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74話 スミに心を打たれた男

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翌日からスミは毎日警察署に行った。
証拠がないので聞き入れてもらえなかったがそれでも諦めずに足を運んだ。


5日後、岸田秘書は本田弁護士と会っていた。


「詳しい事は地曽田社長から聞きました。私も調べていますが証拠が見つかりません。せめて防犯カメラでもあったらよかったんですが」

「そうですよね…」

「ただ…気になる点があるんですが」

「何ですか?」

「刺したナイフです」

「ナイフ…ですか」

「地曽田社長のことは私もよく知っていますが、いくら岡田のことを憎んでいてもナイフなんか持って行かないですよね」

「そうですね」

「地曽田社長は私にもナイフは自分のじゃないし持って行ってないって言ってました。地曽田社長は嘘つかない人だし本当だと思います」

「じゃ…ナイフは岡田が⁈」

「警察はもちろん地曽田社長が持参したと思っています。指紋も残ってますしね」

「そりゃ岡田にナイフ持たされたら指紋付きますよ。えっ…じゃあそのナイフが岡田の物だとわかったら…」

「警察は調べ直すでしょう。ただその証拠も掴むのが難しいんです。ナイフは押収されてますし」

「…そうですね。一体どうすれば…」

「私も色々調べていますので。また連絡します」

「わかりました。宜しくお願いします」

「あっ…それと来週の木曜ですが10時から地曽田社長の裁判が決まりました」

「そっ…そうですか…その日に刑が決まるんですか?」

「はい。よっぽどの事がない限り…」

「それまでに何としてでも証拠を掴まないと」

「はい。地曽田社長は弱い立場ですからね。せめて証人でも居れば…」

「証人か…」

「それでは次の約束がありますので」

「わかりました」


本田弁護士が出て行くと岸田秘書はスミに電話をかけた。


「岸田さん」

「スミさん…今日も警察署に?」

「…はい」

「相変わらずですか?」

「はい…」

「斉藤と連絡は?」

「してます。明日妹さんの病院に一緒に行くようにしてます」

「スミさん、そこまで…それで斉藤は本当にもう岡田とは関わってないんですよね?」

「はい。本人はそう言ってます」

「しかし本当かどうか…」

「信じます」

「…そうですか」

「ところで面会は次いつ出来ますか?」

「あっ…それが来週木曜10時から裁判みたいです。なので面会は…」

「裁判って…じゃあ…その日まで証拠がないとシュンは…」

「もし無罪が証明されなければ最低でも5年は…」

「えっ…」

「だから何とかして証拠掴みます」

「、、、、」

「スミさん?」

「はっ…はい」

「間違っても岡田の所なんか行かないで下さいね」

「、、、、」

「社長のこと思うなら絶対行かないで下さい」

「…あの人も裁判…来るんですよね」

「もちろんです。その日は迎えに来ますので一緒に行きましょう」

「はい…」


電話を切った後スミはどうしたらいいか思い悩んだ。


もし刑が確定したら絶対に許さない!
裕二を放っとく訳にはいかない!!
スミは覚悟を決めた。


翌日、スミは斉藤と妹が入院している病院に行った。
病室へ入るとベッドには点滴を打っている女の子が居た。


「お兄ちゃん…」

「あゆみっ…体調はどう?」

「…うん。いいよ。その人は?」

「あっ…お兄ちゃんの知り合い」

「初めまして。あゆみちゃんって言うの?」

「はい…」

「私はスミ。あゆみちゃんに会いたくて来ちゃった」

「、、、、」

「すみません。こいつ人見知りで」

「いいのよ」

「あの…俺、飲み物買ってきます」

「うん」


斉藤が病室を出て行くとスミは椅子に腰かけた。


スミは青白い顔をして痩せ細ったあゆみを見て切なくなった。


「あゆみちゃん…今いくつ?」

「…13…です」


まだ13歳…


「…そっか」

「、、、、」


いつから病院生活してるんだろ…
学校には行ってたのかな…


スミはそう思ったが聞けなかった。


「お兄ちゃん…ちゃんとご飯食べてるのかな」

「え」

「痩せてた…」


自分のことより兄のことを心配しているあゆみの手を思わずスミは握った。


「大丈夫だよ」

「え…」

「お兄ちゃんは大丈夫だから、あゆみちゃんもしっかり食べて早く元気にならなきゃね」


そこに戻って来た斉藤はしばらくドアの外で2人を見ていた。


「あゆみはいつ家に戻れるの?いつ友達と遊べるの?」

「あゆみちゃん…」


スミはあゆみを抱きしめた。


「家にも戻れるし友達とも遊べるから。だからその為にも頑張ろう」


2人を見ていた斉藤は涙を流していた。


しばらくしてスミと斉藤は病室を出てベンチに座った。
スミはバックの中から封筒を取り出すと斉藤に渡した。


「これは?」

「とりあえず足しにして。また渡すから」


封筒の中には1万円札の束が入っていた。


「私の今の全財産。色々あって今それしかなくて。後は母が私のお金を持ってるけど、今はまだちょっと母に頼めないから少し待っててね」

「…どうして」

「え…」

「どうしてここまでしてくれるんですか?俺にあんな酷い事されたのに」

「それはそうだけど…あの日の事は忘れるわ。あなた本当は悪い人じゃないでしょ。それにこれは妹さんの為だから」

「、、、、」

「本当に気にしないで」

「…ありがとうございます」

「うん」

「…それと」

「ん?」

「殴ったりしてすみませんでした…」

「え…」

「ちゃんと謝ってなかったから…本当はすごく心が痛かったです…でもお金が必要で…それで…」

「もういいのよ。わかったから」

「あの…」

「え?」

「証拠は…見つかったんですか?」

「…まだ。来週裁判らしいの…」

「え…裁判?」

「無罪が認められなければ最低でも5年…だからその日までに何とかしないと…」

「5年って…」

「5年もシュンが刑務所に居るなんて絶対にダメ」

「…彼氏さん、どんな人なんですか?」

「…私を命懸けで守ってくれる人。今までどれだけ助けられた事か…シュンは岡田と違って自分より相手を大事にする誰からも信頼されるような人よ」

「、、、、」

「それに…1人の女の子の為に児童施設まで作った…そんな人…」


そんな人が…
やってもいないのに証拠がないだけで5年も…
そんなのダメだ…


「もし、無罪のまま刑が確定したら…どうしますか?」

「その時は…」

「岡田社長のこと許せないですよね?」

「もちろん…許せるはずないし全然に許さない‼︎」

「…間違った事、考えてないですよね?」

「それは…」

「気持ちはわかりますが変な気起こしちゃダメですよ」

「あっ…私のことは心配しなくていいから」

「でも…」

「私、そろそろ帰るね」

「あのっ…裁判って何時からですか?」

「10時からだけど…どうして?」

「いえ、聞いてみただけです。裁判の前日ちょっと会ってくれませんか?」

「…いいけど」

「ちょっと話があるので」

「…わかった」


約束をしてスミは帰って行った。


斉藤はスミに心を打たれたのだ。


このままじゃダメだ…
全ては俺に懸かっている…
あゆみ…ごめん…


斉藤は罪を償おうと心に決めた。






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