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ツーリングの次の日、連休最終日だ。
私は昨日の洗濯をしたり、バイクを洗車したりしてひとり家で過ごしている。
玄関の外に置いてある洗濯機から洗い上がった洗濯物を取り出していると、電話の音がした。
「はーい、今行きまーす」相手に聞こえるはずもない返事をしながら部屋に入り、慌てて受話器を上げる。
「もしもし」
「…」
「どちら様ですか?」
「お母さん」
お母さん???
「何番目?」
「何番目って何人おるん?」
「今現在、4人目のお母さんが岐阜にいますけど」
「ひぇーそうなん。私、1番目」
1番目って、実の母親??
「どうしたん? いきなり」
「もうトウコも二十歳やし、お父さんに内緒で連絡してもいいかなぁって」
洗濯物を置いて、座布団に座りなおす。口の中がカラカラな感じがする。唾を飲み込み、電話に向かって話す。
「…今どこにおるの?」
「四国の香川県」
行ったこともない所だ。まぁ、他の県だって、どこもあまりいってないんですけどね? というか、岐阜から香川県は結びつかない。まさか、母親を騙る誰かなんてことはないよね?
「バスマットいる?」
バスマット??? 唐突な発言に驚きを隠せないでいる私にお構いなしに話は続く。
「温泉で使うような大きな黄色いバスマット。たくさんあるんよ」
「なんでバスマット?」
「勤め先の温泉でまだ新しくて綺麗なのに、違うバスマットに変えるらしくてたくさんあるんよ」
あれば便利かも知れないがいきなりバスマット!
なんと答えていいのか、わからない。いらないと言う選択肢が引き出せず、
「うん、じゃあふたつちょうだい」と、つい言ってしまった。
「わかった。じゃあ明日荷物にして送るわ。お惣菜もいるておくからクールで届けるよ」
「住所は?」
「あ、お姉ちゃんに聞いたから知っとる」なんだ、お姉ちゃんはグルなのか。
「わかった。そしたらまた。」
実の母親からの電話。ほとんど記憶にない母親からの電話がいきなり、バスマットだ。
感動とか怒りとかドラマみたいなことって、なかなか現実には起こらないんだな。人生、いらないこと考えたり気に病んだりしたら負けな気がしてきた。
今日が昨日になり日々が過ぎていく。
秋もすっかり深まり、みんなが先のクリスマスを意識し出すような週末の午後、ひとり部屋のなかでラジオを流して洗濯や掃除をしていたある日。
ひと息ついて座布団の上でゴロゴロしながら猫と戯れる。そう、最近うちに現れるミケ。今日は少し寒いからか中々帰る気配はない。
ミケをエプロンの紐でからかいながら、窓の外を眺める。
物干しには黄色いバスマットが風に揺れている。ひまわりみたいな黄色のバスマットは、オシャレなカフェみたいな部屋を夢見ていた私の部屋の違和感の塊となっていた。
「多摩蘭坂の喫茶店のメロンクリームソーダときゅうりのサンドイッチみたいにトンチンカンだな」
ミケも「ニャー」と鳴いた。
電話が鳴る。
「あんた、いつ来るん?」
この最近、連絡を取ってきた母親は、私が四国に遊びに行くこと前提の会話をいきなりしてきた。
まぁいいけど…。
「年末年始は岐阜に帰るから、春休みになったらバイクで行くよ」
そう言うと、わかったと少し嬉しそうな声を出してから、また荷物を送ったと言い電話を切った。
言いたいことだけ言って切るんだよ、この人は! 私だけがあれこれ思ってもバカらしい気持ちになった。
松永くんのこともお母さんのことも、些末なことのように思えてきた。周りがどうしようと、どう思おうと自分が自分でありさえすればいいんだと気づいた。
【トウコ、初カレ作るぞ計画!】のせいで、松永くんを怒らせてしまったけれど、あれはあれで正解だったのだと思う。
動きだすことって大事だし、過ちは正せばいい。
松永くん、電車であの時なんて言ってたんだろう?
「まってて」だったらいいな。
黄色いバスマットがゆらゆらと揺れた
。
『ピンポーン…』
「はーい」
END
私は昨日の洗濯をしたり、バイクを洗車したりしてひとり家で過ごしている。
玄関の外に置いてある洗濯機から洗い上がった洗濯物を取り出していると、電話の音がした。
「はーい、今行きまーす」相手に聞こえるはずもない返事をしながら部屋に入り、慌てて受話器を上げる。
「もしもし」
「…」
「どちら様ですか?」
「お母さん」
お母さん???
「何番目?」
「何番目って何人おるん?」
「今現在、4人目のお母さんが岐阜にいますけど」
「ひぇーそうなん。私、1番目」
1番目って、実の母親??
「どうしたん? いきなり」
「もうトウコも二十歳やし、お父さんに内緒で連絡してもいいかなぁって」
洗濯物を置いて、座布団に座りなおす。口の中がカラカラな感じがする。唾を飲み込み、電話に向かって話す。
「…今どこにおるの?」
「四国の香川県」
行ったこともない所だ。まぁ、他の県だって、どこもあまりいってないんですけどね? というか、岐阜から香川県は結びつかない。まさか、母親を騙る誰かなんてことはないよね?
「バスマットいる?」
バスマット??? 唐突な発言に驚きを隠せないでいる私にお構いなしに話は続く。
「温泉で使うような大きな黄色いバスマット。たくさんあるんよ」
「なんでバスマット?」
「勤め先の温泉でまだ新しくて綺麗なのに、違うバスマットに変えるらしくてたくさんあるんよ」
あれば便利かも知れないがいきなりバスマット!
なんと答えていいのか、わからない。いらないと言う選択肢が引き出せず、
「うん、じゃあふたつちょうだい」と、つい言ってしまった。
「わかった。じゃあ明日荷物にして送るわ。お惣菜もいるておくからクールで届けるよ」
「住所は?」
「あ、お姉ちゃんに聞いたから知っとる」なんだ、お姉ちゃんはグルなのか。
「わかった。そしたらまた。」
実の母親からの電話。ほとんど記憶にない母親からの電話がいきなり、バスマットだ。
感動とか怒りとかドラマみたいなことって、なかなか現実には起こらないんだな。人生、いらないこと考えたり気に病んだりしたら負けな気がしてきた。
今日が昨日になり日々が過ぎていく。
秋もすっかり深まり、みんなが先のクリスマスを意識し出すような週末の午後、ひとり部屋のなかでラジオを流して洗濯や掃除をしていたある日。
ひと息ついて座布団の上でゴロゴロしながら猫と戯れる。そう、最近うちに現れるミケ。今日は少し寒いからか中々帰る気配はない。
ミケをエプロンの紐でからかいながら、窓の外を眺める。
物干しには黄色いバスマットが風に揺れている。ひまわりみたいな黄色のバスマットは、オシャレなカフェみたいな部屋を夢見ていた私の部屋の違和感の塊となっていた。
「多摩蘭坂の喫茶店のメロンクリームソーダときゅうりのサンドイッチみたいにトンチンカンだな」
ミケも「ニャー」と鳴いた。
電話が鳴る。
「あんた、いつ来るん?」
この最近、連絡を取ってきた母親は、私が四国に遊びに行くこと前提の会話をいきなりしてきた。
まぁいいけど…。
「年末年始は岐阜に帰るから、春休みになったらバイクで行くよ」
そう言うと、わかったと少し嬉しそうな声を出してから、また荷物を送ったと言い電話を切った。
言いたいことだけ言って切るんだよ、この人は! 私だけがあれこれ思ってもバカらしい気持ちになった。
松永くんのこともお母さんのことも、些末なことのように思えてきた。周りがどうしようと、どう思おうと自分が自分でありさえすればいいんだと気づいた。
【トウコ、初カレ作るぞ計画!】のせいで、松永くんを怒らせてしまったけれど、あれはあれで正解だったのだと思う。
動きだすことって大事だし、過ちは正せばいい。
松永くん、電車であの時なんて言ってたんだろう?
「まってて」だったらいいな。
黄色いバスマットがゆらゆらと揺れた
。
『ピンポーン…』
「はーい」
END
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