516 / 1,264
湖畔村トランクル、湖の村で小休憩編
2.修行に保護者は同伴できません
しおりを挟む「元・禁足地である【セレーネの森】へようこそ、類稀なる冒険者諸君。私がこの森に住まう臆病者の隠遁魔族……ヴァリアンナ・ランパントだ。まあ、この姿の時には気軽に“アンナ”とでも呼んでくれたまえ」
男っぽい口調でそう言いながら豊満過ぎる胸を張ったのは、爬虫類のように瞳孔が細い不思議な目をした絶世の美女。
髪色は薄紫色だが毛先だけが赤く、なんだか不思議な感じがする。それに、魔族と言うだけあってクロウよりも肌の色が濃く、耳は妖精族のように先端が少しだけ尖っていた。むむ、これだけならめっちゃ綺麗で勝気な顔のお姉さまなんだけども……牡牛の角や竜の尻尾はどうしたって人間にはみえないよな……。
いやしかし、本当にヤバいくらいの美女だ。しかも完璧なバディときてる。
詰襟の服は異様にぴったりとしていて、爆乳と言っても差支えの無い素晴らしいおっぱいと男が放っておかない事間違いなしの腰のくびれは、興奮どころか「あれ……これって芸術じゃない……?」と思わず冷静になってしまうほどのインパクトを持っている。
見ただけで男の思考を停止させるほどの、妖艶な美女。
そんな人が“湖水の隠者”だなんて、勿体ないにもほどがある!!
隠れてないで出て来て下さいよ!
そのおっぱいを隠すなんてとんでもない!!
「ツカサ君……?」
「思ってません何にも思ってません!!」
心読まないでって言ってるのにこのオッサンはもう!
いやしかし冷静になるとか言って興奮しちゃったから、とにかく落ち着こう。
爆乳やくびれに目が行きそうになるのを抑えながら、俺は失礼にならないように穏やかな笑顔を浮かべてアンナさんに挨拶をした。
それから、簡単に自己紹介をする。
アンナさんは俺達を見てなんだか不思議そうな顔をしてジロジロ見ていたが、何を言うでもなくロクショウに目を向けた。
「ふむ……。それにしても、我が同胞とはいえ……ダハが数か月程度で希少種である“漆黒の準飛竜”に成長するとは思わなんだ。お前の大好きなこの少年は、お前をよく育ててくれたようだな」
「グォン!」
アンナさんがそう言うと、ロクは嬉しそうに鳴く。
しかし俺は彼女の言う事に引っかかる所が有って、アンナさんに問いかけた。
「あの……アンナさんは魔族と仰ってましたが……魔族とモンスターは別の種族じゃないんですか?」
獣人はモンスターの血が半分入っている、とはクロウから聞いていたが、魔族がモンスターを同胞と言うのはどうなんだろう。
「魔」って言うくらいだから、関係なくは無いけど……種族的には別物だよな?
俺のそんな疑問も尤もだと思ったのか、アンナさんは軽く説明してくれた。
「確かに、我々はモンスターから派生した種族ではないが、我々は獣人達と同じようにモンスターとしての血が入っているのだよ。しかも、魔族は人族よりも神族に近い存在で、モンスターに近しくなるほど濃厚に血が混ざっている。獣人とは比べ物に成らないくらいにな。だから、魔族はモンスターと同じ種族名を使うのだ。私の場合であれば“妖蛇種”であり、当然姿形は蛇に似る」
「……ええと……」
「つまり、魔族ってのは“モンスターなのに人語を話せて、人の形を取れる特殊な奴ら”が集まって出来た種族になったってこと。まあ、魔族を束ねているのは神族から派生した奴らだって話だから、違う奴らもいるみたいだけどね」
ブラックが簡単にしてくれた説明にやっと理解がいって、俺はポンと手を叩く。
なるほど。そう言う事ならわかりやすい。
でも、その浅黒い肌で神族から派生したってことは……。
「ダークエルフとは違うんですか?」
「おお、ツカサは私達の事を良く知ってるな。だが、今ダークエルフと呼ばれるのは“真祖”と呼ばれる一派だけだな。今の魔族は殆どがダークエルフの血を持つ物だが、その血は薄くなっている。……ふむ、なるほど……そこまで魔物の事をよく知っているのなら、ダハを準飛竜に育てるのも難しくはないのか」
ああ、違うんです。そうじゃないんです。俺はたまたま異世界での知識があっただけで、博識とかそう言うんじゃ……。
「そんな相手なら、己の身を変えて守り続けたいと思うのも当然の事か……。よろしい。ロクショウ、お前の決心はしかと感じ取った。出来る所までしっかりと鍛えてやるからな」
「グォオオン!!」
ロクが嬉しそうに吠える。
なんだか誤解されたままのような気がするが、まあ美女に一目置かれるってのは悪い気はしないし訂正しなくても良いか。
「ではロクショウを預かるぞ」
「はい。ロク、ちょっとの間離れ離れになるけど、毎日会いに来るからな」
そう言いながらロクの鼻先を撫でていると、アンナさんは呆れたような顔をしながら、俺達の間に割って入って来た。
「おいおい、そんな事をしていたら修業がいつまで経っても終わらんだろう。仲が良いのは結構な事だが、ロクショウの事を想うんならそう会いに来るんじゃない」
「えっ……で、でも……」
「せめて、一週間に一度にしろ。何度も会いに来られても困るから、この場では私の小屋の場所は教えんぞ。七日後にまたここに来い」
「えええええ!」
「グォオオオ!?」
そんなあ、と一人と一匹で声を上げるが、アンナさんは師匠を引き受けただけあって、甘えは許さないとばかりに腕を組みフンと鼻を鳴らす。
ううっ、大切な相棒を預ける人としては頼もしい限りだけど、沢山起きていられるようになったロクと遊べないなんて悲しすぎる……。
「ロクぅう……」
「グォオ……」
「完全に二人だけの世界になってるよ」
「……グゥ」
俺の後ろのオッサン達が何か言ってるが、一週間も会えないんだから別れを惜しんだっていいじゃないか。
ロクの兜のような顔にぎゅっと抱き着くと、相手は俺を慰めるように大きな舌でべろんと腕を舐めて来る。けれど、鳴き声は何かを決心したかのようにしっかりとしていて、それだけで俺はロクの意思が解ってしまった。
「……ロク……」
そうか、お前は決心してるんだな……。
……だったら、俺も決心しなきゃいけないか。
俺はもう一度だけロクを撫でると、アンナさんに深く礼をして傍を離れた。
悲しいけど、二度と会えない訳じゃないし……なにより、変化の術を会得しなければロクと一緒に居る時間は減ってしまうんだ。
俺がわがままを言って困らせてはいけない。
「ロク、頑張れよ」
そう言うと、ロクは嬉しそうに唸った。
「では、七日後にまたこの場所で会おう」
アンナさんはクールに微笑んで俺達に軽く手を振ると、ロクを連れて森の奥へと歩いて行ってしまった。
……後には、俺達が残るのみだ。
「…………ロクぅ……」
「ツカサ君、元気出して。ずっと会えないって訳じゃないんだし……」
「そうだぞツカサ。ツカサが寂しがったらロクショウも寂しがる」
「うん……」
両側から慰められては、俺も元気を出さざるを得まい。
そうだよな、クヨクヨなんてしていられない。ロクが修行している間、俺にだって出来る事が色々あるはずだ。
常春の国であるライクネスでなら、日の曜術師である俺は存分に曜術の修行が出来るし、何よりここは緑が豊富だ。オーデルでは出来なかった材料採取も薬の調合も存分に行えるじゃないか。
ああそうだ、妖精の国から貰って来た本を読んで研究しても良いし、何だかんだでやる事はたくさんある。
よし、俺もロクに負けてられないぞ!
ロクが変化の術を覚えるまでに、俺も何か一つマスターしておこう。
それがロクの相棒である俺の仁義ってもんよ!
「ツカサ君なんか急に元気になったね」
「え、そう? まあいいじゃん、ほら、早く街に帰ろうぜ! とりあえず今日はあの家に何が必要なのかを調べなくっちゃな!」
よーし、こうしちゃいられない、早く家に戻ってやる事やっちゃおう!
◆
そんなこんなで俺達は再びトランクルの村に戻り、改めて貸家がどんな間取りをしているのか確認する事にした。
部屋が余ってるなら、三人別々の部屋にするのもいいかなって思ってたんだが、それも部屋が幾つ有るのか解らないと始まらないしな。
という訳で三人で確認した結果、この家は意外と手ごわい事が解った。
まず一階。
玄関フロアや応接室が広かった事から、他の部屋も中々の物だと思っていたが、その通り一階だけでも掃除するのが大変そうな有様だった。
一階の部屋は応接室と食堂、それにサンルームが併設されたリビングルームや、遊技場らしき場所も有る。厨房も金持ちの家だけあってかまどは三口で、備え付けの食器棚もかなりデカかった。地下にはワインセラーらしき部屋もある。
それに、蛇口は無いけど洗面所やお風呂場も有るし、中世っぽさが強いライクネスではかなりのハイカラな家と言えるだろう。
どうも前の家主は結構な趣味人だったらしい。
ほとんど物が無くなってしまった家でも、設備を見ているだけで家主のこだわりが見て取れるけど……こんな素敵な家を手放しちゃうなんて悲しいな。
前の家主がどうしてこの家を去らねばならなかったのかと考えると、気分が落ち込むようだったが、そこを考えるのはやめておこう。
とにかく、一階だけでも広いのは解った。問題は二階だ。
果たして三人分の個室はあるのだろうかと、手分けして確認してみたら。
「…………部屋は、充分に有る。充分に有るんだが……」
「ベッドがないね」
「家主の寝室にはデカいのがあるんだがな」
そう。部屋は三人には十分すぎる程に用意されていたのだが……家主の寝室だったのであろう部屋以外は、ベッドや調度品が全くなかったのである。
……これじゃあ部屋分け以前の問題だよな……。
「うーん……とりあえず、俺達には家具や食器、それに食料とかが必要だな」
「僕はツカサ君と一緒に寝られるならベッド一つでも良いけど……食器は必要かもね。ずっと野宿用の調理器具セットを使ってる訳にもいかないし」
「オレ絨毯が欲しいぞツカサ。獣の姿で寝転がる時に床が固くてちょっと困る」
二人の言う事もごもっともだ。
せっかく長逗留するんだから、最低限寛げる設備は揃えておきたい。
「じゃあ、とりあえず……話をしに行くついでに、家具がどこで手に入るのか村長さんに聞いてみようか。……持っている金で足りればいいんだけどな」
一応路銀に困らない程度の金は持っているが、この世界で家具なんて買った事が無いのでいくらかかるのか解らない。
最低限の出費で押さえたいが、どうなることやら。
「まあどっちでも良いけどさ……とりあえず夜はゆっくりしたいよね」
そんな事を言いながら、ブラックは俺の肩にしなだれかかってくる。
疲れたのかなと思っていると、ブラックはそのまま俺に体重を掛けつつ、耳元に顔を寄せて低い声で囁いてきた。
「ツカサ君、約束したよね? あの国での事が全部終わったら、たっぷりセックスに付き合ってくれるって……」
「っ!?」
「やっと邪魔者がいなくなって落ちつけたんだから、今夜こそは逃げないでよ?」
――ベッドも一つしかないしね……。
俺の耳にねっとりとした声音を捻じ込みながら、ブラックは息を漏らして笑う。
思わず恐怖に体が強張ったが……我慢させてきた手前拒否する事も出来ず、俺はなんとも言えずに顔を歪めたのだった。
→
※今回の章は唐突にエロとかセクハラを入れようかなあと思ってまする
あとでギルドとか行って冒険もさせる予定ですヽ(*・ω・)ノ
11
お気に入りに追加
3,610
あなたにおすすめの小説
ウザキャラに転生、って推しだらけ?!表情筋を殺して耐えます!
セイヂ・カグラ
BL
青年は突如として思い出した。イベントで人の波にのまれ転び死んでいたことを、そして自らが腐男子であることを。
BLゲームのウザキャラに転生した主人公が表情筋を殺しつつ、推し活をしたり、勢い余って大人の玩具を作ったり、媚薬を作ったり、攻略対象に追われたりするお話!
無表情ドM高身長受け
⚠諸事情のためのらりくらり更新となります、ご了承下さい。
身の程を知るモブの俺は、イケメンの言葉を真に受けない。
Q.➽
BL
クリスマス・イブの夜、自分を抱いた後の彼氏と自分の親友がキスをしているのに遭遇し、自分の方が浮気相手だったのだろうと解釈してしまった主人公の泰。
即座に全ての連絡手段を断って年末帰省してしまう主人公の判断の早さに、切られた彼氏と親友は焦り出すが、その頃泰は帰省した実家で幼馴染みのイケメン・裕斗とまったり過ごしていた…。
何を言われても、真に受けたりなんかしないモブ顔主人公。
イケメンに囲まれたフツメンはモテがちというありがちな話です。
大学生×大学生
※主人公が身の程を知り過ぎています。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
【完結】ぶりっ子悪役令息になんてなりたくないので、筋トレはじめて騎士を目指す!
セイヂ・カグラ
BL
⚠縦(たて)読み推奨⚠
ひょろっとした細みの柔らかそうな身体と、癖のない少し長めの黒髪。血色の良い頬とふっくらした唇・・・、少しつり上がって見えるキツそうな顔立ち。自身に満ちた、その姿はBLゲームに出てくる悪役令息そのもの。
いやいや、待ってくれ。女性が存在しないってマジ⁉ それに俺は、知っている・・・。悪役令息に転生した場合は大抵、処刑されるか、総受けになるか、どちらかだということを。
俺は、生っちょろい男になる気はないぞ!こんな、ぶりっ子悪役令息になんてなりたくないので、筋トレはじめて騎士を目指します!あわよくば、処刑と総受けを回避したい!
騎士途中まで総受け(マッチョ高身長)
一応、固定カプエンドです。
チート能力ありません。努力でチート運動能力を得ます。
※r18 流血、などのシーン有り
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
愛されなかった俺の転生先は激重執着ヤンデレ兄達のもと
糖 溺病
BL
目が覚めると、そこは異世界。
前世で何度も夢に見た異世界生活、今度こそエンジョイしてみせる!ってあれ?なんか俺、転生早々監禁されてね!?
「俺は異世界でエンジョイライフを送るんだぁー!」
激重執着ヤンデレ兄達にトロトロのベタベタに溺愛されるファンタジー物語。
注※微エロ、エロエロ
・初めはそんなエロくないです。
・初心者注意
・ちょいちょい細かな訂正入ります。
俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~
アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。
これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。
※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。
初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。
投稿頻度は亀並です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる