6 / 74
ふたりで作る、味噌豆乳うどん②
しおりを挟む
歩は店の壁に掛けていた時計を見て、指を鳴らす。
「お客様もひいたことだし、ごはんにしましょ」
「作ってもらってばかりじゃ、なんだか申し訳ないような気がする……」
「じゃあ一緒に作りましょ」
歩がアリスの背中を押して、キッチンに立った。割烹着を渡されて袖を通し、サイズがぶかぶかでロングスカートのようになってしまう。女性のような言葉遣いでも、歩はちゃんと男性なのだ。
歩が冷蔵庫から紙パックやタッパ、長ネギを取り出し、アリスを見ながら調理器具の棚を指す。
「アリスちゃんはその手鍋にお湯を沸かしてちょうだい。アタシはネギを切っておくから」
「何を作るんです?」
「豆乳うどんよ。お湯が沸いたらこのネギを入れてね」
流れるように手早くネギを小口切りにして、ネギを入れたザルをアリスにパスする。
アリスは言われるまま、緊張の面持ちで鍋にネギを落とした。
ふだんあまり料理をしないのか、動作ひとつひとつが危なっかしい。
「ネギが柔らかくなってきたら味噌を入れて。少しずつ溶かしてね」
「は、はい」
歩が小皿に必要な分だけ味噌をとりわけて、アリスがスプーンでそぐようにしてお湯の中に溶かし込む。顆粒のカツオだしも少々。
「沸騰すると味噌の香りが飛んじゃうから、ここで火力を弱くする。そろそろ豆乳を入れましょう」
長年培った勘という名の目分量で、歩は鍋に豆乳を注いだ。
「わ、すごくいい香りがする」
「そうでしょ。ここでうどんを入れて少し煮たら完成よ」
器に盛り付けたら、仕上げに白すりごまをふりかける。
テーブルに並べ終え、アリスはまるで一世一代の大仕事を成し遂げたような顔で、深い溜息をついた。
「はーーーー、緊張したぁ……」
「なに言ってんのよ、もう」
「失敗したらどうしようかと思って」
「大げさねえ、アリスちゃんたら」
うどんを一回焦がしたくらいじゃ、世界は滅亡なんてしやしないのに。歩はついつい笑ってしまう。
いただきますをして、れんげでスープをすくう。
アリスは歩のまかないを食べるとき以上に、ゆっくりと口をつけた。
「……おいしい……」
「うふふ。自分で作るとまたひと味違うでしょ」
「そう、ですね」
少しでもきちんと食事をするようになってきたからか、アリスの顔色は日に日によくなっている。
初対面の時は、医学素人の歩から見ても分かるくらい、青白く不健康な肌の色をしていた。
食べてくれると言うことは、少なくとも治りたいという意思があるということ。
歩はうどんを味わいながら、アリスに笑いかける。
「ちゃんと食べれば髪のつやもよくなるから、乙女としてしっかり豆乳を摂っておきなさいね」
「はい」
アリスもほんのり笑みを浮かべ、歩の言葉に応えた。
「お客様もひいたことだし、ごはんにしましょ」
「作ってもらってばかりじゃ、なんだか申し訳ないような気がする……」
「じゃあ一緒に作りましょ」
歩がアリスの背中を押して、キッチンに立った。割烹着を渡されて袖を通し、サイズがぶかぶかでロングスカートのようになってしまう。女性のような言葉遣いでも、歩はちゃんと男性なのだ。
歩が冷蔵庫から紙パックやタッパ、長ネギを取り出し、アリスを見ながら調理器具の棚を指す。
「アリスちゃんはその手鍋にお湯を沸かしてちょうだい。アタシはネギを切っておくから」
「何を作るんです?」
「豆乳うどんよ。お湯が沸いたらこのネギを入れてね」
流れるように手早くネギを小口切りにして、ネギを入れたザルをアリスにパスする。
アリスは言われるまま、緊張の面持ちで鍋にネギを落とした。
ふだんあまり料理をしないのか、動作ひとつひとつが危なっかしい。
「ネギが柔らかくなってきたら味噌を入れて。少しずつ溶かしてね」
「は、はい」
歩が小皿に必要な分だけ味噌をとりわけて、アリスがスプーンでそぐようにしてお湯の中に溶かし込む。顆粒のカツオだしも少々。
「沸騰すると味噌の香りが飛んじゃうから、ここで火力を弱くする。そろそろ豆乳を入れましょう」
長年培った勘という名の目分量で、歩は鍋に豆乳を注いだ。
「わ、すごくいい香りがする」
「そうでしょ。ここでうどんを入れて少し煮たら完成よ」
器に盛り付けたら、仕上げに白すりごまをふりかける。
テーブルに並べ終え、アリスはまるで一世一代の大仕事を成し遂げたような顔で、深い溜息をついた。
「はーーーー、緊張したぁ……」
「なに言ってんのよ、もう」
「失敗したらどうしようかと思って」
「大げさねえ、アリスちゃんたら」
うどんを一回焦がしたくらいじゃ、世界は滅亡なんてしやしないのに。歩はついつい笑ってしまう。
いただきますをして、れんげでスープをすくう。
アリスは歩のまかないを食べるとき以上に、ゆっくりと口をつけた。
「……おいしい……」
「うふふ。自分で作るとまたひと味違うでしょ」
「そう、ですね」
少しでもきちんと食事をするようになってきたからか、アリスの顔色は日に日によくなっている。
初対面の時は、医学素人の歩から見ても分かるくらい、青白く不健康な肌の色をしていた。
食べてくれると言うことは、少なくとも治りたいという意思があるということ。
歩はうどんを味わいながら、アリスに笑いかける。
「ちゃんと食べれば髪のつやもよくなるから、乙女としてしっかり豆乳を摂っておきなさいね」
「はい」
アリスもほんのり笑みを浮かべ、歩の言葉に応えた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる