私の愛する人【完結】

真凛 桃

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15話 疑惑

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テソンが家に帰ると、寿美子がチゲ鍋を作って待っていた。

「おかえり!テソン!」

「あ…うん」

テソンは寿美子に申し訳なく思い、まともに寿美子の顔が見れなかった。

「遅かったね。チゲ鍋作ったから食べよ~。お腹ペコペコ~」

「ごめん…先にシャワー浴びてくる」

テソンは洗面台に行くと、何度も唇を洗った。
シャワーを浴び終わったテソンは、寿美子の前に座る。

「食べよ、食べよ」

「うん」

「うーん、辛くて美味し~。我ながら上出来❤︎」

無理に明るく振る舞う寿美子に、テソンは心が痛かった。

「スミ…何も聞かないの?」

「…会っただけでしょ?」

「…騙された」

「えっ?」

「結局は見合いだったよ…」

「え…じゃあ…」

「スミ、ごめんね。もう勝手にしよう。実家にも帰らない」

寿美子は何も言えなかった。

「スミ、本当にコレ辛くて美味しいよ」

「相手の人、どんな人だった?」

「え?どんな人って…別に…」

「キレイな人だった?テソン、好かれたでしょう」

「もうやめよう。この話は」

「気になるんだけどな」

「スミはヤキモチやきだもんね」

(もう詮索するのはやめて、黙ってテソンに着いて行こう…)

2日後、仕事を終えた寿美子は、いつも通りバスを降り自宅近くの停留所から歩いて帰っていると、1台の黒い車が目の前に止まった。
中から黒いスーツの男性が降りてきた。

「寿美子さんですか?」

「はっ、はい、そうですが…」
(何この人…怖いんだけど…)

「テソン様のお母様がお呼びなので一緒に来て下さい」

「テソンのお母さんが⁈こんな時間に?」

男は寿美子を車に乗せると、テソンの実家に向かった。

「奥様、連れて参りました」

「ご苦労様。下がっていいわよ」

リビングのソファーには、テソンの母親と若い女性が座っていた。

「あ、あの…」

「こちらに座りなさい」

「はい」

「紹介しておくわね。こちら、ロックホテルの会長の娘さんでユナさんよ」

ユナはニコッと笑い、寿美子に頭を下げた。

(すごいキレイな人…でも何で私に紹介するの…?)

「テソンの結婚相手なのよ」

「え…?結婚…相手…?」

「そうよ。もうテソンの相手は決まっているのよ」

「あの、もしかしてこの前のお見合い?の方ですか?」

「はい。そうです」

「でも、あれはテソン…いや、テソンさんはそのつもりじゃなかったって」

「ああでもしないと来ないからよ。今までテソンは何回私を裏切ったか…でもこちらの方は、あのロックホテルの会長の娘さんだし、キレイで若いからテソンも気に入ったみたいよ」

(それは違う‼︎テソンは騙されたって言ってた)

「あなたみたいな人がいるから、テソンが前に進めないのよ!とにかくテソンの前から消えてちょうだい」

「お母様、そこまで言わなくても…」

「ユナさん、テソンのこと好きじゃないの?」

「好きです。今までの人とは比べものにならないくらい、好きです!」

「ちょっ、ちょっと待って下さい!テソンさんの気持ちは考えないんですか?」

「テソンの気持ち?」

すると母親は、数枚の写真を寿美子に渡した。

「これって…」

「この前のお見合いの日に撮られたのよ。マスコミが記事にするって言ってきたから、この写真買い取ったのよ」

(嘘でしょ…)

その写真は、ユナがベッタリとテソンに寄り添いながらホテルから出てきた写真と、タクシーのそばで2人がキスしている写真だった。
寿美子はショックで言葉を失っていた。

「まさか撮られていたなんて、すみません…お母様」

「仕方ないわよ。あなたたち初めて会ったのによっぽど意気投合したのね」

「あっ、はい❤︎」

「テソンも油断も隙もないわねぇ。寿美子さん、このことはテソンには言わないことね。もし言ったらこの写真、記事にしてもらうから」

「すみません、私…帰ります」

耐え切れなくなった寿美子は、慌ててテソンの実家を出て行った。

(ショックだったみたいね。これでもうテソンから離れるわ)

写真も母親が仕組んだことだったのだ。

寿美子の携帯には、テソンからの着信が何件も入っていた。

(もうこんな時間…テソンのことは信じてる…だけど、あの写真は何…⁈もうどうしたらいいのか…わからないよ…)

寿美子はただひたすら歩いた。雨が降り出してきたが、その場にしゃがみ込み泣いていた。その時寿美子の携帯が鳴る。ジョングムからだった。

「もしもし…」

「もしもし⁈スミちゃん今どこ⁈」

「…わからない」

「え?わからないの⁈」

「◯◯公園っていうのがあるみたい…」

「◯◯公園ね!今すぐ行くから、そこで待ってて!」

ジョングムはテソンから、寿美子と連絡が取れないと相談を受けていたのだ。
30分後、びしょ濡れでうずくまっている寿美子を見つけ、車に乗せた。

「スミちゃん、大丈夫⁈」

ジョングムは持ってきたタオルで寿美子の体を拭く。

「スミちゃん、一体何があったの⁈こんな時間に、どうしてこんな所に…」

寿美子は一通りジョングムに話した。

「何それ‼︎ひどい…!そこまでして2人を別れさせようとするなんて…」

「お見合いの件は、テソンも知らなかったみたいだから大丈夫なんだけど…写真が…」

「写真って?」

「その人とキスしてる写真見せられたの」

「え?テソンとその女が?あり得ない!」

「…うん」

「きっと女の方から一方的にしたんでしょ‼︎あー!ムカつく、その女!」

「そうなんだろうけど…他の人とキスしてるの見たらショックで…」

「そ、そうだよね…ドラマとは違うからね。スミちゃん、私が力になるから、何かあったら何でも言ってよ!」

「ありがとう。ジョングム…」

「テソンには話すんでしょ?」

「ううん…それが、テソンのお母さんに口止めされたの」

「そんな!ま、いいわ。とりあえずテソンが心配してるから送るね!」

テソンが待つマンションに着いた。

「スミ!」

「…ただいま…」

「一体どこに行ってたんだよ。何があったんだよ。こんなに濡れて…」

「…シャワー浴びてくる」

(テソンの顔…まともに見れない)

シャワーを浴び終えた寿美子がリビングに戻る。

「スミ、ここに座って」

寿美子はテソンの向かいに座る。

「何があったの?俺、何かした?」

「別になにも…ごめんね。心配かけて…」

「何もないはずないだろ。正直に話して」

「本当に何もないから…」

そう言うと寿美子は寝室に閉じこもった。
テソンはしばらく考え込んでいた。

(一体何があったっていうんだよ…スミ…)

翌朝、寿美子が目を覚ましたのは、テソンが外出した後だった。

テソンは事務所にジョングムを呼んでいた。

「昨夜は遅い時間にスミを送ってくれて、ありがとう」

「あ、うん。スミちゃん大丈夫だった?」

「いいや。何も話してくれないし…お前何か聞いてるか?」

ジョングムは聞いた話を伝えるべきか悩む。

「何か知ってるんだな…スミに何があったんだ?」

「口止めされたって言ってたから、本当は言わない方がいいんだろうけど…スミちゃんとテソンには仲良くして欲しいから…わかった。話すわ」

「口止め?誰に何を?」

「それがね、スミちゃん…昨日アンタの母親に呼ばれて家に行ったみたいよ」

「え…母さんに⁈」

「うん。ロックの娘も居たみたい」

「何…で…?」

「テソンの結婚相手として紹介されたみたいよ。アンタの母親、そんなにひどい人だった?」

「俺、今から実家に行って来るわ」

「ちょっと待ってよ!それでスミちゃんがショック受けてると思ってるの?テソンを信じてるんだよ!」

「じゃあ何で…」

「アンタ、あの娘とキスしたでしょ?」

「…え?」

「アンタからはする訳ないし、どうせ女の方からキスしてきたんでしょ?でもその写真見せられてるのよ。スミちゃんは…」

「写真?何、写真って…?」

「撮られてたみたいよ」

「そんな…」

「キスしたんでしょ?もちろんアンタからじゃないんでしょ⁈」

「当たり前だろ‼︎ジョングムごめん!今から母さんに会って来る」

(マジであり得ない…もう無理だ…母さんはどうかしている…)

テソンは実家に行った。

「あらテソン。急に来てどうしたの?」

「どうしたんだ?怖い顔して」

「母さん、俺が来た理由がわからない?」

「え?さぁ、何かしら?」

「何かあったのか?」

「あなた、ちょっと外してくれる?」

「何で?そう言うことか…父さんは何も知らないんだね?」

「一体何があったんだ?」

「母さん、会うだけでいいって言ったよね。会ったらスミとのこと認めてくれるって…なのに、見合いかよ!」

「見合い⁈見合いしたのか?」

「そうでも言わなきゃ、テソンは行かないでしょ?」

「写真も…母さんの仕業だよね?」

「あの子ったら話したのね」

「スミからは何も聞いてないよ!どうしてこんなことするんだよ!」

「あなたのためよ。テソン、お願い。ユナさんと一緒になってちょうだい」

「ユナさんって確か、ロックホテルの?お前はユナさんと見合いさせたのか?」

「あなたは黙ってて!」

「何が俺のためだよ!スミとは絶対に別れないから!また何かしてきたら…俺…」

「な、何よ‼︎」

「母さんとは縁を切る…」

「テソン‼︎何てこと言うの⁈」

母親は、部屋を出て行こうとするテソンを引き留めようとするが、父親が阻止する。

「おい、お前!落ち着け‼︎…テソン、早く行きなさい」

「待ちなさい、テソン‼︎」

(ごめん…父さん)

母親は、写真を記事にするしかないと考えていた。







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