異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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白砂村ベイシェール、白珠の浜と謎の影編

28.恋は甘いもの、愛は深きもの

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「それで、お菓子ってなんだいツカサ君」
「甘いか。甘いのか」

 木製のテーブルを軽くトントン叩きながら、二人のオッサンが期待を込めた目でこっちをみている。台所のテーブルに仲良く並んでいる様は、なんだか妙な気分になる光景だったが、そんなオッサン達に今から更に妙な事をしなければならないのだと思うと、俺は酷く憂鬱ゆううつになった。

 だが、これは仕方のない事だ。
 穏やかですこやかな休日を満喫まんきつするためには、その妙な事をやるしかないのだ。
 そう。オッサン二人に俺がお菓子を食べさせてやると言う……なんつーかもう、年齢考えろよっていうような事を……!

「あかん……あかんぞこれは……どう考えても耐えられる絵面じゃねえぞぉ……」

 これが美少女とかなら「あ~ん」も可愛かっただろうし、俺も大いに楽しかったのだが、お菓子を与える相手はゴツい中年だ。夢も希望も無いのだ。
 しかし、やると言ったものは仕方がない。

 この嫉妬深いオッサン達を怒らせないためには、頭が湧いているカップルのような事もやらないといけないのだ。
 まあ、菓子を食べさせるだけだし、幸いそれに丁度いいお菓子がここにあるし、これで助かるのなら恥を忍んでやらせて頂こう。

 俺は一旦いったんきびすを返して二人に背中を見せると、食器棚から適当な皿を取り出し、バッグから白い箱の中のお菓子をざらっと入れ込んだ。

 そして、冷やしておいた自家製の麦茶をリオート・リングから取り出す。
 最近は何でも冷蔵して置けるからほんと助かるわ。暖かい麦茶も好きだけど、やっぱ気温が上がる時は冷たい麦茶に限るよなー。
 でも、残り少なくなってきたからちょこちょこ作って置かんとな。

 木製のコップに注いで、先程皿に出して置いたお菓子と一緒にテーブルに運ぶ。

「はいはいおまっとさん」

 テーブルの向かい側の二人に見せるように、それらを置くと……ブラック達は、何だか怪訝けげんそうな顔をして眉をしかめた。

「え……え? これって……貝殻?」
「貝殻……もしかして、あの食べられる貝殻か……?」
「それ以外に何があんのさ。これ結構美味しかったから、二人にも食べて欲しくてリオルにおごって貰ったんだ。見た目は物凄いけど、思ったよりサクサクだし、結構イケるから食べてみてよ」

 そう言いつつ皿を二人の間に近付けるが、二人の手は伸びない。
 何故だ。食べられる貝殻はウマかったのに。
 どうして食べないのかと首をかしげて、俺は本来の目的をやっと思い出した。

 ああそうか、これは俺が「あーん」するための物だもんな。
 二人にそのまますすめても全然意味が無かったんだった。

「ごめんごめん、今やるから。えーっと……はい、口開けてー」

 食べやすそうな大きさの貝殻を取って、テーブルの向かい側から精一杯腕を伸ばし二人の口に近付ける。
 しかし、ブラックは俺を制止するようにてのひらをこちらに見せた。

「ちょ、ちょっと、ちょっと待ってツカサ君。そこじゃ遠すぎる、こっちに来てよ! あと、その、なんていうか……他のお菓子はないのかな……?」
「この貝殻、固くないのか……?」

 どう見ても挙動不審でビビりまくってるブラックに、何故かしょんぼりして耳を垂らしているクロウ。なんだ。良く解らんぞ。なんでそんな事になってんだ。
 貝殻のお菓子が嫌なのかな?
 距離的に遠いというのは同意だが、なんで躊躇ちゅうちょしてるのかが解らん。

 渋々オッサン達の間に椅子を持って行って座ると、俺は改めて二人を見上げて首を傾げた。

「なんでそんな顔してんのあんたら」
「いや~……だって、貝殻だよ……? 普通食べない奴だよ……?」
「オレの国でも貝殻は食べない……貝殻を食べるのはいやしい……」

 しょぼしょぼしながら呟くクロウに、俺はやっと合点がいった。
 そうか、二人は変な物……というか、いわゆる「食べられない物に形が似た物」をあまり食べた事が無いんだな。

 しかも貝殻はこの世界でも普通に捨てる物っぽいし、ならこう言う反応になるのも仕方ないか。でも、申し訳なさそうにしてる姿はちょっと面白いな。
 こういう二人は珍しいので、俺はちょっと楽しくなりながらも、大丈夫だと左右にある肩をぽんと叩いた。

「まあまあ、気持ちは解るけどさ、これほんとに甘いしサクサクしてるし美味しいんだぜ? 貝殻の形が怖いんなら割ってやるからさ。ほら」

 そう言いながら、貝殻を一つ取り出して真ん中からぱりんと割る。
 薄焼きの煎餅せんべいみたいに簡単に割れてしまった貝殻に二人はビクッとしたが、貝殻の断面図をしげしげと見て同じように眉根をしかめた。

 俺の世界のあのお菓子に味が激似なこの貝殻だが、断面図はスポンジ状になっていて、軽い食感である理由が分かる。
 しかし、それを見たブラックとクロウは、ますます訳が解らないと言わんばかりに首を傾げた。パンで見慣れていると思ったが、むしろあれか、貝殻がパンのような断面で、しかも堅そうなのに簡単に割れたって所が理解出来ないのか。

 だけどいつまでも食べて貰えないのは俺も困る。
 ……仕方がない…………。

「えーっと、あの……ほら! もっと割ったら、一口で食べられる大きさになっただろ? 俺も食べるから、お前らも遠慮せずに食べてみろよ。はい、あ~ん」

 指で貝殻の欠片かけらをつまみ、まずブラックの口へと持って行く。
 ブラックはいまだに貝殻に拒否感を持っていたようだが、俺の「あ~ん」には勝てなかったのか、素直に欠片を口に入れた。
 軽く歯で感触を確かめながら、ゆっくりと噛む。すると。

「ん……んん……!? なんだこの貝殻、甘い……!」
「あ、甘いのか?」
「そうだぞ。甘いんだぞ。はい、クロウもあーんして」

 今度はクロウに向き直って欠片を差し出すと、クロウは素直に大口を開けた。
 そこに貝殻を放り込んでやると、もしゃもしゃと咀嚼そしゃくし始める。
 すると、クロウは耳をぴるぴると痙攣けいれんさせながら目を大いに輝かせた。

「ん……んん……!! な、なんだこれは……美味いうえに食感がとても軽くて、サクサクと音がする……貝殻なのに……貝殻なのに……!」

 食リポめいたクロウの言葉にちょっと驚いてしまったが、ブラックも同じような事を想っていたのか、うんうんと首を振りながら興奮した様子で言葉を継ぐ。

「確かに……食べられない物がどうしてこんな……」
「リオルが言ってたけど、加工したらこういう甘くて美味しい食べ物になる、特別な種類の貝殻を使ってるんだって」
「はぁ~……世界には色んな食べ物があるんだねえ」

 感心したように言って、ブラックは俺にまた手をせがんでくる。
 何だか餌付け作業みたいになって来たが、やらしい行為っぽくなるよりかはマシなので、素直に口に運んでやる。

 しかしアレだな、ブラック達にも敬遠する食べ物が有ったのか。
 まあ俺の世界でも「タコは悪魔だから!」って言って食べない外国人とか居るし、ノリとかワカメも見た目で拒否しちゃう人もいるんだもんな。

 食べられないと思い込んでる物だと、それはちょっと……って敬遠しちゃうのも仕方ないか。しょっぱなから食べられる俺の方が特殊なんだよな。日本って小石型チョコとか青いラーメンとかカブトムシチョコとか、とにかく似せ過ぎた食べ物が有り過ぎるから感覚がマヒするんだよ。
 貝殻の形をしてても食べられるなら食べるわーってなるわそんなん。

「ツカサ、オレも」
「はいはい。な、ウマいだろ?」

 ひな鳥にエサを運ぶ鳥のように、貝殻の欠片をせっせと二人に食べさせる。何かもう、恥ずかしがる暇なんてない。逆にわんこそば思い出すわコレ。
 そもそも二人ともわりと美食家っぽいし、一度美味しいと解るとがっついちゃう方だから、こうなると止められないんだよね。

「ん~、中々いける。ツカサ君、これを僕達に味わわせたくて、僕達の為に買って来てくれたんだねぇ……」

 ブラックに改めてそう言われ、頷こうとして俺はハタと気付く。
 ……あれ。これ、わりと恥ずかしくない?
 いや、そりゃまあ、美味しかったから、二人にも食べて欲しくてリオルに頼んだけども、よく考えたらそれってなんか変なような……。

 俺、そういうお婆ちゃんみたいな、ウチの母さんみたいな性格してたっけ……?
 いやでも、美味しかったから二人に食べさせたいと思ったのは本当だし、お土産みやげにして喜ばせたいなーと思うのはおかしくないだけど……でも、それは旅行した時特有の思考だし……普通は考えなくないか……?

 …………待て、そうだ。変だよ。
 ダチに「これ食べさせたーい」とか女子か。女子かよ!
 うわあ変だ、絶対変だ!!
 なんで今までそんな事変だって気付かなかったんだ俺!?

「ツカサ君、今頃顔真っ赤になるって……」
「ううううるさいなあ! いいからさっさと食べちまえよ!」

 幸いお菓子も残り少ないし、もうさっさと食べちゃって頂こう。
 最後の二つの欠片の一つを取って、ブラックの口に差し込もうとすると。

「あー、ダメだってばツカサ君。ちゃんと『あーん』ってしてくれないとー」
「う、ううううう」
「良いって言ったのはツカサ君だよ?」
「わっ、わかったよ! やりゃーいんだろやりゃぁ!」

 チクショウ、変な事に気付かなきゃよかった。
 だったら、この餌付けみたいな行為もあの時の村人達にやってあげたみたいに、平然とできたってのに……。ああもう、意識してる事すら恥ずかしい。
 何だって俺はこう墓穴を掘りまくるんだと投げやりになりながらも、俺は改めてブラックと顔を突き合わせ、震えそうになる口で小さく呟いた。

「あ……あーん……」
「え? なに? 声が小さくてきこえないなあ」
「くっ、こ、この……ほらっ、あーん!」
「可愛くないなー。ツカサ君ならもっと可愛い声で言えるはずだけどな~」
「ツカサ、笑顔であーんしてくれ」

 こんのクソオヤジどもおおおおぉ。
 後で覚えてろよこんにゃろが。くそっ、こうなりゃヤケだ。

 自分の中の羞恥心を押し込めて、俺は思いっきり息を吸うと――これみよがしな満面の笑みを浮かべて、小首を傾げながらブラックに言ってやった。

「は……はーいブラックぅ、あ~んして~?」
「ふ、ふへへ……あ、あ~……んっ」

 指で摘まんだ最後のお菓子を、ブラックがだらしないキモい笑顔で食べる。
 こんちくしょう、こっちは自分のキモさで背中にサブイボが立ちまくりだってのに、何でお前は俺の「あーん」で喜べるんだよ!
 お願いだからもうちょっと世間の常識と接近して! お前だけでもいいから俺と同じ価値観持ってよ頼むから!

「ツカサ、ツカサ。オレも」

 心の中でぎゃあぎゃあ叫んでいる俺を余所に、クロウがせがむようにシャツを引っ張って来る。あと一つ残った欠片を取って振り向くと、クロウは橙色だいだいいろの瞳を潤ませ、無表情ながらも熊耳を激しく動かして「はやく! おれにもはやくあーんして!」と訴えていた。
 うぐ……ず、ずるい……ズルいってばその熊耳ぃ!

「ツカサ」
「は、はいはい! クロウ~、ほら、口開けて~?」
「ん」
「あーん……」

 目の前で、口の中に菓子が消える。
 ほ……よかった、これで解放されるぞ。
 そう思った矢先……今まで菓子を摘まんでいた手を思わぬ方向から引っ張られて、俺はそちらに無理矢理引き倒されてしまった。

 もちろん、手を引かれた先は……ブラックの居る方向な訳で。
 俺は抵抗する暇も無く、ブラックの胸に頭を押し付けて上体だけを反らしていると言う、少々苦しい格好にされてしまった。

「ぶ、ブラック?」

 頭上にある顔に呼びかけると、相手は目を細めて猫のように笑って――今さっき捕えた俺の右手を、自分の顔のそばに持って来た。

勿体もったいないなあ。ほら、ツカサ君見て……指に残りが付いてるよ」
「え……」

 確かに、割った時に零れた小さな欠片がくっついてるけど……。
 って……なに!? なに口に入れてんの!?

「わああ! ばっ、ばかっ、食べるな! 舐めんなー!」
「んっ……? だってほら、ツカサ君いつも言うじゃない、勿体ないって」
「だっ、だからって……っ」

 うわ、やだ。指しゃぶってる音が聞こえる。
 し、舌が指紋をなぞって関節の所をちろちろくすぐってくる……!

 手を舐められるなんて思っても見なくて、そしてそれがあまりにも細かな感覚を伝えて来るなんて知らなかった。
 確かに、手には神経が集中してるっていうけど、でも、だからってこんな。

「ツカサ君の指……美味しいね……。甘いだけじゃなくて、こんなに柔らかい……男の子がしていい指じゃないなあ……」
「っ、や……なに、いって……っ」

 ぴちゃぴちゃと恥ずかしい音を立てて、ブラックは舌を絡ませた指を俺に見せつけるように口を微かに開く。
 恍惚の表情で俺の指をしゃぶっているブラックの口の中で、赤く艶めかしい光を帯びた舌がちらちらと動き、それが俺の指をなぶるのを視覚でも確認してしまい……思わず、反応してはいけない所がぎゅうっと熱くなる。

 だって、こんなの……だ、誰だって、いやらしく舐められたら、えっちな気分になるのは当然だし……その、だから……。

「ブラックばかりずるいぞ。オレにも舐めさせろ」
「ぅえっ!? く、クロウ待って、ちょっと、まっ、うわぁ!」

 ブラックばかり楽しんでいるのが不満だったのか、クロウはぴっちり閉じていた俺の足を大きく開くと、その間に椅子を動かして入って来た。
 必然的にクロウの足の上に俺の足は乗せられてしまい、今の状態はとても酷い事になってしまっていた。
 おいおい待て待て、これはどう考えても挿れる時の体勢だろ、危ないって!

「クロウ、頼むから場所移動して……」
「嫌だ。この方が近い」
「んっ……! だ、だってこれっ……っ、この、格好は……!」
「恥ずかしがらなくても良い、ここにはオレ達しかいないのだから」
「そうだよ。もう、誰に遠慮する事もないんだからね……ふっ、ククッ……」

 頭上から悪役みたいな笑い声が落ちてくる。
 ブラックがどんな顔をしているかなんて知りたくもなくて正面を向くけど、そこには俺の足を大きく広げて間に割り入って来たクロウがいて。ブラックと同じく、俺の左手の指を大きな舌でねちゃねちゃとねぶっているわけで。
 顔を逸らそうとしても、その度にブラックやクロウにあごを掴まれて引き戻され、どうにも出来なかった。

 上と真正面から耳を犯す水音が入って来て、耳を塞ぐことも出来なくて、しかも熱くなってくる見られたくない場所も隠せなくて。
 涙で視界が緩くにじんで来ても、音が俺を許してくれない。

 耐え切れなくなって、ついに俺はか細い声で二人に懇願してしまった。

「ぅ、っや……も、やだって、変態みたいなことすんなよぉ……!」

 感覚に耐えているせいで、喉が締まって変に甲高くて情けない声が出てしまう。
 それすら嫌で肩を縮める俺に、ブラックは大仰な音を立てて指から口を離すと、俺の顎を取って強引に自分の顔を見上げさせた。

「っぁ……」

 影が掛かった顔は、実に楽しそうな笑顔に歪んでいる。
 俺をじっと見つめる菫色すみれいろの綺麗な目はかすかに揺らいでいて、何故かその揺らぎを見ていると心臓がどきどきしてたまらない。
 そんな俺の顎や頬を撫でながら、ブラックは一度まばたきをした。

「変態? 今更何言ってるの……。ツカサ君は、僕に変態みたいな事をされるのが大好きなえっちな子だろう? ほら……ほっぺだってこんなに赤くなって、そんなにとろけた顔をしてるのに……ふふっ……ほんとツカサ君は嘘つきだなぁ」
「ち……ちが……」
「それに、ベイシェールじゃあ散々“恋人の”僕を心配させたんだから……この家に居る時くらいは、僕がしたい事や恋人らしい事をさせて貰わないとねぇ……」
「うぅ、それは……その……でも、こんなの普通の恋人はしないんじゃ……」

 確かに色々迷惑かけちゃったから、仕方ない所もあるかも知れないけど、でも、恋人だからってこう言う事はしないと思うよ俺は。
 変な音立てて指を舐めるなんて、そ、そういうのはちょっと違うよな……?
 それにほら、クロウがいるし。目の前にクロウが居るから、ね?

 人がいる前でイチャつくのはやめようぜと言おうとすると、クロウが微妙に眉を顰めてとんでもない事を言って来た。

「何を言っているツカサ、他人同士でも気が合えばすぐ交尾するのに、恋人同士がこの程度の事をやらない訳がないだろう。獣人でもこれくらいは普通だぞ」
「わーもークロウそういうのやめてってば!!」

 性にオープンな世界の話はもういいから!
 俺異世界人だから、そういう貞操観念もってないんだってば!!

 頼むからこっちの世界のただれた常識で考えないでくれと泣くが、こんな事で引き下がってくれるようなら、俺もこの二人に手を焼いていないわけで。
 ブラックは俺が半べそをかく姿を上機嫌で見つめながら、少し体勢を変えて俺の頬に無精髭だらけの頬を押し付けて来た。
 うううじょりじょりするうぅ、オッサンの頬の感触がするぅうう……。

「ほらほら、熊公だってああ言ってるんだから、ツカサ君もちゃぁんと恋人らしい事をしてくれなきゃね……? 僕だって“普通の恋人”になるために、一生懸命努力してるんだからさあ……」
「う、うぅう……」

 誤解だ、大きく誤解がある。
 ブラックと恋人になったばかりの時の俺は、この世界でも「普通」の定義は同じだろうと思っていた。だから「普通の恋人らしく出来るように学べ」なんて言ったけど、よく考えたらこの世界は俺の世界よりも過激で奔放ほんぽうで大胆なんだ。
 だから、指をしゃぶられるのだって普通でもおかしくない訳で……。

 いや、違う。違うんだよ。
 俺は手を繋いだり抱き締めたりする程度の付き合いが普通だと思っただけで、こ、こんな、この世界の変態ちっくな普通になりたかった訳じゃないんだあぁあ!
 えっちな事までこの世界基準に会わせろとは一言も言ってなーい!!

「お、俺の世界ではこういうのはしないぃ!」
「でもここは僕の世界だ。ツカサ君の世界とは違う異世界なんだよ? だったら、ツカサ君も浮いちゃわないように僕と“普通の恋人”にならなきゃねえ。あの軟派男みたいな奴に絡まれても、今度はちゃんと拒否できるようにさ……」
「う……」

 こ、こわい。声がどんどん低くなってく……。
 これもう怒ってるよね。完全に怒っちゃってるよね……。

 そりゃまあ今回は色々な事でご心配をおかけしてしまったが、だからってコレがなんの対策になるんだかさっぱり判らない。
 つーかこれ、お前らがただヤりたいだけだろ!?

「あの時みたいに、もう一回体に教え込んだ方が良いかな……?」
「ええ!? じょ、冗談じゃない! こんなん、お前らがただヤりたいだけ……」

 あっやべっ、思ってた事つい言っちゃった……。
 反論されるかな、と恐る恐るブラックの顔を見上げるが――ブラックは、何故か怒るでもなく、ただ笑顔で俺をじっと見つめていた。

「……そうだよ。僕はツカサ君とセックスがしたい。でも、それは恋人だから当然でしょ? ツカサ君も僕の気持ちを解ってくれてるって事はもう同意も同然だし、だったら相思相愛なんだから僕にぐちゃぐちゃに犯されてもツカサ君は嬉しいよね……? 僕はどこかの軟派男とはちがうもんね……」

 そのナンパ男はどっちのナンパ男のことを言ってるんだ。
 っていうか「ぐちゃぐちゃに犯す」って言ってる時点でオメーはリオルよりタチ悪いんですけど! あいつ一応「やりたくないが」とか言ってたし、その前だってちょっかい掛けて来ても抱き着いたりしなかったし、実際にアレは最終手段だったからね!? 意外と紳士だったからね!?
 お前らの方がよっぽどヤバ……っておい、なにズボンに手ぇかけてんだ!

「わーっ!! 脱がすなー!」
「んもーツカサ君たら照れちゃって可愛いなあ~! でも、照れなくったっていいんだよ? やっと貸家に帰って来れたんだから……これからは、人の目を気にせず沢山セックス出来るから、照れる必要なんてないんだよ……? 良かったねえ……ふ……ふふ……」
「ひ……」
「ツカサ……この前のお詫びに、声が枯れるほど良くしてやるからな……」

 ……リオルに誘惑されてた方がまだマシだったんじゃないかなこれ……。

 とは言え、リオルは「俺には【誘惑】が効かなかった」的な事を言ってたし……じゃあ、俺って、こんな事されても術を跳ね返すくらいこいつを…………

「ツカサ君?」
「な……何でもない……何でもないぃいいい!!」

 わーーーーー!! やだやだやだ考えたくない! 考えたくないーーー!!

 なんでこんな最悪なタイミングで気付いちゃうんだよ俺の馬鹿――!!

「さあツカサ君、せっかくだから一発済ませちゃおっか」
「デザート、とやらにちょうど良いな」

 ああもうクロウったら俺の失言覚えちゃって。
 ブラックもストレッチでもするかのような言い方やめんか。

 ううう……なんで俺、こんなオッサン好きになっちゃったんだろう。
 なんで変態をアシストするような熊さんを受け入れちゃったんだろう。

 でも、考えて解れば苦労はないよなあ…………。

 嫌いになれる所なんて沢山あるのに、それでも少しも嫌いになれない。そんなの意味わかんないし、好きにならない方が良かった相手を好きになる原因なんて、俺には見当もつかない。
 だけど、惚れちゃったもんはしょうがない訳で……。

「ツカサ君……。ほら、ツカサ君の可愛い顔みせて……」

 サブイボが立つようなセリフを言われてキスをされても、嫌だと思えない。
 こんな、どうしようもないオッサンなのに。
















※次の章は採取したり調合したりヤッたりラブラブしたりあの人は今だったり。
 ちょっと不穏な空気が流れてきたりしますが、基本のんびりでいきまふ。
 説明し忘れたような点が多々あるけどこ、今後…今後説明を……_(:3 」∠)_

 妖精に関しては後でまた少し出て来ると思いますが、この世界には
 ・神様が曜気(自然の力)から作った、無邪気な妖精(元素妖精)
 ・精霊的な魔族より派生(進化)した、残虐性や様々な欲望を持つ妖精
  の二種類の妖精が居ます。
 元素妖精の後に魔族の妖精が誕生したのでややこしい事になってますが
 そのあたりの理由も後々明かされるので宜しくお願いします(`・ω・)

 ちなみに本来のマッサリオルには二重人格とかいう伝承はありません…
 もちろん錆びを喰う設定も無いです。オリジナル改変万歳。
 しかし家事を手伝ってくれる妖精って結構沢山居て凄いですよね!
 マッサリオルも勿論その一人なのですが、女好きの家事手伝いはさすがに
 こやつくらいでしょうね…家事妖精も女好きなんて、さすがイタリア……
 
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