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63 寒い日の朝ごはんはオデーンで決まり!

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 翌朝、森のレクサスが啼くより早く、シロが啼く。
 オレの頭にシロの前足がペチンパチンと叩きつけられる。腹が減ったときのネコのようである。

「きゅっぴぃ~~! きゅ~~! きゅ~!」
「わかった、おきる、おきます……」

 ずいぶんと荒っぽい起こし方だが、起きられたから良しとしよう。

「もうあさか」

 ミミものそのそと布団から出てくる。
 緑の髪の毛が、ピンピンおどっていた。はねた毛先をつまんでおしえてやる。

「ミミ、寝癖」
「おおう」
「オレは畑の様子見てくるよ。ついでにポチにごはんをあげよう。シロも行くか?」
「きゅ~~」

 抱っこをせがまれているような気がしたから、抱っこひもで抱え上げて庭に出た。


 ここに転移してきた頃にくらべて、朝の空気が冷たい。
 吐く息が白いや。海ヒツジの毛で編まれた上着を着ているから、事なきを得ている。
 納屋の藁の上で丸くなっていたポチを呼ぶ。

「ポチ、ごはん」
〈にゃぅーーにゃーー〉
「はいはい」

 収穫を終えているところの土を掘り返して、ポチ用のごはん皿(皿っていうかプランター)に盛ってやる。
 毎日土を食われていたら、いずれ村の土がなくなるのでは? といった心配はご無用。
 ツチネコの糞(フン)は土に混ぜ込むと、とても上質な土になる。
 土を食って土を出す、かなり謎な生物だ。
 地球の価値観で測れないから、そこらへん気にするのをやめた。

 野菜の葉っぱを掴んで引っこ抜く。
 ココロカブみたいなハート型をしているけれど、ココロカブよりも細長くて、色白。
 その名もハートダイコ。
 ファクターから種を買ったとき、煮るとうまいって言ってたな。

 二本だけ採って、あとは食べるときに収穫しよう。

「シロ、家に入るぞ~……って、あわわわ」

 興味を持ったのか、シロが見様見真似で、ポチの皿に入っていたモノを食べていた。

「ぺっぺっ、きゅうんー」
「こらこら。食べちゃメーだぞ、シロ。それはポチのごはんだ」

 悲しそうに啼く。桶に無限ジョウロの水を汲んで、口の中をゆすいでやる。
 何度かうがいして、スッキリしたシロは元気よく啼いた。

 うん、次からは目を離さないように気をつけよう。

「ミミ、収穫したぞー」
「おお。ならあらって、きって。オデーンにする」
「はいよ~って、オデーン、おでん?」
「なにかもんだいか」

 まじかよおでん。
 いや、名前が似ているだけの別料理かもしれない。


「これくらいの、あつさ」

 ミミが人差し指と親指で幅をつくり、厚さを示す。言われるままに、ハートダイコを洗って切る。

「わかった」

 お湯の沸いた鍋に入れる。すでにミミが入れていた具が、半透明のスープの中で上下している。
 肉だんご、コケトリスのゆでたまご、ニンジャ。この時点ですでにうまそう。
 

 火が通るまでテーブルにつき、野草茶を飲んで待つ。
 ミミも隣に座って、シロの尻尾の動きを目で追っている。

「シロはオデーンたべられるか」
「きゅう?」
「しらぬか。オデーンはうまい。あったまる」
「きゅきゅぴ~」

 ペットのわんにゃんに話しかけるおばあちゃんのようである。二人の間ではしっかり会話が成立しているのだから面白い。

「なんて?」
「たべないとわからぬ」
「そりゃそうだ」

 出来上がったオデーンは器に盛って、シロの分は具だけ平たい皿に乗せて冷ます。
 茶色みのある透明スープに野菜とたまごと|肉だんご(つみれ)。
 お祈りしたらいざ実食!

「……こ、これは、おでんだ! うまし! オデーンうまし!」

 前日から漬け込んでいたのか、たまごは中までしっかりと出汁の味が染み込んでいる。レクサスの骨でとったお出汁。そして肉だんご。
 こちらも丁寧にこねてあって舌触りが滑らか。歯ざわりが柔らかくてつるりといただける。
 ニンジャも出汁風味が絶妙。
 極めつけはハートダイコ。
 まさしくダイコンである。素材そのものが薄味だから、出汁の旨味をじゅうぶんに吸い込んでいる。

 まさか異世界でおでんを食べられるなんて、感無量だ。ミミも合間にフーフーしながら、黙々とオデーンをほおばっている。

「きゅー」
「ああ、ごめんよシロ。ほら、シロも。あーん」

 肉だんごをスプーンで切り、シロの口に運ぶ。
 もぐもぐもぐもぐ、味わって飲み込み、一声啼く。

「ぴぃ~!!」
「そうかそうか、美味しいか。よかった~。はい、次はダイコな」
「もぎゅもぎゅ」

 シロのごはんをあげていると、ミミが再びキッチンに立った。

「シメをつくる」
「まじですか!」

 ミミは深くうなずいて、パンをちぎっては投げ……でなく鍋に入れていく。パンはどんどんと煮崩れ、とろりとする。

 あっという間にもう一品。

「オデーンかゆ」
「わーいうまそー! ミミ天才!」

 具材の味が染み込んだシメおかゆ、まずいわけがない。
 
 シロはオデーンのシメかゆを気に入ったようで、羽をパタパタさせて喜んだ。 
 オレも美味すぎて二回もおかわりした。罪深いぜシメのおかゆ。
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