桜ハウスへいらっしゃい！

第18章 さようなら、桜ハウス

３

「あら？中田さんはどうするの？」
　レイコさんが聞くと
中田さんは荷物をまとめる手を止めると、
「私は田舎に帰ります。
　子供と一緒に暮らすことになりました」と言う。
「えっ？」
「えぇっ！」
「え～っ！」
　レイコさんも、マイコも、待子も、それから大家さんもみんな…
思わず大きな声をもらす。
「えっ、子供がいるの？」
「田舎があるの？」
「親御さん、まだ生きてるの？」
異口同音、てんでばらばらに、思わず思っていたことを口にすると…
「何よ、それ！」
中田さんが、大きな声で振り返る。
「私だって、田舎があるし…
　両親だって、まだ健在だし…
　ちなみに、子供だって、殺したりしていないわ！」
ピシャリと鋭い声で言い放つ。
　１同は恥ずかしそうにうつむいた。
やっぱりこの人…みんなの噂、知っていたんだ…と。
言葉もなく、気まずい表情で互いの顔を見合わせていると
「どっちみち…ここを引き払うつもりだったし、
　いい機会になったわ」
むしろサバサバとした顔で、初めて彼女はニヤリと笑ってみせた。
だが陰のある目付きで、口を横ににぃっと引いてみせたので…
かえってさらに、凄みのあるかげりのある顔になる。
思わず待子はゾッと身震いをする。

「じゃあこれで、みんなともお別れなのね？」
ようやく中田さんも、ここにきて初めて、他の住人に
興味を抱いたようで…
それもまた、中田さんらしいなぁと、待子はしみじみとそう思う。
「なんか残念！」
ポツリとサラさんは言う。
「せっかくみんなと、仲良くなったのに」
「サラさんは、どうするんですか？」
待子が聞くと、彼女は寂しそうに黙って、頭を振った。