異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編

9.花にも色々ありまして1

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「おぉおお……すげえ……」
「これはなんというか……見事だね……」

 ブラックも思わず感嘆の溜息を吐いてしまう程、水底みなそこの花畑は美しい物だった。
 輝く花粉を水の泡のように浮き上がらせながら、ひっそりと咲いている金色の花々。水の揺らぎによって、それは金塊のようにも見えて、下部に葉が生い茂っていなければ、ぱっと見はお宝の山が沈んでいるようにしか思えない。

 しかし、この花が吐き出している花粉は、まぎれも無く“人を憂鬱ゆううつにさせる花粉”であり、俺達は今非常に激しく攻撃されているのだ。

 ……でも、不思議と落ち込んだ気分にはならないんだよな……。
 何でだろう。こんなに攻撃されてるのに。

「ブラック、なんか変な気分になった?」
「え? ツカサ君の肩が触れてて勃起しそうだけどそれ以外は別にないなあ」
「突き落とすぞこの変態」

 とんでもない事をさらっと言うな。

 どつきたかったが、船の上では派手に動く事も出来ないのでぐっとこらえる。
 今はあの花……カレンドレスを調べるのが第一だ。
 しかし湖底は意外と深いようで、俺が潜水で行ける距離ではない。残念だけど一旦いったん戻って潜水具か何かを貸して貰うしかないかな……。

 いやでも待てよ。俺が無理でもブラックは出来るかも。

「……ブラック、お前あそこまで潜水できる?」

 試しにそう訊いてみると、ブラックは顎を擦って少し考えていたが……何か思いついたのか、急に甘えたような声になって俺にしなだれかかって来た。
 ええいやめんか、熱い。

「出来はするけど……僕一人であの花を一つ取ってこいって言うのかい?それはなぁ~……ご褒美が無いとやる気でないなぁ~」
「ぐっ……な、なんだよ、何が欲しいんだよ! 高いモンとかは駄目だぞ」

 思わず俺がよく両親に言われていた文句を言うと、ブラックは妙な顔をして俺をまじまじと見返してきた。その視線の意味が解らず眉間を顰めていると、ブラックは深い溜息を吐いて頭に手を当てた。
 なんだよマジで!

「はぁあ……。ツカサ君、今の状況でそんな事言うって……あのねえ、今さっきの会話からしたら、ご褒美はもう“エッチな事”だって解るだろう!?」
「ええ!?」
「ここはさぁ、恥じらいながら僕に『ブラックなら……な、何でもして……いいよ……?』って可愛く言ってくれるのが筋ってもんだろう!? なのにツカサ君ったらもう、ほんと性欲なしなんだから!」
「あれ、これ俺が悪いの? 俺の方がダメなの?」

 おかしいな、男が男にやるご褒美って、物とか土地とかだと思うんだけどな。
 さすがは俺の世界とは価値観が違う世界だなあ、あっはっは。

「現実逃避しても駄目だからね」
「…………わ……わかったよ……。それで、何して欲しいの」

 よくよく考えたら潜水具も有るのかどうか謎だし、ここまで来たんならブラックに頼んじゃったほうが早い。何度も来るのも体に悪そうだし。

 ぶっちゃけ何を言われるか物凄く不安だが、お、俺にも拒否権が有るんだ。もう流されるままではいけない。今度はちゃんと拒否できるようにならないとな。
 ごくりとつばを飲み込んでブラックを見ていると……相手は、よだれでも垂らしそうなほどに口をだらしなく緩めて、やらしい笑みで笑いやがった。

「え、えへへ……。じゃ、じゃあ、じゃあねえ……ツカサ君には……帰ったら、ぼ、ぼっ、ぼくの、ペニスをっ、ハァッハァッ、な、なめ」
「落ちつけ、頼むから落ち着け」
「ふぇ、フェラだっけ? フェラしてもらおうかな……!!」
「ぐっ……!?」

 ふぇ、フェラだと……。いや待て、待つんだ俺。えっちじゃないのならまだ辛くないかもしれんぞ。そりゃあブラックのブツは狂気、いや凶器だが、まあ……こ、恋人なら、フェラも当然だってエロ漫画で言ってたし……それくらいなら……。

 あ、いや、別にブラックとえっちするのが嫌とかじゃないぞ。
 色々とやる事が有るのに気絶するまでヤられるから嫌なだけであって、その、えっちが嫌いという訳ではないんだが……ってそんな話じゃなくて。

「ツカサ君?」
「ひぇっ!?」
「ダメ……?」

 思わず驚いた俺の態度が拒否だと思ったのか、ブラックは眉根を情けなく寄せて上目遣いで俺を見つめて来る。……まるで叱られた犬のような表情だ。大人がするような顔じゃない。だけど、その表情はあまりにも情けなさ過ぎて、どうも気が抜けちゃうんだよなあ。

 そう思っちゃうせいで、毎回ブラックに丸め込まれてる気がしないでもないんだけど……でも、まあ……いいか。ブラックだって、少しは俺の事とか考えてくれたんだろうし……。

「ツカサ君顔あかい」
「だっ……あ、赤くない!! わ、解ったよ、やるよ! やりゃいいんだろ!」

 ああもう怒らず「良いよ」って言ってやろうと思ったのに、何故にそう余計な事ばっかり言うのかなお前は!

 腕で顔の半分をガードして赤くなってないと眉を吊り上げるが、ブラックは何がそんなに嬉しいのかニマニマと笑って肩を動かす。
 だーもーそんな所まで子供っぽくしなくていいってば!

「ほっ、ほんと!? じゃあ僕頑張っちゃうよ、花狩り尽くしちゃうよ!?」
「そこまでやらんでいい! 一本だけで良いから……わー! もう脱ぐなー!」

 早い、脱ぐのが早いってば!
 ヤバいコイツ張り切り過ぎてすぐに全裸になりやがった。小舟が揺れる暇もないほどの高速キャストオフって、お前変な所に無駄な技術使うなよ!

 すっぽんぽんの相手に思わず顔を逸らそうとしたが、ブラックはその前に綺麗な体勢で湖へとダイブしてしまった。
 早い……いや、どんだけフェラして貰いたいんだよお前は。

「まあでも、積極的に働いてくれるだけいいか……」

 難なく水中を進んでいくブラックを見下ろしながら、ぽつりと呟く。
 どこらへんがご褒美なんだとツッコミたくなるような行為でこんなに張り切ってくれるのなら、やってやる価値も有るのかも知れないが……しかし、大人を働かせる原動力がフェラって……ううむ……。

「深く考えたら駄目だな……」

 今はとにかくブラックの様子を観察しよう。
 しかし、潜っている姿を見ていると、水の抵抗で揺れる何かがチラチラ見えるんだが……どうにかしてアレだけを見ないようにする方法はないものか。

 健全な場面であればあるほど気になる股間の凶暴な魚雷に困りながらも、潜水する様をじっと見ていると……次第にブラックの姿は小さくなり、花畑へと近付いて行った。……近付いて、行ったのだが……どうもおかしい。
 なんだか、花とブラックの縮尺が合っていないような気がするのだ。

「んん……? 目の錯覚……?」

 よく解らないが……ブラックの体に対して、花が妙に大きいような気がするのだが……と思っていたら、ブラックが潜る体勢から体を起こし、空気の泡をぶくぶくと噴き上げながら金色の花の一部分を掴んだ。

 そうして、ぐいぐいと両手で引っ張っている。
 こちらからだと微妙に何をしているのかが見えないが……でもやっぱり、何だか花が大きいような気がするんだよな。水の中だから遠近感狂ってんのかな。

 ごしごしと目を擦って目を正常に戻そうと思っていると……ざぱっ、と水を掻き分ける大きな音がした。

「ぶはーっ!! つ、ツカサ君これ持って!」
「えっ、も、もう戻って来たの!?」

 潜るのに結構時間かかったけど、上がるのは一分ぐらいしかなかったよ!?
 慌てて目蓋から手を放してブラックの方を見ると――――

 ブラックは、車のタイヤかと思うくらいのでっかい黄色の花を持って、必死に水の上に顔を出していた。

「え…………えぇ!? なっ、こっ、これ、花!?」
「花だよっ! い、いいから早く、これ持ってると沈んじゃいそう……っ」
「うわっ、ごめん!」

 慌ててブラックからカレンドレスを受け取ると、手にずしっと重みが来る。
 これが、この巨大なモノが花というのか。いやまあ確かに良い匂いがするし、黄金色の花びらが沢山集まってるけど、でもここまで大きいとなんだかな。

 戸惑っている俺に構わず、ブラックは難なく船の上に戻って来ると髪の毛をぎゅっと絞って深呼吸をした。

「はーっ。びっくりしたよ。だって、花って大きさじゃ無いもんねその花」
「だな……。まさか、カレンドレスがこんなに大きな花だったとは……世の中には色んな花があるモンなんだな……」

 こんな巨大な花が大繁殖した湖があったという話だが、考えると色々と恐ろしい。湖にどんだけぎっしり咲いてたんだこれ……。
 でも、これほどの量が有れば何でもできるかも。

 食用で使うにしても、試行錯誤は必要だし……なにより、採りすぎてしまったらもうその場所には咲かなくなってしまう植物なんだから、一輪がこのくらい大きかった方が使い勝手がいいかも知れない。

「それで……その花を名物に使うの?」
「おう。なんてったって貴重な花だしな!」

 その時は味見を手伝ってくれよな、と言ったら、何故かブラックは嬉しそうに笑った。

「えへ……ツカサ君、美味しいの作ってね」
「もちろん頑張るさ」
「楽しみだなあ……ツカサ君の料理を食べて、夜はツカサ君に食べて貰うんだ……へ、へへ……こっ、興奮してきた……」
「…………」

 なんでこう、こいつは……いやもう言うまい。
 とにかく船がしけっちゃうから、体を拭きなさい全裸中年。

「ブラック、とりあえず体を拭け」
「僕布持ってないよ」
「俺がタオル持ってるから! ああもうほら、髪を拭いてやるから体を拭け!」

 ちっとも濡れた体の事を気にしない相手に業を煮やして、俺はタオル代わりの布を鞄から出すと強引に渡す。そうして、ブラックに背中を向けさせるとリボンを解いて髪を拭いてやった。

 ブラックに任せてたらまた適当な拭き方するしな。

「ふ、ふふふ……ツカサ君たら、ほんと僕の髪が好きだねぇ~」
「お前がちゃんと拭かないからだろ! ったくもう……なんでお前には花粉が効果ないんだろうな……?」
「うーん? 僕には毒は効かないし、そのせいじゃないかな……? あれ、でも、それならツカサ君が憂鬱にならないのも変だよねえ。……ハッ、これってもしかして、真に愛する二人なら花粉の呪いも余裕ではじくとかそういう」
「ばーっ!! アホかお前は―!!」

 そんな訳ないだろうがと怒鳴ってしまったが……でも言われてみると変だ。
 ブラックに効果が無いのは毒耐性のお蔭かもしれないけど、何で俺は効果が無いんだろう。良く解らんが、もしかしてこれも黒曜の使者の力……とか?

 何か逃れられる方法が有るのなら、良い手掛かりになりそうなんだけどな……。

 ま、とりあえず、ひとまず花を家に持ち帰って色々やってみるか。











 
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