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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編
18.大切な人の大切なこと1
しおりを挟む※すみません、仕事の都合で更新切迫で短くなってしまいました…(;´・ω・`)
とりあえず、カレンドレスの天ぷらはかなりの衝撃料理だと言う事が解った。
味も絶賛されたので問題はないと思うが……しかし、悪魔的な料理と言われたのが引っ掛かる。なんか麻薬成分とか出てないよね。大丈夫だよね?
まあ、みんな揚げるたんびに食べてたから大丈夫だとは思うが……。
でも夕食に天ぷらのみってのは流石に脂っこかったかな。中年って油モノを沢山食べると辛いっていうし。明日は胃に優しいものを作らねば……。
後片付けをしてやっと一息つき、リオルにも礼を言って下がって貰った後、俺はどうしたものかと腕を組んでいた。
「…………よ、夜が来てしまったが……何も考えてないぞ……」
今日の朝、ブラックを躱すために思わず「夜にいちゃいちゃすればいい」なんて事を言ってしまったけど、実際の所、それを行いにブラックの部屋に向かうというのは俺的には物凄く気恥ずかしかった。
だ、だって、その、イチャイチャっつったら、ひっついたり手とか握ったり……と、とにかく密着すんのが常って奴だし。
そんなの俺が長々と続けられるかと言うと、実はまったく自信が無い。
不意に抱き着かれたりするのは、もう日常茶飯事だからそうされても驚かなくはなったけど……でも、そう言うのと能動的にイチャイチャしようと思うってのは別だろ……!?
なんか、そう言うのって、いざやるってなると困るって言うか……。
実際、何をしたらいいんだ?
添い寝するなんて別に珍しい事でもないし、ブラックからすればそんな事なんてイチャイチャするのに入らないかも知れないし……って言うか、そもそもの話バカップルがやるような事ってなんだ?
「…………ええと……漫画とかでは、なんかこう……そ、そうだ、あれだ、アーンてやってたよな! アイツもして欲しがってたし……!」
人前だと全く出来なかったけど、でも、ふ、二人っきりなら……。
…………まあ、その……いちゃいちゃ、するんだし……。
「つーか、何回イチャイチャって言ってんだよ俺……ま、いいか。とにかく軽食を持って行こう」
何が良いかな。食べさせやすい軽食っていうと、やっぱスプーン使う系?
アイスがあるからそれでいいかな。…………でも、どうせなら……。
「お酒とか有った方がいい、よな?」
確かブラック達がセイフトで買ってきて置いていたお酒が有ったはず。
棚を漁って飲みかけの酒を見つけると、俺は少しだけ舐めて味を確かめる。
相変わらず酒の味は解らんが、わりと風味が有って甘かったような気がするからこれで大丈夫かな。酒をデカンタに移してコップを用意すると、アイスクリームを丸く刳り貫いて木の器に移し替え、俺はブラックの部屋へと向かった。
薄暗い階段を、自分で用意した“恋人らしい事”をする道具をお盆に乗せて昇る。静まり返った二階の廊下は、廊下の突き当たりにある窓から注ぐ月明かりのお蔭でかなり明るい。ここで転べばやめようとも思えたのだが、こうなってしまえばどう逃げる事も出来ない。
なんだかもう歩くだけで胸が苦しくなってきて、足が重くなっていく。
でも、ぐずぐずしていたらアイスが溶けてしまうので進まない訳にもいかず、俺はじりじりとブラックの部屋へ近付いた。
「…………」
そ、それにしても……自分から「あ~ん」しに行くのはちょっとヤバいな。
だって、その、俺が自分からブラックに働きかけて、蕩けたアホ面してるアイツの口にアイスを運んでやるとか考えると、なんか気恥ずかしくなるわけで……そんなのやったら、本当にバカップルみたいで恥ずかしくて死ぬ……じゃなくて!
なに想像してんだ俺、ぶ、ブラックの嬉しそうな顔とか想像してないし!
第一ブラックが喜ぶかどうか解んないだろ!! もう寝てる可能性もあるし!
そ、そーだよ寝てりゃいいんだ、そしたらイチャイチャしないで良いし、ブラックだって胃がもたれて疲れてるかも知れないんだから、何も食べずに寝た方が良いかも知れないし……。
「…………とは思っても、もう扉の前に着いちゃったし……」
………………仕方ない……覚悟を決めるか。アイス溶けちゃうし。
ぐっと喉を締めて、俺はブラックの部屋のドアをノックした。
すると――と思う暇も無く、ドアが勢いよく内側に向かって消える。
ドアの代わりに、目を見開いて硬直する俺の前に現れたのは、やっぱりブラックだった。ああ、目がめっちゃ輝いてる。待ってた顔してる……。
「つ、ツカサ君、来てくれたんだね……!?」
クロウやラスターの部屋が近くにあるからか、ブラックの声は珍しく潜められている。俺はぎこちなく頷くと、とりあえず部屋の中に入った。
「あの、ツカサ君、そのお盆の上のモノって……」
「…………お、お前に……食べさせてやろうと、思って……」
う、うう、顔が見れない。
俺がやろうとしてた事がバレたんじゃないかと思うと異様に恥ずかしくて、どうしてもブラックの顔が見られなかった。
だけど、当の本人はそんな俺の心配など知らず、ドアにしっかりと鍵をかけると大はしゃぎで俺の目の前に踊り出した。
「ええええ!? ぼ、ぼ、僕に!? 僕にだけ!? ツカサ君僕にだけこんないい物を持って来てくれたの!?」
「だあぁ何度も言うなッ!!」
「こ、これ、これもしかして、僕にあーんしてくれるために持って来たのかな!? だってほら、夜はイチャイチャする時間だもんね!?」
そんな事を言いつつ俺の顔を覗いて来るブラックに、俺は息が詰まってしまう。
確かにそうだ。アンタの予想はドンピシャだよ。でも、はっきりそう言われると恥ずかしい訳で……。
口籠ってしまった俺に、ブラックは腰を屈め無邪気に見上げるような仕草をして、眉をハの字にしながらエヘヘと笑った。
「いや、あれだよね、そんな訳ないよねえ」
えっ。
いや、何言ってんのお前。
「ツカサ君は、僕に気持ちよく眠って欲しいから、持って来てくれたんだよね! 解ってるよ~、だって、ツカサ君僕の事たくさん考えてくれてるもん」
ニコニコと笑いながら、ブラックはお盆を受け取る。
そうして椅子に座ると、笑顔でアイスクリームを掬って自分の口に……――
って、違うってば!
「ち、違う!」
「え?」
思わず言ってしまったが、もう口が止まらなかった。
「お、お前やりたいんだろ!? よっ、夜に、その、イチャイチャするの……っ! だから、俺だって、その……た、食べさせて……やるのが、一番いいかもって……」
「つかさく……えっ、えええぇ!? あ、あ~んしてくれるの!? って言うか、自発的にそれをしようと思って、僕にアイス持って来てくれたの!?」
「わああああもう話を混ぜっかえすなぁ! とにかくお前がそれが良いって言ったんだろ、だから俺は約束を守るためにだなあ!!」
もうなんだか物凄く居た堪れなくなって、カッカしながら怒鳴るが……ブラックには全く効いていない。
それどころか、蕩けそうな顔をして――俺に、抱き着いてきた。
「あ……」
「ツカサ君…………僕、今ね……死んじゃってもいいくらい嬉しいよ……」
頭を硬い胸に押し付けられて、ぎゅうっと抱きすくめられる。
それだけでもう心臓が痛くて、俺は身じろぎも出来ずに呻いた。
「うぅ……そ、そんな、大げさすぎ……」
熱がこもるあまり震えそうになる喉を必死に奮い立たせて喋るけど、まるで何かを我慢しているような情けない震え声になってしまっていて。
だけど、ブラックはそんな事気にもせずに俺の髪の毛に顔を埋めた。
「大げさなんかじゃないよ……。ツカサ君が、僕の為に……僕がしたいと思う事を考えて、顔を真っ赤にしながら頑張って持って来てくれた……。それがどんなに特別な事かなんて、言葉じゃ言い表せないよ」
「……そ、んな……」
「そんな事、あるよ。だって……ツカサ君の恋人は……恥ずかしがり屋のツカサ君が頑張ってこんな事をしてくれるのは……僕だけなんだものね……」
そう言って、ブラックは俺の髪の毛に埋めた鼻をすうっと鳴らす。
俺の声が震えたのと同じで、ブラックの声も何故か震えていて。
だけど、俺は……その声を聴くと、何故か抵抗する気すら失せてしまっていた。
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