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囚われの親子編
第35話 勧誘(二)
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◇ ◇ ◇
友人に心配されているイングルスは内心不安になりながら歩を進めていた。
何かしでかしてしまっただろうか? と色々な可能性が脳裏を掠めていく。
職員にお客様とは誰なのかと尋ねるのを忘れたことに少し後悔した。
不安で足取りが重くなっている。
それでも一歩一歩進んで第二応接室を目指す。
第二応接室はエントランスからそれほど離れていないので、すぐに辿り着いた。
イングルスは緊張しながら扉をノックする。
「――どうぞ」
室内から入室を許可する声が返ってきたので、丁寧に扉を開いて入室する。
すると、イングルスは中にいた人物と目が合った。
わざわざソファから立ち上がって出迎えてくれている。
そして自分が待たせていた相手の胸元にある胸章が視界に入り、魔法師だということがわかった。
しかし、良く見ると胸章が上級二等魔法師の階級を示していた。
まさかの大物の登場に驚きながらも慌てて敬礼をし、失礼のないように努める。
「フィローネ・イングルスです。ただいま参上致しました。お待たせして申し訳ありません」
「気にせずに楽にして頂いて構いませんよ」
イングルス改め――フィローネは自己紹介をし、待たせてしまったことを詫びる。
上級二等魔法師が楽にして構わないと告げるも、フィローネの肩には力が入っていた。
「まずは座りましょうか、イングルスさんも遠慮せずにお掛けになってください」
「……失礼します」
着席を促されたフィローネは、上級二等魔法師が腰掛けたのを確認してから自分も恐る恐るソファに腰を下ろした。
「突然呼び出して申し訳ありません」
「いえいえ! こちらこそお待たせして申し訳ありません」
謝罪されたフィローネは恐縮し、自分こそ待たせて申し訳ないと頭を下げる。
東方人の影響で謝罪する際は頭を下げる文化が少なからず浸透しているが、そもそも頭を下げる行為は屈服や降参を意味する。
故に、過度に頭を下げすぎるのは要らぬ誤解を生む恐れがあるので、気をつけなければならない。
「頭を上げてください。ここはお互い様ということにしておきましょう」
「は、はい」
あまり恐縮しすぎるのは失礼に当たると思い、フィローネは素直に頭を上げた。
「自己紹介がまだでしたね。私はレイチェル・コンスタンティノスです」
フィローネのことを待っていた上級二等魔法師は――レイチェルであった。
フィローネは待たせてしまったことを詫びたが、レイチェルはそれほど待っていない。
事前に調べてフィローネがいつ魔法協会支部に姿を現すのかは見当がついていた。なので、頃合いを見計らって訪れている。
「コンスタンティノスって『聖女』様の……?」
「ええ、そのコンスタンティノスで合っていますよ。私は三女です」
「――!!」
ただでさえ緊張していたフィローネは、上級二等魔法師という階級に更に緊張し、その上コンスタンティノスの名にも緊張する羽目になった。一瞬眩暈がしたのは本人だけの秘密だ。
対してレイチェルは苦笑していた。
このようなやり取りが恒例になっていたからだ。
コンスタンティノスの名を告げる度に行われる問答なので無理もないだろう。
「早速ですが、単刀直入にお伝えしますね」
「は、はい」
フィローネは何を言われるのか不安で無意識にと唾を飲み込んだ。緊張で背筋が伸びている。
「イングルスさん、あなたをスカウトしに参りました」
「――え」
予想だにしない言葉に、フィローネは思考が追いつかずポカンと口を開けてしまう。
「私をスカウトですか……?」
なんとか絞り出した言葉は自分に言い聞かせるようなニュアンスだった。
自分に言い聞かせることで言葉の意味を理解しようとして、無意識に呟いていたのだ。
「はい。そうです」
レイチェルが首肯する。
「あの、失礼ですが……いったい何にスカウトされているのでしょうか?」
スカウトと言われても、何にスカウトされているのかがわからなかった。
「イングルスさんは『守護神』はご存じですか?」
「も、もちろんです! 特級魔法師第一席であらせられる『守護神』様ですよね!?」
「ええ、そうです」
『守護神』のことを知らない者の方が珍しい。むしろ魔法師ならば知っていて当然だ。
特級魔法師の中で唯一名前が公表されていないが、雲の上の存在として知るのも烏滸がましいと自然と受け入れられている。
「私はその『守護神』が率いる隊の隊員です。いえ、私一人しかいないので、正確にはサポーターになりますね」
「えぇえええ!」
フィローネはまさか目の前にいるレイチェルが、誰もが憧憬を抱く『守護神』の関係者だとは思いもしなかった。
驚愕して目を見張っている。
そもそも『守護神』には謎が多い。いや、むしろ謎しかないと言っても過言ではない。
一般的に知られているのは『守護神』という異名だけだ。なので、部下がいることも当然知られていない。
フィローネは普通に生活していたら知り得ないことを知った。
「そして本日は、『守護神』の命であなたを我が隊にスカウトしに来たのです」
「は? え?」
レイチェルがフィローネに会いに来た理由は、ジルヴェスターが率いる隊に加わらないか、と勧誘する為であった。ジルヴェスターがレイチェルにスカウトしに行けと命じていたのだ。
当のフィローネは状況が理解できていなかった。
必死に状況を整理して言葉の意味を理解しようと思考を巡らせている。
「えぇええええええええええ!!」
そしてなんとか状況を理解したフィローネは、驚きのあまりひっくり返りそうになった。
そんな彼女の反応にレイチェルは苦笑する。
友人に心配されているイングルスは内心不安になりながら歩を進めていた。
何かしでかしてしまっただろうか? と色々な可能性が脳裏を掠めていく。
職員にお客様とは誰なのかと尋ねるのを忘れたことに少し後悔した。
不安で足取りが重くなっている。
それでも一歩一歩進んで第二応接室を目指す。
第二応接室はエントランスからそれほど離れていないので、すぐに辿り着いた。
イングルスは緊張しながら扉をノックする。
「――どうぞ」
室内から入室を許可する声が返ってきたので、丁寧に扉を開いて入室する。
すると、イングルスは中にいた人物と目が合った。
わざわざソファから立ち上がって出迎えてくれている。
そして自分が待たせていた相手の胸元にある胸章が視界に入り、魔法師だということがわかった。
しかし、良く見ると胸章が上級二等魔法師の階級を示していた。
まさかの大物の登場に驚きながらも慌てて敬礼をし、失礼のないように努める。
「フィローネ・イングルスです。ただいま参上致しました。お待たせして申し訳ありません」
「気にせずに楽にして頂いて構いませんよ」
イングルス改め――フィローネは自己紹介をし、待たせてしまったことを詫びる。
上級二等魔法師が楽にして構わないと告げるも、フィローネの肩には力が入っていた。
「まずは座りましょうか、イングルスさんも遠慮せずにお掛けになってください」
「……失礼します」
着席を促されたフィローネは、上級二等魔法師が腰掛けたのを確認してから自分も恐る恐るソファに腰を下ろした。
「突然呼び出して申し訳ありません」
「いえいえ! こちらこそお待たせして申し訳ありません」
謝罪されたフィローネは恐縮し、自分こそ待たせて申し訳ないと頭を下げる。
東方人の影響で謝罪する際は頭を下げる文化が少なからず浸透しているが、そもそも頭を下げる行為は屈服や降参を意味する。
故に、過度に頭を下げすぎるのは要らぬ誤解を生む恐れがあるので、気をつけなければならない。
「頭を上げてください。ここはお互い様ということにしておきましょう」
「は、はい」
あまり恐縮しすぎるのは失礼に当たると思い、フィローネは素直に頭を上げた。
「自己紹介がまだでしたね。私はレイチェル・コンスタンティノスです」
フィローネのことを待っていた上級二等魔法師は――レイチェルであった。
フィローネは待たせてしまったことを詫びたが、レイチェルはそれほど待っていない。
事前に調べてフィローネがいつ魔法協会支部に姿を現すのかは見当がついていた。なので、頃合いを見計らって訪れている。
「コンスタンティノスって『聖女』様の……?」
「ええ、そのコンスタンティノスで合っていますよ。私は三女です」
「――!!」
ただでさえ緊張していたフィローネは、上級二等魔法師という階級に更に緊張し、その上コンスタンティノスの名にも緊張する羽目になった。一瞬眩暈がしたのは本人だけの秘密だ。
対してレイチェルは苦笑していた。
このようなやり取りが恒例になっていたからだ。
コンスタンティノスの名を告げる度に行われる問答なので無理もないだろう。
「早速ですが、単刀直入にお伝えしますね」
「は、はい」
フィローネは何を言われるのか不安で無意識にと唾を飲み込んだ。緊張で背筋が伸びている。
「イングルスさん、あなたをスカウトしに参りました」
「――え」
予想だにしない言葉に、フィローネは思考が追いつかずポカンと口を開けてしまう。
「私をスカウトですか……?」
なんとか絞り出した言葉は自分に言い聞かせるようなニュアンスだった。
自分に言い聞かせることで言葉の意味を理解しようとして、無意識に呟いていたのだ。
「はい。そうです」
レイチェルが首肯する。
「あの、失礼ですが……いったい何にスカウトされているのでしょうか?」
スカウトと言われても、何にスカウトされているのかがわからなかった。
「イングルスさんは『守護神』はご存じですか?」
「も、もちろんです! 特級魔法師第一席であらせられる『守護神』様ですよね!?」
「ええ、そうです」
『守護神』のことを知らない者の方が珍しい。むしろ魔法師ならば知っていて当然だ。
特級魔法師の中で唯一名前が公表されていないが、雲の上の存在として知るのも烏滸がましいと自然と受け入れられている。
「私はその『守護神』が率いる隊の隊員です。いえ、私一人しかいないので、正確にはサポーターになりますね」
「えぇえええ!」
フィローネはまさか目の前にいるレイチェルが、誰もが憧憬を抱く『守護神』の関係者だとは思いもしなかった。
驚愕して目を見張っている。
そもそも『守護神』には謎が多い。いや、むしろ謎しかないと言っても過言ではない。
一般的に知られているのは『守護神』という異名だけだ。なので、部下がいることも当然知られていない。
フィローネは普通に生活していたら知り得ないことを知った。
「そして本日は、『守護神』の命であなたを我が隊にスカウトしに来たのです」
「は? え?」
レイチェルがフィローネに会いに来た理由は、ジルヴェスターが率いる隊に加わらないか、と勧誘する為であった。ジルヴェスターがレイチェルにスカウトしに行けと命じていたのだ。
当のフィローネは状況が理解できていなかった。
必死に状況を整理して言葉の意味を理解しようと思考を巡らせている。
「えぇええええええええええ!!」
そしてなんとか状況を理解したフィローネは、驚きのあまりひっくり返りそうになった。
そんな彼女の反応にレイチェルは苦笑する。
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