桜ハウスへいらっしゃい!

daisysacky

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第 16章  転がる石のように…

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  なぜだろう…
 サラさんには、独特の空気感がある…
しっかりと1本、シンが通っていて、揺らがない何か確固たるものが
ある…というか、おそらく周りを引き付ける何かがあるのだ。

「サラさん、今日はこれから…」
 どこへ行くの、と聞こうとすると、待子の表情に気付いたのか、
「今日はちょっと、時間があるからゆっくりしていこうかな」とニッコリとした。
「マスター!まだ早いけど、久しぶりに弾いてもいい?」
声を張り上げる。
カウンターで、コップを磨いていたマスターは、こちらを向くと
「いいよ!」と短く答える。
それからおもむろに、スピーカーの方へ近付くと、店内にかすかに
かかっていた、音を消した。

(あっ、久しぶりに、サラさんのピアノが聞ける!)
そう思うと、得した気持ちになり、待子はワクワクとしてきた。
待子は彼女のピアノが好きだ。
ピアノのことは、よくわからないけれど、その音の持つ光のようなもの、
空気のようなものが、とても心地よいと思うのだ。
それはこの店の常連さんも同様で、BGMが消えると、
おっという顔になる。
それに気づいたように、サラさんが…
「後で、たっぷり弾くから」と照れたような顔になり、
ピアノのフタをそっと触ると、まるで自分の大切な恋人のように…
愛おしいものに触れるような目で、ひっそりと微笑んだ。
「軽く指ならしね」
言い訳のように言うと、ピアノの前にある椅子に、浅く腰掛ける。
スッと細くて長い指を、黒鍵に乗せると、
滑るようにして、鍵盤の上を駆け抜けた…

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