異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

文字の大きさ
上 下
614 / 1,264
セレーネ大森林、爛れた恋のから騒ぎ編

25.綺麗に終われないのが人生の常

しおりを挟む
 
 
 この世界にも、食べられる野草と言うのは沢山ある。
 俺が良く使っているタマグサ(タマネギにとても良く似た根菜)やマーズロウ、モギ(ヨモギに似ている野草)、恐ろしい生え方をしたシダレイモに、ニンニクっぽさがあるクキマメ、それに何故か荒野に自生していると言うトマト……とまあ、他にもあるのだが、俺が知ってるだけでもその種類はかなり多い。

 特にこの常春の国であるライクネスでは、かなりの野草が自生していた。
 だから……という訳でも無かろうが、帰り道の間ラスターは俺に野草の事を色々と教えてくれた。

 彼の屋敷にある温室の植物は「国の有事にそなえて育てている」と言っていたが、ラスターは木の曜術を使う日の曜術師だからか、植物にも関心が有るらしい。

 もちろん、野草の知識を教えて貰えるのは素直に嬉しいので、帰路の間はずっとラスターの講義をありがたく拝聴していたのだが……まあそんな事をすれば、オッサン二人がいい顔をしようはずもなく。

 適宜てきぎブラック達とも話したのだが、結局機嫌を損ねさせたままでトランクルまで戻って来てしまった。解っちゃいた事だが、本当こいつらは表面上だけでも仲良くするという事が出来ないんだなあ……。

 今更な事ではあるが、改めて「曜術師同士は仲が悪い」と言うのを実感する。
 いやまあ、この件に関してはそれとは関係ないかも知れないが。

 ともかく、ラスターには俺が作った木材用強化剤をしっかりと守って貰い、きこりのマイルズさんへと確実に届けて貰うために、村に入ってから別れた。

「…………ハァ、やっと面倒臭いのが行ったか」
「と言ってもまた戻って来るがな」

 せいせいしたとでも言いたげに盛大に溜息を吐いたブラックに、低い声でクロウがボソリと呟く。
 なんというか物凄く気まずいが、今の俺は残念ながら口を挟む事が出来ない。

 だって……ラスターに頼みごとをした「報酬」ってのが……お客用のベッドがやって来たら、貸家に泊まらせるっていう……。

 いや、別に、ラスターは嫁になれとか、もてなせと言った訳じゃないよ?
 「ツカサの手料理を食べてみたい」とか「お試しで」とか訳の分からんことを言っていたがそれくらいで、別にやらしい事をしろって言われた訳じゃないし。
 それに……俺としては、ラスターに泊まってもらうのは実はありがたい。

 だって、ラスターは野草や植物に詳しいし、実際に植物を育てている。
 そう、広義の意味でのガーデニングをしているのだ!

 今までどうした物かと放置していた庭を整えようとした時に、そんなラスターが来てくれた。これほどに頼もしい先生はいないではないか。
 ラスターに協力して貰えば、食料用の畑とナントカ風ガーデンの両立が出来るかもしれない。これは大きなチャンスだよな。頼まない手はない。

 しかし、【緑樹の書】のグリモアである木の曜術師よりも、複合的な存在である“日の曜術師”の方がガーデニングしてるだなんて不思議な感じだ。
 でも、考えてみりゃ分野が違うから仕方ないんだけどね。
 アドニスの場合は植物を育てるんじゃなくて研究する立場だから、実用的な物として育てる事はあまりないもんなあ。

 まあなんにせよ、先生が見つかってよかった。
 泊まらせてメシ食わせる程度なら変な事にならないだろうし、そのくらいなら俺だって一軒屋の主として歓迎してやれる。
 ……俺が主なのかはわからんが。

 とにかく、この程度なら問題はない――――はずなんだけど、ブラックとクロウは気に入らないみたいなんだよなあ……。

「お前ら、ラスターを泊める事の何が気に入らないんだよ。これ以上ないくらいに健全じゃんか。何もひざに乗れとか嫁になれとか言ってるんじゃないんだぞ?」

 人気ひとけが全くない道だから好き勝手に喋りながら歩いているが、そんな俺に対して不機嫌なブラックは頬を膨らませながらむうと鳴く。

「だって、相手は信用ならない奴だよ? ツカサ君を狙ってるんだよっ?! いつツカサ君を手籠てごめにして自分の物にしようとするか解らないじゃないか!」
「そうだぞツカサ。男は獣だ。こいつを見ていればわかるだろう? 油断して襲われないようにと教育したのを忘れたのか」

 お前らが言うな。お勉強とか言いながら結局変態プレイしたくせにぃいい……!
 ……と言いたい気持ちをぐっとこらえて、俺は冷静に手を振る。

「覚えてる、覚えてるよ! でも、貸家なら二人がずっと一緒だし、マーサお爺ちゃんやリオルがいるだろ? 一人でいなきゃ問題ないって」

 お屋敷の風呂場でポカをやらかしたラスターが、再び俺に襲い掛かってくるとは思えないし、なによりどの道一人でいたら危ない事に変わりはない。
 だったら、一番軽そうな約束を喜んで受け入れて、自衛するためにブラック達に一緒に居て貰った方がよっぽどいいじゃないか。

 そんなような事を説明すると、オッサン二人は顔を見合せたが…………
 何故か嬉しそうにニヤニヤと笑いだして、両側から俺を挟んできた。

「い、一緒に? 一日中ずっと一緒に引っ付いてて良いの……?」
「あいつに触れられないように守ればいいのだろう? と言う事は、こうして肩を触れ合わせたり手を握っていたりしても良いと言う事だな?」
「はぁっ!? そっ、そこまでは言ってな」
「つまりいちゃいちゃしていいんだね!? あのクソ若造に見せつけて良いんだねぇええええ!!」

 ア――――ッ!!
 この野郎、俺の意図とは全く違った結論に辿たどり着きやがったぁあああ!!

 どうしてこいつらは、いつも斜め上の解釈をしてくるんだよ!
 俺一言もイチャイチャするとか言ってないよね!? 一緒に居るってだけしか言ってないよね!? なんでこう言う時だけ超ポジティブ解釈なの!

「ふふ、ふふふふふ……あ、あいつに見せつけてやろうねツカサ君……」
「オレも協力するぞ、ツカサ……」

 両側から手ぇ握って来ないで。歩きにくいし恥ずかしいからやめて!

 勘弁して下さいと泣きたくなるが、上機嫌になったこいつらにはもう何を言っても無駄だ。不機嫌になっても面倒臭いし機嫌が良くても面倒臭いって、これなんの地獄なのかな……。

 貸家までの帰り道に人気が無い事だけが唯一の救いだなとゲッソリしつつ、俺は両側にオッサンの熱気を感じながらひたすら歩く事に努めた。
 こうなったらもう早く貸家に帰りたい。

 大した距離じゃないので、早足で歩こうと頑張るが、ブラック達の歩幅は元々俺よりも物凄く広いので、俺が早歩きしただけじゃ大した違いはない。
 これだから足の長い男は嫌いなんだ。泣いてない。泣いてないぞ俺は。

 色々な物を堪えながらひたすら歩いていると、やっと貸家が見えてきた。
 よかった。これで解放される……と、褪せた色のドアを見やると……ドアの前に、何者かがじっと突っ立っているのに気付いた。
 銀灰色のローブに身を包み、全身を隠しているが……なんだか見覚えがある。

 長身で、すらりとした体型。
 誰だろうかと三人で顔を見合わせて近付くと……相手が、こちらを振り向いた。

「あ…………」

 思わず、声を上げる。
 その、来訪者は――――

「お久しぶりです、ツカサ様」

 世にも美しい容貌を持つ、毒舌巨乳金髪エルフのエネさんだった。

「え、エネさん!? どうしてここへ……」
「今日は、シアン様の手紙を渡しに参りました」

 そう言うと、彼女はマントの端を掴んで淑女のように深々とお辞儀をすると――ちらりとクロウを見て、俺をじっと見つめた。
 ……んん? なんでクロウを……?

「手紙って……ツカサ君が出したモロモロのアレかい?」
「解っているのなら早く家に招いて頂きたいのですが。重要な話をしに来たと理解していてどうして当然の行動への理解が遅れるのでしょうか? さすがは下等な人族と言った感じですね。私にはとても真似が出来ません」
「耳を削ぎ落してただのインケン女にしてやろうか」
「こらっブラック! そ、そうですよね! どうぞ、入って下さい」

 何も家具が無くて殺風景ですが……と言いながらドアを開けてエスコートする俺に対して、またもやオッサン二人の機嫌が悪くなっていく。
 ……あれかな、もしかして俺って今日は厄日なのかな……?








 
※次は新しい章です\\└('ω')┘//
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です

渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。 愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。 そんな生活に耐えかねたマーガレットは… 結末は見方によって色々系だと思います。 なろうにも同じものを掲載しています。

悪役令嬢になりたくない(そもそも違う)勘違い令嬢は王太子から逃げる事にしました~なぜか逆に囲い込まれました~

咲桜りおな
恋愛
 四大公爵家の一つレナード公爵家の令嬢エミリア・レナードは日本人だった前世の記憶持ち。 記憶が戻ったのは五歳の時で、 翌日には王太子の誕生日祝いのお茶会開催が控えており その場は王太子の婚約者や側近を見定める事が目的な集まりである事(暗黙の了解であり周知の事実)、 自分が公爵家の令嬢である事、 王子やその周りの未来の重要人物らしき人達が皆イケメン揃いである事、 何故か縦ロールの髪型を好んでいる自分の姿、 そして転生モノではよくあるなんちゃってヨーロッパ風な世界である事などを考えると…… どうやら自分は悪役令嬢として転生してしまった様な気がする。  これはマズイ!と慌てて今まで読んで来た転生モノよろしく 悪役令嬢にならない様にまずは王太子との婚約を逃れる為に対策を取って 翌日のお茶会へと挑むけれど、よりにもよってとある失態をやらかした上に 避けなければいけなかった王太子の婚約者にも決定してしまった。  そうなれば今度は婚約破棄を目指す為に悪戦苦闘を繰り広げるエミリアだが 腹黒王太子がそれを許す訳がなかった。 そしてそんな勘違い妹を心配性のお兄ちゃんも見守っていて……。  悪役令嬢になりたくないと奮闘するエミリアと 最初から逃す気のない腹黒王太子の恋のラブコメです☆ 世界設定は少し緩めなので気にしない人推奨。

BL短編

水無月
BL
『笹葉と氷河』 ・どこか歪で何かが欠けたふたりのお話です。一話目の出会いは陰鬱としていますが、あとはイチャイチャしているだけです。笹葉はエリートで豪邸住まいの変態で、氷河は口悪い美人です。氷河が受け。 胸糞が苦手なら、二話から読んでも大丈夫です。 『輝夜たち』 ・シェアハウスで暮らしている三人が、会社にいる嫌な人と戦うお話。ざまぁを目指しましたが……、初めてなので大目に見てください。 『ケモ耳学園ネコ科クラス』 ・敏感な体質のせいで毛づくろいでも変な気分になってしまうツェイ。今度の実技テストは毛づくろい。それを乗り切るために部活仲間のミョンに助けを求めるが、幼馴染でカースト上位のドロテが割って入ってきて…… 猫団子三匹がぺろぺろし合うお話です。 『夏は終わりだ短編集』 ・ここに完結済みの番外編を投稿していきます。 ・スペシャルはコラボ回のようなもので、書いてて楽しかったです私が。とても。 ・挿絵は自作です。 『その他』 ・書ききれなくなってきたので、その他で纏めておきます。 ※不定期更新です。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです

紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。 公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。 そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。 ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。 そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。 自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。 そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー? 口は悪いが、見た目は母親似の美少女!? ハイスペックな少年が世界を変えていく! 異世界改革ファンタジー! 息抜きに始めた作品です。 みなさんも息抜きにどうぞ◎ 肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!

4番目の許婚候補

富樫 聖夜
恋愛
愛美は家出をした従姉妹の舞の代わりに結婚することになるかも、と突然告げられた。どうも昔からの約束で従姉妹の中から誰かが嫁に行かないといけないらしい。順番からいえば4番目の許婚候補なので、よもや自分に回ってくることはないと安堵した愛美だったが、偶然にも就職先は例の許婚がいる会社。所属部署も同じになってしまい、何だかいろいろバレないようにヒヤヒヤする日々を送るハメになる。おまけに関わらないように距離を置いて接していたのに例の許婚――佐伯彰人――がどういうわけか愛美に大接近。4番目の許婚候補だってバレた!? それとも――? ラブコメです。――――アルファポリス様より書籍化されました。本編削除済みです。

スキルが生えてくる世界に転生したっぽい話

明和里苳
ファンタジー
物心ついた時から、自分だけが見えたウインドウ。 どうやらスキルが生える世界に生まれてきたようです。 生えるなら、生やすしかないじゃない。 クラウス、行きます。 ◆ 他サイトにも掲載しています。

縦ロールをやめたら愛されました。

えんどう
恋愛
 縦ロールは令嬢の命!!と頑なにその髪型を守ってきた公爵令嬢のシャルロット。 「お前を愛することはない。これは政略結婚だ、余計なものを求めてくれるな」 ──そう言っていた婚約者が結婚して縦ロールをやめた途端に急に甘ったるい視線を向けて愛を囁くようになったのは何故? これは私の友人がゴスロリやめて清楚系に走った途端にモテ始めた話に基づくような基づかないような。 追記:3.21 忙しさに落ち着きが見えそうなのでゆっくり更新再開します。需要があるかわかりませんが1人でも続きを待ってくれる人がいらっしゃるかもしれないので…。

処理中です...