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第15章 いのち短し 恋せよ乙女?
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あんなに天真爛漫な佐伯さんが、こんな顔をするとは…
よっぽど何かあるのでは、と待子は気付く。
だけどもこのままではいけない…と直感で思い、
角を曲がる時に、なるべく首を動かさないように注意して…
目だけで後ろをチラリとのぞき見た。
なるべくゆっくりと歩いたつもりだったのだが、ほんの一瞬、
何かが目の端を横切るのが映った。
(えっ、あれは だれ?)
振り返りたい。
振り向きたいけれど、佐伯さんの様子が心配なので、振り返るよりも
前を気にする。
『ね、大丈夫?家に帰ろうか?』
小声で彼女に話しかけると、可哀そうなくらい、血の気の引いた顔の佐伯さんが、
頭を懸命に振って、口をパクパクさせ、
『大丈夫』とだけ言った。
(大丈夫という顔?)
待子はすぐに気付く。
顔をゆがめて、今にも泣きだしそうな顔だ…
さて、どうしたらいいのだろう?と考えるも…
すぐにいいアイディアが浮かばない。
これが下宿のすぐ側なら…大家さんに助けを求めることも
出来たのだけど、それも出来ない。
安易にすると、かえって危険な空気が流れていた。
困って前方をにらみつけるようにすると…
ふいに見覚えのある場所に差し掛かった。
あっ、あそこだ!
前方にチラリと見えてくるのは…ひよりちゃん親子を
一時かくまってくれた、クマガイさんの仕事場の近くだった。
『ね、いい?
振り向かないで、このままの姿勢で聞いて』
声をひそめて、待子は佐伯さんに話しかける。
一世一代の勝負だ。
うまくいくかどうかは、わからないけれど…
このチャンスに賭けようと思う。
『私の知り合いのいる場所が、丁度近くにあるから…
そのまま、ここを 突っ切るわよ』
そうささやくと、佐伯さんはわからないなりにも、何かを察したようで、
目でうなづいてみせた。
よっぽど何かあるのでは、と待子は気付く。
だけどもこのままではいけない…と直感で思い、
角を曲がる時に、なるべく首を動かさないように注意して…
目だけで後ろをチラリとのぞき見た。
なるべくゆっくりと歩いたつもりだったのだが、ほんの一瞬、
何かが目の端を横切るのが映った。
(えっ、あれは だれ?)
振り返りたい。
振り向きたいけれど、佐伯さんの様子が心配なので、振り返るよりも
前を気にする。
『ね、大丈夫?家に帰ろうか?』
小声で彼女に話しかけると、可哀そうなくらい、血の気の引いた顔の佐伯さんが、
頭を懸命に振って、口をパクパクさせ、
『大丈夫』とだけ言った。
(大丈夫という顔?)
待子はすぐに気付く。
顔をゆがめて、今にも泣きだしそうな顔だ…
さて、どうしたらいいのだろう?と考えるも…
すぐにいいアイディアが浮かばない。
これが下宿のすぐ側なら…大家さんに助けを求めることも
出来たのだけど、それも出来ない。
安易にすると、かえって危険な空気が流れていた。
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そうささやくと、佐伯さんはわからないなりにも、何かを察したようで、
目でうなづいてみせた。
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