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第14章 一時休戦
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「ね、どうしているの?」
ランドセル姿のひよりちゃんを見ると、努めて明るい声で
待子は聞く。
「どうって…」
キョトンとした顔のひよりちゃん。
もちろん、時折様子をのぞきに行っていたので、どんな所に
住んでいるのかは、知ってはいるけれど…
(そういえば…最近は、取り壊し騒ぎで、行ってはいないけれども)
「えっ」
ひよりちゃんは言葉に詰まり、
「だから…ようやく外に出られるようになって」と言うから、
「あっ、そうよね?
そうそう、そうだった」
見たらわかることながら、あわてて待子は笑顔でうなづいた。
「ね、新しい友達は出来た?」
「うん」
ようやくひよりちゃんの表情も、和らいでくる。
「先生も…とっても優しいよ」
はにかむように笑う。
「ひよりちゃんだったら、どこでだってきっと、うまくやっていけるよ」
何の根拠もないけれど、心からそう言うと、
「そんなこと、ないよぉ~」
はじけるように笑う。
その笑顔には、ウソ偽りの色は見えない。
この子は…周りの人のことまで、気遣う子なのだ…と、
あらためて待子は思う。
いい子なのだ、本当に。
どうしてこんなにいい子が、こんな風に、苦しむのだろう…
想いを巡らせると、待子は急に、ひよりちゃんが哀れに思えてくる。
「ね、楽しくしてる?
困ったことはない?」
そう聞くと、
「うん、大丈夫だよ、全然!」
ひよりちゃんは、小学生らしい声で、元気よく答える。
「ね、大家さんに用事なの?」
ふと気づいて、待子が聞く。
「うん、郵便とか、荷物のこととか、色々」
「で、大家さんはいるかなぁ?」
「わかんない」
「一緒に行こうか?」
「ホント?」
嬉しそうに、ひよりちゃんの顔が、パッと明るくなる。
「あのオジサン…また来てない?」
幾分心配そうに、ひよりちゃんが聞く。
「大丈夫よ!今のところは、特に何もないかも」
「よかった!」
ぴょん!とひよりちゃんが跳ねると、
「私…この家が大好きなんだよねえ」
そう言うと、しみじみとした表情で、下宿屋を見上げる。
「いつまでも…このままがいいよね」
待子も、心の底から、湧き上がる思いを、止めることができなかった。
ランドセル姿のひよりちゃんを見ると、努めて明るい声で
待子は聞く。
「どうって…」
キョトンとした顔のひよりちゃん。
もちろん、時折様子をのぞきに行っていたので、どんな所に
住んでいるのかは、知ってはいるけれど…
(そういえば…最近は、取り壊し騒ぎで、行ってはいないけれども)
「えっ」
ひよりちゃんは言葉に詰まり、
「だから…ようやく外に出られるようになって」と言うから、
「あっ、そうよね?
そうそう、そうだった」
見たらわかることながら、あわてて待子は笑顔でうなづいた。
「ね、新しい友達は出来た?」
「うん」
ようやくひよりちゃんの表情も、和らいでくる。
「先生も…とっても優しいよ」
はにかむように笑う。
「ひよりちゃんだったら、どこでだってきっと、うまくやっていけるよ」
何の根拠もないけれど、心からそう言うと、
「そんなこと、ないよぉ~」
はじけるように笑う。
その笑顔には、ウソ偽りの色は見えない。
この子は…周りの人のことまで、気遣う子なのだ…と、
あらためて待子は思う。
いい子なのだ、本当に。
どうしてこんなにいい子が、こんな風に、苦しむのだろう…
想いを巡らせると、待子は急に、ひよりちゃんが哀れに思えてくる。
「ね、楽しくしてる?
困ったことはない?」
そう聞くと、
「うん、大丈夫だよ、全然!」
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ふと気づいて、待子が聞く。
「うん、郵便とか、荷物のこととか、色々」
「で、大家さんはいるかなぁ?」
「わかんない」
「一緒に行こうか?」
「ホント?」
嬉しそうに、ひよりちゃんの顔が、パッと明るくなる。
「あのオジサン…また来てない?」
幾分心配そうに、ひよりちゃんが聞く。
「大丈夫よ!今のところは、特に何もないかも」
「よかった!」
ぴょん!とひよりちゃんが跳ねると、
「私…この家が大好きなんだよねえ」
そう言うと、しみじみとした表情で、下宿屋を見上げる。
「いつまでも…このままがいいよね」
待子も、心の底から、湧き上がる思いを、止めることができなかった。
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