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第14章  一時休戦

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「で、どうするの?
 引っ越すの、やめるの?」
 ランチタイムが終わって、お客さんがすぅっといなくなった後、
ふらりと杏子がやって来た。
「おや、珍しいね。
 今日は、1人?」
 マスターがたまたま顔を上げて、声をかけた。
その声を聞きつけると、テーブルの上を片付けていた待子が振り返る。

「あら、来たの?」
 軽く杏子は、右手を上げる。
台拭きを持ったまま、待子が杏子に近付く。
杏子は軽く店内を見回すと、ごく自然な動作で、カウンターの椅子を
引いて、腰を下ろした。
「授業は?」
「休講になった」
「バイトは?」
「今日は遅番」
「そう」
 ニコニコしながら、杏子は待子を見上げる。
最近急に、親友がきれいになったなぁ…と、ぼんやりと待子は思った。

「やぁ、キョーコちゃん!
 今日もキレイだねぇ」
今日のマスターは、何かいいことでもあったのか、すこぶる機嫌がいい。
いつもは無口な彼が、ことのほか饒舌に話しかけている。
「やだぁ~そんなコト、ないですよぉ」
コロコロと笑う。
 そうして杏子もまた、このところ機嫌がいい。
時たま学校ですれ違っても、鼻歌まじりで、スキップして構内を
1周しそうな勢いだ。
これは、誰が見ても、明らかだ。
現に、佐伯さんだって、
「最近、相沢さん、えらく楽しそうですね?」
と、下宿で顔を合わせるたびに、待子に向かって言う。
だからと言って、杏子と佐伯さんの距離が近くなって、仲がよくなったか、
といえば、そういうことではなく…
相変わらず、佐伯さんに片思い状態が続行中…とでも言うべきなのか。
「ね、あの人…待子の隣に、越して来たって?」
正確には下の階だけど、珍しく彼女のことまで話題にする。
ますます怪しい…とにらむのだった。

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