ顔を俺になすりつけてきた。いて、イテテ、ヒゲ、ヒゲが痛いってば!!

「よかった……僕、ツカサ君と離れなくていいんだよね……!」
「う……ま、まぁ……」
「えへ……。でも、本当にごめんねツカサ君……僕、これから我慢するからね! 解決するまでセックスは三日に一回にするから。無理させないから!!」

 それ、無理させてないって事になるんですかね……。
 思わず脳内でツッコミを入れてしまったが、ブラックと仲違いせずに済んで安心したせいなのか……その言葉が口から出て来る事は無かった。












※最近たるんでますね…つ、次は時間内に頑張ります…_| ̄|○
 ちょっと不穏だけどそれは別として次はやっと再興開始です
 
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