異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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セレーネ大森林、爛れた恋のから騒ぎ編

21.トラブルメイカー・リターンズ 1

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 そんな訳で、とりあえずクロウの出したものとかを処理して一息ついた後、俺はクロウを横に従えて、ラスターに今までの事を軽く説明した。

 クロウが仲間だって事や、食事を与える約束をした事、それに、クロウの種族の特殊な物を食べる特性とか……。とにかく、やらしい部分は出来るだけ排除して、この隣の熊さんが危険ではない事を俺は必死に訴えた。

 ラスターは相変わらずの傲慢ごうまんイケメン野郎だが、話が分からない奴じゃないし、きっと理解してくれるはずだ。
 ……つーか、もしここでクロウの事を無害だと証明出来なかったら……クロウが監獄にれられてしまう事だって充分にあり得る。だから、理解して貰えるように頑張るしかないのだ。

 なんたって、ラスターは騎士団長なんだからな。
 警備兵達よりも偉い立場の人間、しかも王様にも顔が効くってんだから、コイツに敵認定されてしまったら……最悪の場合、法にのっとった手続きで即サイナラだ。

 慎重に、言葉を選びながら話し終えて、目の前で片膝を立てて座るラスターの表情をうかがうと――なんだか、小難しげな何とも言えない顔をしていた。

「…………なるほど。大体の事情は解ったが……なら、どうしてこの犯罪者予備軍は、お前の足に精液をなすりつけていたんだ?」
「う゛」
「食事と精液を擦り付けるのは何か繋がりが有るのか?」
「それはオレが悪い。ついムラムラしてやってしまった」
「く、クロウ! ばかっ!」

 なに犯行の動機みたいに語ってんだ!
 相手はこの国では警察官と同じなんだぞ、おさわりまん……じゃなくておまわりさんなんだぞ! この国に未成年に対する淫行罪という法律があったら……って俺この世界では成人だった。セーフ! ……じゃなくて!

「あのっ、こ、これはだな!!」
「オレは二番目の雄……人族で言えば、側室だ。ツカサを犯す権利はある」

 おおおおお前何を言って……!
 確かに側室って元々は子作りの為のモンだけど、クロウの説明は正しいけど、今ラスターにそんな事言ったら余計こじれる、って犯す権利ってなんだ!

 慌ててクロウの口をふさぐが、時すでに遅しである。

「……俺の記憶が確かなら、側室とは抱かれる側だったような気がするんだが」

 うん、そうだねラスター。流石は傲慢だけど常識はある人。
 俺もそうだと思ってたんだけど、俺達のパーティーは違うみたいですよ。

「と、とにかく……強姦じゃないし、こいつは俺のパーティーの仲間なんだよ! 解ってもらえた……よな?」
「……今はそう言う事にしておこう。お前が嫌がっていないのなら、捕えようにも話にならんからな。野外で性行為をするなという法律もないし」
「あ、ありがてえです……」

 ひぃい……よ、よかった……納得して貰えて……。いやまあ内心はまだ納得してないみたいだけど、ラスターは分からず屋と言う訳でもないし、自分の事以外ではわりとマトモだからな……。

 しかし、色々な人に会って改めて思うが……ラスターって、貴族と言う点に関しては本当に尊敬できるレベルの奴なんだよな。
 嘘を許さず正義を愛すって人だし、国を心底愛してる訳だし。

 ……まあ、貴族だけあって、下等民(この国では、奴隷とか一般市民じゃ無い人とか、蛮人街というスラム地区とかに居る人の事を言う)は普通にさげすむけど、話が分かる奴だし暴力やいじめなんかは絶対にしないし、貴族の中ではかなりの人格者だと思う。あの自画自賛が無ければ。

 心の中で失礼な事を考えている俺を知ってか知らずか、ラスターは溜息を吐いて気持ちを切り替え、改めて俺の姿を上から下まで見やった。

「しかし数ヶ月会わんうちに色々有ったんだな、ツカサ。姿形は全然変わらんが、どことなく冒険者然とした顔つきになっている。どうやら良い旅をしたらしい」

 そう言って、話を流しつつ苦笑してくれるラスターに、俺は安堵して頷いた。

「うん。なんだかんだ楽しくやらさして貰ってるよ。……ラスターも……なんか、前に会った時と姿が違うな」

 あの時はいたって普通の貴族と言った感じの普段着だったけど、今は何だか仰々しい格好だ。今日のラスターの服装は、貴族らしい良い仕立物したてものながらも動き易そうな軽装になっていて、その軽装の上には、最低限と言った様子の銀の鎧が所々にひっついていた。腕とか足とか胸とか。

 いかにも貴族様・冒険者バージョンって感じだが……しかし、似合っているのが悔しい。認めたくないが、こいつはまさしく漫画とかに出て来るような金髪イケメンヒーローだ。なんでヒーローって七割くらいは金髪キャラなんだ。

 またもや理不尽な怒りを覚えてしまう俺を余所よそに、ラスターは何だか照れ臭そうに笑って自分の姿を顧みるように己の体を見回した。

「まあ、これは外出用の装備だからな。お前達で言う、冒険用の服だ」
「ツカサの話からするとお前は貴族だろう。なのにどうしてそんな服を着る?」

 今まで黙っていたクロウが、不満げな声を隠しもせずに問いかける。
 たぶん、色んな理由でラスターの事が気に食わないんだな……。まったくもう、クロウまでブラックと同じ反応をしおってからに。

 でも、ほんとに謎だな。どうしてラスターがこんな所にいるんだろう。
 しかも冒険用の服を着るとか……。

「ラスター、旅をしてたのか? それで俺達に偶然気付いて……?」

 だとしたら、急に現れたのも偶然であり神様のいらん悪戯ってことになるが……しかし、それならそれでラスターが一人で歩いていたのも気になる訳で。
 何か個人的な用事でもあったんだろうか?

 などと、考えていると……ラスターは、急に俺の両手を握って来た。

「ふあッ!?」
「偶然? 何を言う。これは運命だ。そう、俺が休暇に入ろうとしていた時に、お前は見計らったかのようにこの国へ戻って来てくれた。その知らせを聞いた俺は、神の采配を感じたぞ。『おおこれは世に二人といない傑物である俺に、慈愛の神が運命と言う褒美を与えてくれた』のだとな!」

 背後にキラキラしたものを漂わせんばかりの勢いでまくしたてるラスターに、俺のみならずクロウまでもが唖然あぜんとして硬直してしまっている。

 さもありなん、脳が理解を拒む内容なんだから仕方がない。
 ラスターの妙に難しい言葉遣いのせいで、余計に頭が混乱してしまっているのだ。特にクロウは初めてラスターの自惚うぬぼれ語録に触れるのだ。頭が真っ白になっても仕方がない。クロウは真面目な奴だし。

「つ……ツカサ……コイツの言ってる事が理解出来ん」
「安心しろ俺も理解出来んから」
「そうであれば、俺が動かぬ道理はない。神の導きに従い、果たせぬままでいた大事な約束を果たしに向かうまで。そうして俺はもたらされた知らせを頼りに早馬を駆りこの町へとやってきたのだ」

 無視か、無視なのかラスター。
 っていうか自分に酔い過ぎてて話が見えないんですが。
 ええと、つまり……。

「つまり、お前がセイフトに来たのは偶然じゃないって事?」

 そう問いかけると、ラスターはやっとこちらに顔を向けて嬉しそうに微笑んだ。

「そう。まさに神がもたら」
「じゃなくて! お前は俺達がこの辺に居るって知ってたんだな!? だったら、どうやってその情報を知ったんだって聞いてんだよ!」

 両手を離せと暴れてみるが、ラスターも俺より力が強くて放してくれない。
 チクショウ、なんで俺の周りの男どもは剛力ばっかりなんだよ!!

「ああ、それなら簡単な事だ。お前に何かあってはならんと思って、俺は以前から貴族やその関係者にお前の事を色々と話していてな。自分の領地にそれらしい者が入って来たら、教えてくれと頼んでいたんだ」
「え……」

 …………えっと……それって……。

「しかし、まさかこんな僻地へきちに現れるとは思っていなかったし、ギルド経由でお前の情報を手に入れるなんて思わなかったがな」

 ギルド経由? 冒険者ギルドから、情報を手に入れたって事?
 ということは……ラスターは、ギルドの誰か……もしかして、ギルド長のルーベックさんから、俺達がこの街に来たと言う情報を貰っていたって事か?

 あ、あんのヒゲ筋肉、俺達を売りやがったなー!!
 そーか、だからあんなに俺達がこの周辺に滞在するかどうか心配してたのか!
 二三日にさんにちは居るって所でホッとしてたのは、ラスターがそのくらいに到着するからだったってのか! ぐうううくそう、早く気づいていればぁああ……!

「ところでツカサ、約束を覚えているか?」
「……え?」

 や、約束?
 なんだっけ。ラスターとの約束……確かに、別れぎわに何かを言われたような気はするんだけどなあ。覚えてないなあ。
 俺は絶対に覚えてないな、もう忘れたなあ。

「その顔は覚えているな」
「わ、忘れた! 忘れたってば!!」
「ふっ、照れなくても良い。お前は本当に初心だな……」
「ウブじゃな――――い!!」
「なんだ、約束とはなんだツカサ」

 ごめんクロウ言いたくない、っていうか「覚えてる」と言えないんだよ!

 だって、それを覚えてるって言ったらシラを切り通せなくなるじゃないか。
 ただでさえクロウの事でもいっぱいいっぱいなのに、ここでラスターにまでを持ち出されたら俺の頭がパンクしてしまう。覚えてないと言うしかないんだ。

 だけど、ラスターは持ち前の傲慢すぎる自信たっぷりのオツムで、俺の動揺をとても良い方向へと受け取ってしまったのか……輝かんばかりの美しい笑顔で、俺の体を引き寄せて抱き締めた。

「攫われてくれるな? ツカサ」


 ――――俺の、正妻になるために。


 とんでもない台詞をイケメンボイスで耳に吹き込まれて、俺は思わず全身に鳥肌をおったててしまった。









 
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