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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編
6.色々考えると深みにはまる1
しおりを挟む翌日、俺とブラックは朝からトランクルを歩いて回る事にした。
……とは言うが、その予定は簡単に決まった訳じゃない。
早朝からラスターがやって来たり、クロウが付いてきたがったりして揉めに揉めまくり、色々大変だったのだ。
でも、四人でゾロゾロ歩き回っても時間が勿体ないし、つーか何より、感性が似通ってるオッサン二人と何にでもケチをつけるお貴族様対まともな感性の俺一人では、歩き回っている内に俺が疲れてしまう。
だから、厳正なるジャンケンをした――結果、こう言う事には妙に強いブラックが勝ち、俺はブラックと一緒に行動する事になったのだが……。
「ふ、ふふふ、デート、デート、でーと~」
「ええい歌うな鬱陶しい! つーか人いないからってはしゃぎすぎ!!」
クロウとラスターに村長さんへの聞き取りを任せて家を出ると、すぐに腕を組んで来ようとするブラックに、浮かれるなと怒鳴る。
だが相手は久しぶりの二人っきり行動にテンションが上がっているのか、俺の片腕を逞しい腕でがっちりホールドしてちっとも放してくれない。
それどころか、更に距離を近付けて来て密着してくる始末だ。
おい。おいやめろ。いくら常春の国とは言え暑い!
「ツカサ君、ふ、ふ、二人っきりだねっ、周りには誰もいないねぇえ……!」
「このスットコドッコイめ、外には居なくても家の中には居るかもしれんだろ! いい加減に離せっての!」
「良いじゃないか別にこれくらい~! 最近ずっと三人四人パーティーで、お外で二人っきりでデートするのなんてそうなかったじゃないか! 僕ずぅううっと我慢してたんだよ!? ここでくらい良いじゃないかぁああ!」
強引な腕組みでは切り崩せないと悟ったのか、今度は目を潤ませて泣き落としを仕掛けてくるブラックに、内心頭をパコーンと引っ叩いてやろうかと思う。
しかし、ブラックの言う事も尤もだ。
俺は別に、まあ……ブラックが近くに居ればそれで良いんだけど……ブラックは四六時中俺と引っ付いていたいらしいし……それって多分、満足の度合いが違うって事なんだよな。
俺は近くに居れば満足だけど、ブラックはそれだけじゃ満足できないんだ。
なにせ、こいつは人との触れ合いなんてベッドの中がほとんどだった男だし、恋人なんて俺以外に居たのかどうか……まてよ、そう言えばそこまでは聞いてなかったぞ。前にちょろっと「さすがに大人なんだから、元恋人の一人や二人は居るかも知れない」とは思った事があるけど……実際、居たのかな?
普段はイタリア人ばりの勢いでグイグイくるけど、なんか、その……俺が唯一の人だとか、なんかそんな感じの事言って来るし、過去の話聞いてるとわりと辛い事ばっかりだったみたいだし……でも、ブラックの事を好きだったって人はいたんじゃないのかな。もしかしたら俺以上に情熱的だった人とか居たり……。
いくら「恋人」という行為に慣れてなくても、そういう人がいなかったワケじゃ……ないん、だよな……?
…………そう言う人とは、こう言う事を当たり前にしてたのかな。
「…………」
「あれ? ツカサ君、なんで不機嫌な顔してんの?」
「ハァッ!? なっ、なんでもないし、してないし!!」
「えっ。えぇ? なんで怒ってるの? ねぇ、なんで~?」
「なんでもないったら! ああもう解った、解ったよ! デートでもなんでも良いから早く行くぞ!」
ええいもう不機嫌とかそんな訳ないだろ!
何で俺がお前の過去に不機嫌になって無きゃいけねえんだよ!
だいたい元恋人とか、お、大人なんだからそういう奴が居るのは当然だし、俺がどういう言えるもんじゃないし……。
ぐうう、なんか意味も無く悔しいんだけどこれなに、何で?
もう良く解らん。
とにかく探索だ。俺達はトランクルの現状をしっかり見る役目が有るんだ。
「ツカサ君」
自分の腕に絡んだ腕を引っ張りながら歩く俺に、ブラックは何を思ったのか一旦離れると……今度は俺の手をぎゅっと握って来た。
「えへ……やっぱ、デートって言ったらこっちだよね」
そう言いながら、ブラックはだらしなく顔を歪めて、握った手の指の間に自分の太い指を差しいれて来た。そうして、更に強く繋がるようにぎゅうっと握る。
こ、これって……。
思わず相手を見上げると、ブラックはニコニコと人懐っこい笑みで笑った。
「ツカサ君と手を繋いで歩くの、僕、大好きだよ」
「…………そ、そうかよ……」
どうにも言葉が出て来ず、それしか言えなくて、俺は目を逸らした。
ったくもう、なんでコイツはこんな風に言っちゃうんだか……。
そう言う事を言うから、俺も恥ずかしくなっちゃうんだってば。
…………でも……まあ……恋人って、こう言う事言うの普通……なのかな。
ドラマとか漫画とかでも言うもんな。素直に言った方が女キャラもキュンとしてたし……あれ、じゃあ、こう言う事言えない俺の方がビミョーなのかな。
で、でも、人には出来る事と出来ない事が有るワケで、その、ブラックみたいに言うって言っても、何を言ったらいいのか解らないし……。
だけど、何も言わないってのもなんかブラックに対して不実なような……。
「まずどこから見る? 観光の目玉だった湖の方に行こうか?」
「お、おう。そうだな」
慌てて返すと、ブラックは心底嬉しそうに笑って、またぎゅっと俺の手を握る。
カサついててゴツゴツしてる俺の手よりも大きい手は、少し湿っていた。
興奮しているのを隠しもしない正直な掌に、なんだか変な事を考えていた自分が馬鹿らしくなって、俺は思わず口を緩めた。
…………やっぱ、俺も少し頑張らないと駄目だよな。
ブラックが我慢してるかどうかは謎だけど、頑張ってるのは確かだし。
俺も、もう少し自分から動いてこいつを喜ばせてやらないと。
……いや、まあ、エロい事以外で。
「あ、ツカサ君機嫌治ったね」
「だから違うってば。ほら、さっさと行くぞ」
まあ悩んでる場合じゃないよな。今は街の立て直しが使命なんだから。
気合を入れ直して、俺はブラックと仲良くお手手を繋ぎながら湖へ向かった。
大きく広い湖は、村のどこからでも眺める事が出来る。
それは住宅が集まっている区域に行くにつれて緩く坂になっているせいなのだが、その景観の妙は実に考えて作られた村と言った感じだ。
しかし、湖の周囲に無造作に生えまくった野草や崩れてボロボロの木の柵などのせいで、荒れ果ててしまっているような印象は拭えない。
今歩いている舗装されていない土の道もちょっと味気ないし、古民家と言えば聞こえはいいが、この村の建築物は悪い意味で古く老朽化している。改めて村の現状を見ると、溜息しか出て来なかった。
「はぁ……立て直すにしても、まず村全体を綺麗にしなきゃいけなくなりそうだ」
家々を見上げながらうんざりした声を出す俺に、ブラックも悩ましげに眉を顰めて口をへの字に尖らせる。
「確かにそうだねえ……。この様子じゃ廃村だって言われても納得しちゃうし……。でも、全て補修させるとしたら、物凄い金額になりそうだ。そんなお金、この村にあるのかなあ」
「うぅ……た、確かに…………。でも、清潔感や賑わってる感じは観光地としてはとても大事だし、何とかしてキレイにして貰いたいんだが……」
やっぱ自力でやるのはムリかな。でもセルザさんに頼むにしても資金がなあ。
キョロキョロと周囲を見回す俺に、ブラックは繋いだ手を楽しそうにぶんぶんと振りながら、あっけらかんとした声音で声を放る。
「観光事業に力を入れるって言ってるんだから、出してくれるんじゃない? 例え財政が破たん寸前でも、投資しなけりゃ飢え死にだって解ってるだろうし」
「えぇ……お前どんだけシビアなの……。せめて俺達でどうにか補修できないかなぐらいは言えないの」
「何で僕達がお金出さなきゃいけないのさ」
「…………」
そうね、ブラック的にはそうなるよね。領地が破滅しようがブラックにとっては何の関係も無い事なんだから。ああ、細かい所で本当にお前は酷いな。
しかしまあ、出したくないという気持ちは解る。
俺達は無限に金を作れるようなチート能力者じゃないんだし、路銀だって節約して使うような旅をしてるんだ。出来ればお金は溜めておきたいというのも解る。
だけど、頼まれたからには半端に付き合う事も出来ない訳で……。
うーん……やっぱ、アレに頼るしかないかな……。
ブルーパイパーフロッグの骨とか、シンジュの樹を売り払って、大工さんを呼んで補修するしか道はないかも……。
ああ、頭の痛い問題がまた増えてしまった……。
「あっ、ツカサ君、湖が近付いて来たよー」
悩む俺とは正反対に、ウキウキな声でブラックが少し左寄りの方向を指さす。
建物の間にある緩くカーブした道の先には、青く揺れる水面がわずかに覗いていた。ううむ、こう言う演出はとてもいい土地なんだけどなあ。
「今度は湖をぐるっと回ってみようか」
「そうだな。何か面白い物がみつかるかもしんないし」
「だね。意外と面白い魚とか居るかもしれないしね。もしそんな生き物が居たら、良い宣伝になるかも」
デートとは言っても、わりと真面目に探索に取り組んでくれているブラックに、ちょっと嬉しくなって笑う。
ほんと、こう言う所があるから怒るに怒れないんだよなあ。
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