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湖畔村トランクル、湖の村で小休憩編
5.冒険するにも金が要る 1
しおりを挟む※今回移動しただけです、もうしわけねえ……(;^ω^)
翌朝。
俺達はとりあえず食料を調達するため、朝の早い内からトランクルを出発した。
今日は食料や必要な物を買い込む予定だったので、藍鉄に同行して貰っている。だけど、今回俺は藍鉄には乗らず、熊の姿になったクロウの背中に乗って行く事に決めていた。
……なぜなら、ケツが痛いからだ。
昨日の夜有った事は思い出したくない……というか実を言うとブラックとえっちしたら、大概後半部分の記憶がすっぽ抜けておぼろげになるので、覚えてるもクソもないんだが、まあそれは置いといて。
久しぶりの気兼ねない空間だったからと言うのは解るが、本当にアイツは酷い。なんだあの言葉責めは。一晩おいて冷静に考えたら愛ってなんだレベルだわ。
あの野郎、移動を終えてからの久しぶりのえっちだったからって、はりきり過ぎだろ。この腰の痛さは絶対俺が気絶してからも腰振ってやがったわアイツ。
俺の同意も無く睡眠姦まがいのオナホ扱いしてたってかコラ。
本当マジで愛ってなんだよって嘆きたくなるんですけど!
とにかく、そんなこんなで俺はケツが痛かったし、ブラックとタンデムするのは今日は絶対嫌だったので、ケツへの刺激が少ないモフモフの毛皮で覆われたクロウにタクシーをお願いしたのである。
ただ、藍鉄は俺が乗らないと解ってしょんぼりしていたが……。ごめんな藍鉄、村に帰ったら藁で体をごしごししてやるからな。
「ツカサがオレの上に乗っているのは、やはり興奮するな」
森を抜けて、街へ続く道を歩いてる途中、俺を乗せたクロウが鼻を動かしながら上機嫌と言った様子で頭を振る。
とても可愛いが、熊も馬みたいに騎乗されて喜ぶものなんだろうか。いやまあ、一文字違いだし、熊も時々は人と触れ合いたかったりするのかもしれんが。
まあ何にせよ上機嫌でいてくれるのはありがたいと思い、俺はクロウの広い項を撫でつつ言葉を返した。
「人が乗るとやっぱり気分が違うのか?」
「ン? 人? そうだな……ツカサ以外は別に嬉しいとも思わんし、鬱陶しいだけだが、それほど気にする事でもないぞ。人の重さなどオレ達には些細な物だ。何人乗ろうが歩けんと言う事は無い」
んん?
なんか微妙に会話が噛み合ってない感じがするが……深く追求するとヤブヘビになるような気がしたので、俺はあえて突っ込まない事にした。
「まあ、それは置いといて……運んでくれてありがとな、クロウ」
「気にするな。あの色情狂がツカサを簡単に離すわけがないからな。どうせ毎度の如くツカサを困らせるのは解っていた。ツカサは悪くないぞ。尻の穴を酷使されたからと言って、恥ずかしがる事は無い。男同士の交尾はそれが普通。男は女より肉の厚みがないから痛くなって当然だ」
「う、うう……言わんといてぇ……」
やめて、直球で言うのほんとやめて!
やだもう俺ネットでホモネタ見てもガハハこやつめって笑えない!!
「ちょっとそこ、二人だけで喋らないでくれるかなあ」
「お前のせいでいらねえ話してんだよ!!」
タンデムしてたらお前の顎に頭突きしてた所だわ。
くだらない事言ってんじゃねえと憤りつつ、しばし草原の中にある道を歩いていると、なにやら前方に街が見え始めた。
あれがマイルズさんが言っていた近くの街【セイフト】だろうか。
トランクルのある【セレーネの森】がまだ背後に見える距離だから、確かに人の足で歩けば半日程度で到着できそうだ。走ればもっと早いかな?
この辺りはモンスターも出ないっていうし、これなら気軽に出かけられそうだ。
……でも、街が近いってのもちょっと考え物かな。
トランクルは村全体が観光地だけど、一日中遊べる施設がある訳じゃない。当初は保養地みたいな扱いだったと言うが、実質観光資源として活用できる物は湖だけだ。……となると、湖だけ見れたらさっさと帰るって層が多そうだよな。
泊まりがけに観光に来る人だって、店の少ない村より娯楽が多い街に宿を取ってしまうだろうし……のどかなだけが取り柄の村では、集客は見込めない。
そんな観光地なのに、購買意欲をそそる土産物も無い、長く滞在してくれる客も居ないじゃ廃れたって仕方ないよな……。
つーかそもそもの話、酒場だって一軒二軒の規模だったし、商店も無い村なのにお金が落ちるはずがない。宿泊施設も小さな宿屋が一軒だけだ。と言う事は、静養目的であの村にやって来る人も少ないだろう。
何たってここは王都から結構離れている。交通の便が悪いのだ。
俺達が行ったゴシキ温泉郷も王都からは結構な距離だったが、それでも「どちらか選べ」と言われるなら、俺は迷わずゴシキ温泉郷を選ぶだろう。
だって、ゴシキには温泉も名物も名所もあるもの。
…………あの状況で「村を建て直してくれ」と訴えるなんて、この世界の役人には酷ってもんじゃないのかな……。
「こんなに近くに街が在る以上、普通の宿だけじゃそりゃ駄目だわ……」
俺の世界では「なにもない山奥の民宿でリフレッシュ!」なんてのが流行ってるけど、ありゃ都会の奴が気軽に田舎の雰囲気を味わいたいとか、厭世的な人が俗世から離れるためという需要があるから成立しているのであって、この世界ではありふれてる「何もない村」に来たい奴なんて少数派だろう。
観光地ってのも、考えてみると難しいよな……。
「……って、そんな事考えてる場合じゃないか……」
「ツカサ、どうした?」
「いや、何でもないよ。もうすぐ街に着くから、そろそろ降りようか」
一旦歩みを止めて、俺とブラックは地面に降りる。
何故かと言うと、人のいない場所でクロウに人型になって貰うためだ。
クロウはまだ姿を変化させるときに高確率で来ている服を破ってしまうらしいので、人気のないこの辺で安全に姿を変えてもらうしかない。
さすがに街中をこんな大きな熊さんが歩いていたらみんな驚くだろうし、何か有って公衆の面前で人化した時に、服を破きながら素っ裸になられたら色々と困るしな……。
……ちなみに、クロウの服一式は俺が持っている。バッグから取り出して渡すと、クロウはこともあろうか俺の目の前でドロンと煙を立てて変身しやがった。
「わああ!! なんで真正面で変身すんだよ!!」
見たくない物が見えると顔を覆った俺に、クロウは真面目な声で返してくる。
「どうせならツカサにまた裸を見て貰いながらがいいと思って……」
「駄熊ぁああああ殺されたくなかったらさっさとその木偶の棒隠して服を着ろおおおおおお!!」
ちょっと今の発言はブラックに同意せざるを得ないかなあ~……。
いや俺もクロウの体は格好いいとは思ってますけど、下半身までこれみよがしに見せつけられるのはちょっとなぁ~!
「ツカサが見てくれない」
「見てくれない……しゅん……じゃねえぇえよ小枝もぎ取るぞこの腐れ熊!!」
顔を覆ってるので解らないが、ブラックのブチギレツッコミと共に布が擦れる音が聞こえたので、もうズボンは穿いてくれたようだ。
恐る恐る目の前のクロウを見ると、相手は上着を着ている最中だった。
ほっ、よかった……もうほんと日を置かずに何度もモザイクかけるレベルのモノを見せつけられるのはうんざりですよ……。
「ツカサ、格好いいか?」
「う、うん。相変わらずすっごい筋肉してる……鍛錬ナシでこれは凄い……」
「あーっ、ずるい!! ツカサ君昨日はそんな事言ってくれなかったじゃないか! じゃあ僕も今ここで……」
「わーっ! バカッ、こんな所でストリップすんじゃねええ!!」
街が近いって言ったでしょこのオッサン達はもう!!
慌ててブラックの肩を引っぱたくと、俺は二人が追撃して来る前に藍鉄の体の影に隠れた。そばにいたら何されるか解ったもんじゃないからな。
藍鉄も俺の怯えた様子を感じ取ってか、「二人から守るよ!」とでも言うように鼻息を荒げて前足で何度か地面を踏みつけた。ああ、ありがとう藍鉄……本当君達モンスターは優しいなあ……。
「ツカサ君、いつも思うんだけどモンスターを盾にするのは卑怯じゃない?」
「うるせー! アホな事やってないで早く街に行くんだよぉ!」
こんな場所に居るから余計な欲が湧くんだ、もうさっさと街に入った方が良い。
俺は藍鉄を壁にしてじりじりと移動しながら街へと歩を進めたのだった。
◆
小さな街【セイフト】は、元・禁足地だった【セレーネの森】の近くにある街なだけあって、小規模な割には施設や店が充実していた。
たぶん、王様の宿泊施設が有ったからだろうけど、それに加えて海辺の街への中継地点にもなっているからってのもあるのかもしれない。
セイフトには海から運ばれてくる品物もあるし、近隣の村や海辺の地域へ向かう人達のいい拠点になってるもんな。
貿易都市とまでは言わないみたいだけど、俺達からしてみれば物凄くありがたい場所だ。なんてったって、日用品が全部そろうからな!!
「えーっとまずは選ぶのに時間がかかりそうな……調理器具とか掃除用具かな」
「じゃあ、金物屋か鍛冶屋だね。使う物に別段こだわりがなければ、量産品が置いてある金物屋で良いと思うけど」
「んじゃ金物屋でいいか。ってか、武器屋とか防具屋とかとはまた違うんだな」
「日常の暮らしで使う物をなんで冒険者用の店に置くんだい?」
……そりゃまあそれもそうか。
でも、俺の読んでた異世界小説だとそんなに店が分かれてなかったからなあ。
あれは説明の手間を省くためだったんだろうか、現実ではまあ色々分かれてても「専門店」って扱いだし特に気にならなかったが、小説で読んでるとわりと混乱したりするもんなあ。
色々と考えつつ、俺はとりあえず目に付いた金物屋に入り、俺の携帯調理器具セットには入っていない用途別の包丁や厚いまな板、その他の必要そうな器具や庭を綺麗にするための鎌や剪定ばさみなど、貸家に無かったものを購入した。
いや、なんかあの貸家、錆びた鍬とかの農具はあったんだけど、何故か庭いじりの道具とかはまるでなくてさ……。庭を綺麗にするってのも本当金がかかるな。
今はロサードに買い取って貰った“妖精の骨董品”のおかげで懐が温かいが、この分だとわりとすぐ資金が底を突きそうだ。
なんたって俺達のパーティーには大食漢のクロウがいるし……滞在するんなら旅をしている時以上に出費が激しくなりそうな気がする。
「うーん……よくよく考えたら、物を揃えるってのも出費がかさむなあ……」
金物を藍鉄の背中に積んで次の店に移動する途中、俺はその事を考えてしまって深い溜息を吐いてしまう。
今は良いけど、食費やおっさんどもの酒代なんかを考えるとやっぱ心配だ。
俺の不安に件の中年二人は首を傾げていた物の、まるで簡単なことでも言うかのようにあっけらかんと俺に進言してきた。
「そんなに心配なら、冒険者ギルドで依頼でも受けてみる?」
「あ、そっか……そう言うのもあったな」
「今日は荷物があるから、すぐに依頼を達成するってのは無理だけど……受付して貰うくらいは良いんじゃないかな」
「それもそうだな……んじゃまあ、くいもん買う前にちょっと寄ってみるか」
冒険者ギルドなんて久しぶりだな。
ベランデルンの港町・ランティナ(ファラン師匠が居る街だ)に届け物をしに行った時以来だろうか。オーデル皇国ではそれどころじゃなかったから、すっかりご無沙汰だったんだよな。
どんな依頼があるかは解らないが、ブランクがあるし簡単な物から始めてみても良いかも知れない。
あ、でも……薬草採取とかの平和な依頼はないんだっけか……。
「モンスター退治の依頼とかがあればいいな」
冒険者ギルドの場所を街の人に聞いて向かう途中、クロウがぼそりと呟く。
武闘派の獣人らしいなあと思っていると、俺の反対側に居たブラックも、全くだと言わんばかりに頷いた。
「そうだね。そういうのばっかりなら、楽に金が稼げていいんだけど」
…………お前ら、その発言は色々と常軌を逸してるってのは解ってますか。
普通、モンスター退治なんてかなり大変な物だと思うんですけど。
仮に低ランクのロバーウルフの大群とかでも大変だと思うんですけど!!
でもこの二人の強さは本当にハンパないから、うぬぼれるなとも言えないんだよな……。ああ、俺に突っ込めるほどの力が有れば。
とにかく、まずはギルドに行って確認してみるか。
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