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第 16章 転がる石のように…
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ますます辺りが喧騒に包まれて、幾重にもヤジウマたちが
遠巻きに取り囲んでいる。
その中の1人が近付いて、待子に近付いて来る。
「どうしましたか?」
大丈夫ですかと、声を掛けられる。
待子はひどく疲れて、下を向いたまま、
「火は…消えましたか?」
相手の顔を見ないでつぶやく。
するとその人は、ストンと隣に腰を下ろすと、
「さあ、どうでしょうねぇ。
でも、大丈夫!大したことは、なさそうです」
と、明るい声で、声をかけて励ました。
あれ、と思い、ようやく顔を上げると…
そこには夕方、大人げなく言い争っていた、大家さんの息子が
こちらをのぞき込んでいた。
思わず「なんだぁ」と漏らすと、
「ご期待にそえなくて、すみませんでしたね」
と、シニカルな表情で、言ってのけた。
「あっ、そういう意味じゃなく…」
まさか話しかけてくる、とは思っていなかったので、困った顔で
待子は戸惑った。
「大家さんは?」
ようやく言葉を絞りだすと、
「あぁ」と声をもらす。
「あの人はね、取り巻きにガッチリと囲まれているから、大丈夫ですよ」
平気そうな顔で、淡々と言う。
「そう…」
「火事も大したことは、なかったようだ」
「やっぱり…放火ですか?」
「たぶん、そうだろうね」
本来なら、もっと心配していてもおかしくはないのだが…
彼は他人事のように、ひょうひょうと話すと、珍しく
にぃっと笑う。
それを見ると、なんだか急に力が抜けて、
(へぇ~この人は、こんな風に笑うんだ)
しびれた頭で、待子はボンヤリと考えていた。
「犯人…見ましたか?」
いきなり彼がそう聞く。
「いいえ、気が付きませんでした」
もはや取り繕うことなく、待子はあっさりと認める。
「そうかぁ」
残念そうな顔をするでもなく、大家さんの息子は腕組みをすると、
「そうかぁ」と何やら思案顔で、すっと立ち上がった。
遠巻きに取り囲んでいる。
その中の1人が近付いて、待子に近付いて来る。
「どうしましたか?」
大丈夫ですかと、声を掛けられる。
待子はひどく疲れて、下を向いたまま、
「火は…消えましたか?」
相手の顔を見ないでつぶやく。
するとその人は、ストンと隣に腰を下ろすと、
「さあ、どうでしょうねぇ。
でも、大丈夫!大したことは、なさそうです」
と、明るい声で、声をかけて励ました。
あれ、と思い、ようやく顔を上げると…
そこには夕方、大人げなく言い争っていた、大家さんの息子が
こちらをのぞき込んでいた。
思わず「なんだぁ」と漏らすと、
「ご期待にそえなくて、すみませんでしたね」
と、シニカルな表情で、言ってのけた。
「あっ、そういう意味じゃなく…」
まさか話しかけてくる、とは思っていなかったので、困った顔で
待子は戸惑った。
「大家さんは?」
ようやく言葉を絞りだすと、
「あぁ」と声をもらす。
「あの人はね、取り巻きにガッチリと囲まれているから、大丈夫ですよ」
平気そうな顔で、淡々と言う。
「そう…」
「火事も大したことは、なかったようだ」
「やっぱり…放火ですか?」
「たぶん、そうだろうね」
本来なら、もっと心配していてもおかしくはないのだが…
彼は他人事のように、ひょうひょうと話すと、珍しく
にぃっと笑う。
それを見ると、なんだか急に力が抜けて、
(へぇ~この人は、こんな風に笑うんだ)
しびれた頭で、待子はボンヤリと考えていた。
「犯人…見ましたか?」
いきなり彼がそう聞く。
「いいえ、気が付きませんでした」
もはや取り繕うことなく、待子はあっさりと認める。
「そうかぁ」
残念そうな顔をするでもなく、大家さんの息子は腕組みをすると、
「そうかぁ」と何やら思案顔で、すっと立ち上がった。
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