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白砂村ベイシェール、白珠の浜と謎の影編
9.怖い怖いと思っているから怖くなる訳で1
しおりを挟む※すんません何も進んでないです(;^ω^)<次は話が進みます
そんな訳で、俺はブラックとクロウに今起こった事を正直に……いや、えっと、肩を抱かれたとか頬を触られたとかは話してないが、とにかく穏便に話した。
「チッ……こんなみすぼらしい廃墟に現れるモノなんて、触手か色情魔くらいだと踏んでたのに……まさか不届きな輩がいるなんて……! くそっ、先回りしてぶち殺しておくべきだった……ッ」
「不届き者はどっちだ」
思わず突っ込んだが、ブラックは親指の爪を噛みながら、やぶ睨みで周囲を警戒して話を聞いてくれない。つーか色情魔も不審者じゃねーかはったおすぞ。
ジャンプしてあのくせっ毛赤頭に届くだろうかと思案していると、いつの間にか俺の隣に居たクロウが顔を覗き込んできた。
「ツカサ、良い匂いがする。花の匂いか?」
「え、そう……? そこの花畑の香りが移っちゃったのかな?」
「ふむ……? ツカサは花にも好かれるのだな」
ちょ……待て待て、嗅ぐな。鼻押し付けて頬とか首筋とか嗅ぐな!!
人が見てたらどうすんだ!
「おいコラ駄熊ァ!! なに当たり前のようにツカサ君のにおい嗅いでんだ!」
俺が引き剥がすまでも無く、ブラックが俺の体を奪って後退する。
そんなブラックに、クロウは僅かに眉を顰めて腰に手を当てた。
「口以外ならツカサにキスしていいと言ったのは、お前だぞブラック。なのに何故オレがツカサとひっついてはいかんのだ」
「キスして良いとは言ったが、いちゃいちゃして良いとは言っとらん!!」
「そんな無茶な……」
「元はと言えば、ツカサ君がこんな駄熊を相手にするからいけないんだよ!? そりゃ無茶くらい言うよ!」
それを言われちゃ返す言葉もございませんが、しかしキスはオッケーなくせに、イチャつくのは駄目とはこれ如何に。
キスってもうイチャついてるのと一緒じゃないのか……?
「と、に、か、く、僕は反対だよ、ツカサ君は僕の物なのに、何でそんな軟派な男に貸し出さなきゃいけないんだい。そんな事するくらいならこの村滅ぼしてやる」
「おま……そういうの本当やめて! いやあのね、俺だって嫌だし、そう言う事はその……ちゃんと断るつもりだけど……」
「ほんと?」
俺が「しない」と言った途端に、情けないしゅんとした顔で覗きこんでくる中年に、溜息を吐きたい気持ちになりながらも「そうだよ」と頷いてやる。
「しないしない。今度会ったら断るから」
「ほんとのほんとに?」
「ホントホント」
ああもう、さっきまで魔王みたいな顔してたのはどこのどいつだ。
犬耳でもついてたら間違いなく垂れているだろうなと思いつつ、俺は求められるままに頭を撫でてブラックの機嫌を直してやった。
頭を撫でるだけで機嫌が直るっていうのも、簡単なんだかどうなんだか……。
とにかく話題を戻そう。
俺はブラックに抱き締められたまま、改めてリオルの話題に戻った。
「で……本題に戻すけど、実際村の人に話を聞いた方が良いと思うんだよ。その中でも、あのリオルって奴は何か知ってるみたいだったし……デートはしないけどさ、話は聞いてみてもいいんじゃないか?」
「うむ、自分から言い寄って来たと言う事は、何か有益な情報を持っているに違いない。例えツカサと逢引……でえとをしたいからと言っても、俺達が居ることを知っているなら、まんざら情報が嘘と言う訳でも無かろう」
さすがはクロウ。冷静な判断力だ。
物凄く嫌な想像だが、仮にリオルが俺を本気でデートに誘おうと思ったとしても、ヤバそうな中年二人を認識していたのなら、嘘の情報で釣り上げようとは思わないはずだ。だってそんな事したらこいつらが何するか解らなくて怖いもんな。
俺だって、背後に変な中年を従えた女子なんてナンパしたくないし……。
ナンパって本来、女子に軽く声をかける行為だからね!? 自分の生命の危機を感じながら女子をハントする事じゃないからね!?
だからまあ、リオルが嘘の情報でこっちを釣ろうとしたとは考えにくい訳で。
その事はブラックも納得が行ったのか、俺を抱え直しながらふむと声を漏らす。
「確かに、僕達の関係を勘繰っていたのなら、中途半端な嘘はつかないか……」
「だからさ、明日リオルを探してみるのはどう? もちろん村の人達への聞き込みとかも継続して行う方向で……」
「今のところ有益な手がかりが無いのだから、そうするしかあるまい」
「むう……」
クロウの結論に、ブラックは微妙に納得いかないと言う感じで唸っていたが……それ以外に選択肢がないのは理解していたからか、渋々と言った感じで頷いた。
「……解った。でも、探す時は僕も一緒だからね、絶対に一緒だからね!!」
「はいはい……」
まあでもその方が安心だよな。
俺だって、毎度毎度お仕置きと称したえげつないプレイをされるのは勘弁だし、その……二人が一緒に居てくれるんなら、思わぬセクハラもされなさそうだし。
単独行動する時はやっぱり催涙スプレー的な物を持ち歩かなきゃいけないよな。うん、やっぱあのキノコを探してみなければ。
……ああしかし……こんな事考えるようになるなんて、嫌だなあ……。
でも、俺の立場上仕方ないし……はあ、本当どうにかしないと……。
こんな事が続いてたら、男としての何かを失っちまいそうで怖いよ。
「今日はもう一度聞き込みを行ってみるか」
「そうだね。ツカサ君、もう僕達から離れちゃ駄目だよ?」
肝試しさせたのはアンタらなんですけどね! と思いながらも、俺はお口をチャックして、深々と頷いたのだった。
◆
その後、一日中村で聞き込みを行ったのだが――――結局、リオル以外の有力な情報は得られなかった。元々「謎の影」という存在すら認知度の低い物だったし、離婚の呪いも未だに解明されていないものなのだ。
何も解らず怯えている人達に「ヒントを出せ」と言っても、難しいだろう。
刑事ドラマで良くある「あっ、そういえば……!」なんて台詞は、現実ではそう都合よく出て来る事は無いのだ。
仮に出て来たとしても、そのほとんどは本当に関係ない情報だしな。
でも相手も「何でも良いから」と請われたから話したのだから、その情報が関係ない物だったとしても責める事は出来ない。
まあこの村での聞き込みに関しては。その「何でもいい話」すら出て来なかったので、本当にヤバいのだが。
だって丸一日聞き込んで情報ゼロだよ。思いつきの情報すらないんだよ……!?
これがゲームだったらどう考えてもムリゲーでしょうよ!
おかげで徒労感が酷くなっちゃって、もう宿に帰って来るなり三人ともぐったりして、一斉にそれぞれのベッドに倒れ込んでしまった。
「はぁ……もう今日はクタクタだよ……人に聞きまわって潮風受けまくって……。海って、長時間触れてるとこんなに疲れる場所だったんだね……」
死にそうな声で枕に顔を埋めながらブラックが言う。
海水とは縁遠い生活をしていたせいなのか、ブラックは俺達の中でも特に潮風にやられたらしく、珍しいくらいに疲れていた。
確かに、潮風って物はずっと当たってると疲れてくる人もいるけど、慣れてないとこんなに疲労するものなのか。
右隣のベッドでぐったりしているブラックにちょっと同情していると、左隣のベッドでごろんと横たわったクロウも鼻をしきりに擦っていた。
「鼻が潮のにおいで詰まりそうだ……。海の近くに滞在するのは久しぶりなせいか、加減が解らなくてオレも疲れてしまったな」
加減って、鼻を効かせる加減かな?
クロウもずっと鉱山で労働していたから、感覚がちょっと鈍っちゃったんだな。
でも、正直疲れてくれて良かったなと思う……いやだって、これでこのオッサン達が元気だったら、俺多分またセクハラされてただろうし……。
いやー、ありがとう潮風。ありがとう村の気候。
俺はガキの頃から磯で一日中遊ぶ事も有ったから、実は全然平気だもんね。
なんなら夜中の散歩にだって出ちゃえますよ。
……まあ、二人の前では絶対に言わないですけど!
「ツカサ君は疲れた?」
ブラックにそう訊かれて、素直に頷く。
すると、ブラックは小さく溜息を吐いてずりずりと這いあがった。
「う゛ー……じゃあ、今日はもう寝て……明日あのクソナンパ野郎を探すか……」
「そうだな、オレも今日はもう寝る」
「あ、部屋のランプは俺が消すから。二人は枕元の明かりを消してくれよ」
そう言いながらベッドから立ち上がると、ブラック達はベッドに埋もれながら、力なく頷いて枕元の明かりを消す。どうやら本当に寝る気のようだ。
よっしゃよっしゃ、いいぞ、それでこそ中年だ。
俺は久しぶりに絶対的な安眠を約束された事が嬉しくて、部屋の明かりを消すと自分のベッドに潜り込んだ。
これでようやく熟睡できるぞ……と暗闇の中で目を閉じて、俺は安らかな眠りを貪ろうと枕に頭を預けた。
……しかし、二人分の寝息を聞きながらしばらく目を閉じている最中。
何か、部屋のどこかで小さな物音が聞えたような気がして――――俺は半分眠りかけていた意識を浮上させてしまった。
→
※次ちょっとえっちかも
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