異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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湖畔村トランクル、湖の村で小休憩編

2.修行に保護者は同伴できません

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「元・禁足地きんそくちである【セレーネの森】へようこそ、類稀たぐいまれなる冒険者諸君。私がこの森に住まう臆病者の隠遁いんとん魔族……ヴァリアンナ・ランパントだ。まあ、この姿の時には気軽に“アンナ”とでも呼んでくれたまえ」

 男っぽい口調でそう言いながら豊満過ぎる胸を張ったのは、爬虫類のように瞳孔が細い不思議な目をした絶世の美女。

 髪色は薄紫色だが毛先だけが赤く、なんだか不思議な感じがする。それに、魔族と言うだけあってクロウよりも肌の色が濃く、耳は妖精族のように先端が少しだけとがっていた。むむ、これだけならめっちゃ綺麗で勝気な顔のお姉さまなんだけども……牡牛おうしの角や竜の尻尾はどうしたって人間にはみえないよな……。

 いやしかし、本当にヤバいくらいの美女だ。しかも完璧なバディときてる。
 詰襟つめえりの服は異様にぴったりとしていて、爆乳と言っても差支さしつかえの無い素晴らしいおっぱいと男が放っておかない事間違いなしの腰のくびれは、興奮どころか「あれ……これって芸術じゃない……?」と思わず冷静になってしまうほどのインパクトを持っている。

 見ただけで男の思考を停止させるほどの、妖艶な美女。
 そんな人が“湖水の隠者”だなんて、勿体もったいないにもほどがある!!
 隠れてないで出て来て下さいよ!
 そのおっぱいを隠すなんてとんでもない!!

「ツカサ君……?」
「思ってません何にも思ってません!!」

 心読まないでって言ってるのにこのオッサンはもう!
 いやしかし冷静になるとか言って興奮しちゃったから、とにかく落ち着こう。

 爆乳やくびれに目が行きそうになるのを抑えながら、俺は失礼にならないようにおだやかな笑顔を浮かべてアンナさんに挨拶あいさつをした。
 それから、簡単に自己紹介をする。
 アンナさんは俺達を見てなんだか不思議そうな顔をしてジロジロ見ていたが、何を言うでもなくロクショウに目を向けた。

「ふむ……。それにしても、我が同胞とはいえ……ダハが数か月程度で希少種である“漆黒の準飛竜”に成長するとは思わなんだ。お前の大好きなこの少年は、お前をよく育ててくれたようだな」
「グォン!」

 アンナさんがそう言うと、ロクは嬉しそうに鳴く。
 しかし俺は彼女の言う事に引っかかる所が有って、アンナさんに問いかけた。

「あの……アンナさんは魔族と仰ってましたが……魔族とモンスターは別の種族じゃないんですか?」

 獣人はモンスターの血が半分入っている、とはクロウから聞いていたが、魔族がモンスターを同胞と言うのはどうなんだろう。
 「魔」って言うくらいだから、関係なくは無いけど……種族的には別物だよな?

 俺のそんな疑問ももっともだと思ったのか、アンナさんは軽く説明してくれた。

「確かに、我々はモンスターから派生した種族ではないが、我々は獣人達と同じようにモンスターとしての血が入っているのだよ。しかも、魔族は人族よりも神族に近い存在で、モンスターに近しくなるほど濃厚に血が混ざっている。獣人とは比べ物に成らないくらいにな。だから、魔族はモンスターと同じ種族名を使うのだ。私の場合であれば“妖蛇サーペント種”であり、当然姿形は蛇に似る」
「……ええと……」
「つまり、魔族ってのは“モンスターなのに人語を話せて、人の形を取れる特殊な奴ら”が集まって出来た種族になったってこと。まあ、魔族を束ねているのは神族から派生した奴らだって話だから、違う奴らもいるみたいだけどね」

 ブラックが簡単にしてくれた説明にやっと理解がいって、俺はポンと手を叩く。
 なるほど。そう言う事ならわかりやすい。
 でも、その浅黒い肌で神族から派生したってことは……。

「ダークエルフとは違うんですか?」
「おお、ツカサは私達の事を良く知ってるな。だが、今ダークエルフと呼ばれるのは“真祖しんそ”と呼ばれる一派だけだな。今の魔族はほとんどがダークエルフの血を持つ物だが、その血は薄くなっている。……ふむ、なるほど……そこまで魔物の事をよく知っているのなら、ダハを準飛竜ザッハークに育てるのも難しくはないのか」

 ああ、違うんです。そうじゃないんです。俺はたまたま異世界での知識があっただけで、博識とかそう言うんじゃ……。

「そんな相手なら、己の身を変えて守り続けたいと思うのも当然の事か……。よろしい。ロクショウ、お前の決心はしかと感じ取った。出来る所までしっかりと鍛えてやるからな」
「グォオオン!!」

 ロクが嬉しそうに吠える。
 なんだか誤解されたままのような気がするが、まあ美女に一目置かれるってのは悪い気はしないし訂正しなくても良いか。

「ではロクショウを預かるぞ」
「はい。ロク、ちょっとの間離れ離れになるけど、毎日会いに来るからな」

 そう言いながらロクの鼻先を撫でていると、アンナさんは呆れたような顔をしながら、俺達の間に割って入って来た。

「おいおい、そんな事をしていたら修業がいつまで経っても終わらんだろう。仲が良いのは結構な事だが、ロクショウの事を想うんならそう会いに来るんじゃない」
「えっ……で、でも……」
「せめて、一週間に一度にしろ。何度も会いに来られても困るから、この場では私の小屋の場所は教えんぞ。七日後にまたここに来い」
「えええええ!」
「グォオオオ!?」

 そんなあ、と一人と一匹で声を上げるが、アンナさんは師匠を引き受けただけあって、甘えは許さないとばかりに腕を組みフンと鼻を鳴らす。
 ううっ、大切な相棒を預ける人としては頼もしい限りだけど、沢山起きていられるようになったロクと遊べないなんて悲しすぎる……。

「ロクぅう……」
「グォオ……」
「完全に二人だけの世界になってるよ」
「……グゥ」

 俺の後ろのオッサン達が何か言ってるが、一週間も会えないんだから別れを惜しんだっていいじゃないか。
 ロクの兜のような顔にぎゅっと抱き着くと、相手は俺を慰めるように大きな舌でべろんと腕を舐めて来る。けれど、鳴き声は何かを決心したかのようにしっかりとしていて、それだけで俺はロクの意思が解ってしまった。

「……ロク……」

 そうか、お前は決心してるんだな……。
 ……だったら、俺も決心しなきゃいけないか。

 俺はもう一度だけロクを撫でると、アンナさんに深く礼をして傍を離れた。
 悲しいけど、二度と会えない訳じゃないし……なにより、変化の術を会得しなければロクと一緒に居る時間は減ってしまうんだ。
 俺がわがままを言って困らせてはいけない。

「ロク、頑張れよ」

 そう言うと、ロクは嬉しそうに唸った。

「では、七日後にまたこの場所で会おう」

 アンナさんはクールに微笑んで俺達に軽く手を振ると、ロクを連れて森の奥へと歩いて行ってしまった。
 ……後には、俺達が残るのみだ。

「…………ロクぅ……」
「ツカサ君、元気出して。ずっと会えないって訳じゃないんだし……」
「そうだぞツカサ。ツカサが寂しがったらロクショウも寂しがる」
「うん……」

 両側から慰められては、俺も元気を出さざるを得まい。
 そうだよな、クヨクヨなんてしていられない。ロクが修行している間、俺にだって出来る事が色々あるはずだ。

 常春の国であるライクネスでなら、日の曜術師である俺は存分に曜術の修行が出来るし、何よりここは緑が豊富だ。オーデルでは出来なかった材料採取も薬の調合も存分におこなえるじゃないか。
 ああそうだ、妖精の国から貰って来た本を読んで研究しても良いし、何だかんだでやる事はたくさんある。

 よし、俺もロクに負けてられないぞ!
 ロクが変化の術を覚えるまでに、俺も何か一つマスターしておこう。
 それがロクの相棒である俺の仁義ってもんよ!

「ツカサ君なんか急に元気になったね」
「え、そう? まあいいじゃん、ほら、早く街に帰ろうぜ! とりあえず今日はあの家に何が必要なのかを調べなくっちゃな!」

 よーし、こうしちゃいられない、早く家に戻ってやる事やっちゃおう!



  ◆



 そんなこんなで俺達は再びトランクルの村に戻り、改めて貸家がどんな間取りをしているのか確認する事にした。

 部屋が余ってるなら、三人別々の部屋にするのもいいかなって思ってたんだが、それも部屋がいくつ有るのか解らないと始まらないしな。
 という訳で三人で確認した結果、この家は意外と手ごわい事が解った。

 まず一階。
 玄関フロアや応接室が広かった事から、他の部屋も中々の物だと思っていたが、その通り一階だけでも掃除するのが大変そうな有様だった。

 一階の部屋は応接室と食堂、それにサンルームが併設されたリビングルームや、遊技場らしき場所も有る。厨房も金持ちの家だけあってかまどは三口で、備え付けの食器棚もかなりデカかった。地下にはワインセラーらしき部屋もある。

 それに、蛇口は無いけど洗面所やお風呂場も有るし、中世っぽさが強いライクネスではかなりのハイカラな家と言えるだろう。
 どうも前の家主は結構な趣味人だったらしい。

 ほとんど物が無くなってしまった家でも、設備を見ているだけで家主のこだわりが見て取れるけど……こんな素敵な家を手放しちゃうなんて悲しいな。

 前の家主がどうしてこの家を去らねばならなかったのかと考えると、気分が落ち込むようだったが、そこを考えるのはやめておこう。

 とにかく、一階だけでも広いのは解った。問題は二階だ。
 果たして三人分の個室はあるのだろうかと、手分けして確認してみたら。

「…………部屋は、充分に有る。充分に有るんだが……」
「ベッドがないね」
「家主の寝室にはデカいのがあるんだがな」

 そう。部屋は三人には十分すぎる程に用意されていたのだが……家主の寝室だったのであろう部屋以外は、ベッドや調度品が全くなかったのである。
 ……これじゃあ部屋分け以前の問題だよな……。

「うーん……とりあえず、俺達には家具や食器、それに食料とかが必要だな」
「僕はツカサ君と一緒に寝られるならベッド一つでも良いけど……食器は必要かもね。ずっと野宿用の調理器具セットを使ってる訳にもいかないし」
「オレ絨毯が欲しいぞツカサ。獣の姿で寝転がる時に床が固くてちょっと困る」

 二人の言う事もごもっともだ。
 せっかく長逗留ながとうりゅうするんだから、最低限くつろげる設備はそろえておきたい。

「じゃあ、とりあえず……話をしに行くついでに、家具がどこで手に入るのか村長さんに聞いてみようか。……持っている金で足りればいいんだけどな」

 一応路銀に困らない程度の金は持っているが、この世界で家具なんて買った事が無いのでいくらかかるのか解らない。
 最低限の出費で押さえたいが、どうなることやら。

「まあどっちでも良いけどさ……とりあえず夜はゆっくりしたいよね」

 そんな事を言いながら、ブラックは俺の肩にしなだれかかってくる。
 疲れたのかなと思っていると、ブラックはそのまま俺に体重を掛けつつ、耳元に顔を寄せて低い声で囁いてきた。

「ツカサ君、約束したよね? あの国での事が全部終わったら、たっぷりセックスに付き合ってくれるって……」
「っ!?」
「やっと邪魔者がいなくなって落ちつけたんだから、今夜こそは逃げないでよ?」

 ――ベッドも一つしかないしね……。

 俺の耳にねっとりとした声音をじ込みながら、ブラックは息を漏らして笑う。

 思わず恐怖に体が強張ったが……我慢させてきた手前拒否する事も出来ず、俺はなんとも言えずに顔を歪めたのだった。











※今回の章は唐突にエロとかセクハラを入れようかなあと思ってまする
 あとでギルドとか行って冒険もさせる予定ですヽ(*・ω・)ノ
 
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