異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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白砂村ベイシェール、白珠の浜と謎の影編

18.まるで呪いのような 1

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 ああ、そうこう言ってる内に廃墟の入り口が目の前に……。

「一階は意外と床板残ってんだなあ。でもツカサちゃんドジっ子だから、床を踏み外さないように気を付けてね~」
「だーもーいいから離せ!」

 いい加減にしないと本気で怒るぞと拳を振り上げると、リオルは渋々俺から手を離した。そこにすかさずブラックが入って来て、俺の肩をがっちり両手でホールドする。クロウもリオルと俺の間に割り入って来て、守りは完璧だ。

 そんな俺達の様子を見て、リオルは苦笑するとやれやれと肩をすくめた。

「うわー……ホントにツカサちゃんへの執着は凄いなー……。つーかオッサン達、ガチで呪いとかに掛かっちゃったらどうすんのよ。オッサン達ツカサちゃんに捨てられたら自殺でもしちゃうんじゃないの?」

 ステップを踏むように器用に床穴を避けて後退するリオルに、ブラックは俺をぎゅっと抱きしめながら、低く地を這いずるような声で呟いた。

「何を言ってる? 捨てられるって……逃がすわけないじゃないか……。もし呪いに掛かったら、ツカサ君が嫌がらないようになるまでずうっと監禁して、僕の事をまた好きになってくれるように何度も何度も何度も何度も何度も愛してあげるから何も問題はないよ……?」
「ひ……ひぃい…………」

 解っちゃいたけど俺に逃れる術は無いのか。
 元々最低なコイツを嫌いになるってのが想像つかないんだが、あれかな。部屋に監禁されて、俺の嫌いなメシを慣れるまでずーっと食わされるみたいなもんなのかな。そんな状態でずっと犯されるとかそう言う事? そりゃやだよ。死ぬよ俺。
 愛が重いとかそう言う以前の問題過ぎる。
 あとクロウも頷くのやめて。俺の味方はどこにもいないの。

「うぇえ……ツカサちゃん……ほんとにこのオッサン達のどこがいいの……?」
「俺にも良く解りましぇん……」

 俺もこいつら最低だと思うけど、嫌いになれないんだから仕方ない。
 涙を流しながら自分の業の深さを悔やむが、時すでに遅しである。

「まっ、それは置いといて……廃墟でなにすんの? マジ肝試し?」
「アンタ変わり身はや……っ」
「まあまあ。で、なにすんの。俺で良かったら手伝うよー?」

 明らかに俺だけを見ながらニコニコ笑うリオルに、ブラックは威嚇しながら俺を抱き締めて、リオルから少しでも遠ざけようと体をひねる。

「誰がお前みたいなナンパな若造に!!」
「これ以上付き纏うのなら、オレが鉄拳制裁……」
「こら! ちょっと待てっつの! 手伝ってくれるのはありがたいだろ!」

 要するに、アレだろ。俺とリオルが近付いてるのが駄目なんだろ?
 だったら二人一組で手分けして探す事にすればいいじゃないか。二人のどちらかがリオルに付いて彼の動きを見張ればいい。そうすれば、手数も増えるし探索時間も減るしで良いことづくめじゃないか。

 ……というような事を二人に耳打ちすると、二人は不満たらたらの顔だったが、このままリオルを放って置いて変な事をされるよりは良いと思ったのか、不承不承ふしょうぶしょう頷いて、じゃんけんをし出した。

「なに。ツカサちゃん、オッサン達なにやってんの」
「じゃんけん。負けた方がアンタと一緒に探索するんだよ」
「え? 俺、ツカサちゃんと一緒じゃないの?」
「逆に訊くけど、さっきのやりとりして一緒に探せると思う?」

 俺の身にもなってくれとマジのトーンでリオルに詰め寄ると、相手も流石に事の重大さがわかったのかアハハと笑った。
 そんなやりとりをしていると、オッサン二人のじゃんけんに決着がついたようで、クロウがガラになくクソッと声を上げた。

「素早さでオレが負けるとは……ッ」
「ふ、ふふふ、僕に勝とうなんて百年早いよ……」

 そう言いながら、くるりと俺に振り返ったブラックは……犯罪者としか言いようのない、物凄い表情で笑っていた。
 思わず固まる俺とリオルに、ブラックはゆらゆらと近付いて来る。

「ふふふふ……さあ行こうかツカサ君……」
「あ、あの、いやあの、やっぱ負けた方が勝ちっていうか」
「さあ行くよ、僕達は二階をさがそうねえ!」
「あああああ助けてぇええええ」

 腰を痛いくらいに捕まれて軽々と持ち上げられてしまった俺は、クロウとリオルに助けを求める。が、しかし、二人は「無理です」と言わんばかりに、残念そうに首を振るだけだった。ちくしょう……なんでこう俺の周りには熱血主人公みたいな人が居ないんだ。みんな物わかり良過ぎぃい……。

 つーかお前が発端なんだからちょっとは抵抗せえよリオル!
 くそー、生きて帰ったら絶対一発殴っちゃるううう!

 ブラックは軽々と俺を抱えて二階まで昇り、さっさと二人の見えない所まで移動してしまう。こうなるともう怖いも何もあったもんじゃなくて、俺はいい加減離せとブラックに肘鉄ひじてつを喰らわせた。

「うぐっ!!」
「うぐっ、じゃねーよ! アホな事で怒ってないでさっさと探すぞ!」

 正直今はお化けよりもこのオッサンの方が怖いわ。
 気の付加術である【ラピッド】を自分に掛けてから、俺は恐る恐る前へと踏み出した。……板を踏み外して大怪我をする前に、少しでも体を機敏にしておこうってハラだが、出来ればそんな事にならないと良いな……。

「うぅ……ま、いっか……。ツカサ君、とりあえず近い部屋から探してみようか」
「う、うん」

 目の前の床板を確かめつつ、まずは一番近い部屋に足を踏み入れてみる。
 そこはどうやら書斎のようで、本などはもう無くなっていたが、備え付けの古い家具はまだ形を保っていた。屋根が崩れてないからかな?
 ここならある程度は自由に行動できそうだ。

 とは言え慎重に歩くと、俺とブラックはとりあえず何か残ってそうな書棚の引き出しやチェストをあさってみる。

 前村長は、追放されたくせに目ぼしい家財道具はきっちり持って行ったのか、思った以上に物が無い。たまに物があると思えば、すぐに代わりを買える古い蝋燭だったり、他の街で入手できるような物だったりする。
 まあ端的に言うと、金目の物は見事にない。

 ちゃっかりしたやっちゃな……と思いながら書棚の最後の引き出しを開けると。

「ん…………」

 そこには、小さな箱が一つだけ置かれていた。
 開けてみるが、布が敷き詰められているだけで何もない。しかし、布の真ん中に何かを嵌め込むようなくぼみを見つけて……俺はが何かを悟った。
 これ、中に指輪が入ってたんだ。
 でもそれが無いってことは……パーテルが持って行ったんだろうか。

 ブラックの方でも同じような「の箱」を見つけたらしく、それらが明らかに女性物であることを知った俺達は、暗澹あんたんたる気持ちになった。
 ……パーテルは、ケーラーさんの宝飾品も全て持って行ってしまったんだと。

 …………いや、そりゃ、当然だけどさ。
 仮にも夫婦だったんなら、嫁の所有物を受け継ぐのは当然の事だろう。だけど、パーテルはケーラーさんに酷い仕打ちをしてたってのに、その上彼女のアクセサリーすらも奪って行くなんて…………。

「箱をそのままにしておいたって事は、中身だけ持って行って売ったんだろうね。手元に残しておこうと思うんなら、箱ごと持って行ったはずだから」
「…………」

 マジでそうなのかな。
 だとしたら、悲しすぎるよ。そりゃ、売ったって良いけどさ。でもなんだよ、ちょっとくらいケーラーさんの事を考えてもいいだろ。
 なんでそんなに嫌えるんだよ。元はと言えば、アンタが好きになってナンパした完璧な奥さんだったってのに…………。

「ツカサ君?」
「あ、いや、なんでもない……。次の部屋いこ」

 俺は自分の考えを振り切って、何でもないように装うとブラックにそう言った。
 まあその、そう思うのはまだ早いよな。もしかしたら、パーテルだってケーラーさんの一番大事な物くらいは形見として持って行ったかも知れないし……相手をいちからじゅうまで酷い奴だって思い込むのはいけない事だ。

 もしかしたら改心したのかも知れないし、宝飾品だって必要に迫られて売る為に裸で持って行ったのかも知れない。

 だったら、パーテルにだってまだケーラーさんへの思いが有った可能性もある。
 そりゃ酷い怪我はさせられたけど、それで自分のした事を反省したんなら、妻への謝罪の気持ちとかで妻の私物だって持って行ってるはずだ。
 決めつけてはいけない、と俺は同情を振り切ると、ブラックと一緒に残りの部屋も慎重にくまなく探した。パーテルのケーラーさんへの思いを探すように。
 しかし……結果は無常な物だった。

「…………なんで、ケーラーさんの私物だけ残ってるんだ?」
「……多分、持って行きたくなかったんだろうね」

 言いにくい事をさらっと答えるブラックに、何とも言えない気持ちになって俺は再び気分が落ち込んでしまった。
 ……信じたくなかったけど、やっぱりそうだったんだと。

 全ての部屋を見てみたが、やはり彼女の私物……金にならないと判断されたのであろう、ぬいぐるみだとか古びた手芸品は……全て残されていた。
 その中には編み掛けの輪のような物も有ったが、それすらも無残に床に打ち捨てられて、毛糸も最早ホコリにまみれて色褪せてしまっていた。

 彼女が持っていた手作りであろう小箱や手芸用具や……とにかく、年季を感じる“売れなさそうなもの”は、当てつけのように床に放置されていたのだ。
 特に、ぬいぐるみは……故意に誰かに傷つけられていた。四肢は引き千切られ綿わたは引き摺り出されて、顔はズタズタに切り刻まれて……という具合に。
 それだけでパーテルのやった事が解ってしまって、泣きたくなった。

 なんで、好きだった人の遺品にここまで出来るんだと。

「ツカサ君…………」

 俺の気持ちを察したのか、ブラックが後ろからぎゅっと抱きしめて来る。
 今の俺ではその腕を拒めず、ただなすがまま抱き締められているしかなかった。

「……なあ、ブラック…………お前がもしパーテルの立場だったとして、こんな風な事をやりたいと思うもんなのか……?」

 同じモテる方の男として、もし俺がアンタを殺しかけるほどに激昂してしまったとしたら、さすがにブラックも怒るのだろうか。
 ブラックの太くてたくましい腕に手を添えて体を預けると、ブラックは俺を更にぎゅうっと抱き締めながら唸った。

「僕には良く解らない感覚としか言いようがないけどね。だって、僕なら嬉しいよ? ツカサ君が僕の事を殺して独占したいほど好きって、この上なく興奮するしとっても嬉しいし……なにより……そんなツカサ君を憎むだなんて、勿体ないよ。僕なら……僕のために怒って暴れるツカサ君を組み敷いて犯して、嫌ってほどに僕の気持ちをぶつけてあげたいなあ……。嫌がってても感じて泣いちゃうツカサ君、とっても可愛いだろうなあ……ふ、ふふっ、ふはは……!」
「おまえにきいたおれがばかだった」

 もうやだ何この人。ほんとヤダ。逃げたい。こわい。
 馬鹿な事言ってないで一階に戻るぞと暴れると、ブラックはウヘヘと気味の悪い声で笑いながらも俺を離した。
 この野郎、俺がドンビキしてるのを悦ぶってなんなのよもう。

「とにかく戻るぞ! クロウ達もだいぶ探索し終えてる頃だろうし……ここが旧村長宅だって言う確証を持てて、二階には誰も踏み入れてないって事を知れれば長居は無用だ!!」

 さっさと行けと怒鳴ると、ブラックは口を尖らせてねつつも歩き出した。
 まったく……ほんとに何でこいつはこうなんだろうな……。
 俺が嫌がっても興奮して怒っても興奮するってなんなんだよ、全部性欲に持って行かれて反撃する手段ねーじゃねーかこのやろー。

 ……でもまあ、嫌われてないだけいいのかな……。

 そう思って、ブラックの背中に続こうとした、と――――同時。

「…………っ!?」

 何故か、体温が急に上がったような感じがして、急に息が詰まった。

「っ……ぇ……!?」

 何が起こったか解らず困惑する俺を余所に、心臓がドクンと脈打つ。
 それと同時に、ズボンごと股間をきゅうっと押さえつけられるような感覚が俺を襲い、唐突なその感覚に俺は思わず声を出しそうになってぐっと堪えた。
 だけど、それをあざ笑うかのように股間の妙な感覚を保ったまま、今度は胸にてのひらが這い寄って来た感じがして。

 こ、これ、まさか淫魔の……でもなんで、なんで今……!?

 な、なんで…………どうしてこんな急に……!











※もちろん次はエロですご注意を
 
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