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対抗戦編
第10話 説明(二)
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「メルヒオットさんとガーネットさんが出てきましたよ」
ジルヴェスターとクラウディアがいる場所からは室内の様子が窺えない位置にある訓練室から、ステラとオリヴィアが出てきた。
その姿をクラウディアは視界の端で捉えた。
二人はジルヴェスターたちのもとへ歩み寄ってくる。
「休憩か?」
「ん」
ジルヴェスターが問うと、ステラが無表情で頷く。
「会長もおられたのですね」
「ええ」
オリヴィアが会釈すると、クラウディアが微笑みを返す。
「隣、失礼するわね」
「ああ」
二人はジルヴェスターの隣のベンチに腰を下ろす。
ジルヴェスターとオリヴィアでステラを挟む形になった。
「二人とも調子はどうかしら?」
クラウディアが尋ねる。
「そうですね……」
そう呟いたオリヴィアは、頬に手を添えて困った顔のまま想笑いを浮かべる。
「一対一ならいいのですが、多対一になると対応が追いつかなくて……」
「私も……」
ステラもオリヴィアの弁に同調する。
「多対一か」
ジルヴェスターが呟く。
ステラとオリヴィアは魔法師として優秀だ。
少なくとも同い年に限定すればトップクラスの実力である。
だが、如何に優秀と言えど二人には実戦経験がない。
一対一なら対応可能でも、複数人を同時に相手取るとなると技術だけではなく経験も必要になってくる。
それだけ思考することが多くなるからだ。思考を巡らせながら集中力を保つのは難しい。経験がない分は訓練で補うしかないだろう。
「二人なら多重行使で対応できるんじゃないか?」
「難しい」
ジルヴェスターの言葉にステラが肩を落とす。
「妨害がなければ多重行使できるけれど、戦闘中だとさすがに厳しいわね……」
オリヴィアは首を左右に振って悩まし気な顔になる。
多重行使は複数の魔法を同時に行使する高等技術だ。
ジルヴェスターは流れ作業のように難なく多重行使を使いこなしているが、本来はそう簡単な技術ではない。
ステラとオリヴィアは集中力を乱されない環境なら二、三種類の魔法を多重行使できる。だが、戦闘中に多重行使できるまで待ってくれる者など存在しない。
「相応の努力は必要だけれど、二人ならできると思うわよ」
慈愛に満ちた微笑みを浮かべながらクラウディアがそう言うと、不思議とできるような気がしてくる。
「頑張る」
「そうね。頑張りましょう」
拳を握って気合を入れるステラの姿に、オリヴィアが笑みを零す。
クラウディア、ステラ、オリヴィアの三人は幼い頃から交流がある。
魔法師界の名門中の名門であるジェニングス家と、国内でも有数の大企業であるメルヒオット・カンパニーを代々経営しているメルヒオット家に繋がりがあるからだ。社交の場で顔を合わせることも多々ある。
故に、クラウディアが二人ならできると言ったのは、彼女たちの人柄と魔法師としての才能を知っていたからだ。決して口先だけの無責任な発言ではない。
「お前が鍛えてやったらどうだ?」
「構いませんよ」
ジルヴェスターがクラウディアに視線を向けると、彼女は渋ることなく了承した。
「会長はお忙しいのではないですか?」
オリヴィアの言葉にステラが「うんうん」と頷いている。
「大丈夫よ。生徒会の仕事はサラに任せておけば滞りなく処理してくれるもの」
どうやら副会長であるサラに仕事を丸投げするつもりのようだ。
「それならお願い致します」
「お願いします」
オリヴィアとステラは表情を引き締めて頭を下げる。
「では、早速始めましょうか」
そう言うとクラウディアは立ち上がり、空いている訓練室へと足を向けた。
「それじゃ行ってくるわね」
「またね」
二人はジルヴェスターに一声掛けてからクラウディアの後を追った。
ジルヴェスターが自分で二人のことを鍛えずに、クラウディアに話を振ったのには理由がある。
ジルヴェスターは特級魔法師なので、自分の弟子以外に無償で指導するのは憚られるからだ。
特級魔法師の指導を受けたいと願う者は山ほどいる。
今は身分を公にしていないので問題ないかもしれないが、もし正体が世間に知られた際に、弟子でもないのに指導を受けたとして、二人が要らぬやっかみを受ける恐れがある。
友人だからこそ、そのような厄介事に巻き込みたくはなかった。
仮に指導を買って出ても、ステラとオリヴィアは自分たちだけ特級魔法師の指導を受けるわけにはいかないと遠慮していただろう。
三人が訓練室に入ったのを見届けたジルヴェスターは席を立ち、その場を後にした。
数時間後の訓練室の一室には、ボロボロな身形になっていて、尚且つ疲労困憊な様子でまともに立つことができない二人の女生徒がいたとかいないとか。
ジルヴェスターとクラウディアがいる場所からは室内の様子が窺えない位置にある訓練室から、ステラとオリヴィアが出てきた。
その姿をクラウディアは視界の端で捉えた。
二人はジルヴェスターたちのもとへ歩み寄ってくる。
「休憩か?」
「ん」
ジルヴェスターが問うと、ステラが無表情で頷く。
「会長もおられたのですね」
「ええ」
オリヴィアが会釈すると、クラウディアが微笑みを返す。
「隣、失礼するわね」
「ああ」
二人はジルヴェスターの隣のベンチに腰を下ろす。
ジルヴェスターとオリヴィアでステラを挟む形になった。
「二人とも調子はどうかしら?」
クラウディアが尋ねる。
「そうですね……」
そう呟いたオリヴィアは、頬に手を添えて困った顔のまま想笑いを浮かべる。
「一対一ならいいのですが、多対一になると対応が追いつかなくて……」
「私も……」
ステラもオリヴィアの弁に同調する。
「多対一か」
ジルヴェスターが呟く。
ステラとオリヴィアは魔法師として優秀だ。
少なくとも同い年に限定すればトップクラスの実力である。
だが、如何に優秀と言えど二人には実戦経験がない。
一対一なら対応可能でも、複数人を同時に相手取るとなると技術だけではなく経験も必要になってくる。
それだけ思考することが多くなるからだ。思考を巡らせながら集中力を保つのは難しい。経験がない分は訓練で補うしかないだろう。
「二人なら多重行使で対応できるんじゃないか?」
「難しい」
ジルヴェスターの言葉にステラが肩を落とす。
「妨害がなければ多重行使できるけれど、戦闘中だとさすがに厳しいわね……」
オリヴィアは首を左右に振って悩まし気な顔になる。
多重行使は複数の魔法を同時に行使する高等技術だ。
ジルヴェスターは流れ作業のように難なく多重行使を使いこなしているが、本来はそう簡単な技術ではない。
ステラとオリヴィアは集中力を乱されない環境なら二、三種類の魔法を多重行使できる。だが、戦闘中に多重行使できるまで待ってくれる者など存在しない。
「相応の努力は必要だけれど、二人ならできると思うわよ」
慈愛に満ちた微笑みを浮かべながらクラウディアがそう言うと、不思議とできるような気がしてくる。
「頑張る」
「そうね。頑張りましょう」
拳を握って気合を入れるステラの姿に、オリヴィアが笑みを零す。
クラウディア、ステラ、オリヴィアの三人は幼い頃から交流がある。
魔法師界の名門中の名門であるジェニングス家と、国内でも有数の大企業であるメルヒオット・カンパニーを代々経営しているメルヒオット家に繋がりがあるからだ。社交の場で顔を合わせることも多々ある。
故に、クラウディアが二人ならできると言ったのは、彼女たちの人柄と魔法師としての才能を知っていたからだ。決して口先だけの無責任な発言ではない。
「お前が鍛えてやったらどうだ?」
「構いませんよ」
ジルヴェスターがクラウディアに視線を向けると、彼女は渋ることなく了承した。
「会長はお忙しいのではないですか?」
オリヴィアの言葉にステラが「うんうん」と頷いている。
「大丈夫よ。生徒会の仕事はサラに任せておけば滞りなく処理してくれるもの」
どうやら副会長であるサラに仕事を丸投げするつもりのようだ。
「それならお願い致します」
「お願いします」
オリヴィアとステラは表情を引き締めて頭を下げる。
「では、早速始めましょうか」
そう言うとクラウディアは立ち上がり、空いている訓練室へと足を向けた。
「それじゃ行ってくるわね」
「またね」
二人はジルヴェスターに一声掛けてからクラウディアの後を追った。
ジルヴェスターが自分で二人のことを鍛えずに、クラウディアに話を振ったのには理由がある。
ジルヴェスターは特級魔法師なので、自分の弟子以外に無償で指導するのは憚られるからだ。
特級魔法師の指導を受けたいと願う者は山ほどいる。
今は身分を公にしていないので問題ないかもしれないが、もし正体が世間に知られた際に、弟子でもないのに指導を受けたとして、二人が要らぬやっかみを受ける恐れがある。
友人だからこそ、そのような厄介事に巻き込みたくはなかった。
仮に指導を買って出ても、ステラとオリヴィアは自分たちだけ特級魔法師の指導を受けるわけにはいかないと遠慮していただろう。
三人が訓練室に入ったのを見届けたジルヴェスターは席を立ち、その場を後にした。
数時間後の訓練室の一室には、ボロボロな身形になっていて、尚且つ疲労困憊な様子でまともに立つことができない二人の女生徒がいたとかいないとか。
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