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バーベキューの日から、数日たった午後、バイトでお使いを頼まれた帰り、私は電車の扉に横向きにもたれ掛かりながらスケジュール帳を開き、赤丸で囲ってある日の箇所を眺めていた。
「岐阜に帰る日の連絡入れておかなくっちゃ」
バーベキューの日、別れ際に疋田くんに呼び止められた。
「トウコちゃん、お盆休みには帰って来なさいって言われてる?」
「うちの家族は、そう言う連絡はしてこないんだけど、当然帰ってくると思っているはず」
「じゃあさ、お盆の前に一緒に帰って大阪まで来ない? 観光案内するよ?」
疋田くんの地元にふたりで?
ふたりで行くのはどうなのかと言われたら、行くべきではないだろう。
悶々と考えこんでいると、疋田くんが言った。
先に口を開いた。
「ごめん、困らせちゃったね」
「松永とはどうなったの?」
「あれから一度も連絡取れてないと言うか、取ってない」
「あいつ、何してるんだろうね? トウコちゃん放っておいて。俺、松永からトウコちゃんを奪う気はないけど、トウコちゃんのこと好きなのは本当」
「ごめん、大阪へは行けないや。誘ってくれてありがとう」
「わかった、でも岐阜までは一緒に帰ろうな」
「しっかし、これからだって一緒にいないと。松永と別れてても気づかなくて、なんか知らん奴にサラッと持ってかれてたら嫌やし」
ニヤニヤこちらを見て笑っているので、噴きだしてしまった。
どこまでも優しい彼は、こんな時まで優しい。
でも、私の中の松永くんが、どこにもいかないかぎり誰かのことを見ることなんてできない。
去年はお盆休みに帰省する際に、松永くんと離れるのが悲しくて、東京駅の改札口で人目をはばからずに泣いてしまったのを思い出した。
外野だった頃、冷めた目で見ていただろうけど、その時の私としては、本当に悲しくて悲しくて、家に帰るのが嫌だったのだ。
今思えば、松永くんは相当恥ずかしかっただろうなと思う。
彼女に泣かれ、立ち去られ取り残されたのだから。
その時からもう1年になろうとするんだ。
そして、松永くんが私の前から姿を消して、まもなく2か月になる。
冷房が効きすぎる車両の中から見える外の景色は、暑さで空気が歪んでしまいそうな勢いだ。
突然、電車の音が激しくなった。
顔を上げると、隣の線路を走る青い電車が並走し始めた。
電車は徐々に、こちらの電車を追い越し始めている。
ふたつの電車の車両の距離は、近づいたり離れたりを繰り返している。
向こうの車両に自分と同じように扉にもたれかかっている人の姿が見えた。
バックパックみたいな感じの特大のリュックを足下に置いて立っている人がいる。
次に近づいた時…
「松永…くん?」
向こうも同時に私に気がついたようで、かなり驚いているように見える。
電車はすぐに離れはじめ、松永くんは慌てて窓に顔を寄せる。すると、ふたたびお互いの電車の距離がグッと近づいてきた。
「まってて」
その瞬間、青い電車は一気に加速して目の前を通り過ぎて行った。
「何って言ってたの?」
次の駅で降りて隣の電車を探したけれど、どうやら青い電車は違う駅へ行ってしまったらしい。
松永くんはバックパックの恰好だったけれど、どこかに行くのだろうか?
私は駅のホームで青い電車が走り去った線路を見つめ、ひとり立ち尽くしていた。
私はここにいます。今やれることを頑張ってるよ。
「岐阜に帰る日の連絡入れておかなくっちゃ」
バーベキューの日、別れ際に疋田くんに呼び止められた。
「トウコちゃん、お盆休みには帰って来なさいって言われてる?」
「うちの家族は、そう言う連絡はしてこないんだけど、当然帰ってくると思っているはず」
「じゃあさ、お盆の前に一緒に帰って大阪まで来ない? 観光案内するよ?」
疋田くんの地元にふたりで?
ふたりで行くのはどうなのかと言われたら、行くべきではないだろう。
悶々と考えこんでいると、疋田くんが言った。
先に口を開いた。
「ごめん、困らせちゃったね」
「松永とはどうなったの?」
「あれから一度も連絡取れてないと言うか、取ってない」
「あいつ、何してるんだろうね? トウコちゃん放っておいて。俺、松永からトウコちゃんを奪う気はないけど、トウコちゃんのこと好きなのは本当」
「ごめん、大阪へは行けないや。誘ってくれてありがとう」
「わかった、でも岐阜までは一緒に帰ろうな」
「しっかし、これからだって一緒にいないと。松永と別れてても気づかなくて、なんか知らん奴にサラッと持ってかれてたら嫌やし」
ニヤニヤこちらを見て笑っているので、噴きだしてしまった。
どこまでも優しい彼は、こんな時まで優しい。
でも、私の中の松永くんが、どこにもいかないかぎり誰かのことを見ることなんてできない。
去年はお盆休みに帰省する際に、松永くんと離れるのが悲しくて、東京駅の改札口で人目をはばからずに泣いてしまったのを思い出した。
外野だった頃、冷めた目で見ていただろうけど、その時の私としては、本当に悲しくて悲しくて、家に帰るのが嫌だったのだ。
今思えば、松永くんは相当恥ずかしかっただろうなと思う。
彼女に泣かれ、立ち去られ取り残されたのだから。
その時からもう1年になろうとするんだ。
そして、松永くんが私の前から姿を消して、まもなく2か月になる。
冷房が効きすぎる車両の中から見える外の景色は、暑さで空気が歪んでしまいそうな勢いだ。
突然、電車の音が激しくなった。
顔を上げると、隣の線路を走る青い電車が並走し始めた。
電車は徐々に、こちらの電車を追い越し始めている。
ふたつの電車の車両の距離は、近づいたり離れたりを繰り返している。
向こうの車両に自分と同じように扉にもたれかかっている人の姿が見えた。
バックパックみたいな感じの特大のリュックを足下に置いて立っている人がいる。
次に近づいた時…
「松永…くん?」
向こうも同時に私に気がついたようで、かなり驚いているように見える。
電車はすぐに離れはじめ、松永くんは慌てて窓に顔を寄せる。すると、ふたたびお互いの電車の距離がグッと近づいてきた。
「まってて」
その瞬間、青い電車は一気に加速して目の前を通り過ぎて行った。
「何って言ってたの?」
次の駅で降りて隣の電車を探したけれど、どうやら青い電車は違う駅へ行ってしまったらしい。
松永くんはバックパックの恰好だったけれど、どこかに行くのだろうか?
私は駅のホームで青い電車が走り去った線路を見つめ、ひとり立ち尽くしていた。
私はここにいます。今やれることを頑張ってるよ。
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