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囚われの親子編
第36話 勧誘(三)
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「つ、つまり、『守護神』様が率いる隊の一員になれるということですよね!?」
「その通りです」
「ですよね。すみません……急展開で眩暈がしそうです」
特級魔法師が率いる部隊の隊員になるのは魔法師なら誰もが憧れることだ。
憧れの特級魔法師の部下になれるというのは名誉なことであり、ステータスにもなる。
特級魔法師が率いる部隊に入隊する方法は、特級魔法師自身にスカウトされることだけだ。
つまり特級魔法師が率いている部隊の隊員は、特級魔法師に認められた精鋭というステータスを得ることができる。
魔法師として一目置かれるようになり、何よりも特級魔法師に認められたという事実が自信にもなる。
「それにしても、何故私なのでしょうか?」
フィローネは純粋に疑問を抱いた。
「私は下級三等魔法師の下っ端で、『守護神』様とお会いしたこともないはずですし……」
特級魔法師が率いる部隊の隊員としては確かに不釣り合いだろう。最低でも中級以上は求められてもおかしくない。
面識すらないのに何故自分が? と疑問を抱くのはもっともだ。
何よりも自分では分不相応だと憚られた。
「何から話しましょうか……」
レイチェルは顎に手を立てて何から説明したものか、と思考し、少しの間沈黙が場を支配する。
この沈黙はフィローネにはとても長い時間に感じ、驚きで霧散していた緊張が再び押し寄せてきた。
そして彼女が居心地の悪さを感じ始めた時、考えが纏まったレイチェルが口を開いた。
「イングルスさんには弟さんがいらっしゃいますよね」
「え? 確かにいますが……」
何故に今、弟の話が出るのか? と不思議に思う。
そもそも何故、弟がいることを知っているのかも疑問だった。
「実は昨日、弟さんのレアル君からご家族の事情を伺いました」
「――!」
フィローネの姓がイングルスということから察せられただろうが、彼女はレアルの実姉だ。
レイチェルがことの経緯を説明する。
まずはレアルが七賢人のビリー・トーマスの命で暗殺に手を染めたことを伝えた。
「そんな……あの子が……」
予想だにしないことを告げられて沈痛な面持ちになったフィローネは、両手を口に当てて言葉に詰まった。
何故暗殺を行うに至ったのか経緯を説明する。
レアルが暗殺を実行したのは姉を助ける為と、母の負担を軽くする為だ。
フィローネに迫るビリーの気を自分に向けさせることで母は娘を守っている。
レアルは自分がビリーにとって都合のいい駒になることで憂さ晴らしをさせつつ、陰謀を企てることに意識が傾くようにして姉の身を守っている。
フィローネは母が自分の為に献身してくれているのは知っていたが、弟が自分の為にビリーの駒になっていることは知らなかった。
姉が気兼ねなく安心して暮らせるようにと配慮して、レアルと母はフィローネには内密にしていたのだ。
そしてレアルがビリーの命で暗殺を行うことになったが、その時に『守護神』が阻止して未遂に終わったと告げる。
「そうでしたか……弟を止めてくださりありがとうございました」
フィローネは瞳に涙を溜めているが、零れ落ちないように堪えながら頭を下げる。
自分の為に悪事に手を染めた弟の想いが嬉しくもあり、申し訳なくもあった。
弟が心身共に疲弊しながらも歯を食いしばって献身してくれていたのかと思うと、心が苦しくなる。
彼女にとってレアルはかわいい弟だ。弟の為なら自分の身を削る覚悟がある。
今も必死に魔法師としてお金を稼いでいる。ビリーに借金を返済する為でもあるが、可能な限り弟に不自由させたくない一心で懸命に働いている。それで何度か死に掛けたこともあるくらいだ。
しかし、それは弟も同じだったのだと理解した。
レアルも慕っている姉の為に身を粉にしている。
姉想いの弟と、弟想いの姉。
二人の間には確固たる姉弟の絆があった。
「私が阻止したわけではありませんよ。なので、代わりに伝えておきます」
「はい。よろしくお願いします」
レアルの暗殺を阻止したのはレイチェルではなくジルヴェスターだ。
「――それで、弟はどうなるのでしょうか……?」
フィローネが恐る恐る尋ねる。
彼女が今、一番気掛かりなのは弟のことだ。
未遂とはいえ、暗殺に手を染めた。しかも相手は政界の人間だ。
罪を犯せば裁かれるのは避けられない。
「それなら心配ありませんよ」
レイチェルが安心させるように優しい口調で答える。
暗殺対象にされたマーカスには既に話が通っている。
フェルディナンドを介しているのでジルヴェスターは心配していなかったが、無事レアルの置かれている状況を理解してくれた。むしろ同情し、味方になってくれたほどだ。何よりもビリーの人権を無視した行いに怒りをあらわにしていた。
マーカスはレアルを訴えることなく、事件を公にするつもりはないようだ。
これで一先ずレアルが罪に問われることはない。
「その通りです」
「ですよね。すみません……急展開で眩暈がしそうです」
特級魔法師が率いる部隊の隊員になるのは魔法師なら誰もが憧れることだ。
憧れの特級魔法師の部下になれるというのは名誉なことであり、ステータスにもなる。
特級魔法師が率いる部隊に入隊する方法は、特級魔法師自身にスカウトされることだけだ。
つまり特級魔法師が率いている部隊の隊員は、特級魔法師に認められた精鋭というステータスを得ることができる。
魔法師として一目置かれるようになり、何よりも特級魔法師に認められたという事実が自信にもなる。
「それにしても、何故私なのでしょうか?」
フィローネは純粋に疑問を抱いた。
「私は下級三等魔法師の下っ端で、『守護神』様とお会いしたこともないはずですし……」
特級魔法師が率いる部隊の隊員としては確かに不釣り合いだろう。最低でも中級以上は求められてもおかしくない。
面識すらないのに何故自分が? と疑問を抱くのはもっともだ。
何よりも自分では分不相応だと憚られた。
「何から話しましょうか……」
レイチェルは顎に手を立てて何から説明したものか、と思考し、少しの間沈黙が場を支配する。
この沈黙はフィローネにはとても長い時間に感じ、驚きで霧散していた緊張が再び押し寄せてきた。
そして彼女が居心地の悪さを感じ始めた時、考えが纏まったレイチェルが口を開いた。
「イングルスさんには弟さんがいらっしゃいますよね」
「え? 確かにいますが……」
何故に今、弟の話が出るのか? と不思議に思う。
そもそも何故、弟がいることを知っているのかも疑問だった。
「実は昨日、弟さんのレアル君からご家族の事情を伺いました」
「――!」
フィローネの姓がイングルスということから察せられただろうが、彼女はレアルの実姉だ。
レイチェルがことの経緯を説明する。
まずはレアルが七賢人のビリー・トーマスの命で暗殺に手を染めたことを伝えた。
「そんな……あの子が……」
予想だにしないことを告げられて沈痛な面持ちになったフィローネは、両手を口に当てて言葉に詰まった。
何故暗殺を行うに至ったのか経緯を説明する。
レアルが暗殺を実行したのは姉を助ける為と、母の負担を軽くする為だ。
フィローネに迫るビリーの気を自分に向けさせることで母は娘を守っている。
レアルは自分がビリーにとって都合のいい駒になることで憂さ晴らしをさせつつ、陰謀を企てることに意識が傾くようにして姉の身を守っている。
フィローネは母が自分の為に献身してくれているのは知っていたが、弟が自分の為にビリーの駒になっていることは知らなかった。
姉が気兼ねなく安心して暮らせるようにと配慮して、レアルと母はフィローネには内密にしていたのだ。
そしてレアルがビリーの命で暗殺を行うことになったが、その時に『守護神』が阻止して未遂に終わったと告げる。
「そうでしたか……弟を止めてくださりありがとうございました」
フィローネは瞳に涙を溜めているが、零れ落ちないように堪えながら頭を下げる。
自分の為に悪事に手を染めた弟の想いが嬉しくもあり、申し訳なくもあった。
弟が心身共に疲弊しながらも歯を食いしばって献身してくれていたのかと思うと、心が苦しくなる。
彼女にとってレアルはかわいい弟だ。弟の為なら自分の身を削る覚悟がある。
今も必死に魔法師としてお金を稼いでいる。ビリーに借金を返済する為でもあるが、可能な限り弟に不自由させたくない一心で懸命に働いている。それで何度か死に掛けたこともあるくらいだ。
しかし、それは弟も同じだったのだと理解した。
レアルも慕っている姉の為に身を粉にしている。
姉想いの弟と、弟想いの姉。
二人の間には確固たる姉弟の絆があった。
「私が阻止したわけではありませんよ。なので、代わりに伝えておきます」
「はい。よろしくお願いします」
レアルの暗殺を阻止したのはレイチェルではなくジルヴェスターだ。
「――それで、弟はどうなるのでしょうか……?」
フィローネが恐る恐る尋ねる。
彼女が今、一番気掛かりなのは弟のことだ。
未遂とはいえ、暗殺に手を染めた。しかも相手は政界の人間だ。
罪を犯せば裁かれるのは避けられない。
「それなら心配ありませんよ」
レイチェルが安心させるように優しい口調で答える。
暗殺対象にされたマーカスには既に話が通っている。
フェルディナンドを介しているのでジルヴェスターは心配していなかったが、無事レアルの置かれている状況を理解してくれた。むしろ同情し、味方になってくれたほどだ。何よりもビリーの人権を無視した行いに怒りをあらわにしていた。
マーカスはレアルを訴えることなく、事件を公にするつもりはないようだ。
これで一先ずレアルが罪に問われることはない。
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