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第18章  さようなら、桜ハウス

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  1人1人の顔をグルリと、レイコさんは見渡した。
 父親をにらみつけるサラさん。
 少し元気のない大家さん。
 今にも泣き出しそうなマイコ。
 淡々と荷物をまとめる、中田さん。
 そして黙ってレイコさんを見上げる待子。

「私は この街にいるし、いつでも会えるから…
 会いに来てくれると、嬉しいなぁ」
微笑みながらそう言うと、レイコさんは大きく手を広げた。
「うん!」
いの一番に、マイコがうなづく。
「佐伯さんも、呼んでさ!」
「ヒヨリちゃんも!」
「マスターも!」
「クマさんも!」
「えっ」と一瞬、手が止まる。
「なんだ、桜ハウスの住人以外も呼ぶの?」
呆れた顔をすると、ケラケラとレイコさんが笑った。


「えっ?私も、行っていいの?」
 大学で杏子を見かけると、早速待子がお別れ会に来ないかと誘う。
マスターに紹介されたアパートに、早々に荷物を移すことになり、
「男手も必要でしょ?」と彼女の彼氏を呼んでくれたのだ。
さすがに友だちの彼氏とはいえ、男の人を自分の部屋に入れるのは、
(父さん以外では)初めてなので、かなり抵抗があったけれども…
なぜだかクマガイさんが来てたので、気まずいことには
ならなかった。
これには、待子も感謝の念で、胸がいっぱいだった。
「なんでうちから通わないのよ」とブツブツ言いながらも、
結局母さんも手伝いに来た。
「来なくてもよかったのに…」
文句を言われるとわかっていたので、待子がポソリと言うと
「どうせ、お金だけ振り込んでくれ、と言われるの、
 シャクだからねぇ」と、母さんらしい理屈をこねた。
もちろん母さんと杏子は、顔見知りなので問題はないのだけれど。
見知らぬ男性が、2人もいるので、
これにはさすがの母さんも、もの言いたげにきゅっと口を引き結ぶと、
こわばった顔で、待子をジロリと目をやった。
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