桜ハウスへいらっしゃい！

第１５章 いのち短し 恋せよ乙女？

１３

「あぁ～あれから、音沙汰がないねぇ」
　そういえば…と以前に来たオバサンを思い出す。
「ご家族はどうなの？」
「息子さん？あれから来てないみたいよ」
「姪御さんだっけ、あの人は？」
「あぁ～あの人ね、今も住んでいるよ」
　意識してはいなかったけれど…自分はずいぶん、この友人に
色んなこの下宿屋の出来事を、どうやら話していたらしい…と
あらためて気づく。
ずいぶん杏子も、この下宿に関しては、住民なみに事情通になっているようだ。
　確かにサラさんは、他にアパートを借りてはいないようで、
毎日大家さんの家に、帰って来ているらしい。
時折朝、玄関のところですれ違ったりする。

「ピアノは今でも、弾きに来てるの？」
「あぁ～そういえば、今忙しいみたいで、たまにしか来ないねぇ」
　このサラさんとの出会いは…もともと待子の今のバイト先でもある、
喫茶店なのだ。
待子がバイトを始める前は、サラさんがウェイトレスの代わりをしたり、
夜のバータイムには、時折ピアノの演奏をしていたのだ。
今は待子が、講義がない時とか、暇な時に、なるべく入るように
しているので…
ランチタイム以外は、さほど混み合うわけでもないので、
人手も必要ないせいか、自然にサラさんも、たまにしか来ていない
みたいだ。

「私ね、最初、マスターとサラさんが、出来てるのかと思った！」
いたずらっぽい顔をして、飛び切りの打ち明け話をするように、
杏子は言う。
「それはないよぉ～
　少なくとも、マスターには、奥さんがいるって噂だし…」
会ったことはまだ、ないけどね、と笑いながら待子は答える。
　そういえば、と待子は思い出す。
初めて2人を見た時に…サラさんのことを、マスターの年若い奥さんか、
彼女かと思ったのだ。
「実際は…常連さんだったのかな？
　誰かの知り合いで…
　あそこにピアノを置かせてもらう代わりに、弾いてると言ってたよ」
　思い出したように、待子はそう言った。